現在日本に帰国しているため、6月8日、9日の欧州議会選挙をライブでは体験することができず、イタリアメディアの報道と、現地の知人にその雰囲気を聞いてみるぐらいしか、詳しい内容を把握できませんでした。が、結果、過去最低の49.7%という投票率で選挙を終え、そもそも欧州議会選挙の投票率は国政選挙よりは低いのが常ではあっても、「イタリアの有権者の半数以上が棄権に回る」というケースは共和国はじまって以来の出来事です。過去の欧州戦の投票率を調べると、1980年には86%、2005年に72%、2020年に55%まで下がり、遂には50%を切ってしまうことになりました。これは「棄権」することで既存の国内政治、欧州政治にNOを突きつける有権者の強い意志、なのかもしれませんが、「欧州議会が変わっても何も変わらない」、と単純に有権者の政治への興味がなくなった、ということかもしれません。 Continue reading
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ラッキー・ルチアーノ PartⅡ: 第2次世界大戦における「アンダーワールド作戦」とそれからのイタリア
1931年、全米犯罪シンジケートの頂点に「コミッション」と呼ばれる一種の議会を設立し、「コーザ・ノストラ」を誕生させた「暗黒街の実業家」ラッキー・ルチアーノは、シンボリックな意味で1秒に100万ドルを稼ぐ男となっていました。リトル・イタリーのストリートで万引きや窃盗を繰り返していたイタリア系移民の少年は、20年ほどの間に、最高級のオーダーメイドのスーツを纏い、ウォルドーフ・アストリアホテルのスイートルームで暮らす大富豪となったのです。ところが1936年、ルチアーノ本人が直接関わっていたとは考えにくい犯罪の主犯として逮捕され、30年から50年という重い懲役刑を受けることになります。そうこうするうちに第2次世界大戦が勃発するわけですが、ルチアーノは獄中で米海軍「アンダーワールド作戦」に協力するようになり、その功績(?)が認められ1946年に恩赦。と同時に米国からは追放され、イタリアへと帰還しました。PartⅡでは、ルチアーノが中心となった「コーザ・ノストラ」の米海軍への協力の経緯とその後のイタリアの運命、現在でもルチアーノの関与があったか否かの議論が続く、1943年の英米海軍シチリア侵攻に伴うシチリア・マフィアの復活、そしてイタリアに帰還してからのルチアーノの動きを追っていきます。 Continue reading
日本をもうひとつの故郷として愛した、ふたりのイタリア人のこと
イタリアの碩学のひとり、クラウディオ・マグリスの記念碑的大作「ミクロコスミ」を翻訳。2022年に出版した、気鋭の翻訳家二宮大輔氏の寄稿です。それぞれにまったく違う境遇で、長い時間を日本で過ごしたジャンルカ・スタフィッソ、ピオ・デミリアというふたりのイタリア人が、この1年の間に次々に亡くなりました。そのうち、日本をベースにイタリアメディアの極東アジア特派員を務めたジャーナリスト、ピオ・デミリアは、幅広い見識に基づく体当たりの取材で、日本のみならず、アジア各国の諸事情を掘り下げ、イタリアの人々をぐっとアジアに近づけた、と思います。デミリアの報道のあり方は、われわれ日本人にとっては多少辛口の部分もありましたが、フィルターがかからない率直な洞察でもあり、その端々に日本への誠実な愛情が見え隠れしていました。デミリアが亡くなった際は、本人のかねてからの強い希望で、日本で荼毘に付されたそうです(タイトル写真は、ytali.com掲載のジョルジョ・アミトラーノ氏の記事写真を加工して引用しています)。
米国ネバダ州に保管されている(と言われる)ムッソリーニのUfoと、キャビネットRS/33の謎
