ローマに女性の市長 Virginia Raggi

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MoVumento 5 stelle(五つ星運動)が、今回のイタリア統一地方選挙でこれほどの躍進を遂げ、現政権であるPD(民主党)が惨敗するとは、正直、思っていませんでした。まず、19日に行われたローマの決選投票では、市の相談役の経験があるとはいえ、まったく無名の弁護士、ヴィルジニア・ラッジが、PD候補者ロベルト・ジャケッティ32.03%に対し、67.17%という記録的大差の勝利。ローマ市では史上初めての女性、さらに37歳という最年少の市長が生まれることになった。

MoVumento 5 stelle(5つ星運動:以下、M5sと表記します)は、人気コメディアン、ベッペ・グリッロとITエキスパート、ジャンロベルト・カサレッジョの協力で生まれた、ネット市民政治活動から発展した政党。2013年のイタリア総選挙では、予想に反して下院630議席の109議席、上院315議席の54議席という驚異的な数の議席を獲得し、現在のイタリアの国政において、PDに次ぐ第2勢力となっています。当時、欧州各紙だけではなく、ワシントン・ポスト、フィナンシャル・タイムス(FTは今回も早速書いていますが)をはじめとするインターナショナルな主要新聞がM5sに注目し、ポピュリズムの危険性をも含め書きたてたので、いまや世界でも有名なイタリアの市民ーつまり政治の素人たちが形成する政党となった。このM5sについては、もはや語り尽くされた市民政治運動なので、ここでは概略を述べるにとどめます。

M5sの出発点はそもそも2005年、コメディアン、ベッペ・グリッロがはじめたブログに遡ります。過激な暴露記事や、世界のリアリティを歯に衣を着せることなく書いた、そのグリッロのブログそのものが、よりよい世界の構築のために意見を述べ合い、テーマを議論、提案する『Social network Meet up(ソーシャル・ネットワーク・ミートアップ)』という発想で発展。短期間に直接民主主義を旨とするヴァーチャル市民政治活動にまで育ち、政党を立ち上げるに至りました。右も左もなく、政治思想とはまったく無縁、伝統的な政党色を排除し、現在でもイタリア国内の既存の大政党と連合することを完全に拒否。政治戦略、各選挙の候補者を含め、あらゆる事項をネット上でM5sの支持者の投票により決定する、という特殊な形態を持つ、いわばヴァーチャル民主主義とも呼べるポピュリズムを核としています。したがって基本的に物理的な本部を持たず、M5sの支持者それぞれがネット上で交流するヴァーチャル・コミュニティにより政党が維持されている。名称の五つ星は、水、環境、交通、発展、エネルギーをシンボライズしています。

そのMeet upから発展したヴァーチャル政党が2011年のイタリア地方選で、それまでまったく政治経験がなかった普通の市民たちを候補に擁立し、多くの議席を獲得、ネットから飛び出して現実の政治活動を始動することになった。ここで一気にイタリア国内の注目を集め、2012年にはグリッロ、カサレッジョがM5Sを『政党』として登録、2013年のイタリア総選挙に向けて準備をしはじめています。選挙結果は前述したように大勝、イタリアの大きな政治勢力のひとつとして確固とした地位を獲得したわけです。

 

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TUNAMIツアーとして、ベッペ・グリッロとジャンロベルト・カサレッジョがイタリア全国をキャンペーンした際には、どの都市にも驚くほどの人々が集まった。写真はミラノのドゥオモだが、ローマではサン・ジョバンニ広場で集会が行われ、テレビで中継もされた。

 

ポピュリズム、民主主義、合法性、アンビエンタリズム(交通網の整備と環境保全)、非競争主義、アンチマテリアリズム(反物質主義)、非ユーロ主義(ユーロ離脱を主張)、非政党主義(腐敗した伝統的政党の否定)と、『アンチシステム』、『アンチキャピタリズム』を掲げるこのM5sは、ベッペ・グリッロのユーロ離脱、移民排斥などの度重なる過激な発言で、さんざんメディアに叩かれ、時にはファシスト、フォークロア、とまで呼ばれます。しかし一方、国政、市政に、普通の市民から躍り出た議員たちのなかには、例えばアレッサンドロ・ディ・バッティスタやロベルト・フィーコなど、短期間にめきめきと政治力を発揮しはじめたスターも生まれている。

