Covid-19第2波のまっただ中、いまだかつてないクリスマスシーズンを迎えて、ストイックに閉じられたイタリア

Deep Roma Eccetera Società

南イタリアにまで広がったSars-CoV-2

亡くなる方の数が尋常ではない毎日が続いているせいか、街角で知人とばったり出会い、いつものように笑顔で話しても、どうもすっきりしない、覇気のない会話になってしまうのは、いたしかたありません。

1日の新しい感染者の増大はピークアウトとなり、落ち着きはじめたようでも、11月24日には853人、11月26日には822人、12月3日には993人もの方が亡くなる事態となり、「つい最近まで、あんなにうまくいっていたのに」と怒りに似た、理不尽な思いに駆られます。

第1波の感染状況が過酷を極めた時期、最も多くの方々が亡くなったのは3月28日の889人、3月29日の969人ですから、あっという間に、あの最も辛い時期を超えてしまったということです。それでも報道は、毎日がセンセーショナルな興奮状態だった第1波の時とは打って変わって、淡々と、というか機械的に、というか感情的な分析や問題提起は、ほとんど見られなくなりました。

第1波が収まった初夏、イタリア全国で感じた高揚した達成感が、実は蜃気楼、幻だったのだという事実を受け入れるには時間がかかり、狐につままれたかのようなリアリティのなさで、日々急激に増加する感染者数と亡くなられた方々の数に対峙する、という感じでしょうか。

ソフィア・ローレンのナレーションで、優しい共感に包まれたバリッラの広告「耐えるイタリア」に涙ぐんだのは、たった半年前のことでした。

※わたしたちの街角を守る沈黙。バルコニーからほとばしる生命、とはじまる全国ロックダウン中に流れたこのCMを見ると、今でも涙ぐみそうです。長い困難にみな疲れ果ててはいますが、この時の共感の気持ちを思い出すと、柔らかい温かさを感じます。

第1波では、ロンバルディア州、ピエモンテ州、ヴェネト州を中心に、北イタリアに集中していた感染が、第2波の現在は、やはり北イタリアの感染者数がずば抜けてはいても、ほぼイタリア全土に満遍なく拡大し、中央イタリア、そしてそもそも医療体制の不備が指摘されていた南イタリアをも直撃しています。

ローマでも「知人が陽性だった」「友人のお父さんが陽性だった」「住んでいる建物内で感染者が出た」と聞く機会が日に日に多くなり、われわれが脅威と隣り合わせにいることを日常的に痛感するようにもなりました。

また、2004年から継続的な削減がはじまり、2012年に陥った債務危機に続く緊縮政策で、さらに大幅に削られた公共医療予算弊害が、ここにきて再び噴出する形となっています。日本のSNSでも流れていた、許容量を超え人手もスペースも足りなくなったナポリの病院で、誰にも気づかれないまま、洗面所で倒れて亡くなった方の映像は、もちろんイタリア中に衝撃を与え、人々の怒りと不信を呼び起こしました。

この事件を受け、カンパニア州ではただちに医師450人が募集されましたが、かつて公共医療機関の予算が大幅に削減された経緯から、南イタリアでは、医師を含める医療従事者の数が明らかに不足していたのです。しかし一方、世界中のSNSに流れたこの告発映像は、確かに南イタリアの医療現場の現実をシンボライズはしても、例のごとく「南イタリア医療崩壊!」とスキャンダラスに語られるべきではなかった、とも思っています。

というのもむしろ、この告発によって、医療現場の状況は急速に、着実に改善の方向へと向かい、カンパニア州は、今後新しい病院を建設するために、13億ユーロの投資を発表することにもなったからです。

もちろん理想をいえば、感染が落ち着いていた夏の間、南イタリアの各州ともに万全のウイルス対策を整えておくべきだったのでしょうが、第1波が収まった安堵感の後すぐに、みなの気持ちが極端に緩むバカンス・シーズンを迎え、油断もありました。9月には『州選挙』、『国民投票』が通常通りに実施された、という経緯もあり、公共医療を管理する各州政府の対応は、後手後手に回ったという印象を受けます。

