参考 : ジョルジャ・メローニ新政権 : 首相の下院議会における初スピーチが示唆するイタリアの方向性

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メローニ首相スピーチ後半

●年金、貧困問題に柔軟な解決を目指す。社会不安を増大させている生活に困窮している人々への政策としては、フランチェスコ教皇の「貧困は過保護主義で闘うものではなく、人間の尊厳への扉は労働にある」という言葉を引用して、(『5つ星運動』の政策である)生活困窮者、失業者のためのベーシックインカム(RdC)を非難。真に働けない人、困窮した年金生活者、障害を持つ人々、シングルマザーへの援助を約束しながら、労働できる人には、職業訓練、仕事を見つける援助をすることに言及。また、労働中の事故で、犠牲になった人々への補償を約束。

現在、RdCの支給を受けている人は、全国で919916人存在します。最新のカリタスの調査によると、貧困層と呼ばれる人々が、イタリアには550万人も存在し、人口の9.4%に達しているそうです。一応今のところ、RdCは2023年の国家予算案には組み込まれる予定になっていますが、政府は労働市場の需要と供給を見極めて、現在支給を受けている人々に仕事のオファーをし、それを1度でも拒絶した場合は受益権を剥奪するなどの厳罰を検討中です。

しかしながら、そもそも仕事が見つからない、あるいは働いていても最低賃金が基準に達さないケースが多い南イタリアなどでは、大きな反発が起こる可能性があります。RdCの受給者には、働いているにもかかわらず、生活に困窮している人々も多く、パートタイムの労働者を含め、3人に1人は月収1,000ユーロ以下、23%の労働者が、単身者のRdCの最高額基準である780ユーロを下回っているという現状があり、さらに政府が「働く能力がある」と見なす受給者の10分の3は労働市場への適合が難しい、60歳以上の人々が53000人、50~59歳の人々が135000人となっているそうです。

●特殊な技術教育も必要だが、まず労働市場のダイナミズムを理解した学校教育、大学教育が国家を富ませる未来のための戦略資源だ。人間は資本(capitale)だ。富裕層の若者は、フラット化した学校教育を補うだけのチャンスがあるが、資本のない若者たちは能力が発揮できない学校教育によってダメージを受けている。イタリアは若者の国ではなく、われわれの社会は若者たちの未来に無関心だ。若者たちが教育や仕事から自らを引き離す現象が起き、ドラッグ、アルコール、犯罪に引き込まれる緊急事態であり、パンデミックで事態は悪化した。われわれは若者の成長のために対策を講じる。芸術的、文化的な活動、社交性を育み、健全な人間性の育成のためにスポーツを推進する。教師の自己犠牲と才能を信頼し、十分なサラリーと保護を約束し、ふさわしい学生には奨学金を支給し、名誉貸付け(il prestito d’onore ー入学して3年後から返済を開始できる保証なしのローン)を奨励する。161年前の3月17日、リソルジメントの若い英雄たちによって統一されたイタリアは、その時代のように、今日の若者たちの情熱と勇気で再建されるはずだ。

ここで、なぜリソルジメントの英雄たちが唐突にスピーチに出現したのか、まったく不明ですが、このスピーチの後、現在のイタリア共和国は、パルチザンのレジスタンスによって建国されたのだ、との意見が相次ぎました。リソルジメントはイタリア共和国の前身である、イタリア王国の由来です。

●若者たちの関心が自然環境を保護することにあることは十分に理解しており、それを受け止める。欧州保守思想の偉大なマエストロのひとりであるロジャー・スクルトンの「エコロジーは、現代を生きる者、過去に生きた者、未来を生きる者をつなぐ、最も活力ある手本なのだ」という言葉を引用。文化、伝統、精神性を守るために、先祖代々受け継いだ自然を守ることに、保守主義者ほど納得している者はいない。われわれがある種のイデオロギーとしての確信犯的環境保護主義者と違うのは、環境、経済、社会のサステナビリティを組み合わせながら自然環境を守りたいということだ。市民、企業と共にグリーンな社会を作っていく。

新政府が原子力発電所の開発、あるいは研究に着手する、と断言していることは見逃せない政策のひとつです。

●若者たちが関わっている(政治活動という)宇宙を、わたしは誰よりも知っている。若者たちがどのような政治思想を主張しようとも、人生にとって素晴らしい訓練の場だ。わたしはスティーブ・ジョブスの名言『Stay Hungry, Stay Foolish』に『Stay Free』を加えたいと思う。人間の偉大さは自由意志にある。

