Covid-19 との共存:ニューノーマルな毎日がはじまったイタリアの第2.2フェーズ

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中国から世界へ、なぜここまで感染が広がったのか、はじまった各メディアのリサーチ

ここ1、2週間のことですが、レスプレッソ紙、ラ・レプッブリカ紙、コリエレ・デッラ・セーラ紙『データ・ルーム』、国営放送Rai3の人気番組『Report』などの主要各メディアは、今までに分かっている情報を総合し、WHO中国の今までの動きと対応を、辛辣に批判する報道をはじめました。

なぜイタリアで、そして世界でこれほどCovidの感染が広がることになったのか。その原因はいったい何だったのか。

この問いは、いままでイタリア国内のCovid-19の感染状況、感染拡大の原因となったロンバルディア州の救急病院の初期の隠蔽高齢者介護医療施設でのスキャンダルなどの国内の状況から、さらに時を遡ってCovis-19のルーツをたどる余裕がイタリアに生まれたからだと思いますし、5月18日、19日に開かれたWHOビデオ総会を意識した動きだとも認識しています。

イタリアがG7の国々においてはじめて、中国の『一帯一路』覚書に調印し、米国、フランス、ドイツから「イタリアは無防備すぎる」「イタリアがトロイの木馬になる」「イタリアもアフリカのように中国のネオ・コロニアリズムに巻き込まれる」と八方から矢のような批判を浴び、外国メディアにさんざん叩かれたのは、たった1年前のことでした。

しかも1年前といえば、いまだ『同盟』と『5つ星運動』の契約連帯政府が、毎日のように互いが互いを攻撃し合い、足をひっぱり合っていた頃。そして『5つ星運動』が主導した『一帯一路』の調印の際、舞台裏で活躍したのが、なぜか中国を常に目の仇にしている『同盟』のマテオ・サルヴィーニと親しいエコノミストであったことは、今でも7不思議のひとつとなっています。

いずれにしても、『一帯一路』覚書に調印したところで、イタリアと中国の通商は、先にがっつり中国に食い込んでいたドイツ、フランス、英国の対中国通商規模には遥かに及ばず、たとえばドイツと比較すれば、わずか5分の1程度にしかすぎません。

2019年の調印時、オレンジ、畜産物などの輸出合意で大喜びしていたイタリアでしたが、数日後にはフランスがエアバス300機の受注に成功し、「北部イタリアのふたつの港を中国にプレゼントしたイタリアがオレンジで、フランスがエアバス? どういうこと?」と、ざわめきが広がるという出来事もありました。

 

習近平が『一帯一路』覚書の調印でイタリアを訪れた日の朝のイル・フォリオ紙は全面こんなイラスト(大丈夫だよ。うまくやれるから。実際この子は僕の手から餌を食べるんだ)で、首席をお迎えしました。コンテ首相に繋がれたドラゴンの首に「Ping」という名前がついているのは、当時副首相だったディ・マイオが、北京で行った演説で、主席の名前を間違えて「Mr.ピン」と呼んだことに由来します。つまりそれぐらいの「怖いもの知らず」な認識だった、ということでもあります。まだ1年前のことなのに、遠い昔のように懐かしく感じるMakkox作のこのイラストは、大事に保存。なお、全面こんな大作で主席をお迎えしたイル・フォリオ紙は、中国大使館から非難を浴びたそうです。

 

今回のCovid感染拡大時、他のどの国からもまったく支援も応援も届かず、イタリア中が恐怖に陥りながら、医療従事者、医療用マスクやガウンなどの医療物資、集中治療室も人工呼吸器もまったく足りない医療の現場を守ろうと、政府タスクフォース国家市民保護局が昼夜を問わず走り回っていた3月。中国からマスクの支援が大量に届いて、ディ・マイオ外相が「緊急時に助けてくれるのが、真の友達だ」と感嘆したという経緯がありました。

しかしながら、中国から大量に届いたマスクは、残念ながら廃棄せざるをえない不良品だったことを、改めて明記しておきたいと思います。

あらゆるすべての専制政治、独裁政治を絶対的に受け入れられないわたし自身は、中国内での『基本的人権』を無視した、表現、報道、思想の自由の抑圧には、わずかながらも好感を抱けませんし、少数民族の人々の宗教、言語、文化、生活様式への抑圧と政治利用、香港の民主主義を崩壊させようとする『国家安全法』の成立をも苦々しく思っています。

また中国共産党が、いまだに『共産主義』を標榜していても、もはやその思想の片鱗すらどこにも見当たらない、とも考えていて、鄧小平以来、独裁体制のまま資本主義に巧みにコミットすることに成功した、貧富の格差が著しい、いわばモダンな独裁監視国家という認識です。

とはいうものの、これはあくまでも中国の体制への批判であり、中国の人々には少しも負の感情を抱いていないことは強調しておきたいと思います。

確かにイタリアを含む欧州各国は国際政治外交上、今回の一件でも、中国やWHOを名指しで批判することは、今のところありませんが、わたしが知っている限りでは『鉛の時代』、かつて『毛沢東語録』に心酔し、極左の学生運動に身を投じた経験のある人々が、揃いも揃って「中国共産党にはとことん失望した」と言っていますし、「もはや大国に成長したにも関わらず、何もかも隠蔽するようなら、ますます信用できなくなる」との批判も上がっています。

