上院、下院の信任を得て本格始動する、マリオ・ドラギ『大連立新政府』を巡るイタリアン・ラプソディ

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前々からデザインしていたのでなければ、いったい何が原因で、政権が危機に陥るほどの造反を起こす必要があったのか、まったく要領を得ないうちに、ジュゼッペ・コンテ政権を形成する政党間交渉は、2月2日に決裂パンデミック緊急事態宣言下、長期にわたる不毛な協議が予想される、政党間のさらなる交渉を待つことなく、セルジォ・マッタレッラ大統領はただちに「大統領権限によるテクニカル政府」の形成を決断しました。首相候補に指名されたのは、量的金融緩和、及びマイナス金利というバズーカを連発して欧州債務危機からユーロを救った、元欧州中央銀行総裁マリオ・ドラギ。前々から「次期大統領」と囁かれていた、イタリアが誇る国際的なビッグネームは、意外とすんなり首相候補を承諾し、約10日間の各党協議ののち、上院・下院議会の信任を得て、ついに『大連立新政府』が発足する運びとなりました。

まずわたし個人は、どうにも収拾がつかない政治混乱、あるいは経済危機の際、『総選挙』を行うことなく、大統領権限の『テクニカル政府』が形成されるような事態を、民主主義においては「好ましくない」と考えています。

しかし、終わりが見えないパンデミックの渦中にある今、イタリアのRt(実効再生産数)は、0.99(2月19日時点)と再び上昇しつつあり、新しい感染者の5人1人英国型変異株に感染していることが発覚する心配な状況です。

さらなるロックダウンが検討される現在、人々が群れ集まるキャンペーンが繰り広げられるであろう『総選挙』実施は、市民を危険に晒すリスクが大きすぎる、とのマッタレッラ大統領の英断でした。

ところで、大統領が「テクニカル政府」の形成を発表をした当初は、ハイプロフィールの、各分野のスペシャリストで内閣が構成される「スーパー政府」、ということでしたが、マリオ・ドラギ新首相(当時は候補)が、右派、左派の各政党と2ラウンド協議を行ったのち、結局、政治家と各分野のスペシャリストをミックスした「ポリティカルーテクニカル政府」が発足することになりました。

しかしこう言ってはなんですが、多少そわそわしながら待っていた、この「緊急事態宣言下」における「最高の政府」閣僚リストが発表された途端、「え? スーパー?」と肩透かしを喰らったことを、とりあえず正直に述べておかねばなりますまい。

というのも、「過半数さえ確保すれば、コンテ政権でよかったんじゃないのか」とも思える、前政権から引き継がれた閣僚9人に加え、右派から選出された閣僚は、もはや過去の人々としてすっかり忘れていた、ノスタルジックな名前がずらっと並んでいたからです。

コンテ政権からそのまま引き継がれた人選については、上院議会において信任を問う、ドラギ新首相としてはじめての政策スピーチの冒頭、「今まで経験したことがないような医療、経済の緊急事におけるジュゼッペ・コンテ前首相の対応に感謝する」と発言し、その後、長々と続くスタンディングオベーションがありました。これはドラギ新首相が、コンテ政権が進めた市民に寄り添う政策引き継いでいく、と宣言し、かつての過半数がその方針に賛同した、と言うことでしょう。

さらにドラギ新首相は「この政府は、イタリアの政治システムの崩壊により形成されたと言われるが、わたしはそうは考えていない。誰もが自らのアイデンティティからは一歩も退かず、偏見やライバル意識なく団結して、家族企業の日常の問題に寄り添い、彼らが国に求めることに応えるために協力する新しい、異例の枠組みなのだ」とも述べました。

なお、今回の新政府は『イタリア民主党』『5つ星運動』『LeU(自由と平等)』、件のマテオ・レンツィ元首相の『イタリア・ヴィーヴァ』に加え、欧州主義中道右派である『フォルツァ・イタリア』、そしてまさかの(元)極右、分離主義、排斥主義、反欧州主義政党である「イタリア・ファースト」の『同盟』が、政権支持に賛意(!)を示し、極右政党『イタリアの同胞』以外、すべての政党で与党が形成されています。

