難民の人々の受け入れを拒絶して、すべての港を閉じた1年:イタリアの何が変わったのか

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 リビアはいま、どんな状況なのか

砂漠の狂犬、ガダフィ大佐が殺害されたのち、2011年4月からはじまったリビア内戦は、時間を経ても収束する気配はまったく見られず、むしろ状況は悪化の一路をたどっています。そして、あのガダフィ大佐の亡骸は、英雄としてシンボル化されることを危惧されたのか、殺害の日から行方知れずともなっているそうです。

「イタリアは、リビアの状況を見誤っている。このまま紛争が続けば、第2のシリアになる可能性があるほど、リビアの状況は逼迫している」という警鐘が、しきりに各方面から鳴らされていますが、そんな状況にも関わらず、イタリア政府は今のところ、「故意に」なのか、それとも内政における権力闘争で忙しいのか、リビアを顧みる様子はありません。

ところでリビアという、ほとんどが砂漠に覆われた国は、アフリカ最大の原油の産地です。そしてその利権を安価で得るために、リビアが混乱し、各勢力が分裂した状態で油田を確保している状態であればあるほど得をする、と踏んでいるグローバル勢力が、多くの市民、難民の人々を巻き込む紛争の背後にひしめいています。

実際に事情を知れば知るほど、リビアの内戦は、インターナショナルな原油利権と切り離しては考えられないことが明確になってくるのです。

リビアの油田マップ。Petroleum Economist

ここからは、人権に関するトピックを調査するジャーナリストグループが形成するオンラインニュースOsservatoriodiritti.it、さらにFanpage、その他メディアの記事、放映されたテレビのドキュメンタリーなどを参考に、リビアの現状を、分かる範囲で少し追ってみたいと思います。

長い内戦を経た現在、リビアは分割された状態で、西側、東側(チレナイカ)と、それぞれが異なる勢力に統治されています。

2015年に国連、及び国際社会により、公式のリビア政府と認定された国民合意政府を東側沿岸のトプルクに樹立したファイズ・アル・サラージ首相は、欧州からリビアの統一を要請された2016年から首都トリポリに滞在。そこに西側チレナイカ地域のベンガジを基盤とする、ハフタール将軍のEsercito Nazionale Libico (LNA)ーリビア国民軍が進軍し、対立がいよいよ激化しています。さらに、各地それぞれに基盤を持つ少数の勢力が蜂起や寝返りを繰り返し不安定な状況が続くうえ、イスラム国に近いテロリストグループが跋扈している、という状況です。

今年4月4日には、リビア南部の油田を抱く地方をほぼ制覇しながら進軍してきたハフタール将軍勢力が、ついにトリポリに侵攻し、2011年から数えて第3回目の大きな市民戦争が勃発しています。そして、その市民戦争に600万人のリビア市民、そして約20万人のアフリカ各国(ナイジェリア、エリトリア、スーダン、ソマリア、セネガル、ガンビアなど)の惨状から逃れてきた難民の人々が巻き込まれているというわけです。また、ハフタール将軍が侵攻したトリポリのすぐ南には、サラージ首相が死守したいトルコとカタールが支える重要な油田があります。

ハフタール将軍は、ガダフィ大佐の意志を継ぎ、軍部によるリビア統一を理想に掲げており、アラブ首長国連邦、サウジアラビアが資金面で援助。さらにロシア、エジプトからは軍事支援を受け、最近は欧州諸国からもコンタクトを得るようになっています。

特にリビアの原油に強い興味を示してきたフランスのマクロン大統領は、ヨーロッパ諸国ではじめて、国連が認定するサラージ政権と敵対するハフタール将軍と会談し、ハフタール大佐のトリポリ侵攻直前には、まるで打ち合わせでもするかのように、将軍の息子フランスを訪問していたことが明らかになっている。

フランスはかねてから、かつてのリビアの宗主国であり、ガダフィ大佐と強い絆を結ぶことに成功したイタリアを出し抜いての原油利権の独占を狙っているふしがありますから、イタリアのコンテ首相はすかさず、ハフタール将軍とサラージ首相の間に仲介に入り、シチリアに両者を招いて会談を実現。しかし結局のところ、和解の道は閉ざされたままに終わりました。