前項に記したように、大学生のアンチファシストグループの抗議集会で武装警官が暴行を働いたり、何ひとつ問題が起こっていないレイブを解散させ、即座に厳罰に処する「レイブ禁止法」を立案したり、メローニ首相が主張する自由は、われわれが考える自由とは次元が違いました。コメディアンが「あなたたちは自由にしなさい。わたしは武装する」とのジョークを飛ばしていましたが、まったくその通りの展開です。

●おそらく、最も大切なのは家族だ。2021年に出生率が最低を記録したイタリアで、将来の人口の動きに合わせたGDPを創出するために、経済的、そして文化的に重要な家族を社会の中心に置き、そのために数々の手当、若いカップルが最初の家を買うローンを数々の支援を用意し、女性の雇用にインセンティブを支給する。イタリアは、家族間の世代を越えた同盟が必要であり、家族を支柱とし、息子たちと祖父母、若者と高齢者間の絆を深めなければならない。

●モンテスキューの「自由とは、あなたが他のあらゆる善を享受するための善である」という言葉を引用して、自由こそが、真の機会主義社会の基盤であり、中道右派が、市民や企業の自由を制限することはない、と断言。公民権や中絶法を含めて、われわれが何を目指していたか、選挙キャンペーン中に誰が真実を語り、誰が嘘を言っていたか、現実を見てみようじゃないか。

●自由こそが民主主義の基盤。自分は、ファシズムを含む非民主主義的な政権に一度も共感したことはない。1938年の「人種法」は最低の法律だ。20世紀の全体主義の恐怖は半世紀以上も欧州を引き裂いた。その恐怖と犯罪は正当化できない。

メローニ首相は、ファシストとの関連を、完全に払拭したいところでしょうが、残念ながら19歳の時に、ムッソリーニを称賛していた事実は、動画の拡散で世界中の人々の知るところです。

●イタリアの民主主義的右翼活動に身を置くことで、若い時から自由の香り、歴史の真実を渇望、あらゆる形の横暴、差別を拒絶することを知った。それは、アンチファシズムの名のもとに、罪のない青年が殺害された政治的暴力に荒れた暗黒の時代(鉛の時代)にも、常に太陽の光のなか、共和制のもとに行動してきた女性たち、男性たちのコミュニティだった。その長い死別の哀しみは、市民戦争の憎悪を長引かせ、イタリアの民主主義的右翼が望んできた平和化を遠ざけた。自分が属していた団体(イタリア社会主運動 MSI 青年部:青年戦線)は、イタリア中道右派の共通のアイデンティティ、自由民主主義の価値を体現し、あらゆる形の人種差別、反ユダヤ主義、政治的暴力、差別と闘っている。

『鉛の時代』がどのような経緯で創出されたかを知る者にとっては、詭弁に思えるというか、複雑な感想を持つ発言です。さもアンチファシストグループが殺人鬼のような言い方をしていますが、極左テロリストとアンチファシストはまったく異質の存在であり、国家、さらに海外の諜報と共謀して大規模な無差別テロを起こしたネオファシストグループ(Ordine Nuovo)は、彼女が所属していたイタリア社会運動(MSI)の幹部により創立されたことを忘れるわけにはいきません。

この発言については『5つ星運動』の上院議員で、パレルモの元検事総長であったロベルト・スカルピナートが疑問を投げかける形で不信任演説をしています。

「ファシズムが、単純な政治体制ではないことをあなたは知っているはずだ。それは政治体制が崩壊した後も、ネオファシズムとして生き残った専制主義イデオロギーだ」「破壊的なネオファシズムは、野蛮な方法で共和国憲法を阻止、いや、毀損し、共和国を歪める『緊張作戦(La strategia della tensione)』』を、国家の一部と共謀した主人公だった」「あなたの政党から選出された議員には、1956年『オーディネ・ヌオヴォ(Ordine Nuovo)』を創立したピーノ・ラウティの娘(イザベラ・ラウティ:国防相政務次官)が存在する」「『イタリアの同胞』の議員が、今年4月14日に、『フォンターナ広場爆破事件』のオーガナイズにより、18ヶ月の禁固刑となったSIDの大佐、ジェナデリオ・マレッティについての講演会を開いたことは非常に懸念すべきことだ」など、『イタリアの同胞』のイデオロギーにかなり突っ込んだスピーチがなされました。また、『イタリアの同胞』は中道右派ではありません。