今年の4月、ベッペ・グリッロとともにM5sを設立したITエキスパート、M5sの真のIdeatore(発案者)であり仕掛け人ともいわれる、ジャンロベルト・カサレッジョが脳腫瘍で亡くなったときには、アイデアの中枢を失い、M5sの今後を危ぶむ記事が多く報道されましたが(新聞によっては、希望的観測も含め)、少なくとも今回の地方選では、支持者たちの杞憂は見事に打ち破られることになりました。ちなみにノーベル賞受賞者である演劇人ダリオ・フォーは設立当時からM5sの強力な支持者、ご本人は辞退しましたが、一時は著名法律家ステファノ・ロドタと共にM5sが推挙するイタリア大統領候補としても名が上がったこともあります。

わたし個人としては、正直なところ、M5sの掲げる政策のいくつか、特に移民の人々の排斥傾向に大きな疑問を感じていますし、ユーロ離脱の主張にもリアリティがないように思っています。また、党首ベッペ・グリッロの過激な言動や行動を「ちょっとやりすぎ?」と思うことが、たびたびあるのも事実です。ユーロ離脱に関しては、ギリシャ・デフォルト危機の例を見ても分かるように、EU緊縮策に国民投票でNOをつきつけ、アンチヨーロッパ、アンチユーロを主張していたギリシャ市民も、土壇場には守りに入り、ユーロ離脱を選ぶことはなかったわけだし、現在のイタリア国民が離脱を熱望しているとも思えません。いずれにしても、今までは、あくまでカウンターであったからこそ、グリッロも好き勝手なことを言えたわけで、イタリアの大都市を統括する市長をM5sが多く輩出した現在となっては、今までのようにはいかず、活動の質が多少変化するのかもしれません。

とはいえ、M5sという、「アンチキャピタリズム」を掲げるインターネットをベースにした市民政治活動の大躍進という現象そのものに関しては、非常に興味深いと思っています。特にカサレッジョがベッペ・グリッロの知名度とともに仕掛けたM5sのネット世代の若者たちへのメッセージの浸透力、いわゆるデジタル・ストラテジーの見事さには目を見張る。「ベッペ・グリッロのブログは、めちゃくちゃ面白い」という話を大学生たちが話しているのを聞き始めたのは2008年ごろから。イタリアのネット世代の若者たちは、不正と嘘と不公平がはびこる社会、そして世界にすっかりうんざりしていました。しかしそれから数年の間に、そのブログが市政、国政の場に現実に議員を送り込む大政党に発展するとは考えもしなかった。ベッペ・グリッロ自身も急激なこの膨張を『ミッション・インポッシブル』と表現しています。

そういえば2013年のイタリア総選挙の際、M5sが大躍進を遂げ、大量に議席を獲得した際、当時イタリアの大統領だったジョルジョ・ナポリターノが「これが民主主義というものだ。市民がM5sを選んだのだ」と発言した際には、「なるほど、これが民主主義なのか」と深く納得した次第です。つまり、市民の多数決で政治を作るのが民主主義というものなのだ、と改めて身近に実感した。当時、イタリアデフォルト危機の煽りを受けたマリオ・モンティ政権の緊縮策で、大きな犠牲を払わざるを得なくなった市民の憤りは沸点に達していました。

