ロシア、米国、中国、欧州連合:列強入り乱れるイタリアと『世界家族会議』

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一方、『同盟』のマテオ・サルヴィーニ副首相は、今回の中国主席イタリア訪問の、調印にも、晩餐会にも参加せず、「中国が自由市場だなんて言わないでくれ」と距離を置きました。

サルヴィーニは、その後も中国との合意を牽引した『5つ星運動』を批判、攻撃していましたが、中国との合意に絶対的に反対なのであれば、断然優位な立ち位置から「連帯契約政権を解消する」、ぐらいに騒ぐはずであり、絶対反対にしては、どこか控え目で芝居がかった、いつものサルヴィーニ劇場という印象でもありました。それに今回の調印で、八面六臂の活躍をした産業発展省次官ミケーレ・ジェラーチが、かねてからサルヴィーニと深い親交がある、『同盟』寄りのエコノミストであることは覚えておきたいと思います。

加えて、今までは緩やかな歩みだったイタリアと中国が、今回急速に接近した理由のひとつとして、去年実現した、ヴァチカンと中国の国交回復も関係があるのかもしれません。

マルコ・ポーロの冒険をはじめ、イエズス会宣教師マテオ・リッチなど、そもそもカトリック教会と中国の交流には長い歴史があり、リッチと同じくイエズス会出身のミッショナーでもあるフランチェスコ教皇は、中国訪問を熱望していると言われています。カトリックにおける最高権威である教皇が、中国政府の介入を許し、教会と共同で選んだ司教を認めると譲歩、融和的な態度を鮮明にし、台湾や香港、中国本土の「隠れキリシタン」をはじめ強い批判も巻き起こりましたが、カトリック信者の世界総数とほぼ同じ人口を持つ中国との国交は、教皇が政治的剛腕を見せた大きな決断でもありました。

個人的には全体主義や管理社会はまっぴらだと考えているため、中国の強権的な恫喝志向と少数民族の人々の権利の蹂躙に関して、世界が目を瞑らずにどしどし発言できるような開放的な交流ができれば、こんなに嬉しいことはない。そういえば、かつて『5つ星運動』は、中国の少数民族弾圧を強く批難していたはずですが、今回その声は、『5つ星』内からは一言も聞かれませんでした。また、左派の論客である哲学者が「地中海では、何万という難民の人々が溺れ死んでいるというのに、全国の港を閉じたイタリアが『人権』を語る資格はない。もはやイデオロギー的には、中国となんの違いもない国になってるからね」と極めてシニカルな発言をしたことも強く印象に残っています。

国連からも警告を受ける、降って湧いたように現れた『ピロン法案』

そういうわけで、まずは中国とイタリアの関係を追いましたが、とりあえずここでは便宜上、『同盟』+バノン系欧州右派+トランプ大統領の米国 VS.『中国』としておきましょう。そしてここからは、当初の予定から驚くほど遠い場所まで連れて行かれた、懸念の『ピロン法案』について、追ってみたいと思います。

『同盟』と『5つ星運動』の連帯政府が樹立するやいなや、どこか呑気にイタリア社会に繰り広げられていたジェンダー議論に、強烈な緊張を走らせたのが「LGBTの結婚はわが国では絶対に認めない。家族というのは、男女で構成されたものだけだ」とアルカイックに言い放った、『同盟』の家族省大臣、ロレンツォ・フォンターナ、さらにはヴェローナ市議会が唐突に議決した『中絶法』廃止(法的効力はありません)、今後国会の審議が予定されている離婚を巡る『ピロン法案』でした。これまでのイタリアの社会では、女性たちの権利が充分に認知されているとは言えずとも、このような極端に現代を逸脱するような、ホモフォビアでセクシズムな価値観が法律化されそうになることはなかった。

そして『ピロン法案』の全貌が明らかになった途端、憲法学者、弁護士、心理学者、政治家たち、家族と未成年の問題に関わる機関、そしてもちろんフェミニスト・ムーブメントが猛烈に反発したわけです。この法案は『同盟』のシモーネ・ピロン上院議員を核とする議員グループ、Vita famiglia e libertà (家族生活と自由)がデザインし推進するもので、国連からも「女性と子供の権利を侵害する」として、懸念の手紙が送られてくる事態となっています。

ところで、この『ピロン法案』がデザインされた背景は、というと、現在の離婚法では「親権を失った男性側が子供を失う精神的負担、さらに経済的な負担が大きい」とピロン一派は捉えており、両親が離婚した未成年の子供に「両親の揃った子供の権利(bi-genitorialità)」を保証するとともに、父親、母親の精神的、経済的負担を平等にする、とまことしやかな男女平等を主張。しかし統計的に見ても、離婚を巡る経済的な負担は、総じて女性の方がはるかに大きく、生活が圧迫されることが明らかになっています。つまり、『ピロン法案』はリアリティからかけ離れ、離婚を巡り女性がさらなる経済的負担を負うようにデザインされている。

