内紛で揺れる『5つ星運動』と連立政府
さて、懸念の『5つ星運動』の状況はといえば、やはりあまり芳しいものではありません。
「左派でも右派でもない」と主張し、かつての『キリスト教民主党』を踏襲するスタイル(右、左を同時に抱える)をとる『5つ星運動』の、今回の選挙における大敗で、再びイタリアは『5つ星』以前の2極政治へ舞い戻ったと言われるようになりました。
現在の『5つ星運動』の支持率の低下は、2018年の総選挙からは信じられない状況であり、もしこのままの状況で総選挙が行われるなら、15%程度しか支持を集められないだろうことは、世論調査でも示唆されています。
とはいえ、『イワシ運動』の出現が『5つ星運動』の存在感を食ってしまった、あるいは代替の市民ムーブメントになるのではないか、と考えるのはまったくの短絡であり、ベッペ・グリッロやローマ市長であるヴィルジニア・ラッジが『サルディーネ』の広場を称賛したように、『5つ星運動』は、『イワシ運動』の出現を喜ぶべきだと考えます。
いずれも市民ムーブメントの体裁をとっているとはいえ、そもそも両者の出発点も、性格も、目的もまったく異なりますし、ファッショ・ポピュリズムの確実な防波堤となりうるのは、今のところ『サルディーネ』以外には見当たりません。
『5つ星運動』の、この急速な支持率低下の原因は、2018年の総選挙の時点で、ともに欧州懐疑主義を標榜する『同盟』と契約連帯政府を形成したことにはじまります。時を経るうち、とても協力者とは思えない、不意をついて襲いかかるサルヴィーニのスタンドプレーのせいで、一気に人気を奪われ、『5つ星』の支持率はみるみるうちに低下した。
2019年5月の欧州議会選挙で形勢が完全に逆転すると、『同盟』は突如として『5つ星運動』を裏切り、『右派連合』による政権略奪に向けて、即刻『総選挙』を訴えました。しかしながら、それがサルヴィーニの見事なオウンゴールに終わったことは前項に記した通りです。
2019年の夏の終わりに、その結果として、選挙を経ないで得られる過半数で発足した『5つ星運動』『民主党』政府は、コンテ首相の采配のもと、そもそも対立があった両者の憎悪はいったんは収まり、協力体制を構築したように見えた。
ところが、グリーンニューディールなど『環境』、『福祉』、『教育』に関して、『民主党』と『5つ星』の政策方針には重なる部分が多くあるにも関わらず、アンチシステム、欧州懐疑主義、ポスト・イデオロギー、ダイレクト・デモクラシーを原点とする『5つ星』の内部では、「既存の金融及び経済世界と深く結びつく『民主党』というシステムに同調することを『5つ星』は潔しとしない。われわれはオリジナルに戻らなければならない」との反発の声が多く上がるようになりました。
こうして、リーダーであるルイジ・ディ・マイオ外務大臣は「リーダー失格」の烙印が押され、集中砲火を浴び、矢面に立たされることになったわけです。
『5つ星』内部の分裂が顕著になるうちに、やがてひとり辞め、ふたり辞め、あるいは追放されるメンバーも現れ、現在までに30人近くの議員が『5つ星』を去り、議会の無所属グループ、あるいは『右派連合』に移動する事態となっています。2019年の大晦日前日には、教育・大学及び研究大臣だったロレンツォ・フィオラモンティまでが、「教育、研究分野に拠出される国家予算があまりに少ない」と激怒して辞任してしまいました。
『5つ星』のリーダー辞任に至るまで、ディ・マイオをバックアップしたベッペ・グリッロが、「政権にある以上、われわれはもはや昔の『5つ星』ではない。今後、ヴァッファ(くそくらえ!)のスピリットは少し後退させなければならない」と発言したことがありましたが、この発言は極右勢力が蔓延し、混乱した難しい国際事情を鑑みてのことだったのでしょう。そもそも現政府成立の旗振り役を務めたグリッロは、以来、『民主党』との協調路線を支持し続けています
わたしとしては、たとえ多くの反発を受けようとも『5つ星』の政策の肝である、たとえば現在十分に機能しているベーシック・インカムのさらなる充実を目指すなど、ひとつひとつの政策において初志貫徹で団結。教育と福祉、法の整備、厳しい脱税対策を実現してほしいと願っています。
ベーシックインカムをはじめとする『5つ星』の政策のいくつかは、確かに『民主党』とは対立していますが、根気よく話し合いを重ね、協調できる部分は協調し、まずは内部分裂を修復するべきです。『同盟』『イタリアの同朋』を押さえ込むために、また『民主党』の独善を修正するために、今のイタリアは『5つ星運動』を必要としています。
州知事選で大敗しようが、世論調査で支持率が下がろうが、少々議員数が減ったとはいえ、2018年の総選挙で獲得した議員数のほとんどを、『5つ星運動』はいまだ維持しているわけですし、コンテ首相の淡々とした采配は、予想を上回る見事さです。『5つ星運動』が外部から迎えた、2018年の選挙まで一度も政治の世界を知らなかった弁護士、そして大学教授のこの首相は、『民主党』からもヴァチカンからも厚い信頼を得ています。
イル・ファット・クォティディアーノ紙によると、現在、『5つ星運動』はコンテ首相派、ディ・バッティスタ派、ディ・マイオ派の3派に分かれており、さらにはシシリアのメンバーが『右派』として分裂しつつあると言います。『サルディーネ=イワシ運動』がイタリアの政治の空気を変えようとしている今、『5つ星運動』の内紛につけ込む、八方からの攻撃で衰退に向かうようでは、今までの支持者たちにとっても、あまりにも心許ない展開です。
にも関わらず、いったん制定した『高額議員年金の減額』が反故になるという出来事が起こったり、司法システムの改正案(長い裁判の間、被告が拘束されることなく、たとえばベルルスコーニ元首相のように、弁護士の介入が続くことで、結局判決が出ないまま無実となるケースがある、イタリアの特殊な司法システム)で他党(『民主党』から分裂した元首相、マテオ・レンツィが改正を強硬に反対。レンツィ一派が評決を棄権すれば、政府は崩壊します)と摩擦が起これば、逆上して「『民主党』が『5つ星』に従わなければ、この政府を崩壊させてもいい」という脅しをかけたり、広場での政治集会を呼びかけたり、『5つ星運動』は落ち着く気配がありません。
ベッペ・グリッロ、そして古くからの『5つ星運動』を支持していたジャーナリスト、評論家たちも、全面的に左派の流れに参加して、『民主党』との連立政府を継続させるべきだと主張していますし、『民主党』も「われわれには『5つ星運動』が必要だ」とはっきりと意思表示しているのですから、穏やかに話し合って妥協点を見つけていくのが最良のあり方のように思います。厄介な問題はマテオ・レンツィの一派ですが、彼らが総選挙を望んでいるとも思えず、政府を担うすべての政党が「いつ政府が崩壊しても構わない」という態度では、イタリアはいつまでも混乱したままです。
3月24日には、『5つ星運動』念願の上院下院議員削減の『国民投票』の実施が決定されたところですから、今は内紛や争い事にエネルギーを取られている場合ではない。
市井では、いまだ極右勢力が幅広く支持され、排外主義が横行し、市民がまっぷたつに分裂する現在、議員削減の『国民投票』で国民の支持を得た場合、その時点で総選挙となれば『同盟』『イタリアの同朋』で過半数の議席を獲得する、というシミュレーションまで出ています (コリエレ・デッラ・セーラ紙)。
『5つ星』の正念場は、イタリアの正念場にもなりえます。