Category Archives: letteratura

時間、空間を超越して拡大する『ミクロコスミ』、クラウディオ・マグリスの宇宙へ

国境ーフロンティアを考えるために、まさにタイムリーな読書となりました。『ミクロコスミ』(ミクロの宇宙:複数)は、決してさらっとは読めない、読者に集中を要求する、もしくは考察を強いる一冊です。小説なのか、エッセイなのか、壮大な抒情詩なのか、逸話の集積なのか、詩的であり、絵画的であり、観念的でもある、あらゆる文学的カテゴリー逸脱する9つの章からなるこの本を訳したのは、前回、このサイトに投稿してくださった二宮大輔氏。かつて何度かノーベル文学賞のリストに挙がった、ドイツ文学、中欧(mitteleuropa)文学研究の第一人者であるイタリアの碩学、クラウディオ・マグリスの宇宙を日本語で表現した、その語彙の豊かさには脱帽します。長い時間をかけて読み終わった、まず最初の感想は、欧州の精神性の本質は、この本に描かれる『国境』ーフロンティアという宇宙にあるのではないか、ということでした。 Continue reading

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イタリアが誇る碩学のひとり、クラウディオ・マグリスの代表作『ミクロコスミ』をどう読むか

読書通たちに「天才的(geniale)」と評される、9つのミクロコスミ(小宇宙)からなるこの本は、しかし訳者が語るように、読みはじめはなかなか先に進めず、戸惑い苦悩する、かなり手強い一冊でもあります。しかし読み進むうちに、その場にせめぎ合う歴史、記憶、自然、有名無名の人々の物語、メランコリーが万華鏡のように浮かび上がり、ミクロからマクロの宇宙へと導かれる。しかも、ときおり予期せず現れる、痺れるほどにかっこいい暗示に立ち止まり、あれこれ思いを巡らせることになりました。クラウディオ・マグリスの代表作、『ミクロコスミ』を、10年を超える月日をかけて翻訳した二宮大輔氏は、イタリア文学、文化に精通する新進の翻訳家。どのように『ミクロコスミ』を読めば、より理解が深まるか、二宮氏にご寄稿いただきました。 Continue reading

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『鉛の時代』:その後のイタリアを変えた55日間、時代の深層に刻み込まれたアルド・モーロとその理想 Part2.

次々と届く『赤い旅団』の脅迫的な声明、アルド・モーロ明晰でありながら、次第に重く感情的になっていく手紙にも、政府は一切反応せず、ひたすら「テロリストとの交渉を拒絶」しました事件に明らかな進展がないままに、緊張は日に日にエスカレートしていきます。もはや一刻も無駄にできない状況のなか、遂に『イタリア社会党』のベッティーノ・クラクシー教皇パオロ6世、モーロの中東政策における右腕でもあったSISMI(軍部諜報局)のステファノ・ジョバンノーネ大佐、そしてパレスティーナそれぞれが、モーロ解放に向けた『旅団』とのアンダーグラウンドな交渉に挑みはじめました。しかし、いずれの交渉も成立間際で決裂し、市民は衝撃的なフィナーレに直面することになった。そのあまりに過酷な結末に、深い無力感と絶望を打ち消そうとする自己防衛本能が社会全体に広がり、当時、事件について語る人はほとんどいなかったそうです。『モーロ事件』の詳細を語りはじめるには、それから数年の月日が必要でした(Part1.はこちらから)。

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『鉛の時代』:その後のイタリアを変えた55日間、時代の深層に刻み込まれたアルド・モーロとその理想 Part1.

イタリアダラス、9.11と言われる『アルド・モーロ事件』が両者と決定的に違うのは、「55日間もの誘拐」という長期にわたって継続した、理不尽な悲劇に社会全体が巻き込まれ、消えることのないトラウマとして時代に刻み込まれたことでしょう。次々に届く『赤い旅団』からの不穏な犯行声明、モーロの渾身の手紙、日々押し寄せる扇情的なニュース、対する政府の頑なな沈黙拒絶。1978年3月16日、警護官5人の方々の衝撃的な惨殺とともにはじまった、当時のイタリアにおける最重要人物である『キリスト教民主党』のリーダー、アルド・モーロ元首相誘拐の期間、警察、軍部が街中に溢れかえる重苦しい日常に、イタリアはそれまで経験したことがない、異様な緊張に直面しました。レオナルド・シャーシャは、事件の3ヶ月後に上梓した、その著書『L’Affaire Moro(モーロ事件)』を、ボルヘスの『伝奇集(FiccionesFictions)』の一節を引用し、真実が隠された「推理小説(Un romanzo poliziesco)」と位置づけていますが、司法が下した裁きと、その後の捜査に大きな齟齬があるまま、43年もの月日が経過した現代を生きるわたしもまた、非常に僭越ではありますが、この投稿をミステリー、ある種のフィクションと位置づけたいと思います。

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『鉛の時代』: イタリアのもっとも長い1日、ブラックホールとなった1978年3月16日

