難民の人々の受け入れを拒絶して、すべての港を閉じた1年:イタリアの何が変わったのか

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 イタリアの港が閉鎖された後、地中海では何が起こっているのか。

6月20日は国連が定めた『国際難民デー』でしたが、イタリアの各地でイベントが繰り広げられ、セルジォ・マッタレッラ大統領も声明を発表しました。

「(このエマージェンシーに)、ひとつの国が単独で立ち向かっていくのは難しい」「(現在の)過度のエマージェンシーを乗り越え、未来を予測し、責任と連帯感に乗っとった継続が可能な方策を、国際社会、特に条約で批准した欧州が足並みをそろえて実行しなければならない」

「国家に携わる女性たち、男性たちは、ひどい状況から逃亡してきた人々にとって、まず最初に出会い、両手を広げて人間的なコンタクトを持つ友人である。難民の人々、特に弱っている人々を人道的に搬送するという価値のある経験で、何百人もの人々をイタリアに導き、国家機関とともに働いてきた多くの市民団体に感謝の意を表したい」

マッタレッラ大統領は、『国際難民デー』に寄せて、サルヴィーニ副首相及び内務大臣が掲げる攻撃的な難民排斥主義とは裏腹の、人間らしく、やさしい言葉で、難民支援に携わってきた人々を、このようにねぎらっています。

UNHCR国連難民高等弁務官事務所)によると今年2019年、世界に存在する難民の人々の数は、史上最高の7千万人を記録。そのうち2千5百万人亡命者であり、半分以上が未成年の子供たちなのだそうです。

国内の全港を閉鎖した、この1年のイタリアは、といえば、当然のように難民の人々を乗せた船の着岸数、そして亡命リクエストがぐんと減っています。ラ・レプッブリカ紙によると、イタリア国内に、2017年12月31日までにイタリアに到着し、亡命のリクエストをしながら滞在する人々は18万4千人存在していましたが、今年の5月の統計では11万3千人と大きく減少しました(内務省及びUNHCRの統計)。

「それぞれの国々は、国境を挟んで移民を管理する権利を有するが、人間としての苦悩を最小に抑えることに責任を持たなければならない。作為的に人々に苦悩を惹きおこすような政治に、われわれはもう耐えられない。人々を保護し、助けようとする行動が犯罪であり、誤りである、などという言論を信じる必要はない

『国境なき医師団』は、そう宣言してイタリアの国家安全保障を厳しく批判。他方、国連人権委員会の高官は「2019年、リビアの内戦でヨーロッパを訪れようとする人々のうち、3人に1人が亡くなっている」「リビアに安全な港は存在しない」とツイートしています。国連はさらに、地中海にイタリアの地中海沿岸警備隊の船、さらにサルヴィーニに『犯罪者』扱いされ、航海を禁止されたNGOの船が存在しないことで、状況が悪化したことを危惧。「こんな状況を継続させるわけにはいかない」と、独自のオペレーションを開始する用意があることをも示唆しました。

地中海には、この1年の間に1151人、2年間では4000人の人々が生命を落とすという、耐え難い現実があります。そして1万人の人々が、イタリア政府ーリビア政府(サラージ政権)合意のせいで、やっとの思いで出港したリビアの港へと送還されている。

後述しますが、リビアの『難民滞在センター』で起こっている現実は、われわれと同じ人間が繰り広げているとは思えない、想像を絶するこの世の『地獄』です。そして、その『地獄』であるリビア刑務所ー強制収容所には、女性も子供も含めて、紛争や内戦、貧困と飢えから逃れてきた人々が、犯罪者でもないのに収監されている。

また、2018年に内務大臣がNGOの船『アクアリウス』の入港を攻撃的に拒絶。難民の人々を乗せた船がどこへも行けないまま、海上に足止めされた事件を皮切りに、NGO船の海上での足止めが、地中海における新しい基準となりました。その後同じような案件が18件以上報告され、結果、NGO船の地中海上の漂流総日数は、2019年に入って140日となり、2443人の難民の人々が、海上で足止めされるという事態ともなっています(Il Fatto Quotidiano紙)。

海上は、日光の照り返しが厳しく、水、食料も不足します。狭い救助船に閉じ込められたうえに、慣れない乗船で船酔いが続き、そもそも過酷で劣悪な状況から船出した人々は心理的にも身体的にも疲労困憊。しかも、そのなかには幼い子供たちや妊婦さんも含まれる、という非人間的な状況です。そして最近のイタリアは、後述するSea Watch 3というNGOの船への、サルヴィーニ内務大臣の今までにない過激で暴力的な対応で、大きく揺れた。

いずれにしても、人間の生命の救護を『犯罪』と断定するイタリアの国家安全保障は、まったくもって異常ではありますが、欧州各国にしても状況を知りながら、「これは一大事!」と救援に乗り出すどころか、難民の人々のきわめて困難な状況を、欧州政治の『駒』として利用しようとする姿勢は、狂気の沙汰としか思えません。なんという世界にわたしたちは生きているのか。

 

かなり昔の写真ですが、シチリアを訪れた際、地中海の水があまりに美しく、思わず撮った写真。この写真を撮った頃は、イタリアがこんな状態になるとは思ってもいませんでした。

 

サルヴィーニ内務大臣も、インフラ交通大臣のダニーロ・トニネッリも、イタリアが港を閉じたことで、リビアの港からの、難民の人々を乗せた船の出航が90%減った、と豪語していますが、出航する船が少なくなったからといって、海で亡くなる人が減った、ということではありません。