もともとドラギ新首相は、すべての政党が参加する『大連立政府』をイメージしていたようですが、『イタリアの同胞』は、新首相に敬意を払いながらも、あらゆる説得を受け入れず、野党に回りました。これはイデオロギー的信念というよりは、じわじわ支持を伸ばし、ついに『5つ星運動』を超えて16%に達した『イタリアの同胞』が、(元)極右政党『同盟』の、突然「欧州主義」への大変身に愛想をつかした有権者の票を、野党として一気に取り込む作戦と思われます。

さて、具体的な内閣の構成は、23人の大臣のうち(首相、首相補佐官をのぞいて)、政治家による大臣は15人ハイ・プロフィールの各分野のスペシャリストによる大臣は8人で、『5つ星運動』から4大臣、『イタリア民主党』から3大臣、『LeU』から1大臣、『イタリア・ヴィーヴァ』から1大臣、『フォルツァ・イタリア』から3大臣、『同盟』から3大臣(!)が選出されています。

ただ、この組閣でただちに大きな議論となったのは、女性大臣がたったの8人しか選出されなかったことでしょう。しかも以前から、ジェンダーの平等を強く推進してきた『イタリア民主党』から、ひとりも女性大臣が誕生しなかったことは、党内からも、支持者たちからも、大きな反発が生まれています。

さらにベルルスコーニ元首相の『フォルツァ・イタリア』からは、かつて何度も大臣を経験している古株の議員たちが大臣として選出されましたから、「フレッシュに刷新!」という気持ちはまったく起こらず、そのいまさら感にずいぶん戸惑った、というのが率直なところです。

 

イタリアの政権交替は非常に儀式的で、大統領府での各政党の協議、代表のスピーチを含めて、その行程がすべてTVで生中継されます。かつて1度だけ、一般公開された大統領府ークイリナーレを訪れましたが、王宮だけあって、びっしりと施されたバロック装飾は見事。またナポレオンの妹が住んでいたこともあるそうで、ロココ調の広間もありました。TVで協議のプロセスを追いながら、大統領の執務室から出てくる政党代表者たちを待つ、シーンとした様子を撮影してみました。

 

いずれにしても1990年代、多くの国有企業をダイナミックに民営化してイタリアの国債を救い(と同時に、イタリアを牽引していた国有企業を細分化し、弱小化させたとの批判もありますが)、2000年代にイタリア中央銀行総裁を務めたマリオ・ドラギ新首相は、ベルルスコーニ元首相とはそもそも長い付き合いですし、最大過半数を得るためにも、多少の便宜を図ったのではないか、と推察する次第です。

なお、内閣の人選でちょっと驚いたのは、Mise(経済発展産業省)、観光省(Turismo)と、イタリアの経済にとって非常に重要な行政機関の、前者を『同盟』のNo.2であるジャンカルロ・ジョルジェッティ、後者を同じく『同盟』のマッシモ・ガラバリアに委ねたことでしょうか。そもそも大連立入りを党首マテオ・サルヴィーニに説得したのは、『同盟』のなかで最も欧州主義的経済観を持つジョルジェッティと言われています。

そんな閣僚の顔ぶれを改めて眺めると、各政党から選出した大臣のバランスが取れているようでも、北部出身の人物に偏り(25人中18人が北部出身者)、さらに北部の右派政党に予算が多く組まれる重要なポジションが占められているように思います。

その発言に共感することも多く、わりと好きな女性議員ではありますが、北部政党『フォルツァ・イタリア』のマラ・カルファーニャ(サレルノ出身ということで)が、イタリア南部大臣として選出されたことも、意外に思いました。

とはいえ、デジタル省(ヴィットリオ・コラーオ:元Vodafone総帥)や、エコロジー変遷省(ロベルト・チンゴラーニ:最も未来的思考を持つと言われる物理学者)、財務省(ダニエレ・フランコ:イタリア中央銀行司法省(マルタ・カルタービア:元最高裁判所長官)、インフラストラクチャー省(エンリコ・ジョヴァンニーニ:トッレ・ヴェルガータ大学統計学教授)、教育省(パトリッツィオ・ビアンキ:経済学者)、大学及び研究機関省(クリスティーナ・メッサ:研究機関幹部)などのポジションは、ハイプロフィールのスペシャリストが占める、(コンセプトとしては)右も左もない「ポリティカルーテクニカル大連立政府」です。