近年、結婚するカップルが減少し、逆に離婚が増大傾向にある現在のイタリアでは(一方、le unioni civiliー同居して、生活をともにするが結婚という形式を取らないカップルが激増)、母親だけに未成年の子供を委ねるケースは8.9%に過ぎず、両親ともに交代で子供の育成に関わるケースが89%と、わざわざ両親の男女平等を謳う『ピロン法案』をデザインするまでもない状況でもある。また、南米を含む西側諸国では現在、Feminicidio(女性殺人)が大きな社会問題になっていますが、イタリアも例にもれず、およそ2日1人の女性が、夫あるいはパートナーによって殺害されているという統計が出ています(女性が巻き込まれた殺人事件の犯人が夫、パートナーであるケースが82%)。つまり男女関係においては、女性が男性から暴力を受けるリスクが、予想以上に高いということです。

 

Non Una di Meno (『たった一人も犠牲を許さない』は、イタリア全国にネットワークを持つ、最もエネルギッシュなトランスフェミニストグループ)の11月のデモの際も、『ピロン法案』が盛んに議論されました。

 

では、この状況下で『ピロン法案』が具体的に謳っている内容と、危惧されるのはいったいどのようなことかを、各メディアを参考に、概要を追ってみたいと思います。

▶︎離婚・別居に際して、必ず調停機関のコンサルテーションを受けなければならない 

現在も裁判所に提出するための書類を作る、離婚のための調停機関は存在しますが、1回行けば、比較的容易に書類を受け取ることができるようになっています。しかし『ピロン法案』のデザインによると、調停機関への訪問は義務とされ、1回目は無料ですが、それ以降は有料となり、最大6ヶ月、離婚を巡り、未成年の子供に関する詳細を含め、コンサルを受けなければなりません。コンサル料が1回100ユーロとして、10回訪問すれば1000ユーロとなりますから、これでは離婚・別居の準備段階での経済的、時間的負担が大きすぎる、と強く批判されています。特に男性よりも統計的にも収入が低い女性にとっては大きな負担となる可能性があります。

また、離婚で大きなストレス状態にあるカップルが、何回も有料の調停機関に通わなければならない、このシステムに乗る形で、一種の離婚ビジネスが成立することも考えられる。さらに12歳以上の未成年であれば、カップルとともにそのコンサルに参加しなければならず、そもそも離婚過程のカップルは戦争状態にあるわけですから、その調停に子供を巻き込むことは、彼らにさらなる心理的ストレスを与え、トラウマになるのでは?と案じられてもいます。調停の間は別居もできないため、戦争状態のまま最大6ヶ月は両親もともに同居しなければならず、要するに『ピロン法案』は、「そう簡単には離婚も別居もさせないぞ」という、状況を作ろうとしていると考えられます。

▶︎子供と過ごす時間は、両親ともに平等とする 

これは日中に子供と過ごすだけでなく、夜眠っている時間も含まれ、子供が両親と過ごす時間は、父親、母親ともに同じ時間数となることを義務づけ、子供達は最低でも、父親、母親いずれとも1ヶ月に12日間(昼夜)は過ごさなければなりません。しかしDVが原因で離婚となるケースもあるわけですから、たとえパートナーや子供に暴力的な父親(母親)であったとしても、母親(父親)は無条件で子供を父親の元で過ごさせなければならないということにもなりかねません。

▶︎両親を持つ、子供の住居の権利 

未成年の子供は、父親、母親、いずれかの親が住む、ふたつの住居(いずれも家を所有していなければなりません)から、通い慣れた学校、病院、あるいはスポーツクラブなどに行かなくてはならず、したがって父親、母親は子供が未成年の間は、自動的に近くに住まざるをえなくなります。子供が未成年の間、離婚しなければならないほどに関係修復が困難になったカップルが近くに住むことは、心理的ストレス及びトラブルの原因になる可能性があります。

▶︎子供の養育費に関して、両親が平等に負担しなければならない 

基本的に離婚することで、父親、母親ともに、経済的な困窮に陥るケースが多いことは統計でも明らかですが、現状では、特に女性に経済的な負担が大きくなることことが問題になっています。一般的にイタリアの女性のサラリーは、男性より低い傾向にあり、さらに出産を挟んで失職した、あるいはパートタイムで働く女性にとっては、重い負担となる。また、子供と過ごす時間、経済的な負担を両親ともに平等にする、というこの考えは、未成年の子供には選択の意志が認められず、まるで家族の『財産』、『物』のように捉えているのでは? と強く非難されています。

