Category Archives: letteratura

ローマ、パニスペルナ通り90番地から『マンハッタン計画』へ、そしてエットレ・マヨラーナのこと

わたしたち日本人の記憶に、消えない傷として刻み込まれた、ふたつの原子爆弾ルーツが、パニスペルナ通り90番地にあることを知ったのは、ローマに暮らすようになってからでした。モンティ地区からサンタマリア・マッジョーレ教会まで続く、通り慣れたその道を歩いていた時のこと。友人のひとりがふいに、どこにでもありそうな門構えの建物を指差し、「この建物が核分裂、つまり原子爆弾のルーツだということを知っている?」と言った、20年以上前の光景は今でも蘇ります。その後原子炉に発展する、ウラン原子核に低速中性子を照射して核分裂の連鎖反応を起こし、きわめて強い放射性同位元素(放射能)の観測に成功したのが、このパニスペルナ通りに存在したインスティチュートの研究者たちでした。ところがそのイタリアには、核兵器も原子力発電所も存在しないのです。

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小説「パッショーネ」Passione

そもそもこのサイトをはじめるきっかけとなった小説、『パッショーネ』が、KindleiBooksで発売されることになりました。去年から予告していたにも関わらず、思いのほか長い時間がかかってしまったこの小説は、ローマの街角で起こった実際の事件をヒントに、架空の人物、状況を設定し、再構築したミステリー・フィクションです。そこでほんの少しだけですが、一章の半分をこのサイトで公開させていただくことにしました。もちろん、『鉛の時代』のリサーチをはじめ、ローマの人々のインタビュー、出来事を掘り下げるこのDeep Romaは、これから先も今まで通り、ああでもない、こうでもない、と続けていく所存です。

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『鉛の時代』 イタリアの知の集積 フェルトリネッリ出版と『赤い旅団』の深い関係

2018年3月16日、戦後イタリアの民主主義の構築を根底から覆した、と言われる『アルド・モーロ元首相誘拐・殺害事件』の40年目のメモリアル・デーを迎えました。重要なポジションにいる検事、数々のジャーナリストたち、歴史家たちにより、長い時間をかけ、あらゆる側面から、この大事件の詳細、背景が調べあげられ、もはやどこから手をつけたらいいのか分からないほどの、幾万の情報が積み上げられています。(この項は、『赤い旅団』誕生の背景  からの続きです。写真はジャンジャコモ・フェルトリネッリとフィデル・カストロ。movieplay.it 、feltrinellieditore.itより引用) Continue reading

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短編 「ローマン・アラベスク」Roman arabesque

ここ15年ほどの間に、世界中からの観光客だけでなく、アフリカ大陸、中東、東欧、アジアからの移民、難民の人々もたくさんローマを訪れるようになり、街の景色は少し変わりました。と同時に、さまざまな地域の宗教や文化、習慣や言葉が、古代ローマ帝国時代の遺跡、中世、ルネッサンス、バロックの建造物の間に間に、そこはかと漂うようになった。そこで今回は、たまには創作ものも、ということで、遺跡の風景にそっと漂う『魔法』の匂いを拾って、ロマン派風の『短編』にしてみることにしました。まったくのフィクションでお届けします。 Continue reading

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イタリア現代詩の神話、詩人ヴァレンティーノ・ザイケン:ロングインタビュー

ヴァレンティーノ・ザイケンは、イタリアの現代詩における重要な詩人のひとり、と同時にUn personaggio(ペルソナッジョ)としても名高い人物です。イタリア語の辞書で「Personaggio」という単語をひくと、①重要な人物、著名人、名士 ②(劇、小説の)登場人物 ③変わり者、特異な人物、という3つの意味が現れますが、ザイケンに関して言えば、そのすべての意味があてはまると言ってもよいでしょう。

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ようこそ、宇宙へ。深淵かつおおらか、これぞローマの書店 Libreria A. ロトンディ

信念愛情を持って集められたが並ぶ書店が、わたしは大好きです。選び抜かれた古書、あるいは専門書を扱うちいさい書店の、ショーウインドーに並ぶ本のタイトルを眺めるだけで、今まで知らなかった異次元の世界を垣間見るような気がします。ガラス扉を開いた途端、古いインクと紙の匂い、スペースにひたひたと充ちる本の魂に、ふわりと全身が包みこまれる。これこそ「ローマの書店」と呼びたいLibreria A. Rotondi(リブレリア・A・ロトンディ)を久しぶりに覗いてみました。 Continue reading

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旅するマルチメディア作家 フィリッポ・カルリ

すごい、と感心するような逸話がさまざまある人物ですが、書き始めるとかなり長くなりそうなので、また別の機会にこっそりまとめたいと思っています。なにはともあれ、フィリッポ・カルリは映像、写真、絵画、詩、とマルチにこなすアーティスト。あくまで気楽に、どこか真剣味なく、しかし思い切りよく「生き抜く力」を教えてくれる人物です。了解を得て、彼の作品のいくつかを紹介させてもらうことにしました。 Continue reading

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踊るジプシーと、作家ヴァニア・マンチーニ

ジプシーの人々ーここでは、そもそもの彼らの民族の名『ロム(Rom)』と呼ぶことにします。『盗み』『物乞い』というネガティブイメージがあまりに根強く、社会から顧みられることのないロムの人々、子供たちが、これ以上社会から排斥されないよう、地域の学校と協力、ロムと社会の間に接点を見出す活動に 20年近く関わり、 彼らと交流しながらその状況を書き続ける作家ヴァニア・マンチーニに、さまざまな話を聞いてみました。

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永遠のピエール・パオロ・パソリーニ

日本では、もはやマニア、あるいは研究者以外には、あまり語られることのないピエール・パオロ・パソリーニですが、イタリアにおけるここ数年の、特に若い人々の間でのパソリーニ人気の高まりには目を見張るものがあります。今年2015年、彼がオースティアの沿岸、水上機停泊地で惨殺されて40年を迎えた11月2日の命日、ローマはもちろんイタリア各地でパソリーニ関連のイベントが開かれ、新聞、TVのマスメディアも大きく特集を組みました。 Continue reading

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参考:ピエール・パオロ・パソリーニ 伝説の記事 Io so 「僕は知っている」

パオロ・グラッシーニがインタビューで語った、1974年、12月14日にコリエレ・デラ・セーラ紙に寄稿されたピエールパオロ・パソリーニの、冒頭、詩のごとくはじまる記事 ”Cos’è questo golpe? Io so(このクーデターが何なのか、僕は知っている)”は、時代を超え、伝説にすらなっています。 Continue reading

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