したがって、あまり疑問を抱かずに、イタリアの再生を願いながら、今後の成り行きを見守る以外にありません。

なお、保健省、内務省、文化省は、コンテ第2政権を担った閣僚がそのまま継続することになり、多少安心していたところ、例のごとく『同盟』のマテオ・サルヴィーニが、さっそく声高に保健大臣、内務大臣、感染症対策タスクフォースを声高批判しはじめ、うんざりもしました。自身の存在を印象づける、いつもの政治プロパガンダとはいえ、野党ならともかく、自らが過半数を形成する政府の内閣攻撃するとは、先が思いやられます。

ところで、今から76年前第二次世界大戦後、再興を賭け、イタリアでは『イタリア共産党』を含む、すべての政党が参加する『連立大政府』が形成されています。その政府が崩壊し、与党、野党が誕生。二院制議会となったのは、米国のマーシャル・プランが発表された1948年のことです。

そのような歴史から、医療、経済、社会を危機に陥れる現在のパンデミックの災禍を戦争と捉え、ドラギ新政府を、戦後同様の『大連立政府』と見なし、欧州連合がイタリアに拠出する2090億ユーロのリカバリー・プランを、米国から拠出されたマーシャル・プランと例えられることが多くあります。

実際、上院、下院議会における信任投票の際、ドラギ新首相は現在の状況を戦争と捉え、未来と若者たちを見据えるスピーチをしました。その、リカバリー・プラン(next generation UE)に基づく政策の概要(順不同)は、

●連立大政府は、「欧州主義」及び「北大西洋条約」に基づく。●31%から45%へ、急激に増えた生活に困窮する人々(自営業、若者、女性)への支援。●ワクチンの早急で効果的な供給に全力を尽くす。●学校が閉鎖され、子供たちの学習期間が削られたことから、それを取り戻すために学期期間を編成しなおす。学校、大学システム、研究機関への投資。●逼迫した状況にある人々、喫緊の支援が必要な分野の産業を重点的に支援し、格差是正する。●イタリア南部地方、特に女性への支援。●「環境」イノベーションに関しては、フランシスコ教皇の言葉「自然災害は、われわれ人間が今まで行ってきたことへの、自然からの応え」という言葉を引用。●地域の医療システム改革。●報酬におけるジェンダーの平等。●戦争と同様の被害を受けているパンデミックから、われわれの未来世代を保証するイノベーション。●イタリアのアイデンティティである文化保護。●民事法改革。●税法(減税)改革。●収賄・脱税の摘発。●マフィア組織の監視。●リカバリー・プランは財務省管理(ブルー部分は、議員の質問への回答)、

などでした。

青年期、イエズス会の学校で教育を受けたドラギ新首相の、この、53分間という長いスピーチで感じた印象は、キリスト教社会主義的であると同時に、「フライデー・フォー・フューチャー」の若者たちの主張をも彷彿とする政策内容、というものでした。あるいはリベラル社会主義、と定義する人物も存在します。

「われわれが子供たちに残さなければならないのは、よい貨幣だけではなく、よい地球なのだ」「一致団結はオプションではなく、義務だ。イタリアへので一丸となろう」、と思いのほかヒューマンな言葉でスピーチを締めくくった、この国際的カリスマのもと、ワクチンの供給(今のところイタリアは、欧州で最も多くの人々に2回のワクチン接種を達成しています)が迅速に行われ、人々の仕事の確保、安全な学校の再開が、一刻も早く確実になることを願います。

と同時に、この『大政府』の閣僚配分から、イタリアの今後の政治地図が大きく変わる可能性があることは、念頭に置いたほうが良さそうです。

▶︎80%の支持を受けたドラギ新首相と、123万のナイス!がついたコンテ前首相の投稿

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