ところで今回のイタリア地方選では、ローマだけでなく、そもそもイタリア共産党が強大な力を持っていた、常に左翼地盤であったトリノ(フィアットの本拠地で労働組合組織が強く)でも、決選投票でM5sのキアラ・アッペンディーノが、当確であったはずのピエロ・ファッシーノに大差で逆転勝利。産業都市トリノでも若い女性市長が誕生している。ナポリでも、アンチ・レンツィアーノ(反レンツィ現首相)のルイジ・デ・マジストリスが当選、かろうじてミラノが2.4%の僅かな差でPDが獲得し、ベルルスコーニ系、マテオ・サルヴィーニ系の中央右派は大都市からはまったく姿を消しています。イタリアの市民は、中央右派、現政権の中央左派、伝統的な政党政治には、すっかり幻滅している、という現実が浮き彫りになった。

 

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トリノ新市長となったキアラ・アッペンディーノ。

 

「わたしは絶対M5s、ヴィルジニア・ラッジに入れるよ。はじめっからM5sに決めているんだから。だって、いまだに右だ、左だって騒ぐだけでローマの政治は何も変わらないからね。変わるどころかどんどんひどくなっている。互いをファシストだコミュニストだって罵りあうだけで、彼ら、肝心なことは何もしないのよ。だいたいいまどきコミュニストなんて何処にいるって言うの? ローマでオリンピック? オリンピックなんてローマに必要ないよ(2024年のオリンピック候補地にローマは名乗りを上げている)。オリンピックに使うお金があるんだったら、まず郊外の貧困と移民の問題、マフィアの撲滅に使ってほしいし、大学の設備も充実してほしい」

そう語ったのは、決選投票前日に、音楽のライブで一緒になったネット世代の20代の大学生。ベッペ・グリッロのブログで育った世代なので、以前からのM5sの強い支持者で、選挙ではM5sの候補者にしか投票したことがない、と彼女は言っていました。

 

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ローマ新市長 ヴィルジニア・ラッジ

 

「各メディアはエポックメーキングなことだと騒いでいるけれど、ローマはどうしようもない状態だったからね。本当にエポックメーキングな選挙であってほしいと願ってるよ。マフィア・カピターレなんていうスキャンダルで、政治家と犯罪組織が癒着するだけ癒着して、何年間も市民の税金を吸い上げていたり、どこもかしこもゴミは散らかり放題だし、若者に仕事はないし、郊外は犯罪の巣窟だし、交通網はいい加減だし、ローマはイタリアの首都なんだからね。わたしは毎日、このエディコラで商売しながら、ここ10年、ローマがどんなにひどい状況に変化したか、そのリアリティをこの目で見てきたんだから。一縷の望みを託して、わたしはラッジに投票したよ。だめでもいいじゃないか。彼女を試してみる価値はあるよ。何もしないで黙っているよりは、なんとかして風穴を開けなくちゃ」

近所のエディコラ(新聞スタンド)に新聞を買いにいくと、スタンドを仕切る熟年の、インターネットの世界にはあまり深入りはしていないだろうと思われる女性も、ラッジに投票したと語っていました。つまりM5sは、ネットの世界から短期間に市民全体へ拡大し(党首であるベッペ・グリッロは、過去にペナルティもあり、本人が出馬することなくM5sの広告塔に徹していますが、「メディアは嘘をつく」とほとんどマスメディアには露出しません)、共感を得続けているということです。また、スーパーマーケットのレジで、後ろに並ぶ20歳代前半のファッショナブルな青年たちが、M5sの話をしていたので、「投票した?」と聞いたところ、「当然。M5sに投票したよ」との答え、するとすかさず、レジを打っていた30歳代の男性も「僕もM5s」と答えてくれました。

 

※ローマ市庁のあるカンピドリオ広場で、PD、M5sの候補者それぞれの主張合戦が決戦投票の二日前に行われた。

 

