すでに2019年9月から、イタリアでSars-CoV-2が循環?
ミラノ国立癌研究所が医学雑誌『癌ジャーナル』に11月15日に発表した「Sars-CoV-2は、2019年の9月から、すでにイタリアに循環していた」という研究結果には、海外メディアも注目しました。
この研究は2019年9月から2020年の3月まで、肺癌のスクリーニングに参加した959人の無症状者の血液サンプルの抗体検査をした結果、11.6%の人々にSars-CoV-2の抗体獲得が確認され、そのうち14%の人々がすでに9月の時点で抗体を獲得していたというものです。
このニュースを読んだときに、すぐに思い出したのは、バロセロナ大学チームが排水のサンプルから、2019年の3月からSars-Cov-2がスペインで循環していたことを明らかにしたという今年6月のニュースでした。
また、イタリアのISS(国家高等衛生機関)のリサーチによると、ミラノ、トリノ、ボローニャで、2019年の12月の排水サンプルにSars-CoV-2が検出されていましたし、国営放送Rai3のプログラム『Report』では、2019年の11月、12月からCovid-19と思われる異常な肺炎の症例が存在した事実も紹介されましたから、今回のミラノ国立癌研究所のレポートに、個人的にはそれほどのインパクトは感じなかったのです。
ましてや、イタリア国外の報道やSNSで見かけた「イタリアがSars-CoV-2の発生地であるかもしれない」、という短絡的な結論づけはまったくの論外だとも思いました。もちろんイタリアでもこのレポートを巡って、さまざまな議論が持ち上がりましたし、早速WHOと中国から問い合わせがあったそうですが、国立癌研究所は「オープンな議論となるべき、さらなるリサーチの端緒を作ったに過ぎない」という姿勢を崩していません。
しかしこのレポートが、『癌ジャーナル』という、国際的にあまり知られていないマイナー医学雑誌に掲載されたことや、実施されたテストの信憑性(既知のコロナウイルスとの混乱はないかなど)、さらに9月のサンプルから抗体が検出されたのは6人にしか過ぎなかったことなどから、いくつかの疑問がミラノ国立癌研究所ジョバンニ・アポローネ所長にぶつけられることにもなりました(コリエレ・デッラ・セーラ紙)。
最も注目されたテストの信憑性に関しては、「ミラノ大学、シエナ大学の共同治験によってSars-CoV-2の存在が確認されているのであり、リサーチの結果は信頼に足るものである」と所長は断言。9月のサンプルからたったひとりでも抗体が見つかれば、それで十分だと答え、2019年11月、12月には、多くのホームドクターたちから非常に重篤な肺炎の症状を示すインフルエンザの報告が相次ぎ、パリでは12月に集中治療室に入院した肺炎患者からSars-CoV-2が検出されたことを、発症例としてあげています。
では、9月からウイルスが循環していたにも関わらず、イタリアでは、なぜ2月までウイルス感染の爆発が起こらなかったのか(ラ・レプッブリカ紙) 、との質問には、「このウイルスの特徴を明確にすることはできないが、ウイルスの潜伏期間に関係があるのではないか」とのことでした。
実際、夏の間はほとんど消滅したかのように見えていたウイルスが、10月中旬から突然、とてつもないスピードで感染を拡大したことは前述した通りですから、2019年の時点で、世界各国に散らばっていた無症状感染者から、静かに感染が広がっていたのかもしれません。
さらに所長は、ウイルスの変異に関係しているかもしれないとも付け加え、Sars-CoV-2が、より感染しやすい形態に変異していった可能性があると仮説を述べています。つまり感染力がいまだ弱い状態で、すでに各地に拡散していたウイルスが、時を経て変異したことにより強い感染力を持つに至ったということです。
いずれにしても、何らかの病気にフォーカスしてスクリーニングするために血液のサンプルをストックしているのは、イタリアだけではないでしょうし、世界の国々が、癌やその他の病理学のための血液サンプルを保有しているでしょうから、各国の協力により、今後さらなる研究が行われていくはずです。
数多くのサンプルが集まり、より緻密で深化した研究が進み、ウイルスのルーツが次第に明確になるにつれて、「イタリアが発生地だ」という声も聞かれなくなるはずです。
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