たまにはイタリアのWebカルチャーの、メジャーな動きにさらっと迫ってみようと思います。Youtubeに膨大にアップされたWebビデオシリーズで、押しも押されぬ絶対的な人気を誇るのが、ナポリのインディ・フィルムメーカー The Jackal。『インディ』とはいっても、S.r.l (会社組織)としてきっちりマネージされ、Youtuberを含めた他のフィルムメーカーたちとは比較できない、プロフェッショナルなビデオシリーズでWebを席捲しています。わたしも、ナポリマフィア『カモッラ』を描いた『ゴモッラ』のパロディシリーズあたりから注目しはじめたのですが、そのThe Jackalがここ数年、あれよあれよという間にいよいよメジャーになって、遂に劇場映画『AFMV』を制作、現在絶賛上映中です。 Continue reading
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ローマのイスラム教と欧州一のグランド・モスク Grande Moschea
わたしはイスラム教のことをほとんど知りません。マグレブの音楽には多少馴染みがあっても、『クルアーン』を読んだこともなく、イスラム文化と自らの文化に接点を見出すこともありません。それでもイスラム教徒の人々には、ちょっとした親愛の気持ちを抱いてもいます。というのもわたしが住むのは、イスラム教徒のバングラデッシュ人が、ミニマーケットやレストランを多く開く地区であり、長く住むうちに挨拶を交わしたり、世間話をする顔見知りも多くなったからです。そこで、わたしとは全く違う文化を持つ隣人たちが、敬虔に信仰するイスラム教に少し近づいてみようと思いたち、ローマのGrande Moschea(グランド・モスク)へ行ってみることにしました。 Continue reading
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イタリア中道左派政党連合、「オリーブの木」L’Ulivoとは
『毎日カオスな政治祭り』にすっかり慣れ親しんだイタリアから見ても、「ええっ」と驚く、ここしばらくの日本の政治混乱に、遠くにいながら気が気でない、なんだか落ち着かない毎日が続いていることを白状せねばなりますまい。そんななか、かつて大きな勢いを持ったイタリアの中道左派政党連合L’Ulivo、「オリーブの木」の名がネットに時々現れ、もちろん提案している特定の政治家を支持しているわけではなくとも、「そうそう、そういえばあった、あった」と記憶を新たにしました。そういうわけで、いまさらではありますが、元祖「オリーブの木」、イタリアの「オリーブの木」- L’Ulivo(ルリーボ)とはどんな政党連合だったのか、その概略を軽く追ってみようと思います。 Continue reading
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『鉛の時代』パソリーニ殺人事件の真相と闇:「唯一」の犯人の死
地中海の明るい太陽輝く、陽気で美しいイタリアには、絶望と悲しみに彩られた深い闇も同時に存在することを、ふいに感じることがあります。米国CIAとイタリア国家の一部により、戦後画策された『グラディオ作戦』、『フォンターナ広場爆破事件』からはじまった『緊張作戦』に煽られエスカレートした政争で、イタリアを血の色に染めた『鉛の時代』。ピエール・パオロ・パソリーニの無残な死もまた、確実な証拠は上がらなくとも、『緊張作戦』の一環と捉える人々が多く存在します。その事件の真相を知るであろう、パソリーニ殺人の犯人として、たったひとり刑に服した当時17歳の少年、ジュゼッペ(ピーノ)・ペロージが今年7月20日、59歳でひっそりと病死しました。 Continue reading
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2017 ローマ 灼熱の夏:Vacanza Movida 水騒動 etc.
