難民の人々の受け入れを拒絶して、すべての港を閉じた1年:イタリアの何が変わったのか

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今年も賑やかな興奮に包まれながら、陽気にオープン・シネマの幕が開き、わたしもどの映画を観にいこうか、とプログラムをチェックしていたところでした。異変が起きたのは、今年6月15日の夜のこと。上映が終わった深夜、広場の周辺を歩いていたチネマ・アメリカのTシャツを着た4人のボランティアの若者たちが、10人ほどの一団に取り囲まれました。

一団は、「チネマアメリカのTシャツを着ているとは、おまえら、アンチファシストだろう」と絡み、若者たちにTシャツを脱ぐことを強要しています。若者たちが頑として拒み続けると、10人がかりで殴る、蹴るの暴行がはじまったそうです。

若者たちは血まみれで近くの救急病院に駆け込み、さいわい大事には至りませんでしたが、何針か縫う怪我、鼻の骨の骨折など、相当な被害を受けています。『鉛の時代』じゃあるまいし、Tシャツを着ていただけで憎悪の対象となり暴行されるとは、いつの間にローマはこんなに物騒な街になったんだろう、と呆然とした事件でした。広場に設置されていた防犯ビデオから、ただちに犯人が割り出されましたが、案の定、自ら「ファシスト」を名乗る極右グループ、カーサ・パウンド、ブロッコ・ストゥデンテスコに属する者たちの仕業だったのです。

「アンチファシストはもうたくさん」「アンチファシストなんて耐えられない」などという、ちょっと吹き出したくなる垂れ幕を掲げてデモをするぐらいなら、まだ多少の議論の余地もありますが、無防備の若者たちへの身体的暴力は、絶対に許されざる犯罪です。

イタリアの副首相及び内務大臣の暴力的な政策は、「われわれのカリスマが暴力的な政策を推し進めているのだから、(ネオ)ファシストである自分たちも好き勝手に意見(?)を主張、行動を活発化させよう」と、極右グループを昂ぶらせ、ムッソリーニを礼賛してみたり、サルート・ロマーノ(右腕を水平に135度掲げるナチファシストの敬礼)で街を練り歩いたり、人種差別案件を含め、あちらこちらで暴力沙汰を起こしています。しかしながらファシズムは、イタリアにおいては確固たる『犯罪』であり、『意見』などという生やさしいものではありません。

当然、主要メディアもわれわれも大騒ぎしましたが、『I ragazzi del Cinema America(チネマアメリカの少年たち)』は「暴力には絶対に屈しない」とただちに宣言し、上映を1日も休むことなく続行しました。事件のあった次の日の夜には、ベルナルド・ベルトルッチ監督の映画『Io ballo da sola(魅せられて)』をプレゼンテーションするためにサン・コシマート広場にやってきたジェレミー・アイアン(!)が、件のチネマ・アメリカのTシャツを着て登壇しています。

「貧窮にある人々も、パワフルで裕福な人々もいる。自分は忘れ去られたと感じている人々も存在している。しかしすべてを変えることができるんだ。そして実際に変えなければならない。われわれは誰もみな、食べ、寝て、セックスをして、排便する。つまり、すべての人々はみな同じ、ということだ。今の政治的な暴力による緊急事態は、あまりに酷い、誰の利益にもならない、ということを(彼らに)分からせる必要がある。投票するときは確かに細心の注意を払うべきだ。しかし最も忘れるべきでないことは、われわれが人間だということ。70年前と同じような方法で、種を撒くようなことはすべきではない」

いつもの渋い表情で、こんな演説をして、満場の拍手を巻き起こしました。

さらに6月18日には、再びサン・コシマート広場で、Tシャツを着て働いていたグループの女の子のひとりが、やはり極右グループに殴られる(卑怯!)、という事件が起こり、さらに騒ぎが大きくなり、しかしグループの若者たちは、「無防備の女の子を襲うなんて許せないことだ。僕らは絶対に恐れない。ファシズムには文化で立ち向かう」と、敢然とシネマを続行。現在は周辺を警察隊が監視しての上映となっています。

したがって、いつもは無邪気に、呑気に開催されるオープンシネマは、ローマの映画文化を守る若者たちの、賑やかな闘いの場ともなり、事件の後も観客は一向に減ることがなく、むしろ日に日に増えている、という状況です。

文化こそが街から暴力を払拭し、市民を成長させる」との信念は、ローマの70年代に『エスターテ・ロマーナ(ローマの夏)』で国際的な名声を博した、共産党政権の文化委員レナート・ニコリーニ以来、A.N.P.I.をはじめとする、ローマのアンチファシズム勢力の変わらない信念でもあります。

この事件を機にチネマ・アメリカのTシャツは、まさに『アンチファシズム』のシンボルとなり、街のあちらこちらで見かけるようにもなりました。また、現代イタリア映画の顔である俳優や監督たち、たとえばエドアルド・レオジョヴァンニ・ヴェロネージ、エリオ・ジェルマーニ、クラウディオ・アメンドラらもTシャツを着て、連帯を表明しています。

SNSに投稿された、大人気コメディ『いつだってやめられる』シリーズ主演の、エドアルド・レオは『チネマ・アメリカ』のTシャツを着て、「こうしよう。次は僕をやればいい」とコメント。

イタリアの極右/ネオファシストグループは、SNS上で自分と意見を異にする人々、あるいは弱者を、言葉で陵辱し、卑しめるだけではなく、『鉛の時代』さながらに徒党を組んで、暴力という恐怖で人々を跪かせようとします。今までは郊外を中心に騒ぎを起こしてきた彼らが、ローマの伝統ある庶民の街トラステヴェレで、チネマアメリカのTシャツを着ていただけの、無防備な青年に暴行を加えたことは、ある意味、アンチティファへの政治的な宣戦布告でもありました。

その後の『チネマ・アメリカ』には、「ファシズムは違憲」と、複数の極右グループの解体に即刻着手するよう、最近警察に要請したA.N.P.I.も駆けつけ、さらにはローマの若きジャーナリストたちSCOMODOのメンバーも、『チネマ・アメリカ』に強い支持を表明し、ボランティアで上映を手伝っています。ともあれ、『I Ragazzi del Cinema America (チネマアメリカの少年たち)』にしても、SCOMODOにしても、未来の文化を担うローマの若い世代の活躍が著しいのは、頼もしい限りです。

余談ですが、TVの人気政治討論番組にゲストとして招かれたチネマ・アメリカ代表の青年の、臆することなくまっすぐ前を見据え、文化、そして多様性の重要性を語り、アンチファシズムを理路整然と主張する様には圧倒される力強さを感じた次第です。

なお、世界中の映画人、フランシス・フォード・コッポラ、スパイク・リー、ヴィム・ヴェンダース、リチャード・ギア、キアヌ・リーブス、ポール・シュレーダー、ジョン・マルコビッチらも、「港を開こう」をスローガンとする『チネマ・アメリカ』に連帯する宣言文に署名しています。

※チネマ・アメリカのプレゼンテーションにTシャツを来て登壇したダリオ・アルジェント。「この素晴らしいTシャツに口づけよう。イタリアのチネマのために多くの素敵なことを成し遂げたんだ。ありがとう。ありがとう。わたしはファシズムなど怖くはない。自慢げに誇りを持って、このTシャツを着るんだ。この酷く、醜い状況が早く終わり、2度と繰り返されないことを願っている。一方、わたしの目の前にある、この美しい広場で、ほれぼれするような観客に囲まれてチネマは継続していく。君たちのことが大好きだよ。君たちみんなを愛している。愛している」

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