もちろん、「合法性、正直さ、透明性」を謳って当選したヴィルジニア・ラッジ新市長に批判的な人々も大勢いて、M5sは「メディア受け」する候補を出してきた、衆愚、政治のド素人、M5sは所詮ヴァーチャルコミュケーションでしかなく、ヒューマニティというものを分かっていない、滑稽で、熟考のない政策、すべて机上の空論、浅すぎる、ラッジはベルルスコーニに近い法律事務所で働いていた弁護士なんだぜ、などという厳しい声も、決選投票前の2週間、周辺で聞きました。しかしながら今回の選挙で、左右両政党ともマフィア癒着、というスキャンダルにまみれた泥だらけのローマとはいえ、67%!という予想をはるかに上回る得票率で、彼女は大勝利をおさめた。まさにジャンヌ・ダルク現る、という空気です。

また、投票結果が明らかになるにつれ、「今回の地方選の結果は、市民が『アンチシステム』を望んでいることを物語る結果になりました」と、TVジャーナリストからは、何度も『アンチシステム』という言葉が繰り返され、そもそもカウンターである『アンチシステム』のコンセプトが、ローマでは新市長誕生とともにメインストリームとなったことが印象づけられた。M5sの推進する、ユーロ離脱などの政策が、市政においてどこまで主張されるかはまったくの未知数であり、ローマのような視界不良で隙間だらけの都市で、M5sが主張する『合法性』が行き渡るかどうかも分かりません。そのうち別のカウンターが騒ぎはじめる可能性もあります。

しかし政治と犯罪組織の大がかりな癒着が暴かれたマフィア・カピターレの発覚以来、ローマは黒雲に覆われていました。事件との関連を否定し続けた、当時市長だったPDのイグナチオ・マリーノは、海外で私的な散財に公費を使ったことも手伝って、不信任を突きつけられローマ市長を辞任。その後長きに渡って市長不在のまま、内務省の公共安全対策機関の幹部であるフランチェスコ・パオロ・トロンカが市長代理を務めるという、堅苦しい管理で、先が見えない、デカダンな空白状態が続いていたところです。

確かに今回当選した新市長、ヴィルジニア・ラッジは『メディア受け』する、若くて美しい女性ですが、ローマ市民は決して彼女の外見や話題性を重視したわけではなく、彼女が属する政党であるM5sの衰えない勢い、既存政党への反発、政治の新しい風向きに期待を寄せた。わたしもとりあえず、彼女の若さと情熱に期待したいと考えます。

さて、「誰がやってもローマは変わらない」と諦める市民も多く、投票率も約50%とかなり低かった今回の選挙戦に、彗星のごとく現れた、このラッジ新市長はローマ北部の郊外に7歳の息子と住む民事の弁護士。ラジオ局ディレクターでM5Sの活動家であるご主人とは、ほかの恋愛を巡って離婚の危機が取りざたされていて、ご主人も自身のブログでその事実を認めながら、新市長誕生にお祝いのメッセージを送っています。メディアは私生活も『透明性』などと揶揄していましたが、ローマの市民は、彼女のプライベートにはまったく関心を示すことはありませんでした。

その、現在別居しているご主人が、彼女にベッペ・グリッロのブログMeet upに参加することを勧めたことから、2011年にM5sに参加。2013年にはローマ市のM5sの市の相談役として選ばれ、イグナチオ・マリーノ任期時代に市政に加わり、学校、そして環境問題に取り組んでいます。今回の市長選に関しては、2月末、候補を擁立するためのM5sネット投票に立候補した200人のなかから47人がセレクトされ、さらに繰り返された投票で選ばれた。ラッジは今回新市長に当選するまで、条件を満たしていないという理由でWikipediaにもその名が掲載されないほど無名でした(Wired)。当選が決まってからようやく、WikipediaでもVirginia Raggiで検索できるようになっています。

ここ数日、ネットを検索するうちに見つけたのは、2014年の12月、マフィア・カピターレが発覚した際、ベッペ・グリッロのブログに、ラッジが出した声明。なかなか攻撃的で強く、熱意のある決心です。

