動き出した極右勢力
コンテ首相は、今回の経済改革政策会議に、野党である『同盟』『イタリアの同朋』『フォルツァ・イタリア』で構成される『右派連合』を「ぜひ一緒にイタリアを再構築しよう」と何度も呼びかけました。しかし右派連合は「リカバリー・ファンドを受け取れば、かつてのギリシャのように欧州監査委員会から管理されるだけ」と一貫して会議への出席を拒絶しています。
そして、Covidがいくらか収まってくると同時に、『同盟』『イタリアの同胞』と強い絆を持つ極右勢力が、ざわざわ、と動きはじめた気配も漂い、国内7州選挙を9月に控え、例のごとく終わりなき政治カオスの予感です。
たとえば経済政策会議の真っ最中、政権の中核をなす『5つ星運動』が、「ベネズエラのチャベス大統領から2010年に莫大な政治献金を受けていた」という、スペイン発のスキャンダルが巻き起こり、大騒ぎになりました。
どうやらシークレット・サービス経由で機密書類がスペインのジャーナリストの手に渡ったらしく、その書類の真偽調査がただちに開始され、今のところはフェイクニュース、という結論には一応達しています。しかし時期が時期だけに、常に波乱含みで綱渡りの連立政府を揺らがせる、意図的な妨害のように感じたのも事実です。
世論調査では、右派連合の総合支持率は多少下がったとはいえ、もし『総選挙』ということにでもなれば、過半数を得られる勢いがあります。具体的には『同盟』が24%、『イタリアの同朋』が16.3%、『フォルツァ・イタリア』が7.2%、対して『5つ星運動』が18%、『民主党ーPD』が20.4%となっています(コリエレ・デッラ・セーラ紙)。
そして、こんな状況下にあるときに、「もしコンテ首相が『5つ星運動』のリーダーとなるならば(コンテ首相は『5つ星』が外部から選出した人物で、メンバーではありませんから)30%の支持が得られる!」という世論調査(コリエレ・デッラ・セーラ紙)が報道されることになりました。
すると『5つ星運動』次期リーダーを狙うアレッサンドロ・ディ・バッティスタがたちまちに反発し、あわや分裂、という内紛が起こった。今年1月に『5つ星運動』から『同盟』に移党した議員が続出し、ディ・マイオ外務大臣が批判を浴びてリーダーを退いてからというもの、『5つ星』はいまひとつ結束できないと同時に、規約のひとつであった「議員経験は2期まで」というルールも揺らぎつつあります。
たとえばローマ市長のヴィルジニア・ラッジは、3期目となる (市長の前には市の相談役でしたから)2021年の市長選に意欲を見せ、ほぼ確実に出馬するとみられ、創始者であるベッペ・グリッロも賛成しているようです。しかし『5つ星』内部では「オンライン投票システム『ルッソー』で支持者の決議にかけるべき」という声がダヴィデ・カサレッジョを中心に上がりはじめています。
わたし個人としては、そもそも市民のための市民によるムーブメントですから、昔のルールに縛られることなく、時代に合わせて市民が望むように臨機応変に立ち回ってもいいんじゃないか、と思いますし、Covidで、ただでさえ不安定な時代、以前と同じルールに縛られて揉めることで、政権まで不安定になってしまうのでは意味がありません。
ところで、ごく最近の動きでちょっと気になるのは、フランスの『イエロー・ベスト』の明らかな亜流である、『オレンジ・ベスト』という元カラビニエレ大佐が率いる謎の集団が、突如として現れたことでしょうか。
SNS上で、なんとなく今までに知らなかったグループが形成されつつあり、そのグループが各種陰謀論と密接に関わっているようだ、とは考えていましたが、リアル市民運動として、ミラノ、ローマ、パレルモ、バリ、プーリアなど、大都市の広場に現れるとは予想していませんでした。
彼らの主張というのは、イタリア共和国憲法第1条を『イタリアは、Grande nord-ovest=大北西部、Grande nord-est=大北東部、Grande centro=大中央部、Grande sud=大南部、Grande Sicilia=大シチリア、Grande sardegna=大サルデーニャと6つの連邦よりなる連邦共和国である』に改変しろ、という極端な分離主義。
「だいたいCovid-19なんて、おおげさな作り話のようなもので、ヨガ(!)で治療できる類の病気だ。市民を恐怖に陥れて、徹底的に管理しようとするビッグブラザー=多国籍企業群による陰謀でしかない。しかるにセルジョ・マッタレッラ大統領を逮捕して断罪、ただちにわれわれ市民は解放されなければならない」
