極右政党『同盟』が政府から消えて40日、『グリーン:環境』が主人公となったイタリア

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米国大統領の弾劾捜査に巻き込まれたイタリア

というのも現在、ロシアゲートに続くウクライナ疑惑で告発され、『民主党(米国)』による弾劾訴追に向けた本格審議が進行中のトランプ大統領の側近が、誰も知らない間にこっそりイタリアに接触していたことが明らかになったからです。

具体的には、8月15日9月27日に、米国のウィリアム・バー司法長官らが直々にローマを訪問(New York Times)。「ロシアゲートトランプ大統領を陥れるための国際諜報(欧州各国など)が絡んで企まれた陰謀」とする大統領側の主張を裏づける捜査という名目で、ジョン・ダラム連邦検事とともにコンテ首相に連絡を取り、イタリアの諜報組織の長官を含む幹部たちから情報を得る許可を得ています。

この時、米国司法長官、および連邦検事は、2016年の大統領選挙にロシアが介入したとする(ロシア・ゲート)民主党側の一連の捜査には信頼性がないことを証明する情報支援を、イタリアのインテリジェンスに要請しに訪れたと見られています。

しかしコンテ首相は「インテリジェンスはイタリアの国家財産であり、国家の安全を保障するプロフェッショナルだ。イタリアと他国を分断することなく協調し、国益を守る役割を果たしている」とのみ答え、内容の詳細については言及を避けました。一方、同様に米国から陰謀に関する情報支援を要請されたオーストラリアの首相は、その事実を認めています。

ところで8月15日、といえば、前代未聞の政変真っ盛りの頃です。その時期に、コンテ首相が極秘でバー司法長官と諜報組織の幹部との会談を許可したことで、「新しい過半数により構成されるであろうイタリア新政府における、コンテ首相の連投米国が後押しすることを条件に、インテリジェンスの情報収集に協力する約束を取りつけたのではないか」と疑いを持たれることになったわけです。

前述したように、その会談の直後、トランプ大統領は「コンテ首相を才能溢れる、信頼がおける人物」と賞賛するツイッターに投稿しており、それは確かに、これまでそれほどの親交があったとは思えないコンテ首相への唐突なエールではありました。

ちなみに、そのスペルが「ジゥゼッピ・コンテ(正しくはジゥゼッペ)」となっていたことで、メディアは今でもそのツイートを引用する際は、「ジゥゼッ」と強調して報道しています。一方、その頃暴れていたサルヴィーニは、米国幹部のイタリア訪問をまったく知らず、蚊帳の外だったそうです

私見ではありますが、コンテ首相が、わざわざ飛行機に乗ってローマくんだりまでやってきたバー司法長官らに、邪気のないおもてなしとして、イタリア諜報局との段取りをつけたことで、むしろトランプ大統領は気をきかせて、コンテ首相を賞賛してみせたのではないのか、とも思います。つまり米国にとって、「ミニ・トランプ」サルヴィーニは、それほど大切な切り札ではなかったのでしょう。

ラ・レプッブリカ紙によると、バー司法長官とダラム連邦検事は、主に① クリントン大統領候補のメイルをハッキングしたロシアのインテリジェンスから情報を受け取っていたとされる、2018年から行方が分からなくなっているマルタ出身の教授(Joseph Mifsud)の隠れ場所を突き止めるための捜査協力を要請。②ロシアゲートの一連の捜査は、トランプ大統領を陥れる陰謀であったという証拠収集の協力依頼を目的として、ローマを訪れたのだそうです。

イタリアのインテリジェンスにしてみたら、これらの要請は寝耳に水だったと言います。

 

さらに、この一件はオバマ前大統領時代、マテオ・レンツィ、そしてパオロ・ジェンティローニが首相だったPD政権時代まで遡り、2016年の米国大統領選でトランプ大統領を不利に陥れることを目的に「オバマ元大統領と欧州各国によって企てられていた陰謀」とバー司法長官らが捉えていることを、米紙は報道しています。

また、バー司法長官らが探しているMifsudという人物は、イタリア元首相マッシモ・ダレーマや前防衛大臣エリザベッタ・トレンタが教鞭を振るう「リンク キャンパス」というローマの大学の教授でした。彼は、自身がスパイであることを隠すため、教授として学生たちにセミナーを開いていたそうですが、その内容はスパイ活動に関するもの(!)ばかりだった、という証言もあります。