「マフィア・カピターレが明示したのは、ローマでは、既存の政党で真の政治は行えない、ということだ。政治を行うのは他ならないローマの市民たち、朝5時に起きて、バスに乗って仕事へ行く人々、ちいさいグループを作って、行き届いた保育園を探すお母さんたちであるべきだ。イタリアで最も多くの税金を払っている商店を営む人々、自由業の人々、職人の人々は、市政からは何の助けも得られていない。ローマの政治は美術館、公園、中心街、郊外と、あらゆるすべての場所で行われなければならない。誰かがわれわれの背後で、ローマを消滅させようとしている。今こそ、われわれが勝利を取り戻す時だ。それは大変な困難を伴うに違いないし、そのことは百も承知だ。しかしわたしは怖れない。怖れる者たちは、ローマがこのままでもいい、と思っている者たちだ。なぜ、ローマはパリやベルリンのようなメトロポリスに戻ることができないのか。ローマが生まれ変われないはずはない。ローマは世界の都市に戻ることができるはず。今こそわたしたちの歴史を取り戻す時だ」

ラッジ新市長を含めM5sに属する市の相談役はすべて、M5sのイメージを壊すような事態を招き、辞任に追い込まれた場合、巨額のペナルティを払うという契約にサインをしています。その契約には、重要な行動を起こす場合は、ベッペ・グリッロのスタッフに前もって相談することも含まれているそうです。

 

※勝利直後のプレスカンファレンス。日本人のジャーナリストまで駆けつけた、といくつかの新聞が書いていました。以下、意訳します。

「まず、最初に、ここに来てくださってありがとう。感謝します。ここにいる人々と、大切な瞬間を分かち合いたいと思います。今日、今晩、ローマ市民が勝利をおさめました。重要なポストにつくために、わたしを信頼してくれたすべてのローマ市民に感謝します。5年の任期が終わるまで、その信頼を保つよう前進していくつもりです。また、この数ヶ月、一緒に活動してくれたすべての候補者にも感謝します。さらにローマの市政で一緒に働くことになる、当選者すべてに感謝します(M5sから29人、ローマ市相談役が当選)。この瞬間こそが、歴史的な反乱へと続く瞬間だと感じています。ローマ市にはじめて女性の市長が誕生した、これは男女平等の機会であり、わたしはChimera(キメーラ:頭と体がライオンで、もうひとつの頭が山羊、尻尾が蛇の神話上の動物、非現実的な夢)でもあります。M5s、ベッペ・グリッロ、そしてジャンロベルト・カサレッジョにオマージュを捧げなければならないでしょう。何年もの間、プロジェクトを継続して前進させ、今まさに、それが正しかったことが明らかになりました。わたしはローマ市民、わたしに投票しなかった人々をも含め、すべてのローマ市民の市長になるつもりです。そしてそれが市長の仕事だと思うからです。20年もの間、悪政が続き、マフィア・カピターレを引き起こしたローマの市政機構に、合法性と透明性、そして思慮をもたらすために働きます。(略)選挙キャンペーンの間、他の政党からつまらない攻撃を受けてきましたが、あらゆる政党の政治家が良識をもち、正直にオープンに対話し、問題を解決していくことを望んでいます。彼らが良識を持ち、ローマ市民のために政治をしていくことを望みます(後略)。

ところで「合法性、正直さ、透明性」、「新風」を吹かせ「古い政党政治に優しい革命」を起こすと主張した、このラッジ新市長の、具体的な公約はどのようなものなのか、ここでいくつか挙げてみます。ローマ市政においてM5sは「ユーロ離脱」のような極端な政策は主張せず、市政の整備、市民の生活の正常化が主だったものでした。

まず、特筆すべきは、M5sのそもそもの主張である水の完全公共化。ローマは古代から質の高い水に恵まれた都市で、その水のおかげで二千年もの間、生き延びてきたわけですから、人々にとって、なにより大切な資源であるには違いありません。実際、街中にある噴水から、絶え間なく水が迸り、水の豊かさが何より印象的な都市です。現在、その水道の管理は、Aceaという民間エネルギー会社が市政とともに行っていますが、ラッジ新市長は、その『水』を完全に公共の管理に戻すと、何度かインタビューで答えています。しかしAceaは7000人もの雇用者を抱える、株式市場でも優良と見なされる安定した大企業。もちろん、水は本来市民のものであり、企業による私物化はありえない、とわたしも賛成し、そうあることが理想的だと思いますが、現実的に現在のシステムを破壊し、完全公共化することはなかなか難しそうです。ラッジの発言後、Aceaの株は大きく下げています。

