『イワシ運動』効果が炸裂、投票率が倍になった州知事選とそれからのイタリア

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さすがにマンネリ化してきたサルヴィーニ・プロパガンダ

いずれにしても、選挙前1週間の『サルディーネ』たちのサルヴィーニ阻止の動きは目覚ましいとしか言いようがありませんでした。『同盟』が『民主党』攻撃のために政治利用したスキャンダルの舞台となったエミリア・ロマーニャ州のちいさい市、ビッビアーノにまで、サルヴィーニを阻止すべく大挙して出動しています。

そのスキャンダルと言うのは、ビッビアーノ市で未成年ソーシャルワークを一任されていたアソシエーションが、両親から虐待された(とされる)未成年の子供たちを、その意志をまったく尊重しないまま、両親から無理やり引き離し、ある種の器具を使ってマインド・コントロールしたうえで、知り合いに養育を一任。市の福祉予算をアソシエーションと養育を任された人物とで長年に渡って分配していた、という鬼気迫るものでした。

この非常に複雑でデリケートなスキャンダルは、もし報道された内容のすべてが真実であれば、許しがたく、厳しい処罰が必要ですが、現在はまだ調査の段階です。

そして、そのアソシエーションに児童福祉を一任していたビッビアーノ市長が『民主党』であったことから、事件が明るみに出た途端に一気に政治化『同盟』『イタリアの同朋』さらには『5つ星運動』(当時はまだ『同盟』と契約政府として連帯していましたから)が、事件を徹底的な『民主党』攻撃に利用する、という経緯がありました。

前述したように、いまだその事件の決着はついていませんが、『民主党』の市長は事件には直接関係がないとされるにも関わらず、サルヴィーニはキャンペーンの間中、繰り返しそのスキャンダルを攻撃。案の定キャンペーン最終日の政治集会の場としても、ビッビアーノを選んでいます。

「子供たちを虐待する『民主党』に、エミリア・ロマーニャは任せられない」、とアソシエーションの被害にあった人々を集会に募り、その体験談を背景に、いかに『民主党』が極悪で、『同盟』こそがビッビアーノの人々を救う正義であるか、支持を訴えています。広場には1000人あまりの人々が集まったそうです。

ところがその場所から数百メートルしか離れていない広場には、思い思いのイワシを持ち寄った『サルディーネ』たちが、なんと3000人も集まっています。このように『サルディーネ』の抵抗は、執拗で、徹底していました。

 

また、もうひとつのサルヴィーニの敗因としては、『インターフォン事件』が挙げられるでしょう。

この事件が起こったのは選挙の数日前のことでした。メディア関係者に囲まれたサルヴィーニは、ボローニャの郊外に住むチュニジア人家族の家に突然押しかけ、見ず知らずのお宅のインターフォンを鳴らした。

中から返事が聞こえると、おもむろに「お宅の家族がこの地区にドラッグを蔓延させている売人だそうだが、本当なのか。扉を開けて欲しい。話がしたい」と、とても元内務大臣の行動とは思えない、型破りなパフォーマンスをメディアの前で繰り広げたのです。

もちろんこの蛮行には、ただちにイタリア全国から「プライバシーの侵害。どんな証拠があってそんなことを。一般の市民をカメラの前で犯罪者扱いするなんて!」と非難が巻き起こり、チュニジアの大使からも苦情が寄せられる騒動にまで発展しました。

しかもその家族がドラッグ・ビジネスに関わっているという噂は根も葉もないでたらめで、何の確証もないままに、サルヴィーニが衝動的に思いついた迷走だということも判明した。

ヒューマンなコミュニケーションを訴える『サルディーネ』たちが現れた今、今回の『インターフォン事件』はサルヴィーニの思慮の欠如を改めて露呈し、「人を傷つけるだけの、こんな茶番はもうたくさん」といよいよ評判を落とすことになり、サルヴィーニがSNSに投稿したその時の動画は、プラットフォーム運営サイドから、規約に反するとして削除される事態ともなりました。

非常識な言動、品格のない行動で、人の気持ちを逆撫でし、傷つける、というレトリックをわざと使って市民を怒らせ(一方、喜ぶ人もいるわけですが)、社会のムードを撹乱させようと試みる政治家たちが、世界中あとを絶ちません。しかしそのレトリックにまんまと乗るわけにはいきませんし、繰り返されれば繰り返されるほど、われわれもまったく動じなくなる。揺るぎない確固とした声が大きくなれば、やがてその存在感は薄くなるはずです。

ともあれ、当選したボナッチーニ州知事は、そもそも彼が前知事の間も、経済、医療、福祉のすべてにおいて、質の高い政治が実現されていましたから、市民からの信頼は厚かったそうです。それでも今回の選挙では、農村部、山間部の票は『同盟』に集中するという結果となり、今後『民主党』は、その地域での信頼を取り戻す必要がある、と反省の声が多く聞かれました。

『同盟』候補者はといえば、そういうわけで、どこでもスタンドプレーのサルヴィーニの影に隠れ、目立たない存在のまま終わってしまった、という印象は拭えないでしょう。

▶︎『サルディーネ=イワシ運動』はこれからどこへ向かっていくのか

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