ナチ・ファシストからイタリアを解放、戦後の民主主義を担ったパルチザンたち:A.N.P.I.と現在

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Interview: Fabrizio De Sanctis

●A.N.P.Iは現在のイタリアの状況をどう見ているのか

現状は非常に深刻だね。もちろん困難な状況は今にはじまったことではないが・・。つい最近、まさに憲法違反としか言えない『難民・及び国家安全保障法』、『サルヴィーニ法』と呼ばれるものが国会で成立しただろう? それはイタリアの市民を、いわばセリアA、セリアBと格付けするものでもある。イタリアで生まれてはいないが、今まで市民として暮らしていた外国人たちが、その市民権を失う可能性もある法律だ。これは差別以外のなにものでもなく、明らかにイタリア共和国憲法に反する内容だ。この憲法侵害である法律の成立も含め、現状は極めて深刻だというより他はないよ。

現政府の執行部に、ムッソリーニのファシズム的なボキャブラリーを引用するスポークスマンが存在し、市民のレベルに「差別主義」と、「ファシスト的価値観」を広く拡散しようとしている。少し前のイタリアでは、人前でファシスト的な価値観を主張することは、みっともない恥ずべき行為、と糾弾される風潮だったのに、現在ではどうやらその風潮は破壊されてしまったようで、たとえばバスの中や学校や仕事先など、われわれの日常に、その傾向が見かけられるようになってしまった。そして政治家の中に、ファシストグループに媚びるように目配せする者たちまで現れたんだ。それらのグループは、いわば本物の、ナチ・ファシスト特有の暴力性を持つ政治グループなんだが、まず、彼らがいまだに解体されずにいたことがなによりも問題だし、短期的に見るならば、おそらく今後も解体されることはないのではないか、と懸念しているよ。

そしてもっとも深刻なことは、ファシズム的な価値観をマス、つまり大多数の市民に流布しようと、彼らがあらゆる手段を駆使していることだ。万が一、マスのレベルがその価値観に明らかな合意を示せば、状況はさらに悪化する可能性があるんだ。したがってわれわれA.N.P.I.は、現状を極めて重く捉え、マスのファッショ化を阻止するため、激しい抗議運動を開始したところだよ。ここ数日の間に、アンチファシストのメガデモがイタリア全国北から南、ミラノ、ローマ、カターニャで巻き起こっているが、これもまた、10年前、20年前ならまったく考えられなかった頼もしく、新しい動きだ。今こそ力強く、迅速に動かなければならない時であり、われわれの闘争を市民たちのオピニオンにしなければならない。人々がファッショ化しないように全力で動かなければならないんだ。残念ながら、これが今のイタリアの状況だ。

●なぜ、今イタリアはファッショ化しようとしているのか

リアリティをいうなら、『ファシズム』は今まで、イタリアから消え去ったことはなかった。ファシズムの流れは、常にイタリアに存在し、たとえば70年代ファシストたちがクーデターを狙い、労働者たちの集会や列車や広場に爆弾を仕掛けただろう? しかもその実行犯たちのほとんどが、いまだに実刑を受けていない。つまり司法上、犯人が確定されていないという事実がイタリアにはある。

それでもその頃には、アンチファシストを是とし、市民からも大きな支持を受ける、たとえば『イタリア共産党』であるとか、『キリスト教民主党』という政党が存在していた。もちろんそれぞれの政党に大きな方針の違いはあったが、政党を構成する議員のほとんどがアンチファシストだった。ところが現在、明確にアンチファシスト、と主張する政党は存在しないじゃないか。今の状況が非常に危険なのは、マスのレベルで政治的に対抗できるアンチファシスト政党が存在しないことでもあるんだ。

戦後のイタリアを担ったキリスト教民主党は、多くのパルチザンによって構成された政党だったし、野党である『イタリア共産党』、『イタリア社会党』、『自由党』、『国民党』もパルチザンによるアンチファシスト政党だった。そしてそれらの政党の存在そのものが、過去の記憶を人々に思い起こさせる鏡であり、アンチファシストという価値観を、教育のレベルとして次の世代にしっかりと伝えることができていた。ところが、その政治が、ある時を境にラディカルに変化した。さらにさまざまな社会問題、経済危機、そしてテクノロジーのイノベーションを経て、いまや社会は大きく変わってしまったんだ。

変化してからのイタリアは、ごく一部の権力グループの独占支配となり、人々を搾取の対象にしていった。その独占支配の代表的な人物のひとりは、件のベルルスコーニ元首相だが、事実、彼が戦後はじめて、ファシズムへの肯定的な言及をしはじめた人物でもあるんだよ。ベルルスコーニの権力グループからは、マフィアとの関わりが指摘され、司法に裁かれた人物(デル・ウトゥリ)も存在するぐらいでね。そのベルルスコーニが所有するマスメディアグループのテレビ番組が、各家庭の中に入り込んでプロパガンダをはじめるようになり、今までのイタリアにはまったく見られなかった新しい風俗、つまりヌードの踊り子や、差別的なジョークを連発するといった番組が放映されるようになった。

そして、テレビによってこの時に根づいた風俗と価値観は、いまや30年もの間、イタリアの家族を侵食し続けているわけだが、この風俗のあり方が、それまで存在していたアンチファシストの大政党を壊滅させてしまうことになってしまったんだ。現在のイタリアは、と言えば、経済危機による困難な生活に疲れ果てた人々の怒りが社会に蔓延、その怒りが間違った方向、つまり外国人やジャーナリズム、さらには司法官に向けられようとしているが、これは非常に危険な状況だよ。