そして、たとえばレスプレッソ紙は、イタリアが最も感染に苦しんでいた際の、おためごかしな中国の支援に「政治が脆弱で不安定なイタリアは、中国のターゲットのひとつなのだ」と注意をも喚起している。

さらに未知のヴィールス発覚時から1ヶ月以上に及ぶ中国当局の隠蔽のせいで、世界中で530万人以上の人々が感染、34万人以上の人々が犠牲となるほどの、歴史的重大イベントに陥ったにも関わらず、それを忘れさせるかのように気前よく援助することで、各国の信頼を得ようとしている、とも指摘しました。

また、ロシア同様にフェイクニュースを弾丸のように流したり(例えばSars-CoV-2は、2019年秋に行われた武漢の世界軍人競技会の際に米国の兵士が運んできたなど)、財政難に陥っているインターナショナルメディア(たとえばフィナンシャル・タイムス紙やイタリアのイル・ソーレ24オーレ紙など)を買収し、中国のイメージアップのためのプロパガンダ記事を流して「欧州市民の支持獲得を図ろうとしている」と分析。

ウイルスの封じ込めに成功した台湾の、オブザーバーとしてのWHO総会への参加の希望を、中国があらゆる外交手段を使って妨害していることをも批判しました。

この台湾のWHO総会への参加に関しては、インターナショナル誌が「Covid時代の、中国とその他の国々の力関係を図る重要なイベントとなるだろう」と言及していましたが、予想通りやはり今回も、中国の圧力で台湾がWHOの総会から排除されたことは気が重たいことです。

ところでWHOはといえば、Rai3の『Report』で、「もはや公正な国際衛生機関としての権威を疑わざるをえない。単なる政治機関でしかないのでは?」とも酷評されています。

というのはもちろん、現在世界中で非難の的となっている、現在のWHO事務局長テドロス・アダナム氏のCovid19対応における露骨な中国擁護の発言の数々と、遅れに遅れたうえに、医療現場に混乱を生んだ総指揮のお粗末さへの批判ですが、WHOそのものが、すでに医薬品産業の『ロビー』と化しているのでは? という手厳しい評価でもありました。

さらには巷で囁かれ続ける、エチオピア前保健相、前外務相であったテドロス氏と中国の癒着をも暗示。エチオピアを中国とアフリカ諸国を結ぶ「一帯一路」ストラテジーの基点と捉えている中国は、特に鉄道、港、高速道路などのインフラに巨額の資金を気前よく投資した経緯があり、他のアフリカ諸国の境遇同様、エチオピアが借金を返せない状況に陥ると同時に、中国がそれぞれのインフラの独占支配権を獲得しています。テドロス氏が所属する政党、ティグレ人民解放戦線は、贈賄の坩堝になっているともいわれるそうです。

なお、エチオピアの首都、アジズアベバの『アフリカ連合』本部の、インターネット回線を含めるインフラにも中国は出資しており、その回線から『アフリカ連合』の機密情報データごっそり得ていたことをル・モンド紙がスクープしたこともあります。

このような背景があり、中国とエチオピアは、そもそも深い政治経済的・共依存関係にあったわけですが、かつて国連チベットの人々の『人権』侵害を訴え、中国に規制をかけることを提案した際、真っ先に反対したのがエチオピアだったのは、断ち切れないしがらみのなせるわざだった、というわけでしょう(データルーム:ミレーナ・ガバネッリ)。

そして中国のバックアップにより、アフリカ諸国からはじめてWHOの総局長となったテドロス・アダナムという人物は、世界における今後のアフリカの立ち位置を示唆するシンボリックな存在、と考えてもいいのかもしれません。

重ねて『Report』は、2009年に流行した、それほど危険性が高いとは判断されないインフルエンザH1N1流行の際、WHOがただちに『パンデミック』を宣言したことをも疑問視しました。各国に大量のワクチン購入を義務づけるため、医薬品産業と談合したうえでのトリックだったのでは?との仮説を提起し、その証拠として、WHOのメンバーがー当時の事務局長も含めてー誰ひとり、H1N1のワクチンを摂取していないことをも紹介しています。

とはいえ、このように数々の疑惑があるからといって、米国のWHOへの資金拠出停止や、とめどない中国攻撃に賛成するわけではまったくない、ということは、改めて主張しておきたいと思います。

いずれにしても 、WHOが調査の意向を示してはいても、WHO、中国、両者の今回の対応に関しては、責任の所存を明確にするべきだと思います。国際社会の強固な介入を待ちたいところです。

Covid-19を巡って世界が激動しはじめています。願わくば、人間という生き物の脆さを見せつけることになった、未知のウイルスが引き起こしつつあるグローバル・クライシスをきっかけに、国家間の争いや意味のない競争、圧力のかけ合いが終わりを告げ、それぞれが隠し事なく協力できる世界を期待したい。

中国や米国という大国が、事態が手遅れになる前に、そろそろそのことに気づいてくれれば、と祈る次第です。

次のページでは、忘備録も兼ねてイタリアで報道されたWHOと中国の動きを、ざっと時系列でまとめました。

▶︎参考)時系列で見る、Covid19感染拡大までの動き

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