1978年3月16日、イタリアが歴史の重要な断片を喪失する、『モーロ事件』が起こる2日前のことです。『キリスト教民主党』のリーダーであるとともに、ローマ大学サピエンツァの教授だったアルド・モーロに、「次の卒業論文の採点が最後になりますね。共和国大統領になられたら、大学にはいらっしゃれなくなるでしょうから」と、助手だったフランチェスコ・トリットが、何気なく話しかけたそうです。するとモーロは「愛情のこもった言葉をありがとう」、といつも通りに微笑んだあと、「しかしわたしは、大統領にはならないと思うよ。おそらくジョン・ケネディと同じ最期をたどることになるだろう」と付け加え、トリットをギョッとさせた、というエピソードがあります。アルド・モーロはその頃、最有力の次期大統領候補とみなされていました(ジェーロ・グラッシ)。 Continue reading

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『鉛の時代』: 「蛍が消えた」イタリアを駆け抜けた、アルド・モーロとは誰だったのか

1978年に起こった『アルド・モーロ誘拐・殺害事件』は、イタリアの「ダラス」、あるいは「9.11」として、イタリアの近代史における大きな転換点となった事件と言われます。今のイタリアからはまったく想像できない、常軌を逸したテロが、凄まじい勢いで荒れ狂った『鉛の時代』。その悲劇は55日もの間、イタリアの社会を恐怖と緊張に陥れ、人々を絶望の淵に突き落としました。のち、犯人たちは逮捕され、司法で裁かれましたが、事件の詳細の辻褄が合わず、現代に至るまで全方向から調査が継続されるとともに、アルド・モーロという人物が、イタリアにとって、どれほど重要な人物であったかが、繰り返し語られることになる。その事件の重大さを理解するため、アルド・モーロとはいったい誰で、何をしようとしていた人物であったかを、まず知っておきたいと思います。 Continue reading

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2021 : ダンテ・アリギエーリ没後700年を迎え、ますます人々を夢中にするヴィジョン、永遠の『神曲』

イタリア文学最高峰として、時代を超え、世界中の夥しい数の人々、文学者、哲学者、神学者、芸術家、歴史学者たちが虜となり、礼賛し、研究し続けるダンテ『神曲』。こんな、あまりに大きな不死の作品を、カジュアルに語るなんてとんでもない、と素直に思います。それでもDantedì(ナショナル・ダンテ・デー)の3月25日から、イタリア各地で繰り広げられる数多くのイベントを前に、ネット上のさまざまな講義や、女性の視点で描かれた『Le donne di Dante(ダンテの女たち)』という評論を読んで、それらがあまりに面白く、すっかり『神曲』の宇宙に魅了されてしまいました。そこで、ダンテの無限の宇宙の片鱗を、そこに漂うひとりの読者として、ほんの少し共有できれば、と思います(写真はヴァチカン美術館、署名の間。ラファエッロが描いた群衆の中のダンテ)。 Continue reading

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ローマ、パニスペルナ通り90番地から『マンハッタン計画』へ、そしてエットレ・マヨラーナのこと

わたしたち日本人の記憶に、消えない傷として刻み込まれた、ふたつの原子爆弾ルーツが、パニスペルナ通り90番地にあることを知ったのは、ローマに暮らすようになってからでした。モンティ地区からサンタマリア・マッジョーレ教会まで続く、通り慣れたその道を歩いていた時のこと。友人のひとりがふいに、どこにでもありそうな門構えの建物を指差し、「この建物が核分裂、つまり原子爆弾のルーツだということを知っている?」と言った、20年以上前の光景は今でも蘇ります。その後原子炉に発展する、ウラン原子核に低速中性子を照射して核分裂の連鎖反応を起こし、きわめて強い放射性同位元素(放射能)の観測に成功したのが、このパニスペルナ通りに存在したインスティチュートの研究者たちでした。ところがそのイタリアには、核兵器も原子力発電所も存在しないのです。

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小説「パッショーネ」Passione

そもそもこのサイトをはじめるきっかけとなった小説、『パッショーネ』が、KindleiBooksで発売されることになりました。去年から予告していたにも関わらず、思いのほか長い時間がかかってしまったこの小説は、ローマの街角で起こった実際の事件をヒントに、架空の人物、状況を設定し、再構築したミステリー・フィクションです。そこでほんの少しだけですが、一章の半分をこのサイトで公開させていただくことにしました。もちろん、『鉛の時代』のリサーチをはじめ、ローマの人々のインタビュー、出来事を掘り下げるこのDeep Romaは、これから先も今まで通り、ああでもない、こうでもない、と続けていく所存です。

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『鉛の時代』 イタリアの知の集積 フェルトリネッリ出版と『赤い旅団』の深い関係

2018年3月16日、戦後イタリアの民主主義の構築を根底から覆した、と言われる『アルド・モーロ元首相誘拐・殺害事件』の40年目のメモリアル・デーを迎えました。長い時間をかけ、重要なポジションにいる検事、数々のジャーナリストたち、歴史家たちにより、あらゆる側面から、この大事件の詳細、背景が調べあげられ、もはやどこから手をつけたらいいのか分からないほどの、幾万の情報が積み上げられています。(この項は、『赤い旅団』誕生の背景  からの続きです。写真はジャンジャコモ・フェルトリネッリとフィデル・カストロ。movieplay.it 、feltrinellieditore.itより引用) Continue reading

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