ジョルジャ・メローニ新政権 : たちまちカオスと化した、イタリアのFar-Right politics

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いずれ状況は、少しずつ悪化するのだろう、と朧げには予想していましたが、こんなに早く、しかも立て続けに「なにこれ?」と驚く出来事が次々と起こることになるとはまったく想定外でした。『右派連合』連立与党内の激しいいざこざを経て、上院、下院議会における信任も終了し、ジョルジャ・メローニ女史を首相とする新政府が稼働する運びとなった際は、若く、勢いのある女性が首相の座についたことが喜ばしく、一瞬ではありますが、「意外とソフトで思いやりのある中道右派政治が繰り広げられるかもしれない」との好意的な空気が流れたことも事実です。しかしそれは虚しい幻想であり、新政府がまず着手したのは「誰もが一刻も早く」と渇望していた、切迫したインフレから市民を救済する経済政策ではなく、体制には何ひとつ影響を及ぼさない、緊急性のない社会現象を叩き潰そうとする、挑発的な法律の立案、そして2018年の「サルヴィーニ法」を彷彿とする、難民の人々を国内外のプロパガンダに使う残酷な仕打ちでした。

やっぱり「極めて右」だった新政府

個人的にはまず、閣僚の顔ぶれを見た途端に、深いため息とともに、しらけた気分になったことを告白しておきたいと思います。なにしろ閣僚24人のうち、11人が2008年ベルルスコーニ内閣から、さらに2018年コンテ第1内閣において過激派を担った『同盟』のマテオ・サルヴィーニ、ドラギ政権から同じく『同盟』ジャンカルロ・ジョルジェッティと、過去に閣僚を務めた経緯のある人物ばかりで、『イタリアの同胞』は、「新しい政治」を謳う強烈な野党が売りだったはずなのに、新鮮味ゼロの知っている顔ぶれが、老けて戻ってきた、という印象でした。

しかも女性閣僚は24人中、たったの6人で、いずれも「女性の権利」、「マイノリティの権利」には、まったく興味がなさそうな、こちらも見慣れた顔ぶれであり、「家族及び機会均等、出産率省」大臣に至っては、かねてから中絶に反意を示していたエウジェニア・ロッチェッラが任命され、がっかりした次第です。ロッチェッラの父君はといえば、イタリアの「人権の父」と言われるマルコ・パンネッラとともに70年代、「離婚法」「中絶法」の成立のために尽力した「急進党(Partito Radicale)」を創立したフランチェスコ・ロッチェッラでありますから、その御令嬢がなぜ『イタリアの同胞』に入党し、極端な「反中絶派」となったかは、現代の七不思議となっています。

そんな政府における、多少インパクトがあるニューフェイスは、といえば、各省庁の政務次官に、過去、ファシストあるいはナチ・カルトに染まっていた疑いのある人物たちが、ファシズムを明確に禁止する「共和国憲法」を無視して、ダイナミックに採用されたことでしょうか。ハーケンクロイツの腕章をして、にこやかに微笑む若き日の写真が残っていたり、ムッソリーニの生誕地プレダッピオで、ファシスト礼賛集会に参加した経緯のある政務次官たちの写真や動画が、瞬く間にSNSで拡散するや否や物議を醸し、ロイター通信までが、「メローニ新政府にファシスト!」と、さっそくその写真を掲載していました。

とはいえ、「どのような政府が樹立されようとも、イタリアに問題はない」と断然した、前ECB(欧州中央銀行)総裁、マリオ・ドラギ前首相の約束通り、ドラギ派の『同盟』ジャンカルロ・ジョルジェッティが財務大臣に任命され、前政権の経済政策を引き継ぎ、前環境大臣であったロベルト・チンゴラーニが、新政府に相談役として残ることになりました。さらにはEU議会議長を務めた経緯のある『フォルツァ・イタリア』の穏健派、アントニオ・タィヤーニが外務大臣に抜擢され、EUとの協調外交政策をも引き継ぐかたちで、急スピードで新政府が樹立されたことは、市場にも好感されたようです。

ところで、この組閣時に大きな議論を巻き起こしたのは、国防大臣に任命された『イタリアの同胞』の創立者のひとり、グイド・クロセットが、そもそもイタリアの主要軍事産業であるレオナルドフィンカンティエリに関わった経緯のある、つまり武器のセールスに携わっていた軍事ロビィストであったことでした。ちなみに前環境大臣でのチンゴラーニも、レオナルドのテクニカルイノベーション部門の責任者です。

「イタリアの武器を各国に売っていた人物が、国防大臣になるなんて、Conflitto di interessi(利益相反)にあたるのではないのか」との声が、あちこちのメディアから湧き起こり、ご本人が「利益相反などありえない」と繰り返し断言すればするほどに、疑惑の声は大きく広がりました。ついには「弁護士に相談して、名誉毀損として、しかるべき対策をとる」と、クロセット国防相がSNSで宣言しても、「脅迫には屈しない」と、メディアも万全の攻撃体制で挑み、しばらく険悪に揉めていましたが、遂に国防省そのものが「メディアで話題になった、クロセット国防相のポストと以前の職務との間に、法的なレベルで利益相反は確認できない」と発表して、ようやく沈静化することになりました。それでも、軍事ロビィストをしていた人物が国防相に任命されるということは、あまり清廉潔白な人選ではないことは確かです。

