極右政党『同盟』が政府から消えて40日、『グリーン:環境』が主人公となったイタリア

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夏真っ盛りの政治混乱で、(元)内務大臣マテオ・サルヴィーニ率いる極右政党『同盟』が、あれよあれよという間にオウンゴール。政権から放り出される、まさか!の展開となって40日が過ぎ去りました。8月初旬の時点では、こんなにドラスティックな展開で『5つ星運動』と『民主党』の連立が実現する、とは夢にも思っていなかったので、かなり緩んだ気持ちで秋を迎えることができたというのが本音です。もちろん油断は常に禁物ですが、サルヴィーニが内務大臣だった14ヶ月、世間に膨張しつつあった、攻撃的で非人間的な険悪ムードもずいぶんやわらいだように感じています。

政府が変わると共に、緩やかに変わりつつある風向き

米軍撤退を表明したトランプ大統領のツイートから、突然開始されたトルコの北シリア侵攻をはじめ、イエメン、イラク、パレスティナと、日々緊張が高まる中東情勢香港の激動、トランプ大統領の弾劾騒動ブレグジットの混乱、コンゴ、南スーダン、リビアなど、アフリカ大陸の国々での終わらない紛争や旱魃、飢饉、さらにはどこの国にいても体感する地球規模の気候変動と、世界中に不安が渦巻き、われわれの日常を取り囲んでいます。

「このままどうなってしまうんだろう」と自分というミクロのレベルでも、世界というマクロのレベルでも、どんより希望のない、諦めに似た気持ちと闘いながらの毎日でもあるかもしれません。

正直にいうなら、つい2ヶ月前のイタリアは、自分自身と世界を巡る不安恐れを増幅させる、切羽詰まった空気に覆われ、暗澹とした気持ちに囚われることが何度もありました。

ところが、ちょっとした思い上がりからはじまった『サルヴィーニの乱』が失敗に終わるとともに、あれ?というスピードで、社会が冷静さを取り戻したように思います。もちろん、自分レベルでも、世界レベルでも、あらゆるすべての問題は何ひとつ解決してはいませんが、とりあえずはいったん平常心を取り戻し、状況を俯瞰する余裕が持てる、落ち着いた空気が流れはじめたところです。

なによりまず、息をつかせぬ勢いとインパクトで、難民の人々や貧窮した人々、ロムの人々を、暴力的に社会から排斥。「見せしめ」にしようとしたサルヴィーニ元内務大臣の、人々の負の感情を掻き立てる扇情的な政策や言論、行動に関するメディア報道が、ほとんど見られなくなったことが、現在のイタリアの社会を覆う落ち着きの、大きな要因だと思います。

この14ヶ月というもの、サルヴィーニの弱者、およびマイノリティの人々への攻撃と、欧州連合を『敵』に回し、ユーロを破綻させようとでもするかのような怪しい経済政策の連発に、人々はヒステリックに苛立ち、まっぷたつに分裂。敵対しながらの、差別的な侮辱の応酬と終わらない諍いが、現実にも、ネット上にも蔓延していました。それがたったの40日の間に、あまり気にならない程度になった。

とはいえ、難民の人々を含む外国人や女性、LGBTの人々への差別が完全に消失したわけではなく、ことあるごとにざわざわと、あちらからもこちらからも湧き出てきます。

それでも率先して差別発言を繰り返し、「肉体的にも、精神的にも憔悴した難民の人々を乗せた船を、地中海に何十日も漂わせたまま着港を拒絶する」などという非常識極まりない、非人間的なサルヴィーニ・ニュース繰り返し流れなくなってからは、怒りに震えて燃え盛るアンチファ抗議運動もいくらか下火になりました。そして難民の人々や貧窮者を支援するNGOやカトリック関係のボランティア運動、さらにはフェミニズム・ムーブメントが、いつも通りに淡々と確実に継続されているという状況です。

実際のところ、サルヴィーニの『同盟』に代わって、『民主党』『自由と平等(LeU)』『ITALIA VIVA(マテオ・レンツィが立ち上げた新党)』という過半数が政府を引き継ぎ、閣僚の顔ぶれが変わったとしても、ジュゼッペ・コンテ首相『5つ星運動』前政府そのままの構成ですから、政府自体がラディカルに変わった、とは言えません。むしろ、根本では、いまだ大きな変化はないのかもしれません(のところは、前政府が可決した法律、政策をそのまま踏襲していますし)。

