Category Archives: Cultura

ローマの高校生たちのチネマ・アメリカ占拠から10年、チネマ・トロイージの奇跡

ローマはやはり映画、人々のチネマに対する愛情は計り知れないものなのだ、と改めて痛感しました。古き良きイタリア映画の黄金時代、トラステベレに暮らす庶民たちの胸を高鳴らせ、いくつもの思い出が積み重ねられた映画館、チネマ・アメリカが時代の煽りで廃館を強いられ取り壊されそうになる寸前、高校生たちが大挙して『占拠』したのは2012年のこと。その小さな『占拠』は、ベルナルド・ベルトルッチという巨匠を筆頭に、映画界から強力なサポートを受け、あっという間に街の話題をさらいます。やがてその高校生たちはラツィオ州、ローマ市から、3つの広場で開かれるオープンシネマのオーガナイズをまかされることになり、それらはいつしか夏の風物詩ともなりました。しかしその動きが、最新のテクノロジー装備のモダンアヴァンギャルド映画館チネマ・トロイージにまで発展するとは、正直、考えてもいなかった。映画館から配信プラットフォームへと映画を巡る環境が大きく変わりつつある今、いまや大人になった高校生たちの挑戦ははじまったばかりです。 Continue reading

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『鉛の時代』:その後のイタリアを変えた55日間、時代の深層に刻み込まれたアルド・モーロとその理想 Part2.

次々と届く『赤い旅団』の脅迫的な声明、アルド・モーロ明晰でありながら、次第に重く感情的になっていく手紙にも、政府は一切反応せず、ひたすら「テロリストとの交渉を拒絶」しました事件に明らかな進展がないままに、緊張は日に日にエスカレートしていきます。もはや一刻も無駄にできない状況のなか、遂に『イタリア社会党』のベッティーノ・クラクシー教皇パオロ6世、モーロの中東政策における右腕でもあったSISMI(軍部諜報局)のステファノ・ジョバンノーネ大佐、そしてパレスティーナそれぞれが、モーロ解放に向けた『旅団』とのアンダーグラウンドな交渉に挑みはじめました。しかし、いずれの交渉も成立間際で決裂し、市民は衝撃的なフィナーレに直面することになった。そのあまりに過酷な結末に、深い無力感と絶望を打ち消そうとする自己防衛本能が社会全体に広がり、当時、事件について語る人はほとんどいなかったそうです。『モーロ事件』の詳細を語りはじめるには、それから数年の月日が必要でした(Part1.はこちらから)。

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『鉛の時代』:その後のイタリアを変えた55日間、時代の深層に刻み込まれたアルド・モーロとその理想 Part1.

イタリアダラス、9.11と言われる『アルド・モーロ事件』が両者と決定的に違うのは、「55日間もの誘拐」という長期にわたって継続した、理不尽な悲劇に社会全体が巻き込まれ、消えることのないトラウマとして時代に刻み込まれたことでしょう。次々に届く『赤い旅団』からの不穏な犯行声明、モーロの渾身の手紙、日々押し寄せる扇情的なニュース、対する政府の頑なな沈黙拒絶。1978年3月16日、警護官5人の方々の衝撃的な惨殺とともにはじまった、当時のイタリアにおける最重要人物である『キリスト教民主党』のリーダー、アルド・モーロ元首相誘拐の期間、警察、軍部が街中に溢れかえる重苦しい日常に、イタリアはそれまで経験したことがない、異様な緊張に直面しました。レオナルド・シャーシャは、事件の3ヶ月後に上梓した、その著書『L’Affaire Moro(モーロ事件)』を、ボルヘスの『伝奇集(FiccionesFictions)』の一節を引用し、真実が隠された「推理小説(Un romanzo poliziesco)」と位置づけていますが、司法が下した裁きと、その後の捜査に大きな齟齬があるまま、43年もの月日が経過した現代を生きるわたしもまた、非常に僭越ではありますが、この投稿をミステリー、ある種のフィクションと位置づけたいと思います。

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『鉛の時代』: イタリアのもっとも長い1日、アルド・モーロが連れ去られ、ブラックホールとなった1978年3月16日とその背景

1978年3月16日、イタリアが歴史の重要な断片を喪失する、『モーロ事件』が起こる2日前のことです。『キリスト教民主党』のリーダーであるとともに、ローマ大学サピエンツァの教授だったアルド・モーロに、「次の卒業論文の採点が最後になりますね。共和国大統領になられたら、大学にはいらっしゃれなくなるでしょうから」と、助手だったフランチェスコ・トリットが、何気なく話しかけたそうです。するとモーロは「愛情のこもった言葉をありがとう」、といつも通りに微笑んだあと、「しかしわたしは、大統領にはならないと思うよ。おそらくジョン・ケネディと同じ最期をたどることになるだろう」と付け加え、トリットをギョッとさせた、というエピソードがあります。アルド・モーロはその頃、最有力の次期大統領候補とみなされていました(ジェーロ・グラッシ)。 Continue reading

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『鉛の時代』: 「蛍が消えた」イタリアを駆け抜けた、アルド・モーロとは誰だったのか