いずれにしても、マクロン大統領が国際合意を無視し、ハフタール将軍と距離を縮めたことに激怒したサラージ首相は、フランスとの国交を断絶すると宣言しています。また、このところの野心的な進軍で、一時はハフタール将軍優勢、とも見られていましたが、75歳の高齢に加え、かつてヨルダン、さらにフランスの病院で治療をした経緯がある持病を抱え、今後の展開は未知数、と見なされるようになっています。

リビア国内の各地方はといえば、それぞれに独立しながら、ハフタール将軍、あるいはサラージ首相いずれかと連帯を組んでおり、たとえば今までは、あくまでも中立の姿勢を貫いていたジンタン地方が、サラージ首相勢力との連帯を表明したことにより、ハフタール将軍支持の市民が反発し、緊張した状態が続いているそうです。加えてイスラム伝統主義のヴィジョンを掲げ、『ジハード』によるグローバル戦争を目指すサラフィーティのグループは、ハフタール将軍を支持しサラージ政権に敵対しています。

この混乱のせいで、リビア国内の治安は最悪となっており、飛び交う戦闘機と爆弾、銃弾をすり抜け、強盗、暴行、強姦、密告、不当逮捕と、リビア市民の平和な日常は、木っ端微塵に破壊されている。さらに現在、最も問題となっているのは、軍隊、あるいは武装勢力に管理された難民産業とも言うべき、難民の人々の人権を徹底的に蹂躙する人身売買が行われていることです。

リビア勢力図マップ。黄色ー国連が認める勢力 緑ーハフタール将軍勢力。オレンジーTubu 私設軍及びその連帯勢力。エンジートゥアレグの戦士 黒ーイスラム国勢力 middleeasteye.netより。

『難民滞在センター』という名の強制収容所

紛争や飢饉、貧困でもはや生き抜くことは不可能に陥り、意を決して生まれた場所を捨て、旅の途中に盗賊に襲われ、あるいは詐欺に騙されお金を盗まれ、それでも砂漠をひたすら歩き続け、アフリカ各国から訪れた難民の人々がようやくたどりついたリビア国境には、さらなる地獄が待ち受けている。

リビア内の武装勢力は、難民の人々を見つけると、犯罪者でもない彼らを捕らえ、狭い場所に閉じ込め、想像を絶する残酷な拷問を繰り返し、ここで死に至る人々も多く存在します。そして、この『難民滞在センター』と呼ばれる強制収容所を含め、欧州への船出をマネージする人身密輸マフィアたちが形成する難民産業に、リビア沿岸警備隊、リビア軍までが関わっているというのです。

前述したように、2017年、イタリア政府(民主党政権時、マルコ・ミンニーティ時代)は、サラージ政権側の私設軍隊として、リビアの『難民滞在センター』、『リビア沿岸警備隊』を管理していたドッバーシ・ファミリーと合意を結び(内務省は否定していますが)、『難民滞在センター』の建設のための資金(すなわちイタリア市民の税金)を融通しています。

しかし、それから2年が経ち、ドッバーシ・ファミリーの勢力は他勢力の台頭で弱まり、ほとんどの難民の人々の出発地点であるトリポリの港地区の支配権を失うことになり、『難民滞在センター』も港周辺も、いよいよ無法地帯となりました。

リビアに滞在する難民の人々(国連人権委員会によると、20万人のうち、5万8千人が『亡命者』『亡命希望者』として認定されています)は、ただ道を歩いているだけで強制的に捉えられ、35件ある(そのうち機能しているのは20件といわれています)いつ出られるか分からない、リビア内務省が管理する(武装勢力に委託した)『難民滞在センター』、あるいは私設『難民センター』へ幽閉されることになる。現在、サラージ政権が管理する、オフィシャルな『難民滞在センター』だけで、約6000人〜8000人とも言われる人々が収容されているそうですが、乱立する私設難民センターも加えれば、さらに多くの人々が幽閉されていることになります。

