極右政党『同盟』が政府から消えて40日、『グリーン:環境』が主人公となったイタリア

Cultura Deep Roma Eccetera Società

環境が鍵となる新政府『コンテ2』の政策プログラム

2020年度国家予算

ところで、『5つ星運動』と『同盟』による前政府が、欧州委員会の緊縮政策と監視、そして難民政策に大きく反発する欧州懐疑主義を掲げた政府であったにも関わらず、ロシア正教、米国キリスト教原理主義者らで構成される『世界家族会議』と強いつながりを持つ『同盟』サルヴィーニの失脚で誕生した新政府は、前政府からの首相続投でも、明らかに親欧州路線を打ち出しています。

また、あれほどちょくちょくローマに顔を出していた欧州極右勢力のグルと言われる、スティーブ・バノンの話題も、イタリアではパッタリ聞かなくなりました。「いまごろ何処で何をしているのやら?」とぼんやり思っていると、SNS上でこんな動画を見つけ、「チベットに関する事案にまで評論していたとは、なんと神出鬼没な」と驚いた次第です。バノン一派の目標は、突き詰めるなら、やはり欧州とわりあい仲良くやっている中国打倒にあるのかもしれません。

ともあれ新政府『コンテ2』は現在、2020年度の国家予算草案を作成したところです。前政府同様の公約通り、消費増税は回避される見通しのうえ、障害を持つ人々への援助、また緊急な住居問題を解決することを約束。学校、大学、福祉のための予算を増額し、個人消費を刺激しながら、安定した経済発展を目指す、としています。

特に力を入れているのは脱税防止で、現金による支払い上限は2000ユーロとなり(それ以上はクレジットカードか、Bancomat=電子マネー、小切手などで)、電気、ガスの支払いも電子マネーで、ということになりそうです。

イタリアの現在の経済状況は、といえば、親欧州の政府樹立が好感されたことで、国債スプレッドは降下していますが(それでも欧州諸国の中では利率が高いため、投資するならイタリア国債、と言われます)、赤字国債はどうにも止まらない右肩上がりの史上最高値、2兆4100億ユーロ(2019年、7月31日時点)となっていて、予断を許さない状況です。さらに2019年の成長率は0%という試算となっており、イタリア経団連(Confindutria)が警鐘を鳴らしています。

イタリアの赤字国債は2019年にGDPの132.8%となり、市場最高値を更新した。グラフはBusiness Insider Italia(it.businessinsider.com)より。

また、来年度予算案のGDP比財政赤字目標(deficit) は、予定より低い2.2%に想定されることになっています。2ヶ月前には『同盟』主導の前政府が、確実に欧州連合から拒絶される3.4%を提示していましたから、いくつかの海外経済紙が「2.2%ではあっても、イタリアの予算案に対する経済欧州連合の反応に要注意」と報道しても、これほどセーブされた数字のどの部分を根拠に要注意なのか、判然とはしませんでした。

もちろん赤字国債だけではなく、米国の対欧州関税の一件もあるし、イタリアの恒常的な経済安定への道のりは、なかなか厳しそうではあります。それでも欧州懐疑主義を前面に打ち出して、やれ『独立』だ、やれ『脱ユーロ』だ、と常時攻撃体制のマテオ・サルヴィーニの声が聞こえてこないだけで、前途が明るいように感じるのは不思議です。

さて、本題の『コンテ2』のプログラムですが、『5つ星運動』のフラッグシップ政策である『上院下院議員350人の削減※』を含め、29項目で表現されています(イル・ファット・クォティディアーノ紙)。

※10月8日に、下院における最後の投票で、上院議員315人→200人、下院議員630人→400人に削減する法案が、553の賛成を得て、ほぼ満場一致で遂に決定されました。これで議員345人の削減の法律化が決定し、次期上院下院の解散から実行されることになります。

ただ、前回の上院での決議で、絶対過半数に達していないため、今後3ヶ月、法律がデザインされる間に、確認をとる国民投票が要求される可能性があります。その場合、上院、下院いずれかの5分の1の議員の署名か有権者5万人の署名、あるいは5人の州相談役の要請が必要になりますが、国民投票が行われるとすれば、来年の5月か6月に行われることになるそうです。

そこで法律が承認されたなら、60日を経たのち、法律の施行が可能になります。また、この法律の実現のために、今年中に上院下院議会での大統領選出法、そして総選挙に関する法律も改訂される予定です。ちなみにマテオ・サルヴィーニは選挙によって第1党となった政党が、無条件に政権を握るという法律の承認のために国民投票を行うことを要求する署名活動をしています。

プログラムは、来年度に刷新される欧州委員会と調和する、新しい経済社会政策を実行。経済格差を是正し、環境保護を強化する欧州委員会のイノヴェーションにおいて、イタリアが主人公(野心的!)に躍り出ることを謳っています。また、安定的ではあっても成長を軽視している欧州の頑固な経済緊縮姿勢を「イタリアが修正してみせる」という意気込みを語り、市民に寄り添う持続的な欧州が必要だと訴えてもいます。

欧州各国の全人口比による各議員の人数比較(人口の単位は100万)。イタリアは、削減された場合の人数が表記されています。345人の議員が削減されると、10年で節約できるのは10億ユーロになりますが、米国からF35戦闘機を購入すると130〜180億ユーロの支出となるそうです。

環境問題

この『コンテ2』のプログラムで最も印象的なのは、『環境問題』と『経済産業』との共生を強く打ち出していることでしょうか。

国連でのスピーチが世界中で話題になった16歳の環境活動家、グレタ・トゥーンベリが巻き起こした#Fridayforfuture旋風は、5月の欧州総選挙で、そもそも環境問題には敏感だった欧州各国で『緑の党』を躍進させました。