●人々の自由や経済活動を制限したにも関わらず、最も多くの死亡者を出したイタリアのパンデミックモデルに間違いがあったのではないか。大切なのは、前政権がとったモデルを踏襲しないことだ。官僚が作ったガイドラインよりも現場の医師、患者の現実を聞くべきだ。パンデミックの影にマスクや人工呼吸器で大きなビジネスをした者が存在した事実があり、命を落とした人々、病棟で生命の危険を冒しながら働いた人々に責任を感じる。

新政府は、いったん医療機関でのマスクの着用の義務を解除しましたが、感染症のエキスパートたちから猛攻撃を受けて、とりあえず12月末日まではマスク着用が義務化されることになりました。さらに、今まで病院での勤務が禁じられていたNo Vax(ワクチンを拒絶する医療関係者)を、ワクチンを打たないのは個人の自由として、現在問題になっている医療関係者の不足から、再び勤務可能とした瞬間に、再び多くの感染症のエキスパートたちから猛反対が起こり、プーリア州、カンパーニャ州は、独自にNo Vaxの医療関係者の医療機関勤務を拒絶する方針を表明しています。そもそもイタリアの医療関係者の99.6%がすでにワクチンを接種しているそうですから、No Vaxの医療関係者が病院に戻ったところで、人員不足の問題はまったく解消されません。

●自らが政治活動に身を投じるきっかけとなった、マフィアによる検察官パオロ・ボルセリーノの殺害に言及し、ジョヴァンニ・ファルコーネをはじめ、現大統領セルジォ・マッタレッラの令兄、ピエールサンティ・マッタレッラなど、マフィアの犠牲となった判事、政治家、軍人の名を列挙。新政府にマフィアは近づけない、と訴える。

マフィアの撲滅は喜ばしいことですが、『鉛の時代』のメカニズムとして、マフィア組織と『ロッジャP2』、メローニ首相の基盤となったイタリア社会運動(MSI)、そして国家の諜報機関が繋がっていることが朧げに見えてきますから、この発言に多少の違和感を感じることは否めません。

また、マフィアの捜査の過程において、重要な国家の秘密を知ったと思われるジョヴァンニ・ファルコーネ、パオロ・ボルセリーニの殺害事件(1992年)の実行犯「コーザ・ノストラ」と、連立与党『フォルツァ・イタリア』の、ベルルスコーニ元首相、マルチェッロ・デルウトゥリ、レナート・スキファーニ(現シチリア州知事)との親密な関係は長らく囁かれ続け、現在もジャーナリスティックな捜査が繰り返されています。デルウトゥリに関しては、ベルルスコーニと「コーザ・ノストラ」の間を仲介した罪科による裁判で、いったん12年の禁固刑となりながら、最終的には無罪となりました。この一件への疑惑については、前述の上院議員、ロベルト・スカルピナートも言及しています。

遅々として進まない裁判を問題視し、司法制度の改革を訴える。さらに自殺者を多く出す劣悪な環境の刑務所改革を約束。

●安全保障と合法性を移民問題に適合させる。不法入国をする多くの難民の人々が海で生命を落とすという悲劇を繰り返さないために、北アフリカ諸国との合意を結んで難民の人々を乗せた船の出港を封鎖する。10月27日、イタリアの戦後の復興に尽力した、偉大なエンリコ・マッテイ没後60年を迎えるが、アフリカの人々が、自分の土地、ルーツ、家族を捨てて欧州に来なくてすむように、EUとアフリカ諸国の協力による成長モデルである「マッテイ計画」を推進する(アフリカ諸国の経済発展を支援する)。

エンリコ・マッテイ(1906ー1962)

メローニ首相が提案する北アフリカ諸国との合意が成立する前に、地中海における難民救助のNGO船に乗船する人々を下船させず、フランスを核とした欧州各国との政治問題に発展したことは、前項に記した通りです。