ただ、サルヴィーニというたったひとりの人間の、『大臣』という社会的な影響力を剥奪することで、こんなに世間の空気が変わるものなのだ、しかもこんなに短期間の間に!と驚いた次第です。

現代では、不満を抱えて生きるわれわれのこころの隙間に入り込む、ネットを駆使してがっつりマーケティングしたキャラの強い人物像が演出され、SNSで(マス・メディアも含め)無限に拡散されるため、ネットをふらふら放浪する際も、かなりの注意が必要だということをも思い知りました。

ショッキングな画像や映像、さらにフェイクニュースで恐怖を煽りながら、歴史的変革のための団結と闘争!という物語を繰り返し聴くうちに、その理想に同調するにしても、反発するにしても、意外と簡単に社会は理性を失います。

また、言うまでもなく、今回のイタリアの新政府は、総選挙で組閣されたものではなく、短期間で新しい過半数が模索され、セルジォ・マッタレッラ大統領が提示した期限ギリギリで連立に成功したわけですから、「国民の意志が反映されていない」という批判が、極右勢力からも左派勢力からも聞かれることは事実です。

しかし多くの市民が、ファシズムの危険な熱狂と最強感幻想のノスタルジーにサルヴィーニを重ね、陶酔状態に陥っているこんな状態で、総選挙を行うことはイタリアにとっても、欧州にとっても、きわめて危険なことでした。

さらに前項にも書いたように、右派政党、左派政党ともに、支持率の浮き沈みが激しいイタリアのような国では、毎年毎月、支持率が大幅に変化するため、その支持率の変化に合わせて総選挙を行なうのであれば、政治が安定する間がありません。事実、8月初旬の時点では40%に届こうとしていた『同盟』の支持率は、新政府樹立とともにじわじわと下降し、現在では33.2%(『5つ星』が18.6%,『民主党』が19.4% : 10月14日:TG7)となっています。

それでもやはり『同盟』が他の政党に比べてずば抜けた支持を集める政党には違いなく、相変わらずサルヴィーニは地方を遊説したり、大規模政治集会を計画したり、と支持者獲得に余念がありませんから、ここはひとつ、『5つ星』も『民主党』も「サルヴィーニ・ノーリターン」を旨に、誠実に政治に邁進していただきたい、と願う所存です。

サルヴィーニが表舞台から消えて、街で見かける光景も、のどかで平和になったように感じます。

さて、9月4日に発足した新政府『コンテ2』は、40日しか経っていないのに、『民主党』内で分裂が起こったり(元書記長で今回の新政府誕生劇のプロモーターのひとりでもあるマテオ・レンツィが新しい党を立ち上げ)、『5つ星』内で激しい葛藤が生まれたり、と相変わらずイタリアらしく喧しい状況です。

しかしながら、『同盟』と『5つ星』契約政府ではドラマティックに繰り広げられた双方の脅しあいや罵りあいもなく、ちょっと心配なマテオ・レンツィの新党を除いては、『5つ星』、『民主党』ともに、安定した政府を維持する姿勢に異存はないように見受けられます。

特筆すべきは、前政府から首相を継続するジュゼッペ・コンテ首相の存在感と重要度に、目を見張る変化があったことでしょうか。その決断力と外交力は、同じ人物とは思えないほどの様変わりでもあります。

確かにサルヴィーニ内務大臣は、まるで自分が首相であるかのごとく、あらゆる案件に口を挟んで騒ぎたて、悉く意見を押し通そうとしていたので、仲介役に徹したコンテ首相の影が薄くなってはいましたが、それにしても『コンテ2』の首相は、まるで別人のようにパワー・アップしています。

そして8月の政変時、トランプ大統領が「欧州のミニ・トランプ」の誉れ高いサルヴィーニをまったく無視し、コンテ首相を手放しで褒めあげたことで、なんらかの潮目が変わったのでは?と不自然な気持ちになりましたが、ここにきて、「なるほど。そういうことがあったのか」と、その力関係大転換の理由が見え隠れしたようにも感じています。

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