オリンピックの開催候補に関しては、「ローマの問題はオリンピックではない。市民と話していて、一度もオリンピックの話を聞いたことがない。市民が必要としているのは、確実な交通網であり、学校であり、障害者の生活の問題を解決することだ。まず市民に必要な事項をひとつひとつ解決することが大切で、わたしはオリンピックにプライオリティは置かない」とラッジ新市長は選挙前最後のテレビ討論で断言しています。PDは2024年のオリンピック推進を表明して落選。おそらくラッジ新市長は市民投票を行い、オリンピックに関して最終決断をすると考えられています。

また現在、ローマ市が抱えている借金130億ユーロに関して、新市長は詳細を追及する構え。「ローマの市民は自分たちが払った税金が、いったい何に使われたか、知る権利がある」と、市の予算の用途はこれからすべてオンラインで発表されることになりそうです。その他、ロムの人々の国勢調査をし現状を把握、ロムの子供たちを学校に通わせ、ロムの大人たちはローマ市民と同じように働くことで規定の税金を収めてもらうようにする、また、郊外から中心街への交通網としてロープウェーを作る、など実現が難しそうな公約もあります。

環境問題、交通の問題、ゴミ問題と難題が山積みのうえ、郊外の問題、市政と癒着した建設業者、犯罪組織をはじめとする魑魅魍魎が跋扈するローマという都市を、大きな政治経験のないラッジ新市長が統括していくことは、かなりの精神力と腕力を必要とする、と思いますし、各新聞も辛辣に、彼女が立ち向かうことになるローマの現実を書いていますが、それを理解していてもなお、ローマの市民がまったく無名の若い女性を市長に選んだということは、いままでの政党政治への決定的な不信に他なりません。どう転ぶかわからない、ローマ市民の大きな賭けでもあります。

また、現在第1党であるPDは、今回の地方選で深刻な内紛を明らかにしました、元首相ダレーマをはじめとする、レンツィ現首相と対立し、首相の座から引きずり下ろそうとするPDの反レンツィ勢力の議員たちが、一回目の投票が終わってラッジ優勢と見るや否や、自党候補のジャケッティを無視して、ラッジ応援に回るという現象も起こった。10月には政治改革に関する国民投票を控えているにも関わらず、政権を握る政党がこんな状況では、今回の地方選が、国政を揺るがす火種になるやもしれません。

ラッジ新市長の任期は5年。選挙が終わってからが本番、彼女の評価はこれから決まります。また、「これから国政を獲りにゆく」と語るベッペ・グリッロのM5sにとっても今後の政治活動において、ローマ市政は絶対にはずせない正念場です。未来のローマがどのように変化していくか、あるいは市民の空振りに終わるのか、注意深く観察したいと思います。

いずれにしてもマドリッド、バロセロナ、パリ、ストックホルムと欧州の大都市で女性の市長が続々と誕生していることはとても嬉しいことです。女性にはどしどし頑張ってほしいと思っています。

追記)6月23日の英国国民投票で、ありえないはずだったBrexitが、今日24日に現実となり、欧州は大荒れです。統一地方選で大敗したイタリア最右翼Lega nord(北部同盟)のマテオ・サルヴィーニはこの時とばかりに、イタリアもこの流れに続く、と声明を出しています。なお、ベッペ・グリッロは、Brexitに関して投票前、英国EU残留が好ましいと発言していました。欧州で繰り返されるテロリズム以降、フランスではマリーヌ・ルペンのFront Nazionalの動きが活発化し、欧州ではにわかにポピュリズムの台頭が顕著になっています。

 

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