また、今までに9万人の避難者と3千8百人の犠牲を出したリビア内戦は国全体に広がりつつあるうえ、どこにも逃げ場がない『難民滞在センター』までが爆撃の対象となっている。4月にはトリポリの港にあるセンターが武装勢力の標的となり、多くの負傷者を出しました。また、7月3日には、再び標的となり、40人の難民の人々が亡くなり、80人の負傷者を出しています(追記:のち、亡くなった方が100人、180人の負傷者と再発表されました)。

この『難民滞在センター』で、難民の人々ひとりあたりに与えられるスペースは1平方メートルに満たず、常に水や食料が欠乏している状態です。そして逃げることができないように、窓はセメントで塗り込められている。病気になった人々は、『治療』と称して連れ去られ、2度と戻ってくることはありません。

センターには多くの子供たちも不潔で狭いスペースに幽閉されていて、妊娠した女性たちは、衛生状態が極めて劣悪な環境での出産を余儀なくされます。運が良ければ他の捕囚された女性たちに助けられ、無事に出産することができますが、場合によっては女性も赤ちゃんも亡くなってしまうケースがある。

センターに連行された男性たちは、「実家に連絡して金を調達しろ」と毎日のように酷い拷問に晒され、さらにはセンターに連れてこられた女性たちのほぼ全員が、強姦されるというおぞましく、許しがたい現実があります。

いくつかのTV番組で、その具体的な内容が報告されましたが、人身密売武装グループの『難民滞在センター』に幽閉された人々はみな、国にいる家族に身代金を送らせるよう脅しあげられ、それを拒否した場合、ナイフで切りつけられ、ライフルで撃たれ、深い傷跡が残る残酷な拷問が続きます。「逆さ吊りにされ、理由なく発砲され、それでも結局、家族からお金を得ることができなかった人は、その場で撃ち殺された」と告白する人もいました。他のメディアでも多くの人々が同様の内容を証言をしています。

軍部や武装グループは、こうして人々からお金をせびるだけせびって用がなくなるや否や、安全性を無視した粗末なゴムボートにすし詰めにして、地中海へと放り出すのです。

また、顔を隠してインタビューに答えた、私設難民滞在センターを管理する人身売買武装グループのボスという人物は、難民の人々を明らかに『奴隷』と呼び、男性たちは労働で酷使し、女性たちは連れてこられると同時に、その場で品定めされて売春婦として働かせる、あるいは性奴隷として売る、と断言していました。したがって、女性たちは彼らにとっては金蔓でもあり、なかなか外の世界へ戻ることができません。

非人間的な残酷の限りを尽くして、何の罪もない、ただ生きるために窮状を逃れてきただけの人々の、心と身体を痛めつけ、生命まで奪う。そしてたとえ生き延びることができたとしても、武装勢力が発射する爆弾の標的となる。それが内戦下にある現在のリビアのリアリティです。

「海で死ぬか、それともこの世の地獄で死ぬか。ならばわたしは海で死ぬほうがいい」

こんな地獄を通り抜け、生命をかけて地中海を渡ってきた人々を、サルヴィーニ大臣は攻撃的に拒絶。生きるか死ぬか、長い過酷な旅のあと、彼らがようやく息をついたSprarの難民支援センターをも閉鎖したわけです。心と身体に深い傷を負いながら、ふらふらになって訪れた人々を虐め、差別し、社会から排斥しようとする。そんな内務大臣を支持する人々が、いまや38%(LA7)も存在するなんて、知らず知らずのうちにイタリアの社会は病んでしまったとしか思えません。

さらに、いったん地中海に船出しながら、イタリア政府と合意を結んだリビア沿岸警備隊に連れ戻された人々は、やっと逃げ出したはずの『難民滞在センター』という強制収容所へと再び連れ戻されることになる。それこそが「リビアには、安全な港などひとつもない」と多くの人々が訴える所以です。

※7月1日に突如サラージ首相がミラノを訪れ、サルヴィーニ内務大臣と密談したというニュースが報道されました。おそらく武器の調達がメインに話し合われたと見られます。

▶︎NGOの船、Sea Watch3へのサルヴィーニの度を越した対応

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