2019欧州選挙と、窮地に陥ったローマの巨大占拠スペースSpin Time Labsを救ったヴァチカン

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新しい動きが次々に生まれるローマの重要なカウンターカルチャーシーンのひとつ、Spin Time Labs450人、イタリア人をはじめ18カ国の人々が占拠する、その巨大占拠スペースの電力突然切断され、灯なく、水道も機能しない、という窮地に陥ったのは5月6日のことでした。その後約1週間、幾度となく公開総会や支援イベントが開かれ、主要メディアも続々と報道しましたが、事態は一向に解決することなく、いよいよ緊張した空気が漂った。なにより占拠者の中には病気の人々や、98人の子供たちも含まれているのです。あわや、というその窮状に、天使のごとく、ふわり、と現れたのが『コラード神父』でした。まるでおとぎ話のようですが、その『コラード神父』こそ、フランチェスコ教皇の右腕、クライェウスキー枢機卿( ええ!?)だったのです。(タイトルの巨大建造物がSpin Time Labs占拠スペース)

欧州選挙を終えたイタリアを覆う空気

さて、本題に入る前に、ちょっと長くなりますが、5月26日の欧州議会選挙の結果と巷に流れる空気を、少し俯瞰してみたいと思います。というのも、巨大占拠スペース、Spin Time Labsの窮状を救ったフランチェスコ教皇に、最近は明らかな対立姿勢をアピールするマテオ・サルヴィーニ内務大臣率いる『同盟』が、34.3%という予想を遥かに上回る支持率で大躍進を遂げたからです。続くPD – 民主党22.8%『5つ星運動』がまさかの17.1%で急落。波乱の展開となりました。

欧州全体で見るならば、『同盟』と連帯する極右政党、仏マリーヌ・ルペンの『国民戦線』が、これまたマクロン大統領の党を僅差で抜いて第1党となり、英国はナイジェル・ファラージュの『ブレグジット党』が31.6%、ハンガリーのビクトール・オルバンが前評判通り、52.14%とぶち抜きで大勝。一方、ドイツ、フランスではグレタ・トゥーンベリをリーダーとする#Fridayforfutureムーブメントの影響もあってか、若い世代が支持する『緑の党』が目覚ましい躍進を見せています。

したがって、欧州勢力図に多少の変化が起こることは免れずとも、アンチ・エリートを掲げて闘いに挑んだ欧州極右勢力は過半数には遥かに及ばず、件のスティーブ・バノンが、事あるごとに豪語していた破壊的な大地震は起こることはありませんでした。イタリアはまあまあ(56%)でしたが、欧州各国の投票率は、2014年の選挙と比較して軒並み上昇(欧州各国平均50.5%で過去20年間で最高)。結果、欧州主義勢力の勝利となったわけです。

少し心配な余談ですが、選挙後の5月28日、いつの間にかイタリア下院で、PDを含めるすべての議員の満場一致で、『同盟』が提案したMini-bot(ミニボット)の動議が可決されています。

Mini-botについては、わたし自身、仕組みがよく掴めていないので(il pagamenti dei debiti commerciali delle pubbliche amministrazione attraverso titoli di Stato di piccolo taglio)、どうこう講釈することはできないのですが、いくつかの報道によると、どうやらイタリアがユーロから離脱する場合、そのプロセスを秩序立て、混乱が起こらないよう保護するために機能するシステムのようです。つまりイタリア政府がユーロ離脱を一応念頭に置いている、ということなのか、それとも欧州議会選挙後で空洞状態だった議員たちの情報不足なのか、判然とはしない状況です。

今回の下院におけるMini-bot動議については、経済学者たちや経済紙Il sole 24 oreが警告を発しており、「『民主党』までが満場一致で賛成するなんて、Mini-botがどのような役割を持つシステムなのか、理解していないのではないか」と批判が相次ぎました。この件に関しては、今後、さらなる議論に発展する可能性もあり、注視する必要があるかもしれません。欧州議会に大きな変化はなくとも、ブレグジットに続いて、イタレグジットというような、またぞろ物騒な声が上がるのは、今のところはご免こうむりたい、という気持ちです。6月6日には、欧州中央銀行のドラギ総裁も、Mini-botは『違法』という見解を述べています。

ともあれ、2018年3月4日のイタリア国政選挙では、『五つ星運動』が約32%、『同盟』が17%という結果でしたから、たった1年の間に両政党の立ち位置が完全に大逆転した、ということになります。

今回の『5つ星運動』の敗因については、もちろんさまざまな理由が挙げられますが、簡単に言ってしまうなら、裕福なイタリア北部に基盤を持ち、政治世界、各種経済ロビーや、ロシア、米国宗教右派が中核となった『世界家族会議』、つまりフランチェスコ教皇と反目するカトリック原理主義とも深い絆を持つ『旧・北部同盟』の、地方をくまなく網羅する草の根プロパガンダ作戦に、新興勢力である『5つ星運動』が、追いつくことができなかった、ということでしょうか。前回、『5つ星』を強く支持したイタリア南部では、棄権が目立っています。

党首がマテオ・サルヴィーニに代替わりした『同盟』は、名前を変えてイメージを刷新したとしても、実際のところ、イタリア政治世界に横たわる愛欲の泥沼を長年泳ぎ続けた、イタリア最古参の政党です。国政選挙直後、4900万ユーロもの使途不明金が発覚しながら、それを80年ローンで国に返却する約束を、うやむやのうちに取りつける、という離れ業をも成し遂げている。

つまり、同盟の最も若い26歳の下院議員が106歳になった時に、政党の借金をようやく返し終えるという、未来を達観した、神秘的なスパンの借金を抱えながらの勝利でした。欧州議会選挙前には、サルヴィーニの片腕であるインフラ省政務次官、アルマンド・シーリの収賄が発覚して辞任に追い込まれ、選挙後には同じく『同盟』のインフラ省副大臣エドアルド・リキシが公金横領で辞任、というスキャンダルに見舞われてもなお、人気はうなぎのぼりに急上昇しています。

もちろん1年やそこらで、勢力図がダイナミックにひっくり返ったり、消滅しそうだった政党が返り咲いたりするイタリア政治ですから、今後の展開は全く読めません。それに多くの人々が望む『民主党』と『5つ星運動』の連帯という道が、完全に閉ざされたわけではありませんから、まずは今後の動きを見守りたいと思っているところです。

また、投票結果で興味深かったのは、人口が30万人以上の大都市、たとえばローマ、ナポリ、ミラノ、トリノでは『民主党』が明らかに強く、ついで『同盟』、『5つ星運動』となりますが、人口が少ない地方になればなるほど『同盟』の支持率がぐんと伸びていることでした。人口5000人以内のちいさい街では、ほとんどの住人が『同盟』を支持する、といった具合です。この、大都市であればあるほど急進的であり、それに対して小都市は極端な保守的傾向を示すという傾向については、英国のブレグジット国民投票、米国におけるトランプ大統領支持のあり方と非常によく似ている、とコリエレ・デッラ・セーラ紙は分析しています。

※コリエレ・デッラ・セーラ紙より引用。左から右に向け、地方自治体の人口の増加に従って、支持政党が変化する。

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