そしてイタリアにおいては、発足以来、『環境問題』に積極的に取り組んできた『5つ星運動』だけではなく、『民主党』もグリーン・ニューディール、グリーン・エコノミーを打ち出すなど、ここにきて『地球温暖化』『環境問題』について語られない日はないほどになりました。

また、世界各地で繰り広げられた9月27日の#Fridayforfutureの子供たちの学校ストライキには、イタリア全国で、なんと100万人(!)が参加したのだそうです。

このように、子供たちが自分たちの未来を見据え、自ら『ストライキ』という政治行動をはじめたことで、途端に活発になった議論が、選挙権を16歳にまで引き下げようという動きです。この『選挙権16歳案』は、もともとベッペ・グリッロが2017年にブログで提案したもので、現在では多くの政治家たちの賛同を集めているといいます。

16歳、というと高校生までが選挙に参加することになり、ちょっと幼すぎるのでは?との意見も、もちろんありますが、グレタ・トゥーンベリのような、世界じゅうの子供たちに強い共感を呼び起こし、国連の環境サミットにまで招聘される女の子が現れた(活動をはじめたときの彼女は15歳だったわけですし)事実を思うなら、16歳の子供たちが自らの未来を守るために、政治を考えることは至って自然なのかもしれない、と思います。今のところはまだ議論の段階であっても、わたし個人としては、16歳参政権実現を楽しみにしている次第です。

実際、地球温暖化は、どこの国にいても、年々体感できるレベルにまで差し迫っています。大人たちも子供たちと一緒に、自然の巡りと経済循環の共生、そしてそのためのテクノロジーの開発を真剣に考える時代に突入したのだと思います。

グレタがローマを訪れての#FridayForFuture学校ストライキでは、子供たちの熱気でふらふらになりました。頑張れ、子供たち!

その環境プログラムでは、●イタリアの産業は成長、生産性において現在鈍化の傾向にはあるが、Agenda2030(人々、そして地球のために持続可能な発展を提案するプログラムで、2015年、国連加盟国193カ国により決議されたアジェンダ)に即した産業発展においては、強いポテンシャリティを持っている。

さらにイタリアは、マスプロダクトだけではなく、パーソナルなプロダクト(職人、デザイン、手工業)を多く有しており、(多様な)市場の要求に応えることができる。現在の産業システムにおいては、何より環境問題を優先し、質の高い仕事を創出するために(働く人々の)グリーンな環境を整備する。また、デジタル、ロボット、AIによる『第4産業革命』にトライし、最高の経済循環を実現する、などが表明されています。

●現行の建築システムに、今までの文化範例には見られないラディカルな環境保護生物多様性保護(生態系保護)を組み込むグリーン・ニューディールを目指す。公共予算で建設される建造物の中核環境保護を置き、急進的にイノヴェートされた素材を使用しながら、生物多様性、海洋を守り、気候変動に対応する。

企業もまた、社会的責任として奨励された基準を遵守し、エコ・イノヴェーションに適応する。エコロジカルな技術革新と最新技術の研究により、ゴミ文化からリサイクル文化へと移行しながら、全生産システムにおける経済循環を促していく、とも明記されています。

したがって、今後のイタリアは、いわゆる産業革命以来、CO2を撒き散らしてきた古いスタイルの経済循環から、環境を中心とした新しい経済循環を目指すというわけです。

これらすべてが、プログラム通りに実現されれば、未来の展望はかなり明るいはず。また、新しい欧州委員会は、EU内『環境問題』の整備10兆ユーロの投資を予定しているそうです。

もちろんプログラムは、環境問題だけではなく、●所得税減税、最低賃金の設定、フリーランスの専門職の保護、職場の安全性管理、男女雇用平等、女性企業家への支援、妊娠休暇の確保、女性社会保障機関のイノベーションなど、仕事に関する内容や、●若い世代に、人間的、社会的、文化的、専門的な成長を促すために投資し、低所得の家族、若者への福祉を充実させる。●社会的、地域的、性別に関わる不平等を是正し、人権保護を目指すと同時に、子供たちの権利を保証。さらには●大学システムのみならず、AFAM(アート、音楽)教育への投資にも積極的です。

加えて、●欧州連合、国連との連携により、新しいグローバルバランスを推進することを約束。欧州連合内でアフリカ大陸への投資を促す政治を行い、海外に在住しているイタリア人の安全をも保証。●市民生活を脅かす武器輸出入を禁止(この項に関しては、先に米国と合意した電子銃の輸入、さらに、F35戦闘機購入についての決定が気になるところです)。マフィアの根絶。

水、医療サービスなど公共財産の保護。●メディアの独立性と情報の多様性の保証。●南北イタリアの格差是正 ●イタリア国内の農業において、地域の特産物を保護し、発展を促す。●メイド・イン・イタリーを世界にプロモートしていく、などの項目が並んでいます。

サルヴィーニ内務大臣時代の暴力的な『国家安全保障』や『ピロン法案』など、中世に逆戻りした魔女狩りのような差別主義的価値観を抱合したプログラムと比較すると、夢のように進歩的に感じます。当然のごとく、メディアやSNSでは、さまざまな批判や疑念を訴える意見も聞こえてきますが、それはあらゆる政府がぶつかる試練でもありましょう。まずはひとつひとつ確実に実現していただきたい所存です。

▶︎難民の人々を巡る新政府の動きは次へ

RSSの登録はこちらから