パンデミックの渦中、市民の現実からかけ離れて巻き起こった造反、イタリア連立政権クライシス

Deep Roma Eccetera Società Storia

イタリアだからね。すべてのことが起こりうるから」という軽口は、平和な時には笑って済ませられますが、社会がこれほど深刻な状況にある時、その不安と緊張に拍車をかける「政権の危機」を企てることは、倫理的に許されますまい。1月1日のブレグジット(英EU貿易協力協定)発効に続いて、米国新大統領を巡る連邦議会への暴徒の乱入からはじまった2021年でしたから、今年はさらに何らかの波乱があるかもしれない、と思ってはいました。しかしイタリア連立政府が、極端に不安定な状態になるとはまったく考えておらず、「政治が市民の心理とかけ離れ過ぎている」、と全身の力が抜けるような落胆に襲われています(写真はパンデミック以来、ライトアップされている首相官邸、キージ宮)。

今このときに、「政権クライシス」という非常識

1月26日、イタリアの『5つ星運動』『民主党』及び『LeU』など左派勢力で構成される連立政府を率いるジュゼッペ・コンテ首相は、政権の一端を担う『イタリア・ヴィーヴァ(Italia Viva)』リーダー、マテオ・レンツィ元首相の「乱心か」、とも思える突然の造反をきっかけに、凄まじい勢いで拡大した政治不安から脱却を図るため、大統領府へ赴き「戦略的」辞任を報告しました。

この、コンテ首相の急な辞任は、27日に予定されていた、議会における司法大臣の年次報告の承認投票で、過半数票獲得できないことが事前に明らかになったため、事実上の不信任決議となることを忌避するためでした。

つまり、その前にいったん辞任。「政権の危機」の際の通例となっている、あらゆる政治勢力の意向を確認する協議(consultazione)を経た、セルジォ・マッタレッラ大統領から、改めて組閣の指名を受けたのち、過半数を再構築する、という戦略です。

3日間の協議を終え、連立政府が過半数を獲得する可能性があると見た大統領は、しかしコンテ首相ではなく、それぞれの政党との交渉、協議に、下院議長である『5つ星運動』のロベルト・フィーコを指名することになりました。この判断は、各政党からの信頼が厚いフィーコ議長を送ることで交渉をスムーズにし、コンテ首相の立場を保護するためとも言われます。

コンテ首相が辞任を発表したのち、連立政府は、新しい過半数を形成するために、無所属、あるいは他党の議員のスカウトを進めていましたが、各方面から邪魔が入り、結局『イタリア・ヴィーヴァ』なしでは過半数を得られないという暗礁に乗り上げ、先行き不透明感が漂っていたところです。

いずれにしても、レンツィ元首相の過半数離脱劇は、本人がくどいほどに否定しても、政治的目的を持つ造反ではなく、市民の間できわめて人気の高い、コンテ首相への個人的な悪感情、葛藤に左右されての行動であった可能性が高い、つまりわがまま、という意見が大半を占めていました。しかし時間が経つにつれ、それだけが理由ではない気配も漂いはじめています。

言うまでもなく、連立政府を形成する各党は「コンテ首相以外に、政府のバランスを保てる人物はいない。われわれはコンテ首相とともにある」と主張し続け、コンテ政権継続の意志を明確にしています。

と同時に、極右政党『同盟』『イタリアの同胞』は「常に反目しあって、諍いばかりのこんな不安定な政府は解散。いますぐ総選挙」と叫び、中道右派政党『フォルツァ・イタリア』は「コンテ首相ではなく、たとえばマリオ・ドラギ元欧州中央銀行総裁など、国際的に権威ある人物を首相に据えた『欧州主義』政府なら、政権を支えてもよい」と主張しはじめました。

したがって、今のところは4つのシナリオが考えられます。1.連立政権が今の混乱を乗り切って、『イタリア・ヴィーヴァ』と新たに合意。コンテ首相がこのまま首相として内閣を練り直して『コンテ第3政権』として再生する。2.極右政党以外のすべての政党で構成する「欧州主義」政府が成立する。この場合、コンテ首相の続投は未知数。3.大統領が内閣の人選を行う「テクニカル政府となる。4.また、パンデミックに収束が見えないデリケートな時期である今、少ない確率であっても、すべての協議が物別れに終わった場合、春の『総選挙』も視野に入ります。

もちろん、フィーコ議長が連立各政党と協議を進める現在、閣僚ポジションを巡る波乱は想定内として、1番目のシナリオが最も有力です。ともあれ、右、左、中道の政党から、毎日さまざまな政府案が飛び交うとともに、「ここぞ」とばかりに、混乱で活躍するプロ政治家たちが入り乱れ、表面上はポーカーフェイスでも、収拾がつかない熾烈な攻防戦となりました。

この1年というもの、パンデミック情報を消化するだけで手一杯でしたし、イタリアの政治に久しぶりに落ち着いた空気が流れはじめた矢先でしたから、突然足元が崩れて先行きが見えない暗闇が訪れた際は、心底がっくりきたことを強調しておきたいと思います。

なお、フィーコ議長の各政党との協議、交渉が続く現在、状況はきわめて流動的なので、この項、おおよそ結論が出たところで、追記するつもりです。

追記)この項を投稿して1日も経たないうちに、連立各政党の交渉が決裂し、事実上連立政府は崩壊することになりました。最後の最後で、レンツィ元首相がテーブルをひっくり返し、フィーコ議長は大統領府に交渉の決裂、合意の可能性が低いことを報告。大統領は、即刻テクニカル政府の形成を宣言し、マリオ・ドラギ元欧州中央銀行総裁を招聘しました。しかし今のところ『5つ星運動』『同盟』『イタリアの同胞』が反意を表明しています。

追記)2月10日 『イタリアの同胞』以外のすべての政党がドラギ首相候補に賛意を示し、ほぼ、新政権樹立が確実になりました。詳細は別項を立て、短く投稿する予定です。

▶︎カオスに至るまでの経緯

RSSの登録はこちらから