スパドリーニ広場の難民の人々と支援団体Baobab

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テルミニ駅に続きローマで2番めに大きなティブルティーナ駅。最近改修され、近代的なガラスの建造物となったその駅の、ガランと人通りの少ない東出口にある閑散としたスパドリーニ広場が、ここ数ヶ月間、自発的な市民ボランティア難民サポートグループBaobab (バオバブ)の、緊急難民センターとなっていることを新聞各紙が注目し、たびたびローマの人々の話題に上ります。難民の人々の亡命、移民のための法的な手続き心のケア温かい食事、そしてサッカーの試合まで、そのサポートのきめ細かさと人間味のある対応で、高い評価を受けるバオバブを実際に訪ねてみました(写真はクーパ通りから強制退去させられる以前のバオバブのシンボル的壁画)。

この数年の間に、アフリカ各国からたくさんの難民の人々がローマを訪れ滞在、街の風景は以前とは、ほんの少し違う印象になりました。2、3年前までは北アフリカ、つまりマグレブ、あるいは東欧からの移民の人々が主に集まっていた公園も、今ではアフリカ人の若い青年たちが目立ち、数人で音楽を聴いたり、寝袋にくるまってベンチで昼寝をしたり、空を見上げたり、携帯電話に見入っている光景に遭遇します。

また、いつの間にかローマ中心部の舗道に、50人近い人々が大きく布を広げ、中古の靴や洋服、ラジオや携帯電話やバッテリー、サングラスやアクセサリーなどを売る即興「市」が立つなど、ローマにいながらエスニック・ストリートが満喫できる、という状況ともなりました。この市で中古品を売っているのも、つい最近まで主にマグレブの人々、あるいはルーマニア人、アフリカ人、ロムの人々でしたが、最近ではアフリカ人の青年たちの数がぐんと増えています。

もちろんこの、許可なしの即興『市』は違法なため、警察の車がサイレンとともに近づいて来ると、誰もが皆大慌てで、布の四方を器用に結び風呂敷状に荷物を抱え込み、電光石火で消え去ります。包み損ねた靴の片方や洋服が、ポツリポツリと所在なく、どこか寂しそうに残る舗道を、制服を着た数人のカラビニエリが歩き回り始めると、人が行き交ういつもの風景に戻るというわけです。

が、それも束の間、カラビニエリが立ち去るや否や、またどこからか、商人たちがひとりふたりと現れて、布が敷かれ、みるみるうちに商品が並ぶ。近隣の人々は、公共の狭い舗道に「市」が立ち、黒山の人だかりができ身動きが取れず、通行の妨げになることに加え、「市場の胴元は地元の犯罪集団なのでは」、あるいは「売られているのはひょっとしたら盗品かもしれないじゃないか」と疑いを募らせ、度々抗議が巻き起こります。

確かに数年前、移民やロムの人々のための公共予算を、マフィアとローマ市当局者が大挙してつるんで食い物にしていた収賄事件で、驚くほど大勢の逮捕者を出した、という経緯を持つローマ市ですから、住人の人々の懸念は「当たらずとも遠からず」なのかもしれません。また、行き場のない、あるいは働き口のない移民、あるいは難民の人々の弱みに付け込んで、いかさま商売や売春、ドラッグビジネスに引き込む、闇に蠢く犯罪ネットワークが存在することは想像に難くなく、折にふれ、テレビ討論番組などでも問題視されます。

 

しかし実際のところ、最近よく見かけるこの即興市が、一体どのようなシステムになっているのか、わたしには情報を得る伝手も、状況を分析する知識もありませんし、ただ通行人として、なるべく自然に、しかし注意深く観察しながら、その場を通り過ぎるにとどまるということになります。今までにわたしが観察するところ、なかには手練れた古株らしく、眼光鋭く采配を振るっている輩もいますが、中古の靴や雑貨を売っている多くの若い青年たちは、屈託なく、乱暴なところもなく、行き交う通行人には意外と気を使っているように見受けられます。

突如として自宅のある建造物前の舗道に「市」という異景が出現し、驚いた近隣住民の抗議を理解もしますし、もちろん、その背後に本当に犯罪集団が存在するのであれば、即刻、一網打尽に検挙されるべきだとも考えます。しかし、この歴史的なエクソダス下において、行き場なく、ただ増え続ける移民、難民の人々に他に生き抜く手段なく、自然発生的に「売れるものはなんでも売る」という「市」を街角に形成せざるを得ないのなら、それもしかたがないのではないか、とも思うのが正直なところです。