野生が息づく、豊かでありながら枯れた自然、どこまでも透き通った地中海がひたすら美しい南イタリアは、全国ロックダウン解除後には空前の予約ブームに湧いたそうで、夏の旅人たちが立ち去り、学校や仕事がはじまった途端に、みるみるうちに感染が広がっています。

特に、医療関係者の人員が不足しているうえ、マフィアの医療システム(ASP)への介入が強く問題視されていたカラブリア州では、債務がかさんで運営を続けられなくなった大小18病院閉鎖されるままになっており、そもそもの医療システムが機能不全に陥っていました。そのため、それほど感染が広がらないうちに、先手を打ってレッド・ゾーンに指定されることになったのです(現在はオレンジ・ゾーン)。

同時に政府は、辞任を余儀なくされたカラブリア州保健監査役の後任を、ただちに送る手はずになっていましたが、短期間に4人もの人物が辞任、あるいは任命を辞退紛糾。ここに来て、ようやく監査役が決定し、落ち着きを取り戻しつつあるという状況です。なお、監査役という映えある役職を政府に打診されながら、土壇場で尻込みしたハイ・キャリアの人物たちは任期中、マフィアに執拗に妨害されることで、キャリアに傷がつくことを恐れたのだと言われます。

カラブリア・マフィア『ンドゥランゲタ』の暗躍は、予想するよりはるかに規模が大きく、病院だけではなく、公共医療機関に密接に関わる医薬品供給会社などに20年近い月日をかけくまなく入り込み、公共医療サービスの報酬として確実に精算されるインボイスを債券化。銀行やヘッジファンドに売り、国際金融市場で運用していることを、フィナンシャル・タイムス紙が報道したこともありました。その利益は、なんと10億ユーロにも上るそうです。

カラブリア、カタンザーロ市の検察トップ、ニコラ・グラテッリは「Covidの緊急事態を利用して、マフィアがイタリアの全域に根を張る可能性がある」と警鐘を鳴らしていますが、それは決して大げさな脅しではなく、時代とともに犯罪スタイルを変えたマフィアたちは、いまや金融市場を熟知するモダンな投資家でもあり、想像を絶する資金力が、あらゆる犯罪の背景に存在するからです。

グラテッリは、「有り余る現金を持っているマフィアは、経営が立ち行かなくなった有名ホテルやレストランに裏でこっそり融資して、表向きは今までと変わらない経営に見せかけ、マネーロンダリングに利用することが考えられる。非常に危険な状態だ。経営難に陥った有名ホテルなどに、銀行が迅速に、低金利で融資できるシステムを構築すべき」とも語っています。

第1波の頃から言われていたことですが、Covid-19で社会が窮地に陥れば陥るほど、マフィアにとってはチャンスなのです。

ともあれ、現在イタリア全土には7092室の集中治療室が用意され、12月5日の時点で、3517室が使用されているという状況です。そのうち深刻なのは、1039室のうち、約77.7%である805室が塞がっているロンバルディア州と94.1%の48室が塞がっているトレント州ですが、新しい感染者数の減少とともに、この1週間、ほとんどの州の集中治療室の使用率はコンスタント下がりつつあります

カンパニア州もカラブリア州も、集中治療室は順に約70%、約80%が空いている状態ですから、少しづつとはいえ、集中治療室を必要とする重症の方々の数が減ってきたのは心強いことです。

12月3日のDcpm-首相令のまとめ。ラ・レプッブリカ紙から引用。首相令が効力を持つ期間、禁止されることや注意すること、可能なことの詳細が分かりやすくまとめられています。例えば、原則として同じ市内に住んでいない祖父母を訪問することはできませんが、サポートのための訪問は認められます。

こうして、とりあえずは感染者の増大がピークアウトとなっても、クリスマス休暇の気の緩みから第3波が訪れることが懸念され、12月3日に公布されたDcpm-首相令は、今までよりさらに厳格な内容となりました。

この首相令は12月4日から1月15日まで有効で、ほぼ全州の商店(アブルッツォ州は12月第2週からの予定)が、午後9時まで開店できるようになり、ショッピング・モールやデパートなどの大型店は週末も営業できるようになります。閉店時間を1時間遅らせ、営業時間を長くしたのは、人々が集中して買い物に出かけないための配慮だそうです。