なお、パルチザンとしてレジスタンスを闘い抜き、現在もイタリアの主要エネルギー会社であるEniの創設者であるエンリコ・マッテイは、米国では「ジュリオ・チェーザレに匹敵する、イタリアが生んだ偉大な人物」とも言われていたそうです。マッテイは、当時「セブンシスターズ」と呼ばれるアングロアメリカン企業が独占する原油市場において、産油国と独自に交渉し、産油国に有利な価格(フィフティ・フィフティ・パートナーシップ)でエネルギーをイタリア独自で買取り、原油市場に旋風を巻き起こしました。また、イタリア国内に埋蔵されている石油・メタンの採掘権をも独占しています。

しかしマッテイは、60年前に56歳という若さで、飛行機の爆破によってミラノ近郊で突然亡くなることになります。この飛行機爆破事件は当時、当局から隠蔽の通達があり、単純な墜落事故として扱われましたが、のちに収監されたマフィアの自白から1994年に再捜査が開始され、現在では、飛行機の滑車部分に仕掛けられた爆弾による、明らかなテロだということが判明しています。

その背後には、マッテイがアルジェリアの独立運動の資金を支援していたことからフランスの諜報、あるいは極右勢力の存在や、マッテイからEniを追放された、アングロアメリカン勢力と固く手を結んでいたエウジェニオ・チェフィス(マッテイの死後、Eniの総帥となった)が存在したことが、強く疑われていますが、現在まで真相は明らかになっていません。

その後、マッテイの死を追い、何らかの事実を掴んだと思われるシチリアのジャーナリスト、マウロ・デ・マウロは行方不明となり(のちにマフィアに殺害されたことが判明)、事故の真相を何らかの形で表現した、と目される長編小説『原油(石油)』のための膨大なメモを残したピエールパオロ・パソリーニも75年に殺害されています。パソリーニ殺害については、犯人とされたピーノ・ペロージの単独犯説に大きな疑問が残るため、近年に至るまで再捜査が繰り返されました。その殺害現場には、ネオファシストグループのメンバーが多数存在していたという、複数の証言が残っています。

ちなみにパソリーニは、マッテイがウンベルト・エーコをはじめ、当時のインテリを集めて1956年に創刊した新聞、Il Giornoに参加していましたから、マッテイとは知己があり、事故の真相(当時は単純な墜落事故とされていましたから)の構造を、ある程度把握していたのでしょう。なお主犯と目されるエウジェニオ・チェフィスは『ロッジャP2』の真の創設者と言われる人物です。

いずれにしても、イタリアが再びエンリコ・マッテイのスピリットを呼び起こすことは喜ばしいことですが、マッテイは反NATO主義であり、統制された国家産業の旗手でありましたから、「企業の邪魔はしない」メローニ首相のアイデアとは相反することを、il fatto quotidiano紙のマルコ・トラヴァイオ主筆がコラムで指摘していました。

最近、新政府はマッテイの、自立したエネルギー供給というアイデアを踏襲し、天然ガスが眠るアドリア海のトリヴェッレのガス田掘削の拡大を許可しました。しかし地盤沈下の恐れがあるとして、ヴェネト州知事である『同盟』のルカ・ザイアが反対しています。

●自分はUnderdogであり、共和国の最下層の文化圏から、イタリアで初の女性首相になった。

●ヨハネ・パオロ2世の「自由とは、好きなことをすることではなく、やるべきことを実行する権利を持つことだ」という言葉を引用して、「自由」を定義してスピーチを終了。

この演説では「自由」という言葉が、これでもか、これでもか、と多用されますが、現実は、と言えば、アンチファシストの学生たちが抗議行動を起こせば、武装した警察隊の警棒で打ちのめされ、若者たちがレイブパーティを開けば、直ちに「レイブ禁止法」が立案されるという具合で、自由を保障されたのは、プレダッピオにおけるムッソリーニの信望者3000人によるファシスト集会、及びワクチン拒絶者の医療関係者の就労の自由、高額現金による支払いの自由でした。

つまり「自分たちに都合がよい自由」は保障するが、左派的、と彼らが考える自由は制限するということでもあり、今後、新政府が「万人の自由」へと方向転換することを、強く望みます。

なお、このスピーチでは、エネルギー高騰のために、ひたすら上がり続ける光熱費の解決策は示されませんでした。現在、2023年の予算案が少しづつ明らかになってきましたが、イタリア政府からはその対策として、とりあえず95億ユーロ、2023年末までに300億ユーロ、さらに2023年にかけて900億ユーロの救済策が提案されているところです。ちなみにドイツは2000億ユーロの救済策を打ち出しています。

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