Fanpageによると、今年2019年の1月から3月までの間に船の遭難で亡くなった人々は150人以上存在しますが2018年の1月から3月まで亡くなった人は100人に満たないという数字が記録されています。つまり、NGOの難民救助船が禁止されたうえ、いったん出航した難民の人々をトリポリの港へ連れ戻す、というリビアーイタリア政府間合意で、リビアからの出航は90%も減少しているというのに、亡くなる人の数は増えている、ということです。

ちなみに国連の統計によると、NGOの船は、2014年から2017年の間に地中海を渡った611,414人の人々のうち114,910人、総人数の18.8%の人々の救助に成功しています。そのNGOの船をサルヴィーニ内務大臣が、着港禁止にしたため、Oxfam(オックスファム)、Borderline Sicilia(シチリア域内で移民の人々の問題を広く伝えるNPO)は、「イタリア政府は、NGOを人身密輸犯罪グループとつるむ共謀者と断定し、信用を失墜させるキャンペーンを繰り広げ(サルヴィーニ内務大臣とその周辺がそう主張するだけで、証拠は何ひとつとして見つかっていません)、NGOの人命救護を妨害。不可能にしている」と糾弾。

さらに国連の人権委員会高位監査官は、「サルヴィーニ内務大臣の難民政策」、特に現在審議が予定されている国家安全保障の追加案(難民救援NGOに多額の罰金を課す内容を含むなど、かなり曲者のこの法案は、7月15日から審議がはじまります)について、深刻な『人権侵害』と断定する書類をイタリア政府に送りつけています。それは「ただちに人権侵害を停止し、それを繰り返さないために、追加法案の内容の検討に責任を負うこと」をイタリア政府に要請するものでした。

また、警告を発しているのは国連だけではありません。国際弁護士グループもまた、ハーグ国際刑事裁判所において、欧州連合を相手取り、「2014年から2017年の間に、14500人もの難民の人々が、地中海で、そしてリビアの強制収容所で生命を落としている」事実は『人類への犯罪』だ」として、訴訟を起こしています。その訴訟が相手取っているのは、サルヴィーニ内務大臣だけではなく、前政権を担ったマテオ・レンツィ元首相、パオロ・ジェンティローニ元首相、マルコ・ミンニーティ前内務大臣、さらにエマニュエル・マクロン大統領、アンジェラ・メルケル首相という面々です。

リビアには私設難民滞在センター(武装犯罪グループが運営する)をはじめ、欧州にせつかれイタリア政府(民主党政権時代)がリビアとの合意のもとに拠出した予算で、リビアのサラージ政権(国連、欧州が認める)が設立した難民滞在センターがあります。もちろん合意した時点では、リビアの状況がこれほど悪化し、難民センターの強制収容所化が酷くなるとは予想していなかった(?)とはいえ、難民の人々を巡るリビアの状況の責任の一端は明らかにイタリア、そして欧州にもある。

さらにイタリアが港を閉じた現在、昨年に比べ、難民の人々が地中海で亡くなるリスクはやがて4倍になる、と難民救援NGO『 SOS Mediteraneè』は警告を発しています

ところで、港は閉鎖されているにも関わらず、空港に到着する難民の人々(サルヴィーニ内務大臣が『正式』と認める)をイタリアは受け入れていますが、ラ・レプッブリカ紙の報道によると、ドイツからローマの空港へと移動する難民の人々は、この6ヶ月間に1200人に上っているそうです。

これは、「難民の人々の最初の欧州到着地が受け入れなければならない」というダブリン合意に沿った受け入れで、ドイツがイタリアへ移動を要請した4602人のうち約28%の人が、実際にイタリアへと移動していることになります。一方、ドイツがギリシャに要請したのは4385人にも関わらず人々はほとんど移動していない(5人)。

あれほどダブリン合意を批判しているサルヴィーニ内務大臣がOKを出さなければ、難民の人々はイタリアへは入国はできないはずですから、海路での難民の人々の受け入れは、まるで見せしめのように大げさに拒絶し、大騒ぎをするにも関わらず、空路の難民の人々の移動は、普通にこっそりと受け入れているわけです。

つまり、これはサルヴィーニ内務大臣が、気高い精神で人命救助に当たるNGOの船を『犯罪者』扱いし、死線を彷徨いながら地中海を渡る難民の人々を拒絶してみせることで、自らの影響力を派手に誇示できる、と踏んだ許し難い演出であり、暴力プロパガンダに他なりません。

アフリカと中東、そして欧州のさまざまな歴史の物語を湛え、文化の架け橋でもあった、碧く、深く、おおらかな地中海。のどかに進む漁船が彼方に浮かび、クルーザーが悠々と航海し、人々が海水浴やスキューバダイビングを楽しむ同じ海で、多くの人々が必死に助けを求めながら亡くなっていく現実があります。そして、これほどたくさんの人々が生命を落としているにも関わらず、その事実に少しづつ無関心になりつつある社会をグロテスクに感じ、恐ろしくもある。

「サルヴィーニ内務大臣が、海から必死で助けを求める人々に、手を差し伸べようとする人々の腕を切り落としている」、そんな壮絶な風刺イラストがSNSに出回っていますが、わたしが難民救護の現場に抱くイメージは、まさにその風刺画が語る光景です。

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