活気が戻ったイタリアの街角で、Covid-19と共存しながら想うアンティファシズムのこと

Deep Roma Eccetera Quartiere Società

どこか掴みどころがない未来にもやもやしながらも、ローマの街は少しづつ日常を取り戻しつつあります。4ヶ月前に突如として感染が拡大し、イタリア全土を震撼させたSars-CoV-2でしたが、その間戦場となった医療機関での経験やデータから研究が進み、今後再び感染が拡大しそうになったとしても、ある程度は効果が期待できる対策、治療法が、すでに学習されたという印象です。そこで街角には多少の楽観ムードが流れ、活気が戻ってきた、という感じでしょうか。また、米国発の#BlackLivesMatterを先駆けとして、今までシンと静まり返っていた広場にも、見慣れた政治集会が戻ってきました。

第3フェーズに突入したイタリアの初夏

Covid以前に戻ることはなくとも、6月15日からは欧州域内での空路の移動も再開され、街角にはそこそこの活気が戻ってきました。特に生活圏となっている地域では、バールやレストランの屋外テーブルの設置が認可され、夕方に通りかかると、まったく空席がないほどの賑やかさです。公園では子供たちのサッカーも見られるようになりました。

ロックダウンが解除された頃には、誰もがおそるおそる外に出かけて、疾風のように帰ってくる、という具合でしたが、初夏の気持ちのよさも手伝って、どうしても繰り出さずにはいられない、そんな気持ちが湧き起こるのは、いたしかたありません。

ローマのモヴィーダ地区として名高いポンテ・ミルヴィオやトラステベレ、ピニェートなどは、エネルギーを持て余した若者たちが群れ集い、ソーシャルディスタンシングもマスクもいい加減に、もはやCovidが思い出となったかのような盛況ぶりです。イタリア・カップで優勝したナポリでは、5000人を超すサッカーファンが広場で祝杯をあげ、飲めや歌えの大騒ぎ。さらに週末のビーチはといえば、超満員で隙間もないそうです。

しかしながら、60日を超えるCovidゼロを喧伝していた北京の市場や南部地区で突然クラスターが確認されたり、南北アメリカ大陸や南アジアの感染が激増。ドイツでは再びロックダウンとなった地域があり、イタリアにおいても第2波の襲来が予想されるフェーズです。北イタリアでは、今まで減少しづけていた集中治療室に入院する方の人数が、わずかながらも増加する、という現象が起こった日もありました。

もちろん、ようやく訪れた初夏の爽やかな夕べ、家から飛び出し群れ集いたい気持ちは、わたしもまったく同感ですが、まだまだデリケートな時期でもあるため、はたしてこれで大丈夫なのか、と少し心配もしているところです。

というのも、閉まったままのお店やレストラン、バールが多くあり、その光景は、街のあちこちにちいさな穴が空いたようでもあるからです。街ゆく人々はすっかりペースを取り戻したようでも、ストリートアーティストたちが、大胆にグラフィティを描き殴ったシャッターが降りたままの店先を通ると、われわれの未来がどちらに向かって動いているのか、いまだ輪郭がはっきりとは掴めない状態なのだ、ということをぼんやりと認識します。

ときどきコーヒーを飲みに行っていた、ちょっと遠くの昔ながらのバールに出かけてみると、シャッターが降り『Vendesi (売り屋)』の札が貼られていた、という出来事もありました。寂しい気持ちでとぼとぼ帰りながら、できることならこれ以上、ロックダウンを再発動しなければならないほどの第2波感染が広がることなく、人々の暮らしが破壊されることがないといいけれど、と願います。

また、ロックダウンが解除され、街角のちいさいレストランで何度か外食してみましたが、予約なしでもまったく問題なく、というよりお客さんはわたしたちのグループだけ、という状態でもありました。手持ち無沙汰なお店の人も「早くこの騒ぎから解放されたいよね」と、われわれのテーブルのそばでCovid談議に花を咲かせる、という具合で、トゥーリストも含め、本格的に客足が戻るのはこれからのようです。