日本も暑い毎日が続いているようですが、今年のイタリアは6月中旬から35℃に達するという例年にない灼熱の日々が続いています。遂に8月に突入した今週は、サハラからの熱嵐、その名もルシフェル、が急襲し、40℃以上!という砂漠予報が続いているにも関わらず、今年はローマの中心街のどこを歩いても、昼も夜も人があふれている、という印象です。もちろんローマの人々が海や山に出かける、本格的なヴァカンスシーズンを迎える時期なので、だんだんに人が少なくなるのかもしれませんが、いずれにしても、今年の夏のローマには例年以上の観光客が押し寄せています。 Continue reading
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短編 「ローマン・アラベスク」Roman arabesque
ここ15年ほどの間に、世界中からの観光客だけでなく、アフリカ大陸、中東、東欧、アジアからの移民、難民の人々もたくさんローマを訪れるようになり、街の景色は少し変わりました。と同時に、さまざまな地域の宗教や文化、習慣や言葉が、古代ローマ帝国時代の遺跡、中世、ルネッサンス、バロックの建造物の間に間に、そこはかと漂うようになった。そこで今回は、たまには創作ものも、ということで、遺跡の風景にそっと漂う『魔法』の匂いを拾って、ロマン派風の『短編』にしてみることにしました。まったくのフィクションでお届けします。 Continue reading
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人が暮らすローマの現代美術館 : Matropoliz-MAAM それから
このサイトで、以前紹介したローマ郊外の『人が暮らす現代美術館 Metropoliz-MAAM』が5周年を迎えました。開館と同時に国内外のアーティスト、美術批評家やアート通、アート通でない市民、活動家の間で『世界で最もクールな美術館!』と絶賛され、その名声は瞬く間に広まり、遂にはローマ市政のハートをもギュッと掴むことになります。「占拠」スペースをアートで埋め尽くすという意表をつくアイデアで、大きなうねりを生み出した「時の人」、文化人類学者、キュレーター、そしてアーティストのGiorgio De Finis(ジョルジョ・デ・フィニス)に話を聞きました。デ・フィニスはMAAMの成功から、ローマの宝石、市営現代美術館MACROの次期ディレクターと目される人物です。 Continue reading
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『鉛の時代』 CIAとイタリア軍部秘密諜報組織SIFARの謀略:諸刃の剣グラディオ
多くの無辜の市民の生命を奪い、若者たちの人生を狂わせた、陰謀と流血、虚栄と野望と絶望が渦巻くイタリアの『鉛の時代』。その物語を現在から俯瞰するうちに、先進国と言われる国々に住むわれわれが、かつて「終戦」を迎えた、というのは、実は幻想なのではないのだろうか、という感覚に陥ります。第2次戦争大戦ののちの冷戦下、朝鮮半島、ヴェトナムなどアジアの国々、南米各国、東欧、中東、そして「ベルリンの壁」崩壊後は中東、アフリカへと戦火の矛先は集中していく。われわれの日常からは遠くとも、爆音と燃え盛る炎は、この地球上から消えたことがありません。 Continue reading
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巡る世界を創る女性アーティスト・デュオ:グロッシ・マリオーニ
常に吹き荒れる社会の逆風をものともせず、果敢に、しっかり未来に向かって歩く女性たちを、わたしは殊更に好ましく感じています。日本における、女性たちの個性と自由を阻む社会環境と偏見もさることながら、多少の改善はあるとはいえ、イタリアにおける女性たちを取り巻く社会のあり方もかなり苛酷です。幼い子供を育てながら、刻々と流動するインスタレーションをプロジェクト、まさに「現代社会をコンセプチュアルに表現した」、フェミニストで新進女性アーティスト、Vera Maglioni (ヴェッラ・マリオーニ : 左)、Francesca Grossi (フランチェスカ・グロッシ : 右)のワークショップに参加、話を聞きました。 Continue reading
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スパドリーニ広場の難民の人々と支援団体Baobab
テルミニ駅に続きローマで2番めに大きなティブルティーナ駅。最近改修され、近代的なガラスの建造物となったその駅の、ガランと人通りの少ない東出口にある閑散としたスパドリーニ広場が、ここ数ヶ月間、自発的な市民ボランティア難民サポートグループBaobab (バオバブ)の、緊急難民センターとなっていることを新聞各紙が注目し、たびたびローマの人々の話題に上ります。難民の人々の亡命、移民のための法的な手続き、心のケア、温かい食事、そしてサッカーの試合まで、そのサポートのきめ細かさと人間味のある対応で、高い評価を受けるバオバブを実際に訪ねてみました(写真はクーパ通りから強制退去させられる以前のバオバブのシンボル的壁画)。