▶︎子供がいずれかの両親の親権を認めない場合 

どちらかの親が、未成年の子供を母親、あるいは父親のいずれかに会わせることを拒絶した場合、あるいは子供がいずれかの親に会うことを拒絶した場合は、司法が介入します。この項のデザインは、80年代にアメリカ人の心理学者リチャード・ガードナーが提唱した「激しい葛藤の末に離婚したカップルの子供が、いずれかの両親を拒絶するのは、片方の親が強く影響した精神疾患」という説に基づいているそうです。

しかしガードナーの学説は、米国アカデミア界から確固たる証明となる症例がない、という理由で却下されており、事実、子供が片方の親に会いたくない、という理由として、その親の暴力的な態度によるトラウマであることが裁判所でも多く証言されている。『ピロン法案』では、たとえば子供が父親(あるいは母親)を拒絶した場合、母親(あるいは父親)を「子供に暴力的に影響した」として法的に処罰され、子供を親元から離し、特別な施設で教育する、としています。

このように、概要だけでもかなり現実離れした『ピロン法案』ですが、なんといっても『女性殺人』が大きな社会問題となり、DVが離婚の原因となるケースも多くあるイタリアで、女性や子供への暴力、虐待を助長する可能性がある法律が審議されること自体が非常識です。

今のところ『5つ星運動』はLGBTの人々の権利を認め、『中絶禁止法』にしても『ピロン法案』にしても、「女性がいったん獲得した権利を反故にする、まるで中世を彷彿とするような法案は認めない」と宣言しており、その約束が滞りなく履行されることを願うほかありません。

「女性がキャリア志向となり、出産や家庭よりも仕事を選ぶ現代は、家族の堕落」と主張し、伝統的な父権社会を取り戻し、何より女性を家庭に押し込め、ひたすら出産させようとする(極右グループまで、女性に出産を促すキャンペーンをはじめました)、そして女性が男性に抗議すれば罰を下し、LBGTの人々の存在、そしてその権利を認めない。

このように、まるで『魔女狩り』のごとく、アンチ離婚、アンチゲイ、中絶反対を叫ぶ『同盟』のカトリック原理主義者たち、そして彼らと強い絆を持つ極右グループが、しかしいったい何を根拠にそんなことを言いはじめたのか、なぜ今になって突然、ぞろぞろと湧き出してきたのか。

彼らの主張する諸々が、極端に現実離れしていることを常々不思議に思っていましたが、ここにきて、『同盟』メンバー、ウルトラカトリック、極右グループ関係者たちがこぞって出席する、ヴェローナで開催される第13回『世界家族会議』の真相が続々と明らかになるにつれ、「えええ!そんなに大きな国際レベルの話だったの!」と仰天したわけです。ちなみにヴァチカンは、『世界家族会議』からはかなりの距離をとっており、教皇も「本質的には、(カトリックの教義として)間違っていないが、メソッドに問題がある。宗教は政治に距離をとるべき」という主旨の発言をし、逆にウルトラカトリックたちは、現在の教皇と反目していると言われています。

宗教原理主義者たち(と国際政治)の祭典『世界家族会議』

わたしが『世界家族会議』の名前をはじめて知ったのは、『同盟』と複数のウルトラカトリックのグループに、「ロシアからルーブルの雨が降り注いでいる」という、レスプレッソ誌のスクープでした。もちろん、どうしても原理主義を主張したい、というのであれば、それは個人やグループの自由であり、尊重されるべきですが、政治家たちがその動きに加担し、政治目的で多額のお金が動いているとなると、話は別です。そこで、レスプレッソ紙の記事を読んだあと、毎年世界のどこかで開催されている『世界家族会議』という集会は、実は一種の政治・経済ロビーのような役割も果たしているのかもしれないな、とは考えていた。

中国主席がイタリアを去ってからというもの、ヴェローナで『世界家族会議』が開催される日が近づくにしたがって、伝統的な男女から構成された自然(?)な形の家族しか認めないという、彼らの有り様に反対するジャーナリストや左派政治家たちが、「マスキリスト、ミソジニー、ホモフォビア、セクシズム、中世紀の集会」と形容して、『会議』を攻撃。「中世の何が問題なんだ。中世には現代よりも深い知恵があったのだ」と反論する『会議』関係者や賛同者たちと、TVの討論番組などで盛んに議論を繰り広げた。しかし双方の話がまったくかみ合わず、何か腑に落ちない、平行線のまますっきりしない議論のように感じられました。

 

 

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