瞬く間にイタリア中に押し寄せた、アンチサルヴィーニの魚たち『6000サルディーネ』

Cultura Cultura popolare Deep Roma Società

 予想外の極右勢力の台頭とここに至るまでの経緯

政府が発足し、はじめの2ヶ月ほどはピースフルに、非常にうまく機能しているように見えた『民主党』と『5つ星運動』の連立政府でしたが、両党が些細なことで諍いを起こしたり、『5つ星』の内部の亀裂が表面化したり、「ひょっとしたら、『5つ星』は総選挙にもつれ込ませ、再び『同盟』と手を結ぶつもりなのではないか」との憶測が、巷を賑わす時期がありました。

イタリアの政治というのは、もはや3時間おきと言ってもいいほど、その力関係が刻々と変化し、側からただ見ているだけで、かなり体力を消耗します。

現政府が『環境』を政策の主役に据えていることもあり(最近になって欧州政府も、『環境』を政策の柱にするという宣言をしました)、一般市民、そして企業各社のエコロジーへの関心急スピードで高まりながらも、2020年の国家予算案は両党の見解が食い違い、すんなり決まらず足踏み状態が続いているうえ、マテオ・サルヴィーニが何かと横槍を入れてきます。現在は欧州連合に積み立てるEuropean Stability Mechanism-MESの拠出について『民主党』と『5つ星運動』、さらに『同盟』+『イタリアの同胞』が三つ巴で衝突する有り様です。

また、冒頭で書いた、欧州で最も規模が大きい鉄工所のひとつであるイルヴァの所有会社、アルセロール・ミッタルが突然契約破棄を言い出すのみならず、航空会社アリタリアの処遇がなかなか定まらないなど、次から次に連立政府には難題が降りかかってきます。

ちなみに、労働環境に大きな問題があり、働く人々の健康被害、そして地域の公害が深刻な問題となっていた鉄工所イルヴァと、2016年に契約したアルセロール・ミッタルは、鉄鋼生産過程でもたらされる公害を、大きく軽減する生産システムを保持しており、契約が破棄となるならば、働く人々の仕事と健康の保障、地域の環境問題、さらにはイタリア産業界に計り知れない打撃となります。一時は騒然となり、ターラントのイルヴァ本部に怒号が飛び交い、コンテ首相が従業員の人々が開いた集会に出向いて、直接話し合うという一場面もありました。

このような不安定な状況のなか、極右勢力がその勢いを取り戻したのは、10月19日、ローマサン・ジョヴァンニ広場に、ファッショ・ポピュリズムの名に恥じない70000人の人々を集めたメガ政治集会からでしょう。続く10月27日に開催されたウンブリア州地方選挙では、連立政府が擁立した候補に大差をつけて『右派連合』が大勝。総選挙で選ばれ構成されたわけではない、現連立政府にとって、大きな痛手となる選挙結果となりました。

具体的にいうと、地方選挙としては64.7%と非常に高い投票率をレコード。サルヴィーニの『同盟』が36.94%、ジョルジャ・メローニの『イタリアの同胞』が初の10%超えで10.4%、ベルルスコーニの『フォルツァ・イタリア』が5.48%、と『右派連合』及び市民グループが支持したドナテッラ・テセイが57.5%を獲得。現政府で連帯する『民主党(22.38%)』、『5つ星運動』(7.43%)が押した候補者が37.5%しか獲得できず、20%も差が開く結果となったのです。

この惨憺たる結果に、現政府には重たい緊張が走り、ひょっとしたら来年のはじめから次々に開催される予定になっているイタリア各州の知事選で、勢いに乗った『右派連合』がこのまま勝ち続けるのではないか、真っ赤(左派カラー)だったイタリア半島が、真っ青(右派カラー)になるんじゃないか、と悲観的な声も聞かれました。そのうえ大敗を期した『5つ星運動』が、「2度とPDとは同一候補を出さない」と宣言したことも、政府の分離を強調することにもなってしまった。

イタリア政党勢力マップ。赤が中道左派、青が中道右派、濃い緑が『同盟』、薄い緑は自治州。現在、右派が12の州を勝ち取り、左派は7州に留まっています。TG24.sky.itから引用。

多くの人々が恐れるように、『右派連合』がこのまま地方選で勝ち続ければ、現連立政府は、そう遠くない将来に崩壊せざるをえません。そして今の政況で総選挙が行われるのであれば、マテオ・サルヴィーニがまたもや主役に躍り出ることは、残念ながらほぼ確実で、万が一、それが実現し、再び弱い者虐め政策と暴力的な爆弾発言に見舞われるかと思うと、想像するだに気が滅入ります。

われわれが暮らす社会というものは、政治のあり方ひとつで、穏やかにも、愚かにも、暴力的にも、あっという間に大きく空気が変わることを体験したばかりなので、心配もひとしおでした。

また、ウンブリアにおける『右派連合』大勝を機に、新政府樹立以後、とりあえずはひっそりと息を潜めていたはずのサルヴィーニ・シンパ、ナチ・ファシストグループが活気づいたことも憂鬱に拍車をかけました。

マテオ・サルヴィーニご本人もそうですが、ナチ・ファシストグループの方々というのは、プロパガンダのツールが印刷物からヴァーチャルスペースへと画期的な近代化を遂げたにも関わらず、主張の内容そのものは50年前、いや戦前のファシスト時代からほとんど変化なく、むしろ、かつて練り上げられた極右思想より、さらに粗悪に、暴力的に、衝動的に単純化されています。

また、最近になって何軒か、アジトに武器を隠し持ち、ナチスのシンボルを至るところに飾っていたナチ・ファシストグループの動きがシークレット・サービスにより暴かれ、摘発されたことも心配な動きでした。

▶︎レイシズムをプロパガンダツールとする極右勢力

RSSの登録はこちらから