上院、下院の信任を得て本格始動する、マリオ・ドラギ『大連立新政府』を巡るイタリアン・ラプソディ

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油断できないふたりのマテオ

今回の造反劇からはじまった政権交代で、最も納得いかなかったことは、といえば、マリオ・ドラギ元総裁が大統領の指名を承諾し、首相候補として各政党と協議をはじめるや否や、「今回の政権交代劇はマテオ・レンツィの政治策略の最高傑作」として、その評価を180度転換するメディアが出現したことでしょうか。

1週間前までは「無責任極まりない。エゴイスト!」と厳しく批判していたにも関わらず、まるで記憶喪失にでもかかったかのように、「ドラギ祭り」に浮かれる、その節操のなさは、「正常の判断力を失ったか」とも思えるほどでした。

「レンツィこそ真の政治家」「終わりよければすべてよし」「レンツィこそがデミウルゴス(創造主)」「ベッティーノ・クラクシー的政治力」「フリオ・イグレシアス(?)」と賞賛の言葉が並び、なぜレンツィ元首相がこれほどまでに賞賛されるのか、これもまた、ドラギマジックか、と理解に苦しみます。

ただし、内閣リストが決まってからは、コンテ元首相の絶大なる人気が明白となったうえ、さいわい『イタリア・ヴィーヴァ』が重要なポジションが得られなかったこともあり、そのうち「街のなんでも屋」的な評価に、なんとなく落ち着いたことに、ホッとしたところです。

思い起こせば『イタリア・ヴィーヴァ』の造反が起こった頃のことでした。レンツィ元首相の策略で首相の座を奪われたエンリコ・レッタ元首相が、「レンツィは『フォルツァ・イタリア』はもちろん、極右勢力である『同盟』、『イタリアの同胞』を政治的にミックスして、カオスの創出を企てているのだと思う。しかしそれはイタリアにとって非常に危険だ」と、トークショーで分析していた内容が、ずっと頭に残っています。

そのときは、コンテ第2政権は再交渉ののち継続する、という前提だったため意味が掴めなかったのですが、新政権が樹立して、過半数に加わらなかった『イタリアの同胞』は別として、『フォルツァ・イタリア』のみならず、まさかの『同盟』の過半数入りに、レッタ元首相が言っていたことは、「これだったのか」とハッとした次第です。

まだ明確な時期は明らかになっていませんが、マリオ・ドラギ新政権は、これから約1年間(2年間?)継続すると見られています。というのも2022年に『大統領選挙』を控えており、マリオ・ドラギ首相が次期大統領最有力候補と見られているからです。ということは、大連立は解消され、『総選挙』が前倒しとなる可能性があるわけですから、現在の各政党からときどき巻き起こる自己主張は、その『総選挙』に向けた下慣らしキャンペーン、というところなのだと考えます。

これも少し前の報道ですが、レンツィ元首相は、政権クライシスを起こす前から『フォルツァ・イタリア』『同盟』と交渉済みだったといいます。つまり、ジュゼッペ・コンテ政権の乗っ取りに失敗した場合のプランBとして、大統領権限によるテクニカル政府を念頭に置き、イタリアの伝統的右派、左派の枠組みを壊そうと動いた、とも考えられるのです。

いずれにしても、パンデミック緊急事態であるにも関わらず、さもイタリアを想っての、「やむにやまれぬ造反だった。あの、頼りない政権には任せておけなかった。ドラギ新首相がベストだ」という発言は、まったくの後講釈詭弁にすぎず、レンツィ元首相の野心は、マリオ・ドラギ政権以後に焦点が向いているはずですから、注意するにこしたことはありません。

支持率3%のうえ、市民の信頼を失った『イタリアヴィーヴァ』は、『総選挙』となれば水泡に帰すことになるはずですが、『フォルツァ・イタリア』、もはや極右とは言えない『同盟』と、荒唐無稽な連帯が起こりうることも、勘定に入れておくべきだと思います。