2023年7月のローマは、10日を過ぎたあたりから地獄の番犬「サーベラス(Cerbero)」、および冥界の渡し守「カローン(Caronte)」の名を持つ、サハラ砂漠から押し寄せる熱嵐がダブルで吹き荒れて、最高42℃+という酷暑に見舞われました。それらはその名の通り、まさに絶望的と言える灼熱地獄をもたらし、シチリアに山火事を頻発させたり、北イタリアにテニスボール大の雹を降らせたり、いまだかつて体験したことがない暴力的な高気圧でした。「これからはひと夏ごとに暑くなる、もっともっともっと暑くなる。それが現実です」、と涼しい顔で語る気象学者の話を聞きながら、感染症といい、戦争といい、地球温暖化といい、まるでわれわれはSF世界に住んでいるようだ」と考えた次第です。そこで、そんなSF世界につつましく暮らしながら、ここ数年、ペンタゴンやNASA、米国議会から、突発的に、しかしけっこう頻繁に流れてくるUfo関連の話題のうち、米国のエリア51に保管されている(と言われる)、1933年にイタリアに墜落したUfo、及び地球外生命体と思われる2体の亡骸について、軽い気持ちで調べてみようと思います。 Continue reading
地中海のカタストロフ、静かに聞こえてきたジョルジャ・メローニ政権の不協和音
2月26日日曜、イタリアに暮らすわれわれは、凝視できない酷いニュースで目覚めることになりました。事故が起こったのは、午前4時すぎだったそうです。カラブリア州、クロトーネ市のステッカート・ディ・クートロの砂浜から、わずか100mの海上で180人の密航者を乗せた木造船が座礁して大破。幼い子供たち、未成年35人を含む88人の犠牲者(3月19日現在)を出す海難事故が起こりました。この事故は、2013年10月、368人の犠牲者を出したランペドゥーサ島沖で起こった、移民・難民の人々を乗せた船の沈没事故以来の重大海難事故です。彼らは確かに違法密航者と位置づけられますが、アフガニスタン、イラン、パキスタン、パレスティーナ、トルコ、シリアなど、戦禍、紛争、あるいは天災に見舞われ、生き抜くことが困難となった故郷を離れ、生きる希望を胸に船に乗り込んだ人々でした。 Continue reading
参考 : ジョルジャ・メローニ新政権 : 首相の下院議会における初スピーチが示唆するイタリアの方向性
新政府が樹立してしばらく時間が経つにつれ、その時はさらっと聞いていた、下院議会における信任を問う、メローニ新首相の初スピーチ(新政府のプログラム)の詳細に込められた意味が、だんだんと浮き彫りになってきたように思います。世論調査(DEMOPOLIS)によると、市民の45%がポジティブに、34%がネガティブに捉えたその初スピーチでは、「イタリア」「政府」「われわれの」「ヨーロッパ」「自由」「企業」「国家、あるいは国家の」という言葉が多用され、全体的な表現としては、予想していたよりはソフトに、イタリアの経済の緊急事態が語られましたから、まさか経済政策より先に強権的な法律が次々に提案され、難民の人々の海上封鎖、感染症の大幅緩和、レイブ禁止法などによる混乱が創出されるとは思いませんでした。そこで、ここではその演説の全体の要旨をまとめながら、いくつかの詳細を解釈し、メローニ政権の方向性を探ってみたいと思います。 Continue reading
ジョルジャ・メローニ新政権 : たちまちカオスと化した、イタリアのFar-Right politics