教授時代のMifsudは、ロンドンとローマを行き来する生活を送っていたらしく、彼がロシアのスパイだったか、それともFBIかCIAのスパイだったか、はたまたイタリアのスパイだったのか詳細は不明で、ひょっとすると、二重スパイだった可能性もあるそうです。

この一連の報道を受け、『5つ星運動』とマテオ・レンツィは、「コンテ首相はインテリジェンス組織の長官をただちに解雇すべき」とし、官邸と諜報の連携があってはならない、と主張していますが、今のところ首相は、長官を解雇しない方針です。

なお、オバマ前大統領一派と共謀して陰謀を企てた、と疑惑を持たれたマテオ・レンツィは、TV番組に出演した際、「オバマ元大統領が、トランプに対して陰謀を企てるなんてありえない」、とオバマ元首相の潔白を主張する運びとなりました。

こうして政変の真っ只中にあった8月のイタリアが、実は米国の弾劾追訴を巡る混乱に巻き込まれていた事実が、今頃明らかになりましたが、そもそもシークレット・サービスの仕事は、その名の通り「シークレット」なわけですから、何が真実で、何がフェイクなのか、日常生活からはまったく検討がつきません。

ただ、東西各国のインテリジェンスが入り乱れ、グラディオの謀略が張り巡らされた戦後から、『鉛の時代』を経た現在まで、米国とイタリアの諜報の絆が強固であることは疑いようもなく、結局のところ国際政治を動かす段取りを整えるのは、あらゆる国籍の、世界中に無数に散らばる、この『見えない人々』なのかもしれない、とうっすらと思うだけです。

したがってコンテ首相がインテリジェンスの長官を庇ったことは、個人的には何の不思議にも思いませんでしたし(互いが友人であったことも含め)、「なるほど、敬虔なカトリックであることを明白にしているコンテ首相は、グラディオに揺さぶられた戦後のイタリアを、徹底して仕切った『キリスト教民主党』的な伝統を踏襲しているのだ」という感想しか持ちませんでした。

そういえば、最近ではマイク・ポンペオ国務長官がローマを訪れ、F35戦闘機90機の購入をイタリアがコンファームしたというニュースが流れていますが、当初、確か7機とか14機というボリュームだったはずの購入予定が、いつの間にか90機にまで増えていて、むしろこちらの商談の方ががあるのでは?と勘ぐった次第です。

当然、「そんな予算があるなら、学校や病院、交通網の整備に使うべき」とその商談の見直しを迫るべく、『5つ星運動』は激しく抗議。反発を受けたコンテ首相は、ポンペオ国務長官との合意を見直すことを、一応は約束しています。

このように、日本にいるとまったく伺い知ることができない、絵空事のような諜報の世界に関する情報が、イタリアで生活するようになってからは、新聞でもTVニュースでも書籍でも、まるで普通のこととして語られるため、信用のおけるリサーチに裏づけられた陰謀だの謀略だののストーリーは、国際社会にとって、それこそ普通のことだとも思うようになった次第です。

いずれにしても、今のところはサルヴィーニが表舞台から消えたことで、誰もがひと息ついているところなので、その安堵感が束の間でないことを祈りながら、たとえインテリジェンスが入り乱れていたとしても、イタリア新政府の未来に希望を抱きたいと思っています。

なにより、新政府が組閣されたとほぼ同時に、暴力的な差別発言や、脅しとも言える投稿を繰り返していた極右グループの複数メンバーのSNSアカウントが凍結されたことは、明るいニュースでした。

オーストリアでは極右政党が大敗し、スペインでは17人のうち11人が女性、という内閣が誕生。ポルトガルでは社会主義を基盤とする中道左派のコスタ首相が続投する勢いを見せている。ハンガリーのブタペスト選挙では、ヴィクトール・オルヴァンが支持を失い、新しい欧州委員会の発足と同時に、欧州極右勢力の膨張が急激に収束しようとしている、という印象を受けます。

このような動きを間近で見ていると、米国のシチュエーションも、意外とコロッと変わるかもしれない、という希望的観測を抱くことをも告白しておきます。

ともあれ、政治のあり方ひとつで、世間の空気が確実に変わることを体感した40日でした。

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