また、可能な限り、連立与党内で諍いが起こらないよう、無難な組閣に努めたと思える閣僚の顔ぶれのなかには、「あれ? 欧州問題及びPnrr(国家復興再生計画)担当相って収賄で裁判中じゃなかったっけ」と気になる人物がいて、調べると、やはりいまだに係争中であり、「このような人物に巨額の資金であるPnrrを任せて大丈夫なのか」との疑問が、SNSにもいくつか漂っていました。さらには観光大臣のダニエラ・サンタンケが、自身が創設した出版社に虚偽の会計処理があったとして、さっそく取り調べを受け、検察からその出版社の破産申告を要請されるという一件が起こり、「そうそう、これがイタリアの右派政治だった」と、軽いノスタルジーに襲われた次第です。

ところで、この新政府で顕著に変わったことといえば、いくつかの省の名前が変更されたことでしょう。経済発展省が企業及びメイド・イン・イタリア省に、農業、食糧、森林政策省が農業、食糧主権省、青年政策省がスポーツ・青年省、機会均等及び家族省が家族、機会均等及び出生率省などに変わり、それらは「食糧主権(Sovranità Alimentali)ってどういう意味?」「出生率(Natalità)省?」と首を捻りたくなる命名ではありますが、よくよく話を聞いてみると、省のコンセプトそのものは、前政権とあまり大きな違いはないようにも思えます。

たとえば「食糧主権省」は、ウクライナ危機による、穀物類などの不安定な食糧流通事情を鑑みて、遠い国に頼る事なく、自国で安全な食糧を自給自足できるまでに拡張しつつ、「イタリアで生育した健全な農畜産物を世界に広く輸出する」ということのようですが、すでに何年も前からイタリアの農畜産物は輸出の軸となっていて(2022年の輸出額は600億ユーロ)、「スローフード」をはじめ、左派政権が推進していた健全なイタリアン・フードのアイデアを、「食糧主権」と右派らしく表現しながら、ちゃっかり踏襲した感もあります。

これは11月5日に、10万人(15万人とも)が集まってローマで行われた「平和集会」の写真です。本稿には関係ないようですが、ここに集まった人たちは、「ウクライナに武器を供給し続ける」と断言した新政府のプログラムに反対している人々でもあり、新政府の税制改革に大反対しているCIGLをはじめとするほとんどの労働組合や、サンタ・エジディオなどカトリック教会関係、文化組合ARCIなど数多くのアソシエーションが参加しました。この項では、その日の写真を載せていきます。

ともあれ、10月29日付けのコリエレ・デッラ・セーラ紙の世論調査によると、ジョルジャ・メローニ新首相率いる『イタリアの同胞』の支持率は26%から、29.8%(11月14日には30%超え)にまで跳ね上がり、『同盟』8%↓『フォルツァ・イタリア」6.1%↓に大差をつけて、とりあえずは人気を独占しています。しかしながら組閣前、「あわや分裂」と連立与党内で燃え上がった権力闘争はすっかり消えてしまった訳ではなく、そう遠くない未来、くすぶる火種に油を注ぐ、何らかの出来事が必ず起こるであろうことを、非公式ながらここで予言しておきたいと思います。

なお、ISTAT(国家統計局)が10月31日に発表した第3四半期のイタリアのGDPは、四半期ベースで0.5%、年間で2.6%と、予想を上回る成長となり、誰もが心配していたリセッションの危機は、いったん先送りとなりました。それでも10月の消費者物価指数は前年比12.8%と、とどまるところを知らず、エネルギー価格の急騰による高インフレは、相変わらず市民の背中に重くのしかかったままです。

この消費者物価指数は、今後、さらに増加すると予想されており、天然ガスの市場価格は下がりつつあっても、企業や家庭に送られてくる光熱費の請求書は高額のままですから(今年のローマ温かい日が続くので、まだ、ほとんど暖房必要ないのですが、工場を抱える製造業は大変だと思います)、平常の生活が戻るのはまだまだ先のことになりそうです。ウクライナ危機を巡って、世界の未来がいよいよ不確実な今、平常の生活にいつ頃戻れるかは、神のみぞ知る、神秘の領域としか言いようがありません。

いずれにしても、新政府が樹立し、ほぼ3週間が過ぎた今では、あれほど騒いでいた海外メディアの「イタリア史上初の『ポストファシスト』政党の女性首相は、欧州を分裂させるのか!」という、破壊的なニュースがすっかり消滅したことには、幾分ホッとしています。ただしそれに比例するように、政府の一挙一同に反応するイタリア国内メディアが日に日に騒々しくなり、新政府発足から間もないというのに、政府擁護派、絶対反対派のメディア上での激論火花を散らして炸裂し、収拾がつかない状況となっています。

そして、この混沌とした状況で率直に述べるならば、やはりメローニ新政権は「極めて右」であり、アンチファシストではない強権主義を貫き、「ひょっとしたら、欧州連合との協調の約束を反故にしてもいい、とさえ思われるふしが見え隠れして疑わしい」という感想でしかありません。そこに『同盟』のマテオ・サルヴィーニが加わって、まるで影の首相のごとく、毎日のようにメディアとSNS上に露出して、積極的に政策発言をしており、ダブルスタンダード政府となりつつあるのが心配です。

しかし、こうして危機感ばかりを抱くのではなく、人生においてはじめて遭遇した「極めて右」の政府ですから、いったいそれが社会にどのような影響を与えるのか、市民はどう反応するのか、学習を兼ねて日々を過ごしてみたいと思っているところです。

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