また、移民など外国人が多く集まる地区では、夜半ナイフを突きつけられて金品を巻き上げられる、あるいは商店やバールの強盗騒ぎが起こるようにもなりました。そこでやはり近隣の人々の外国人に対する抗議が巻き起こりますが、起こる事件のすべてに外国人が関与している、というわけではなくとも、「イタリアに起こるすべての不幸は増加する外国人のせいだ」とことさらに強調、人々の憎悪を煽りたい勢力、例えば極右政党である『北部同盟』『カーサ・パウンド』などが騒ぐことも確かです。最近、空き巣に入ろうとした東欧からの移民を狩猟用のライフルで撃って過剰防衛、そしてそれは正当防衛だ、と主張する人々に北部同盟は同調、抗議デモにも参加しています。

いずれにしても、陸路からイタリアに入ってきた移民、そして地中海を渡ってきた難民の人々、わたしを含む(日本人もextracomuntariー法的には欧州圏外からのすべての移民の人々と同じ立場です)外国人すべてが、貧しくか弱き、純情な善人であるはずがないのと同様、イタリア人すべてが心やさしき、おおらかな善人というわけでもなく、イタリア国内における異人種間の葛藤には今のところ終わりが見えません。

しかしそんな状況下においても、わたし個人は可能な限り、地中海を渡って欧州を訪れる難民の人々を、ひたすら受け入れるべきだと思っています。この街はそもそも古代ローマ帝国の、荒れすさんだ廃墟を風景に持つ街であり、善悪も平和もバイオレンスも平等に飲み込みながら、何事もなかったかのように、ただひたすら鷹揚に時を刻んできたわけですから、現在の緊急事態をもいつのまにか飲み込んでしまい、歴史に同化してしまうに違いないとも考えます。

さて、ようやく本題に入ることにして、ローマでは有名なバオバブ市民ボランティア難民緊急センターを訪ねる前に、とりあえずローマの難民の人々の現状を調べてみることにしました。

アフリカから欧州への移動への道程。オレンジが東ルート、ブルーが西ルート、紫が海路。(インターナショナル誌より)

現在までの難民の人々の状況

2016年11月6日の時点で地中海を渡り、あるいは陸路でイタリアへ渡ってきた難民の人々は175,339人(地中海経由:168,542人)。史上最高の人数を記録しています。その難民の人々のうち137,555人の人々は公的機関であるCas(緊急受け入れセンター)に暫定的に滞在、13,963人がCda(難民の人々にまず職を探したり住居を提供する受け入れセンター)Cara (国際保護ー亡命を希望する人々の受け入れセンター)へ、760人がホットスポット(下船ののち、まず最初に難民の人々が通過する身元確認センター)、23,061人がSprar( Cas、Caraを経た政治亡命者を、地域に溶け込むよう働きかけをする避難申請保護機関)の管理下にある、という報告が、AGI(イタリアン・ジャーナリスティック・エージェンシー)の記事にありました。ローマが属するラツィオ州は、その難民の人々の13%を引き受けるロンバルディア州に次いで、9%の人々を受け入れているのだそうです。なお、2017年1月6日のil sole 24ore紙では、2016年にイタリアに上陸したのは、最終的には181,436人に達したと報道されました。

一方、「国境なき医師団」の、亡命、避難、難民申請を希望している難民の人々の調査によると、現在、少なくとも10,000人の人々が、非公式にイタリア国内に滞在していることが報告されています。ここ数年間、国際保護を求める人々が急激増加し、Sprarのシステムが機能していないために、本来の受け入れシステムから漏れ、不法に滞在せざるを得ない人々です。この10,000人の人々に関して、「国境なき医師団」は2タイプに分類、イタリアの国境を渡ってまだ間もなく、法的な受け入れプロセスを待って、滞在する場所がないままに道や広場など公共のオープンスペースで夜明かしをしなければならない人々、あるいは何年かイタリアに滞在しながら、法的プロセスを受けることなく、社会にも交わることができず、廃墟やコンテナ、あるいはバラックに滞在する人々であることを指摘しています。いずれのケースにおいても、その劣悪な生活環境が心配されています(ラ・レプッブリカ紙)。

ローマに関して言えば、現在ローマに滞在する5,000人を越す難民の人々は、2017年の終わりには11,000人に膨らむと予想されていて、ローマに存在する上記のSprarが、1日消費税込み35ユーロ(この金額はネット上で一人歩きし、難民の人々が高級ペンションに滞在し、35ユーロが無条件に給料のように支払われている、などとさまざまなデマが飛び交っています)でサポートしている人々は2,768人に上ります。しかしそのサポートには屋根のある滞在場所は保証されていません(コリエレ・デッラ・セーラ紙)。

県の管轄部署が、8000人以上の人々のためにローマ市内、郊外に滞在できる場所を探して入るそうですが、受け入れプロセスが不十分なまま、対応が遅れ、日々、混乱が膨らむという状況です。また、そもそもローマは難民の人々の目的地である北欧州へ行くための通過点でしたが、それぞれの国の国境が閉じられつつある現在、イタリアに残留する人々が多くなったのも一つの要因と考えられます。

バオバブ・エクスペリエンスが活動するティブルティーナ駅、スパドリーニ広場

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