左派、右派と、勝敗が分かれたふたつの州の選挙
さて肝心の結果は、といえば、出口調査の段階から『民主党』前知事、ステファノ・ボナッチーニ候補の勝利がほぼ確実となり、選挙特番に出演中の左派ジャーナリストたちの表情には、抑えきれない歓喜と余裕が満ち溢れました。
2018年の総選挙以後に開催された地方選挙では、ことごとく『右派連合』が勝利を収めており、「このままイタリア中が右派に染まるかもしれない」という危機感が漂っていた矢先の吉報でした。
まだ投票がはじまったばかりの昼間から「前回の選挙の約2倍の投票者が詰めかけて、投票所に長い列が続いている」「投票所が混雑するなんて、まさにイワシ効果!」との速報が駆け巡り、「広場はいっぱいでも、投票所はガラガラ、ということもあるからね」という慎重な意見も、「広場はいっぱい、投票所もいっぱい」という事実を目の当たりに、たちまちに吹き飛んだ。
正確には、『民主党』候補、ステファノ・ボナッチーニが51.4%、『右派連合』候補、『同盟』のルチア・ボルゴンゾーニが43.6%、『5つ星運動』が直前に擁立したシモーネ・ベニーニ候補が3.5%という結果になりました。
ルイジ・ディ・マイオが選挙前にリーダーを辞任し、混乱がいまだ収まらない『5つ星運動』の状況については後述しますが、現政府の上院、下院議席の大半を担う『5つ星運動』が3.5%しか支持を得られなかったことは、『コンテ2』と呼ばれる連立現政府の今後にとっての、大きな心配要素ではあります。しかし一概には『5つ星』を責められない状況もあるのです。
そもそも『5つ星運動』は今回の州選挙に候補を擁立しない方針だったにも関わらず、内部の激しい反発と、サポーター・オンライン投票システム『ルッソー』の評決で、事前に何のオーガナイズもできないままに候補者を立てざるをえない状況に追い込まれ、しかもあまりの内部分裂で、応援もキャンペーンもほとんどできず、こうなることは、はじめから予想されていました。
選挙直前にディ・マイオがリーダーを辞任したのは、選挙の敗北の責任という形ではなく、あくまでも内部の裏切りと反乱だということを強調したかったのだと思います。事実、辞任の会見は「恨み節」とも言える、歯切れの悪いものでした。
ちなみに『5つ星運動』の、この内紛と分裂の混乱のせいか、今回の選挙では、『5つ星』の支持者の約3人に2人が『民主党』候補に投票したという結果にもなってしまいました。
同日、カラブリア州でも地方選が開かれましたが、こちらは『右派連合』から『フォルツァ・イタリア』の擁立候補、イオラ・サンテッリが55.3%と、『民主党』候補の30.1%を大きく引き離して大勝しています。
カラブリアに関しては、ほとんど『同盟』は関与せず、『フォルツァ・イタリア』が独自にキャンペーンを張って返り咲くことになったので、今後は『右派連合』内部の力関係に、多少の変化があるかもしれません。また『5つ星運動』は、そもそも強い影響力を持っていたはずのカラブリアでも、7.3%しか支持を集めることができませんでした。なお、カラブリアの投票率は44%、とエミリア・ロマーニャには及ばずとも、従来よりはかなり高い数字となっています。
いずれにしても、『5つ星運動』の存在感がまったくなかった今回の地方選挙では、左派V.S.右派、という『5つ星』以前の2極対立の構図に戻ったことは否めず、『民主党』がいくらか持ち直したとはいえ、『5つ星運動』が内紛で混乱している現在、万が一、国政選挙が実施されることになれば、『右派連合』が政権を獲るだろうことは、ほぼ明らかです。
排斥主義を謳い、人々の憎悪と恐怖を煽るプロパガンダと、巧みで単純で面白く、市民との間に距離を作らない(かのように演出されたファッショ・ポピュリズムで)イタリア・ファーストなサルヴィーニの演説に、残念ながら、多くの善男善女がいまだに魅力を感じています。
今回は、『イワシ効果』がフルに発揮され、サルヴィーニを制することができましたが、これからカンパーニャ州、プーリア州、トスカーナ州など、次々と重要な州知事選挙が控え、サルヴィーニは早速キャンペーン開始予告を発表していますし、同じく極右政党である『イタリアの同朋』の人気もじわじわと上昇しつつあるため、過信は禁物です。
直近の世論調査では、『同盟』の支持率は多少下がったとはいえ、相変わらず30%を保ち、同じく『右派連合』の極右政党『イタリアの同胞』は10%を超えています。
▶︎『サルディーネ=イワシ運動』の熱意と行動力