極右勢力による妨害を、ものともしない『サルディーネ』たち
ところで、『6000サルディーネ』は政治ムーブメントではなく、あくまでも『Anticorpoー抗体』というスタンスを取っていて、ジャーナリスト、サンドロ・ルオトロの「君たちはアンチファシスト、アンチレイシストで、ポピュリズム、国粋主義のAntidotoー解毒剤なのか」の問いに、サントーリは「そうなるつもりはなかったけれど、結果的にはそうなってしまった。Webの世界観で社会に孤独が深まる中、僕らは身体性というものをとても大切に感じているんだ。細工ができるSNSのフォロワーではなく、実際に人々が、広場にリアルに集まることが大切だ」と繰り返しています。
もちろん、このような大がかりな動きに極右勢力が黙っているはずがなく、早速『同盟』のマテオ・サルヴィーニと『イタリアの同胞』ジョルジャ・メローニは、青年たちが「僕らは特定の政党には関わりない。ここに集まったそれぞれは多様なんだ」と言っているにも関わらず、『6000サルディーネ』の後ろには『民主党』が存在する、とSNSヴァイラルでも、メディアでも主張しはじめている。
「サルディーネの背後にいるのは、フランシスコ教皇(!)だろう。そして、パルマ(パルミッジャーノやプロシュートの産地ですし)をはじめとする、エミリアの産業と結びつく影響力のある広告代理店が手伝っているんだ」というびっくり説を語る教授が現れたり、サルディーネが暴力的な抗議運動を行なっているフェイク映像や「サルディーネ陰謀説」を語る、怪しげな動画も万単位で視聴回数を増やしています。そこで、『6000サルディーネ』の若者たちは、自分たちの存在を悪用されないため、ロゴマークを欧州連合に登録したのだそうです。
さらには、ボローニャのフラッシュ・モブに参加した、イタリアで重要な役割を果たしているカトリック教会運営のホスピス、『コットレンゴ』の修道女の方をSNS上で罵倒したり、『6000サルディーネ』のフェイクアカウントを作成して、偽のフラッシュ・モブの参加を呼びかけたり、自ら極右の国粋主義、人種差別主義を明確に宣言する高校教師が、「今日はわたしも『6000サルディーネ』のフラッシュ・モブに出かける。広場で生徒を見つけたなら、落第させるから覚悟しておきなさい。さらに夏休みもないと思え」とSNSに投稿して、大問題に発展。教師は教育省大臣から、ただちに停職処分を受けることにもなりました。
挙句の果てには彼らのメインアカウントをSNS上から自動凍結させたりと、できる限りの嫌がらせが続いています。彼らのアカウントが消えてしまった際は心配もしましたが、彼らの主張に、暴力的な表現が何ひとつないことは明白だったので、数時間で復活し、ほっと安心した次第です。
極右勢力がこのようにジタバタと騒動をしかけてくるのは、裏を返せば「いわしたち」の存在に恐れを抱いているからに他ならず、「僕らに恐れをなすなんて、サルヴィーニという人物は、意外と臆病なんだ、ということが理解できた」と、サントーリが自然体で話す様子に、エミリア・ロマーニャに関しては「勝負あり」と、個人的には見ています。もちろん、1月26日の選挙まで予断は許しませんが、現在のところの世論調査では、僅差ではあっても左派候補優勢という結果です。
それに万が一ではありますが、『6000サルディーネ』になんらかの背景があったとしても、いたって平和的、健全な動きですから極右勢力からとやかく口出しされる筋合いはありますまい。
「イタリアには左派がいなくなった」と言われて久しい昨今、こうして突如として、「左派の牙城」「パルチザンの中核」「77年学生運動の出発点」であるボローニャからはじまったフラッシュ・モブが、あっという間にイタリア中の広場を席巻し、共感を生んでいます。ひとつの広場から、こんな風に急速に社会が動き出すなんて、わたしにとってははじめての、わくわくするような経験です。
そうこうするうちに、『イタリア民主党ーPD』『5つ星運動』連立政府を悩ませていたイルヴァ鉄工所の問題は、解決はせずともアルセロール・ミタールの契約破棄は見直し、延期となり、「もはやこれまでか」と思われていた『5つ星運動』内の分裂騒ぎも、創立者ベッペ・グリッロの介入で、いったんは無事に収まったかのように見受けられます。
毎日のように、次から次に出現する揉め事で、連立政府不和の一件落着は遠くとも、とりあえずは様子見の空気が流れはじめたかもしれません。とはいっても、明日崩壊してもおかしくない状況ではあるので、油断は禁物ではあります。
ところで、『6000サルディーネ』のマニフェストがなかなか素敵だったので、末尾に意訳してまとめました。
12月14日に予定されているローマ、サン・ジョヴァンニ広場のナショナル・フラッシュモブの目標は60000人(!)。イタリア各地から送迎バスが用意されることになっています。もちろん、わたしも参加するつもりです。
12月15日には、イタリア全国で『サルディーネ』を企画したグループが集合して、はじめてのコングレスが開かれるそうです。
※12月1日のミラノでは、大雨の中、25000人が集まりました。
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