街角を歩けば、聞き耳を立てているわけでもないのに、アーケードのバールのテーブルで雑談している人も、歩きながら携帯で話している人も、スケボーを担いだ子供たちも、思い思いにCovidのことを話しています。通りで知り合いに出会えば、Covid関連の話であっという間に時が過ぎる。

たった4ヶ月でわれわれ市民は、それぞれに多少の見解の違いがあったとしても、毎日のデータを分析するほどのエキスパートに変身しました。

そういうわけで、まさに「Covid-19と市民との共存」という非現実的な日常が、リアリティとして粛々と進んでいます。

アペリティフの時間ともなると、空席を待つ人々でアーケードがいっぱいになります。

Stati Generali 経済改革政策会議

さて、『5つ星運動』『民主党』によるイタリア連立政府は、6月13日からStati Generali (フランス語の原義によれば三部会となりますが、今回の場合は、経済改革政策会議というところでしょうか)を開き、政府閣僚、欧州連合委員長、議会長だけでなく、経済再出発プランを作成したタスク・フォースや労働組合、イタリア経団連、医療機関、アーティストなど、さまざまな分野の関係者を招き、「ポストコロナの新しい世界ポリシー:挑戦とチャンス」というタイトルで、1週間の長丁場で会議を開催しました。

この会議は、欧州連合域内支援策『リカヴァリー・ファンド=ネクスト・ジェネレーションUE』として、約1730億ユーロ(追記:7月21日、イタリア枠が2090億ユーロに増額して合意)、欧州マーシャルプラン『シュア』から200億ユーロ、欧州銀行からの投資として400億ユーロ、さらには 医療関係の支援に特化した、ほぼ無利子の融資である『Mesー欧州安定システム』360億ユーロをどのように使って、今後のイタリア経済、そして社会を安定に導くかを各分野と話し合う、という趣旨で開催されました。

もちろん、これほどの大金がイタリア政府に支援されるのははじめてのことです。

そのうちMesに関しては、融資を受けるか否か、まだ正式には決定されていませんし、連立各党で意見の相違があるようですが、おそらく融資を受けざるをえない状況になりそうです。また、イタリアが待ちに待っている『欧州リカバリーファンド』の実現は2021年から、とも囁かれ、どのタイミングで拠出されるかは、いまだ定かではありません。

市民の生活や大中小企業の経済状況からは、それほど時間に余裕があるとは思えず、バカンスが開けた秋には『経済・社会危機勃発』して、どうにも立ち行かなくなる可能性がある、とあちらこちらで語られるようにもなっている。

また6月24日、IMFはイタリアのGDPを下方修正し、-12.8%という大変な数字を算出していますから、とてつもなく迅速で、確実な対応を要する局面です。

なお、経済改革政策会議の初日には、欧州委員長ウルスラ・フォン・デル・ライアン、欧州中央銀行総裁クリスチャン・ラガルドら欧州連合の要人たちがリモートで出席し、欧州委員長は、

「この欧州プログラム(リカバリー・ファンド)はイタリアにとっては、唯一(!)の機会です。未来の経済デザインに投資すると同時に、必要としている市民に応える投資を確実なものとして、野心的な改革女性若い世代に活躍の場を広げるなど)のために全力を尽くす必要があります。そしてその改革こそが、イタリアの再生をもたらすでしょう」

と発言。社会システムの根本的な改革を求めました。

つまり欧州連合、欧州中央銀行の援助が確実となった現在のイタリアにとっては、この未曾有の危機の克服期間を利用しながら、いままでネオリベラルな経済勢力が蔓延り、収賄、不正、脱税で淀みきった格差システムから、より公平経済システムへとシフトさせていくチャンスでもある、ということです。

しかし、会議の終了後も消費税(IVA)を減らすか、いやIVAは減らせない、では所得税か、となかなか細部で結論が定まらず、会議がすっきり終了した、という雰囲気ではありませんでした。