また、バールやレストランは、12月25日クリスマス、26日ーサン・ステファノ、元日、1月7日ーエピフェニアも含め、午前5時(元日は午前7時)から午後6まで、ひとつのテーブルに4人まで、という条件で営業可能です。

ただし、午後10時から午前5時外出禁止は、祝祭日に関係なく適用されることになりますから、クリスマスのミサも、信者たちが帰宅できる時間内に終了しなければなりませんし、例年、賑やかに繰り広げられる、広場や、ホテルなどで開催される大晦日フェスタカウント・ダウン中止です。さらに元日のみ、外出禁止が午前7時まで延長されることになりました。

なお、クリスマス期間中の自宅での会食は基本、同居する家族のみで祝うことが、強く推奨されています。

さらに、12月20日以前に外国(ベルギー、フランス、英国、オランダ、チェコ、スペイン、北アイルランドなど)からイタリアへ帰国した者は、PCR検査が義務づけられるだけですが(日本から帰国した場合は自主隔離の義務があります)、12月20日以降に帰国(すべての外国から)した者は、10日間の自主隔離が課せられることになりました。

イタリア国内の移動に関しては、12月21日から1月6日まで、仕事や健康上の緊急な理由がない限り、だけではなく、をまたぐ移動が禁止され、12月25日、26日、1月1日をまたぐ移動も禁止されます。したがって、クリスマス期間中、遠方の家族に会いに行ったり、国内を旅行することは不可能となりました。ただしイエローの州の居住者は12月4日から12月20日までは、同じくイエローの州であれば、自由に移動することができます。

懸念の学校は、といえば、1月7日からは50%学生たちが通学し、対面での授業が受けられるようになり、リモートの授業と組み合わせて100%、授業を受けられるようになるそうです。

いずれにしても、イタリアの人々にとっては一大イベントであるクリスマスを重要視するあまり、極端に規制を緩めることで、次の感染を誘発し、「今までの努力が水の泡になるのでは?」と不安を感じていたので、ホッとすると同時に、いつものクリスマスを迎えられないことにがっかりする人々の寂しそうな顔に、どうにも収拾がつかない気持ちになります。

しかしながら、「クリスマスをどう迎えるか」という議論の過程で、ちょっと首を捻ったのが、雪山へのスキーバカンスは可能か否か、という話題で、1週間近くもメディアで論争が起こったことでしょうか。

バカンスシーズンにサルデーニャのナイトクラブで一気に感染が広がったように、スキーに大勢の人々が押し寄せれば、どう考えてもコントロール不能に陥るに決まっていますし、これほどたくさんの方々が亡くなっているというのに、スキー論争で口角泡飛ばす、というのは鈍感に過ぎるというか、各種メディアの感覚も麻痺しているように感じます。

結局、首相令では、ホテルを含めスキー場閉鎖されることになりましたし、すでに山開きとなったスイスやオーストリアへスキーバカンスへ出かけたとしても、帰国した際には10日間の隔離が課せられますから、夏に起こったように、人々が節操なく移動する、ということはなくなるはずです。

もちろん雪山産業で生計を立てる地方にとっては死活問題ですから、政府の経済支援は必須の課題でもあり、今後の誠意ある対応を期待したいと思います。いずれにしてもイタリアのスキー場は、1月7日からは営業できます。

ともあれ、これほど多くの方々が集中治療室に入院していらっしゃるにも関わらず、報道がすべてクリスマスの話ばかりとなり、第1波同様、あるいはそれ以上の極限状態で仕事をしていらっしゃる医療関係者の方々への配慮、そして感謝の言葉が、巷間でほとんど聞かれなくなったことを、心外に思います。

11月5日の調査(categoria Nursing Up)によると、1日500人もの看護師や医療関係者の方がウイルスに感染している状況で、このまま感染が長引けば、10月15日から11月15日までに感染した医療関係者1万人が、12月15日までには2万5千人にまで増えるという試算になるそうです。また12月4日までに、イタリアでは227人もの医師がCovidで亡くなっています。

われわれの現在の生活は、医療関係者の方々の存在なしでは成立しないこと、また、今この時も、悲しみや苦しみの中にいらっしゃる多くの方々のことを忘れずにいたいと思う次第です。

▶︎増加する貧困と、1月から接種がはじまるワクチン

RSSの登録はこちらから