 

「※Factotum della cittàー「街のなんでも屋」という評価に、『セビリアの理髪師』からLargo di Factotumをオマージュとして。

 

他方、もうひとりマテオである、『同盟』のマテオ・サルヴィーニ元内務大臣を見ていると、「政治家は二枚舌で厚顔無恥でないと務まらないのかもしれない」という極論に達しそうになります。

移民排斥主義、女性差別主義、トランピストでアンチ欧州主義者だったマテオ・サルヴィーニが、たったの一晩で、突然「国の一大事であるからして、個人的な思想や政党の方針を超越し、新政府を支持する。目的は、イタリアの欧州連合における多大な影響力」と、ケロリと大連立参加を表明したときは、「驚く」というよりはドラギ新首相が気の毒になりました。

かつて、生命をかけて旅をしてきた難民の人々を乗せた船を着港させないために、イタリア全土の港を閉ざし、市民を激怒させた、残酷非道なサルヴィーニ元内務大臣は、難民の人々に関しては欧州基準に準ずる、と急に物分かりのいい人物に変身し、ここ数日に辿りついた難民の人々の受け入れにも沈黙を貫いています。

難民の人々についてはドラギ首相もまた、「欧州基準に準ずる対応をする」と発言し、あまり活発な受け入れを表明していませんが、昨日までアンチユーロにこだわっていたサルヴィーニ元内務大臣には、「ユーロが崩壊することはありえない」と、ぐっさり釘を刺しました。

いずれにしても、ロシア正教会や米国福音派とともに中絶反対キャンペーンを繰り広げ、女性やLGBTQの人々を徹底的に差別する『世界家族会議』を、ホストとしてイタリアに招いた一件や、ロシアのエネルギー企業からの不正政治資金疑惑も、今のところ、まだ何ひとつクリアになっていないのですから、サルヴィーニ元内務大臣の変身を、盲目的には信用しないほうが良さそうです。

ただし強調すべきことは、『同盟』が極端に右傾化したのは、サルヴィーニが書記長となってからであり、その前身の『北部同盟』は、イタリア北部、パダーナ平野の裕福な企業の権益を守るため、イタリア共和国から離れての自治を目指した「独立主義」の政党だったということです。

つまり、今までサルヴィーニ書記長が、極右勢力との交流を自身のプロパガンダに利用していたとしても、政党としての支持基盤は、北部企業、経済ロビーが主流ですから、リカバリー・プランを巡って、支持層から政権入りの強い要望があったと考えるのが、最も理にかなっています。今回、Mise(経済発展産業省)の大臣に選出されたジャンカルロ・ジョルジェッティは、その政治思想を無視するなら、『同盟』の支持基盤と強い絆を持つ、経済政策に長けた優秀な人物です。

ところで、『同盟』が過半数参加を表明したと同時に『イタリア民主党』『LeU』からはどよめきが起こり、『同盟』が入るなら、左派は過半数に加わらず、外部からの政権参加(Appoggio Esterno)にするべきだ、という意見まで巻き起こりました。上院議会ではさっそく『5つ星運動』『イタリア民主党』『LeU』左派3党が、インターグループを形成し、『同盟』からの攻撃に備えています。

また、コンテ前首相、『5つ星運動』の創設者であるベッペ・グリッロは、ドラギ新首相と協議の際、「サルヴィーニは危険人物。気をつけるべき。『同盟』に何らかの大臣を任せるならサルヴィーニ以外の人物を」と助言したとされます。

 

※オペラでオマージュ、と言えば、こちらは『ファウスト』、というところでしょうか。

 

そういうわけで、政治的には非常に難しい『大連立政府』を形成したドラギ新首相の前途は、予想以上に多難であり、楽観は禁物です。

あらゆる政治的混乱に巻き込まれることなく、ドラギ新首相の思惑通りに、すべての政党が一致団結。イタリアの未来に向けて提案された政策がプラグマティックに進むことを期待したいと思います。

 

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