難民の人々の受け入れを拒絶して、すべての港を閉じた1年:イタリアの何が変わったのか

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 NGOの船、Sea Watch3への度を越した制裁 

つい最近もまた、遭難した難民の人々を救助したNGOの船、Sea Watch 3(シー・ウォッチ3)が、イタリアに拒絶されながらどこにも着岸できないまま、リビアとイタリアの海域の境界線を延々と彷徨うという一件が起こりました。

13日間の漂流のあと、Sea Watch3は制裁覚悟でイタリア海域へと進路を変更。その後、船がランペドゥーサに強行着港するまでの3日間、サルヴィーニ内務大臣と船長の間で激しい応酬が繰り広げられています。遂にはNGOに支援を表明するPDー民主党議員たちがSea Watch 3に乗り込み、多くの難民支援市民団体、NGOとともに政府を糾弾する事態ともなりました。

Sea Watch 3の軌跡。

そして6月29日、ランペドゥーサ島の港にようやくSea Watch3は着港し、それと同時に船になだれ込んできた海上警備隊に、船長が『逮捕』されるという、今までにはなかったケースにまで発展しています。

ここ数日のイタリアは、サハラの熱風シロッコで、海上は40度を優に超える気温が続いており、Sea Watch3の漂流は過酷を極め、その漂流を、難民の人々を励ましながら共に耐え、サルヴィーニの脅迫や嫌がらせにも怖気づかず、イタリア領海へと進路を向ける決断を下した勇敢な船長は、ドイツ人の31歳の女性です。下船した船長は、「船上での厳しい毎日と、未来が見えない状況に絶望した数人が、海に飛び込んで自殺する恐れがあり、それを防ぐために強行に着港せざるをえなかった」と決断の理由を語っています。

船がイタリア海域に入った途端、NGOの船を応援する人々からは、その決断に快哉が上がり、今後、裁判にかかるであろう資金を募るRete Antifascista(アンチファシスト・ネットワーク)の募金には、なんと48時間31万5千ユーロ(!)が集まったそうです。

※6月29日、着港を決断した、カロラさんの投稿から。「現在12時30分、Sea Watch 3からです。わたしたちはまだランペドゥーサ沖にいます。今日の午後、イタリアの警察が、わたしの捜査を開始し、救護した人々の下船には誰も応援に来ないという連絡も受けています。言い換えれば、わたしたちは(イタリア政府の)司令を待っているところで、残念ながら、結論はすぐには出ないだろうということです。そこで、わたしは夜は解放されている港に、とにかく船を着岸することを決断しました。今、わたしたちは船の準備をしているところで、約1時間半で岸壁に到着します」 

船が海上を漂い、SOSを送り続けているというのに、サルヴィーニ大臣は「クリスマスになっても、イタリアの港には着岸させない」という脅迫からはじまり、「あの女船長は、いったいどこから資金を得ているのか知れたもんじゃない」「船に乗船した民主党議員も逮捕する」などと発言。「イタリアはなんという低俗レベルの国に成り下がってしまったんだ」と多くのジャーナリストや知識人、そして市民たちから怒りの声が上がりました。

なお、女性船長が逮捕された瞬間には、多くの賞賛の拍手とともに、少数の『同盟』支持者が港に集まって、「恥!」「強姦されればいいのに!」以外に、ここに書くことが憚れる、下品で卑猥な悪態をついて囃し立てています。

船に乗船していたのは、イタリアなら何の問題もなく、いつでも受け入れることが可能であろう、たった42人の難民の人々でした。にも関わらずサルヴィーニが船を受け入れなかったのは、海で溺れそうになる難民の人々を救護した若く、聡明なNGO船の船長を、禍々しく理不尽に『逮捕』する、という、まるでディズニー映画のような単純な悪漢ドラマを、「欧州のトランプ」である自らの権力の誇示に利用したかったからに他ありません。

船長の母国、ドイツからは『イタリアはヒステリー。人命救助は犯罪ではない。条約を無視して犯罪を犯しているのはイタリアだ」と厳しい非難がただちに浴びせられ、さらにはフランスもサルヴィーニを強く非難しています。しかし結局船長は、7月2日、アグリジェントの検察が「Sea Watch3には犯罪行為はなく、人命救助の義務を遂行した」と決定してめでたく解放され、今度はサルヴィーニと裁判所が険悪なムードとなりました。大臣は国の安全を脅かすとして、船長の即刻の国外追放を求め、一方アグリジェントの検察は7月9日までの取り調べを理由に、船長のイタリア滞在を認めています。

特筆すべきは、「港を閉じる」と言いながらも、NGOではない難民の人々を乗せた船(人身密輸マフィアや商業船など)は、いつの間にか静かにイタリアに着港していて、Sea Watch 3 が漂流しはじめた6月15日から24日までの間に、312人の難民の人々が、誰からも騒がれることなく、ランペドゥーサの港に下船していることです。また、船長が逮捕されたあとも続々と、難民の人々を乗せた船が、ひっそり着港しているそうです。

またイタリアには、『幽霊船』と呼ばれる、監視の眼をすり抜けてイタリアに到着する船が多くあることが証言されており、「どこから来るか分からない」「ひょっとしたら犯罪組織やテロリストが潜んでいるかもしれない」これらの船のほうが、国家安全保障には、むしろ深刻なはずですが、内務大臣はまったく注意を払っていない。彼の関心は、あくまで難民救助を旨とするNGOの船にのみひたすら注がれます。

そういえば、サルヴィーニがワシントンを訪問したのち、米国は「イタリアの難民政策は多少改善したとはいえ、まだまだ手ぬるい」と発表していました。そこでサルヴィーニが米国の機嫌を取るために、今回、船長の『逮捕』という一線を超えたのだとしたら、決して容認できない、生命を冒涜した、とんだ茶番です。それでもLa7の世論調査では、今回のサルヴィーニの対応に賛成する人が、イタリアには52%(!)も存在する。

しかしわたしは、サルヴィーニが手を変え、品を変え試みる、市民の『価値観のすり替え』に踊ることなく、わたしの周囲の人々同様、難民の人々とNGOの船を応援したいと思う次第です。

港を開こう!

 

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