と「自由」と叫びながら、マスクの着用、ソーシャルディスタンシングを完全ボイコットする、奇想天外なものでもあります。彼らの抗議には、どの都市でも3000人ほどが集まり、この、風変わりな主張に賛意を示す人々がけっこう存在することに、「へえー」と驚くことになったわけです。
なお、このムーブメントには『5つ星運動』から『同盟』に移党した、サラ・クニアル上院議員が賛同していますが、そういえば彼女は、もはやネット上でも誰も語らなくなった「Covid-19ビル・ゲイツ陰謀説」に議会で延々と言及し、議員たちからも、メディアからも完全にスルーされたという経緯があります。
そして、「はて? サラ・クニエル・・・どこかで見たことがある議員だな」と一瞬考えて、ハッと膝を打ったのは、彼女が去年ヴェローナで開かれた『世界家族会議』に参加していた人物だったことでしょう。
『世界家族会議』といえば、スティーブ・バノン系列のインターナショナルな極右勢力と絆を結ぶロシア正教会、米国福音派、カトリック原理主義が大々的にプロモートする、「中世紀の倫理観の復活、女性蔑視、中絶反対、アンチLGBTQ、アンチリベラル」を訴える国際政治ロビーで(背後にはロシア帝国時代の欧州領土の復活計画があるとされます)、ロシア投資家の巨額の資金が動いている、とも言われています。
2019年には『同盟』関係者がロシアからの石油の不正輸入、収賄をめぐって逮捕され、そのトレードにはマテオ・サルヴィーニも深く関わっていた、という疑いも根強く残っている。この事件は、イタリアの『ロシア・ゲート』と呼ばれることになりました。
また、5月30日を挟む両日には、すでに世界で抗議が広がっていた#BlackLivesMatterのデモよりいち早く、『オレンジ・ベスト』、右派連合によるソーシャルディスタンシングを無視した政治大集会、さらにはウルトラズ、フォルツァ・ヌオヴァ、『三千年期のファシズム』を謳うカーサ・パウンドなどの極右グループが、乱闘も含める集会を行ないました。
いずれにしても、多くの犠牲に国中が涙を流し、家族の悲しみを日々共有するロックダウンを過ごしたイタリアですから、『オレンジ・ベスト』が主張する、あまりにリアリティのない物語を支持する人々は、よほどの変わり者です。
事実、Tg7の世論調査によると、『オレンジ・ベスト』を支持すると答えた人は2%、少しは支持してもいいかも、と答えた人は11%にしか過ぎません。今のところはイタリアの良識を信じてもよさそうだ、と、とりあえずは安心した次第です。
さて、相変わらず日々データが更新され続けるCovid-19の状況はといえば、確かに毎日確認される感染がぐんと少なくなり安定はしても、ロンバルディア州のデータには相変わらずムラがあり、各地では毎日のように複数のクラスターが確認される状況です。
ローマでも、最近になって高齢者の方々のリハビリ施設で一気に感染が広がり、看護師の方、入院していた方、その家族の方々、120名あまりの感染が確認されました。また、カトリックの教育機関や、モニタリングが続けられていた、困窮して住居を失った人々が約100人暮らしていた『占拠』スペースでも、少数ながらクラスターが確認され、ロックダウン後の気の緩みが指摘されています。
それでも重症となる方は、きわめて少なくなり、特設されたCovid病院が次々に閉鎖されはじめたのは嬉しいことです。
また6月18日には、ISS(国家高等衛生機関)が、2019年の12月に収集されたロンバルディア州、ピエモンテ州の下水サンプルから、すでにSars-CoV-2が両州に存在していた事実を正式に証明しています。これはRai3『Report』が3月20日放送で具体的に症例を提示しながら「イタリアには12月からCovidが広がっていた」と推論した報道を裏づける内容となりました。
一方、あまり過剰な期待をしてはならないワクチンに関しては、オックスフォード大学が指揮を執って、ローマ(Irbm-Advent team)のラボで研究が継続し、すでに臨床実験が進んでいます。そのワクチンへの投資として、ドイツ、フランス、オランダ、イタリアが1億8千5百万ユーロで合意。いまのところ成果は順調に現れており、今後の結果如何では、この秋にも1500万件のワクチンが得られる見通しだそうです。
もちろん、これはまだ楽観的希望の段階にしかすぎませんが、本当に秋のワクチン入手が現実となれば、まずはウイルスの脅威に最も晒される確率の高い医療関係者、高齢者を中心に接種されることになります。
▶︎イタリアにおけるレイシズムについて