いずれ状況は、少しずつ悪化するのだろう、と朧げには予想していましたが、こんなに早く、しかも立て続けに「なにこれ?」と驚く出来事が次々と起こることになるとはまったくの想定外でした。『右派連合』連立与党内の激しいいざこざを経て、上院、下院議会における信任も終了し、ジョルジャ・メローニ女史を首相とする新政府が稼働する運びとなった際は、若く、勢いのある女性が首相の座についたことが喜ばしく、一瞬ではありますが、「意外とソフトで思いやりのある中道右派政治が繰り広げられるかもしれない」との好意的な空気が流れたことも事実です。しかしそれは虚しい幻想であり、新政府がまず着手したのは「誰もが一刻も早く」と渇望していた、切迫したインフレから市民を救済する経済政策ではなく、体制には何ひとつ影響を及ぼさない、緊急性のない社会現象を叩き潰そうとする、挑発的な法律の立案、そして2018年の「サルヴィーニ法」を彷彿とする、難民の人々を国内外のプロパガンダに使う残酷な仕打ちでした。 Continue reading
灼けつく砂漠と化したローマで繰り広げられた、マリオ・ドラギ政権崩壊という悲劇
晴天の霹靂、というのは、まさにこのような出来事を言うのだ、と思います。すでに世界中のメディアで、マリオ・ドラギ政権崩壊の詳細が流れましたから、それ以上の多くを語る必要はないと思われますが、ひとつ気になったのは、その記事の多くで、ポピュリズム政党の『5つ星運動』の離反のみが、主な原因とされていることです。確かに政権崩壊のきっかけとなったのは、上院議会でのDLAiuti(一般家庭や中小企業の、インフレ支援政策)の信任投票を、『5つ星』の議員が棄権(Astenuti)したことでした。しかし6月29日、ルイジ・ディ・マイオ外相が率いる63人ものメンバーが離党。分裂して新しい党を作ることを宣言していたため、もはや『5つ星』は与党最大勢力ではなく、万が一、彼らが野党に回ったとしても、政権は過半数を割ることはなかったのです(タイトル写真はLa congiura dei Pazziーパッツィ家の陰謀、ステファノ・ウッシ1822-1902:個人蔵)。 Continue reading
イタリアが誇る碩学のひとり、クラウディオ・マグリスの代表作『ミクロコスミ』をどう読むか
読書通たちに「天才的(geniale)」と評される、9つのミクロコスミ(小宇宙)からなるこの本は、しかし訳者が語るように、読みはじめはなかなか先に進めず、戸惑い苦悩する、かなり手強い一冊でもあります。しかし読み進むうちに、その場にせめぎ合う歴史、記憶、自然、有名無名の人々の物語、メランコリーが万華鏡のように浮かび上がり、ミクロからマクロの宇宙へと導かれる。しかも、ときおり予期せず現れる、痺れるほどにかっこいい暗示に立ち止まり、あれこれ思いを巡らせることになりました。クラウディオ・マグリスの代表作、『ミクロコスミ』を、10年を超える月日をかけて翻訳した二宮大輔氏は、イタリア文学、文化に精通する新進の翻訳家。どのように『ミクロコスミ』を読めば、より理解が深まるか、二宮氏にご寄稿いただきました。 Continue reading
ローマ:ウクライナ危機の平和解決を主張するのは、現実を見ない夢想家の独善なのか
われわれが暮らす世界には、特定の都市に照準を定められた13000を超す核弾頭が存在するというのに、自分が生活する領域は安全だ、と何の根拠もなく楽観的に思い込んでいました。しかしロシア軍のウクライナ侵攻以降、そんな曖昧な平和の幻想は薄れていき、長らく培ってきた世界、そして欧州への理想、信頼が足下から崩れ落ちそうです。戦地から遠いとは言えず、他の欧州各国同様、ロシアから天然ガス、石油、穀物、資源を輸入しているため、ダイレクトに経済の影響を受けることになったイタリアの、怒涛のような報道、分析に接していると、ウクライナの戦況以外、まったく頭に入らなくなります。世界中の多くの専門家の方々が、毎日戦況を分析していらっしゃいますが、あくまでも、イタリアに暮らす市井の外国人の視点から、現在の時点で、印象に残った出来事、記事、動きを、率直に書き残しておきたいと思いました(タイトルの写真は「平和にYES、戦争にNO : 高校生たちが開催した平和集会で)。 Continue reading