※農作物の収穫をするアフリカ人労働者たちの労働条件をめぐって、闘い続けるUBS(労働組合)のアブバカール・ソーマホロは、経済改革政策会議が行われたヴィラ・パンフィーリで「政府はわれわれの痛み、苦悩の叫びを聞いていない」とハンストを強行。●Covid危機のせいで仕事を失った者や仕事のない者たちを救済すること ●(雇用主である)農産業による、人々が倫理的に健全な食物を食べているという証明書の発行を採用すること(不法な労働条件での酷使、搾取が問題になっているため)●(難民の人々から人道ヴィザを剥奪した)『国家安全保障』を廃案にし、現在不法滞在になっているすべての人々へのヴィザを要求しました。ジャーナリストも中に入れない閉ざされた会議でしたが、コンテ首相はソーマホロがハンストする公園にやって来て、話を聞いたそうです。懸念の『サルヴィーニ法』と呼ばれる『国家安全保障』の改正は秋に着手されるということですが・・・。

そういえば、会議が開かれる数日前にはラ・レプッブリカ紙、イル・マニフェスト紙、コリエレ・デッラ・セーラ紙など主要紙が『21世紀の資本論』の著者、トマ・ピケティを次々にインタビューし、富裕層の資産への課税を含め、市民すべてに贈与される1万2千ユーロのベーシック・ヘリテージの提案など、富の再分配に関する議論が繰り広げられました。

「ポストCovidは、社会格差をさらに広げることになるだろうか」という問いに、ピケティは「Covidが現在の支配者と被支配者の力関係を崩壊させることはできないだろうし、80年代から続く傾向を変えることはできないとは思う。もし、われわれが本当に新しい世界を形成したいならば、不平等に根ざした政策をもたらす思想そのもの再構築しなければならない」と答えています。

また、欧州各国でイタリアが最も恩恵を受けるであろう『リカバリー・ファンド』については「何もないよりはマシだが、不透明な欧州政府の囚われの身となり、27か国満場一致というルールのせいで、委員会の提案が同意を得るまで長い時間がかかることになるだろう。イタリア、スペイン、フランスなどが提出した政策に、たったひとつの国が反対しただけで拒否できるのだから」と厳しい見解をも示しました(ラ・レプッブリカ紙)。

個人的には今のところ、現在の欧州連合政府に特別な不信はありませんし、むしろ欧州連合が存在するからこそ、イタリアはCovidによる経済打撃を克服できるのではないか、と考えています。

しかし確かに今回の『ファンド』の決定に、オーストリア、オランダ、フィンランドが強硬に反対していることを思えば、イタリアが実際に支援を受け取るまでには、ピケティが言うように予想以上に時間がかかるのかもしれません。

今回政府は、『民主党』議員からも声が上がる、富裕層への資産課税ありえないとしていますし、男女雇用条件の格差やグリーン・ニューディールによる環境関連経済の発展、雇用の保障、医療、教育、福祉の充実、マフィアのブラックマネーを含む巨額の脱税の摘発がどれだけ実現されるかも未知数のままです。それでもやはり、Covidで疲弊した経済を一気に底上げするとともに、イタリアの社会が大きく変わるチャンスではあるのです。

なお、ロックダウン中、サラリーを保障するイタリア全国社会保険機構(INPS)に資金が備蓄されておらず、かなりもたついて、市民への支払いが遅れに遅れた、という経緯がありました。複雑なだけでなく、悠長きわまりない官僚権威主義こそ、イタリアのあらゆる場面での合理化を妨害する元凶でもあり、かなり以前から改革が叫ばれているにも関わらず、なかなか改善が見られません。

また、巷で囁かれるように、秋に本当に経済社会危機が勃発するようなことがあれば、地方選での起死回生を狙う野党『右派連合』プレゼントを贈ることにもなりかねない状況でもある。9月には7州(カンパーニャ、ヴェネト、プーリア、トスカーナ、マルケ、リグリア、ヴァレ・ダオスタ)の州知事選挙が予定されていますから、この夏は政府の正念場でもあります。

朗報は、といえば、『5つ星運動』『民主党』による連立政府が、Confindustria(イタリア経団連)寄りではなく、労働者寄り、市民寄りの政策に前向きで、あらゆる分野の人々の意見に耳を傾けていることでしょうか。

▶︎動き出した極右勢力

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