 

集会で演説するファブリツィオ・デ・サンクティス局長と、exパルチザン、ティーナ・コスタ氏

●A.N.P.Iとイタリア共和国憲法の強い絆

A.N.P.I.は憲法と緊密につながっているアソシエーションなんだ。そして『憲法』こそが、今までA.N.P.I.が解散しなかった動機であるとも言える。もちろん、イタリア国民が『自由』を手にするために、パルチザンの武装レジスタンスでどれほど熾烈な闘いが繰り広げられたか、その過去の記憶をしっかりと現代に伝えることは大切な仕事だよ。さらにファシズムはどのような条件、政治、経済、社会状況から生まれ、発展していったか、より正確に歴史を精査することも、A.N.P.I.の重要な課題でもある。しかし、A.N.P.I.にはもうひとつ重要な目標があるんだ。それは、イタリア共和国憲法の基本理念に反映される、パルチザンたちが共通に抱いていた価値観を、現実社会に実現すること

イタリアの憲法は、社会的な見地から見てもとても斬新でね。たとえば第3条には、性別、宗教、政治思想、人種において、市民は区別されることなく平等である という条文があるんだが、残念ながらその理念が現実社会に実現したことはない、と言っておこう。事実、今現在、『人種差別』が法律になるという現象が起こるほどなんだから・・。さらに第4条では、仕事の権利について明記されているのだが、現在の南イタリアの60%の若者に仕事がないうえ、仕事があっても自分自身、そして家族の生活を賄うための充分な給料が得られない、というのが現実でもある。

Art.3. Tutti i cittadini hanno pari dignità sociale e sono eguali davanti alla legge, senza distinzione di sesso, di razza, di lingua, di religione, di opinioni politiche, di condizioni personali e sociali, E’compito della Repubblica rimuovere gli ostacoli, impediscono il pieno sviluppo della persona umana e l’effettiva partecipazione di tutti i lavoratori all’organizzazione politica, economica e sociale della paese.(すべての市民は、性別、人種、言語、宗教、政治意見、個人的、あるいは社会的条件により差別されることなく、同等の社会的尊厳を有し、法の前において平等である。共和国の課題は、人間としての最大限の発展を妨げる諸々の障害を取り除き、すべての労働者の、国の政治、経済、社会機構への参加を実現させることである)

Art.4. La repubblica riconosce a tutti i cittadini il diritto di lavoro e promuove le condizioni che rendono effettivo questo diritto. Ogni cittadino ha il dovere di svolgere, secondo le proprie possibilità e la propria scelta, un’attività o una funzione che concorra al progresso materiale o spirituale della società.(共和国は、すべての市民の労働の権利を認め、この権利を実現するために必要な諸々の条件を促進(擁護)する。それぞれの市民は、個人が有する固有の可能性と選択により、社会の物質的、あるいは精神的発展を担う活動、あるいは職務を展開することが義務付けられている)

※法律用語に無知な由、一般的な言い回しで訳しています。間違いがありましたら、ご指摘いただければと思います。

2006年、そこでパルチザンたちは、最後まで生き延びたパルチザンとともにA.N.P.I.が滅んではならない、と考え、憲法がイタリアの社会に、現実として実現されるようになるまで、新しい世代にその想いを託して闘い続けることをオフィシャルに決定したんだ。憲法に明記された価値観は、レジスタンスから生まれ、市民が権利として勝ち獲り、『憲法』として批准されたものでもある。したがってA.N.P.I.の闘いは、イタリア共和国が見失ってしまった憲法の基本理念を、現実社会に実現するまで継続される。

現在、実際にレジスタンスで闘ったパルチザンは全国に4000人ほど存在しているが、やはり昔に比べると、だんだんに減ってきていてね。20年ほど前には600人ほどいたローマのパルチザンも、現在では60人になってしまった。だからパルチザンたちは、若い世代とともに闘うと決めたわけだよ。「あらゆる世代の、あらゆる人々とともに」異種混交で闘ったレジスタンス同様、現代をも闘い続けることに決めたんだ。パルチザンたちが憧れたジュゼッペ・ガリバルディに、彼らは実際に会うことはできなかったが、レジスタンスで闘い、生き延び、自由を勝ち獲った彼らとともに闘うことができるなんて、僕らにとっては幸運なことだよ。

いずれにしても、A.N.P.I.のメンバーになるには、ただ『アンチファシスト』であるだけで充分なんだ。だからA.N.P.I.には、民主主義者、社会主義者、自由主義者、共産主義者などが存在するが、アンチファシストとして、Unità : 一致団結し、連帯して闘う。そしてこの『一致団結した連帯』こそがレジスタンスに勝利を収めるための「隠された武器」でもある。パルチザンたちの一致団結があったからこそ、レジスタンスを市民レベルの運動に発展させることができ、蜂起を成功させ、多くの犠牲者たちに報いることができたんだからね。

そういうわけで、A.N.P.I.はアンチファストとしてわれわれと連帯する人々を、誰でも迎え入れるんだ。そして常にアンチファ・フィールドが分裂しないように注意を払っている。一致団結した連帯というのは、なかなか難しく、時に散漫になることもあるが、ある瞬間、再びこの強い連帯が磁石のように、たとえばある街やある地区で自然発生的に形成されることがある。ファシストたちが暴力を再現するようなことがあれば、イタリア人たちは、即刻一致団結、連帯すると思うよ。

▶︎現在のイタリアで広がるアンチファシズムの動き

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