次から次に政治混乱のニュースが流れ、負のエネルギーがあまりに強烈で思考が停止しそうなとき、ふらり、とこの美術館を訪れると、なんとなく安定した気持ちになります。気持ちの次元が変わるというか、スペースに漂う挑発的でありながら、どこか緩やかなエネルギーに救われるというか、生産的な『現実』が、わたしが生きる世界に同時にあるのだ、と改めて思い出させてくれるのがMACRO ASILOです。ローマの宝石とも言われる繊細な佇まいの市営美術館MACROが懐深い実験プロジェクト、MACRO ASILOとなりオープンして4ヶ月。有名アーティストによる絵画やオブジェなど、いわゆる通常の、有料での『展覧会』は一切開催されていないのに、いつ行っても必ず、斬新なドキュメンタリーフィルムやパフォーマンス、アート作品や考え方、そしてアーティストたちとの出会いがあり、しかも『無料』という気前よさです。 Continue reading
Category Archives: Cultura popolare
ナチ・ファシストからイタリアを解放、戦後の民主主義を担ったパルチザンたち:A.N.P.I.と現在
1943年夏、イタリアのパルチザンたちは本格的に決起。ナチ・ファシストを相手に、都市だけでなく、山間部や森林で、熾烈な武装レジスタンスを繰り広げました。そして1945年、市民を恐怖で打ちのめしたナチ・ファシストの独裁支配からのイタリア解放に貢献、共和国の建国、そして戦後の『民主主義』の確立に大きな功績を残しました。創設から現在に至るまで、そのレジスタンスの魂を営々と受け継ぐ、全国パルチザン協会 A.N.P.I.のローマ県本部に伺い、お話を聞きました。A.N.P.I.は終戦から現在まで留まることなく、アンチファシスト運動の核として重要な活動を続ける大御所です。若い世代の加入者も多く、ローマでは、続々と新世代のパルチザンたちが誕生しはじめています。 Continue reading
ローマ・チッタ・アペルタ:『無防備都市』、難民の人々を巡る終わらないレジスタンス
イタリアの政治は、朝から晩までたゆみなく紛糾しているので、いつの間にかそのインパクトに慣れてしまい、EUの再三の勧告にも頑として譲らない『国家予算案』で、国債スプレッドがみるみる上昇しようが、『5つ星運動』のメンバーがメディアを総攻撃して、ジャーナリストたちの間で諍いが起ころうが、「驚愕する」ことがなくなりました。異常事態も長期間続くと自己防衛本能が働いて、ちょっとやそっとのことでは動じなくなります。それにひょっとしたら、たとえば巷で執拗に語られ続ける経済崩壊やユーロ離脱など、今後大きな変化を遂げる可能性のある個人の日常生活も、今のところ表面的には以前と同じ日々が続いている。ただ、『同盟』が推進するとめどない反人権法案に、いわば現代のパルチザンたちによる頼もしいレジスタンスの流れが急速に動きはじめたことを感じています。 Continue reading
イタリア音楽シーンに革命を起こすピニェートのオーソリティ: ルカ・コッレピッコロ
ようやく組閣が決定したところで、政治の話からはぐんと遠ざかります。イタリアの音楽シーンに影響を与え続けるローマのアンダーグラウンド・ミュージックのメッカ、ピニェートのオーソリティ、ルカ・コッレピッコロにCantautore (カンタウトーレ=シンガーソング・ライター)について、あれこれ話を聞きました。イタリアにおける伝統的なカンタウトーレというジャンルは、音楽シーンだけではなく、その時代を生きる若者たちの感性、生き方そのものに影響を与える『オピニオン・リーダー』的な存在でもあります。ピニェート、伝説のクラブFanfullaから現れ、いまやイタリア全国で大ブレイク中の現代のカンタウトーレのひとり、Calcutta(カルクッタ)についても語っていただきました。
11月25日 ローマの広場:女たちの終わらない闘い We Together
11月25日は、国連が1999年に定めた『女性への暴力に反対するメモリアルデー』です。世界各国の女性たちがストリートに飛び出して、DV、レイプ、ストーキングなど、近年いよいよ増加の傾向にある『女性への暴力」に断固、NOを突きつけ、それぞれの社会における女性やLGBTの人々への、不当な待遇や不条理な性差別も含めて、We Toghetherと、共に闘う覚悟を確認する日でもある。同日、パリやイスタンブールでも大きなデモが催されたようですが、もちろんローマでも、イタリア全国各地から15万人!という人々が集まり、大がかりで賑やかなナショナルウーマンデモが繰り広げられました。 Continue reading