1978年に起こった『アルド・モーロ誘拐・殺害事件』は、イタリアの「ダラス」、あるいは「9.11」として、イタリアの近代史における大きな転換点となった事件と言われます。今のイタリアからはまったく想像できない、常軌を逸したテロが、凄まじい勢いで荒れ狂った『鉛の時代』。その悲劇は55日もの間、イタリアの社会を恐怖と緊張に陥れ、人々を絶望の淵に突き落としました。のち、犯人たちは逮捕され、司法で裁かれましたが、事件の詳細の辻褄が合わず、現代に至るまで全方向から調査が継続されるとともに、アルド・モーロという人物が、イタリアにとって、どれほど重要な人物であったかが、繰り返し語られることになります。その事件の重大さを理解するため、アルド・モーロとはいったい誰で、何をしようとしていた人物であったかを、まず知っておきたいと思います。 Continue reading

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2021 : ダンテ・アリギエーリ没後700年を迎え、ますます人々を夢中にするヴィジョン、永遠の『神曲』

イタリア文学最高峰として、時代を超え、世界中の夥しい数の人々、文学者、哲学者、神学者、芸術家、歴史学者たちが虜となり、礼賛し、研究し続けるダンテ『神曲』。こんな、あまりに大きな不死の作品を、カジュアルに語るなんてとんでもない、と素直に思います。それでもDantedì(ナショナル・ダンテ・デー)の3月25日から、イタリア各地で繰り広げられる数多くのイベントを前に、ネット上のさまざまな講義や、女性の視点で描かれた『Le donne di Dante(ダンテの女たち)』という評論を読んで、それらがあまりに面白く、すっかり『神曲』の宇宙に魅了されてしまいました。そこで、ダンテの無限の宇宙の片鱗を、そこに漂うひとりの読者として、ほんの少し共有できれば、と思います(写真はヴァチカン美術館、署名の間。ラファエッロが描いた群衆の中のダンテ)。 Continue reading

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上院、下院の信任を得て本格始動する、マリオ・ドラギ『大連立新政府』を巡るイタリアン・ラプソディ

前々からデザインしていたのでなければ、いったい何が原因で、政権が危機に陥るほどの造反を起こす必要があったのか、まったく要領を得ないうちに、ジュゼッペ・コンテ政権を形成する政党間交渉は、2月2日に決裂パンデミック緊急事態宣言下、長期にわたる不毛な協議が予想される、政党間のさらなる交渉を待つことなく、セルジォ・マッタレッラ大統領はただちに「大統領権限によるテクニカル政府」の形成を決断しました。首相候補に指名されたのは、量的金融緩和、及びマイナス金利というバズーカを連発して欧州債務危機からユーロを救った、元欧州中央銀行総裁マリオ・ドラギ。前々から「次期大統領」と囁かれていた、イタリアが誇る国際的なビッグネームは、意外とすんなり首相候補を承諾し、約10日間の各党協議ののち、上院・下院議会の信任を得て、ついに『大連立新政府』が発足する運びとなりました。 Continue reading

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2021年に向かって、なおいっそう閉じられたローマの街を照らし、瞬くクリスマスの光、ベツレヘムの星

何が起こったのか、まったく理解できないうちに、未知のウイルスの感染拡大からはじまった2020年も、いよいよ終わりに近づきました。だんだんに景色が色づく春、長期のロックダウンを経たにも関わらず、再び厳しいロックダウンクリスマス・シーズンを迎えたローマの今年は、身体的な移動はきわめて狭い範囲に限られましたが、今まで体験したことのない動揺や現実離れした恐怖、悲しみ、安堵、共感、再び不安、と目まぐるしく気持ちが動いた1年でした。なにより、予測できないあらゆるすべてのことが、世界規模で起こりうる可能性は、実は100%なのだ、という、あたりまえのようでも、驚くべき現実を実感することにもなりました。 Continue reading

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4世紀の忘却から甦り、瞬く間に称賛の的となった、女流画家アルテミジア・ジェンティレスキ

いまや世界中で人気の、バロック初期の女流画家をテーマにした『アルテミジア・ジェンティレスキー戦士の画家』日本語版が、Amazonプライム11月25日から配信されます。その作品を制作したのが知人だったので、事前に見せていただいたのですが、知らなかったエピソードが数多く盛り込まれた、とても興味深い内容のドキュメンタリーでした。尊厳を深く傷つけられ、人々の好奇の目に晒されるスキャンダルを毅然と乗り越え、画家として生き抜いたアルテミジアは、カラヴァッジョ派の中でもひときわダイナミックな、珠玉の作品を多く残している。はるかな時を遡り、ローマのバロック初期を放浪します(タイトル写真はArtemisia Gentileschi, Autoritratto come allegoria della pitturaー絵画の寓意としての自画像, 1638-1639, olio su tela, 98,6×75,2 cm, Kensington Palace, Londra)。 Continue reading

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イタリアの『緊急事態宣言』延長と、945人から600人への議員削減にYESと答えた国民投票

欧州で再び猛威を振るいはじめたCovid-19への不安が高まるなか、9月20日、21日の両日、6つの重要な『州選挙』とともに開催された『国民投票』は、事前の議論がいまひとつ盛り上がらなかったように思います。選挙が行われた州とそうでない州では、投票率に10%から20%の差が出ましたが(たとえばローマがあるラツィオ州では45.68%、シチリア州は35.39%)、それでも最終的には全国で53.84%(コリエレ・デッラ・セーラ紙)と、まずまずの数字となった。その結果、上院議員315人200人へ、下院議員を630人から400人へ削減する、憲法改正の『国民投票』に69.96%の市民が賛成することになりました(写真は1946年、当時の市民たちが希望に満ち、イタリアの国体決定した『国民投票』の様子。女性たちがはじめて有権者となった重要な国民投票でもあり、このときの女性の投票率は89.2%でした。gayposto.itより)。 Continue reading

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