『AFMV』で遂に銀幕へ、イタリアのWebを席捲する The Jackal
たまにはイタリアのWebカルチャーの、メジャーな動きにさらっと迫ってみようと思います。Youtubeに膨大にアップされたWebビデオシリーズで、押しも押されぬ絶対的な人気を誇るのが、ナポリのインディ・フィルムメーカー The Jackal。『インディ』とはいっても、S.r.l (会社組織)としてきっちりマネージされ、Youtuberを含めた他のフィルムメーカーたちとは比較できない、プロフェッショナルなビデオシリーズでWebを席捲しています。わたしも、ナポリマフィア『カモッラ』を描いた『ゴモッラ』のパロディシリーズあたりから注目しはじめたのですが、そのThe Jackalがここ数年、あれよあれよという間にいよいよメジャーになって、遂に劇場映画『AFMV』を制作、現在絶賛上映中です。 Continue reading
ローマのイスラム教と欧州一のグランド・モスク Grande Moschea
わたしはイスラム教のことをほとんど知りません。マグレブの音楽には多少馴染みがあっても、『クルアーン』を読んだこともなく、イスラム文化と自らの文化に接点を見出すこともありません。それでもイスラム教徒の人々には、ちょっとした親愛の気持ちを抱いてもいます。というのもわたしが住むのは、イスラム教徒のバングラデッシュ人が、ミニマーケットやレストランを多く開く地区であり、長く住むうちに挨拶を交わしたり、世間話をする顔見知りも多くなったからです。そこで、わたしとは全く違う文化を持つ隣人たちが、敬虔に信仰するイスラム教に少し近づいてみようと思いたち、ローマのGrande Moschea(グランド・モスク)へ行ってみることにしました。 Continue reading
2017 ローマ 灼熱の夏:Vacanza Movida 水騒動 etc.
日本も暑い毎日が続いているようですが、今年のイタリアは6月中旬から35℃に達するという例年にない灼熱の日々が続いています。遂に8月に突入した今週は、サハラからの熱嵐、その名もルシフェル、が急襲し、40℃以上!という砂漠予報が続いているにも関わらず、今年はローマの中心街のどこを歩いても、昼も夜も人があふれている、という印象です。もちろんローマの人々が海や山に出かける、本格的なヴァカンスシーズンを迎える時期なので、だんだんに人が少なくなるのかもしれませんが、いずれにしても、今年の夏のローマには例年以上の観光客が押し寄せています。 Continue reading
ローマのユダヤ人と難民の人々 : Shoah ショーア
ソ連の兵士たちによりアウシュヴィッツー強制労働収容所の扉が開かれ、囚われの人々が解放された1945年の1月27日。その日を、国連は「Shoah(ユダヤ語)ーホロコースト」の犠牲者たちを追悼するインターナショナル・メモリアル・デーとすることを、2005年に正式に認定(イタリアでは2000年から)しています。したがって1月27日には毎年世界各地で、ホロコーストの犠牲者たちを悼むさまざまな催しが開かれています。もちろんイタリアでも、その日を挟む数日間は、学校、美術館、図書館をはじめとする公共施設で、数多くの映画の上映や展示会などが開かれ、過酷な歴史のリアリティをもう一度、胸に刻む一日となっています(写真はローマの Ghetto -ゲットー地区の路地、壁を飾るユダヤ教のシンボル)。 Continue reading
イタリア映画の新しいアイデンティティ
イタリア映画、文学、そして音楽に、並々ならぬ造詣を持つ二宮大輔氏の寄稿です。2016年には、キネマ旬報で「パオロ・ソレンティーノが仕掛けた迷路」と題して「現代のフェリーニ」と称されるソレンティーノの世界を評論。また、文学座、高橋正徳氏演出によるお芝居では、現代イタリア演劇の原点と言われるエドゥアルド・デ・フィリッポの、難解なナポリ方言が多用された戯曲『フェルメーナ・マルトゥラーノ』を翻訳するなど、まさに八面六臂の大活躍でした。その二宮氏が豊かな感性と鋭い視点で現代のイタリア映画の話題作をレビューします(写真は『透明の少年』より)。 Continue reading