なぜイタリアでは亡くなる方々がこんなに多いのか
10月中旬から今まで、毎日17時前後に公表される数字があまりに大きくなり、徐々に減少したとはいえ、第1波では見たこともなかった新しい感染者1万9千人という数字でも、「今日はずいぶん減った。よかった」とホッとするほどに、われわれの感覚は麻痺しています。
第1波において、イタリアの感染者の死亡率の高さが、世界の注目を浴びた時期がありましたが、それは未知のウイルスに無防備だったイタリア(世界中がそうでした)に、瞬く間に感染が広がり、医療体制の対応が後手後手になったから、あるいは感染が北イタリア一極に集中して、医療機関に過剰に負担がかかったからだ、と考えてもいました。
しかしながら、ある程度の治療経験を経たはずのイタリアでは、現在もイタリアより人口が多い国より亡くなる方の数が多く、感染者の死亡率が高い日々が続いています。
おなじみのジョン・ホプキンス大学のリサーチによると、11月21日の時点でイタリアの感染者の死亡率は3.8%に上り、メキシコの9.8%、イランの5.4%についで、世界で第3位となっています。その後に続くのが英国3.7%、さらにブラジルとスペインが2.8%、ベルギーとアルゼンチンが2.7%、フランスと米国が2.2%、ドイツ1.6%、インド1.5%となります。
人口が3億人を超える米国の感染者数、死亡者数はおのずとインパクトが強い数字となるため、イタリアより深刻に感じていましたが、実際は米国やブラジル、インドよりもイタリアのほうが死亡率が高いというのが現実です。
11月23日にはイタリアで、Covid-19が拡大しはじめてから今までに亡くなった方の数が5万人を超え(12月5日時点では59514人)、10万人の居住者のうち75人もの方が、Covid-19で亡くなったことになりました。欧州の国々で比較すると、ドイツが15人、フランスが67人、スペインがイタリアより多く88人、最も多いベルギーが128人となるそうです。
しかしなぜイタリアでは、Covid-19で亡くなる方がこれほど多いのか。
まず、米国の大学のリサーチによると、死亡率はPCR検査の数に関係するとされています。つまり検査の数が多ければ多いほど(陽性となる人の数も増え)、死亡率も下がるということです。しかし、11月19日の時点では、欧州では英国の検査数がずば抜けていて3700万件、ドイツが2500万件、イタリア、スペイン、フランスが大体1800万件となっているそうです(コリエレ・デッラ・セーラ紙)から、それぞれの国の人口、死亡者数から考えると、検査数だけが死亡率に関係している、とは一概に言えないようです。
その、イタリアの死亡率の高さの理由については、「イタリアでCovidで亡くなる方の90%の方が、ウイルスそのものが原因で亡くなるのではなく、そもそも抱えていた基礎疾患で弱っていたところにウイルスが致命的な打撃を与えたことで亡くなっているのだ」と、ローマのジェメッリ病院の老人病専門医で、ISS(国家高等衛生機関)Covid-19死亡率レポート作成の責任者であるグラツィアーノ・オンデル教授が、スタンパ紙のインタビューで答えています(AGI)。
オンデル教授はまた、イタリアでは亡くなった方がPCR検査で陽性であれば、すべてCovidによる死亡と数えており、他国とは統計のとり方が違うため、数字を単純に比べることは容易なことではない、とも発言しています。しかし教授がおっしゃるように、国際的にCovidによる死亡の基準が定められていないのであれば、正確な統計が取れないのではないか、と疑問を持ちますし、各国それぞれにCovid-19による死亡者数の数え方が違うとなると、現在見ている統計の精度は、かなり「あやしくなる」可能性があります。
また、確かに、イタリアが欧州の国々の中で最も高齢者の割合が多い国であることは、注目すべき点ではありますが、たとえばドイツの高齢者の割合も、イタリアとそれほど大きな差があるわけではありません。
オンデル教授はしかし、「ドイツの高齢者の健康状態や医療設備が違うため、一概には説明できない」とし、「ドイツの死亡者の数え方もイタリアとは異なるのではないか、と推測せざるを得ない」と述べ、イタリアの医療システムが、他の国々に劣ることはありえず、むしろ全人口の健康管理を担うユニバーサルで、優良なシステムであることを強調しました。
ただし、Covid-19の犠牲になられる方の平均年齢が80歳を超えることから、イタリアの高齢者の方々は長生きをしても、なんらかの基礎疾患を抱えているケースが多く、健康に歳をとる環境にない可能性に触れ、現在の悲劇的な状況を大きな教訓として、高齢者の方々の健康をサポートするシステムを早急に構築する必要がある、とも付言。
イタリアは、80歳以上の方の人口が全人口の7.5%を占め、9%の日本に次いで、世界で2番目に高齢者が多い国です。欧州ではイタリアに次いで、ギリシャ、ポルトガルが高齢者の率が多い国となっていますが、それらの国々とイタリアのウイルス感染による死亡者数とは大きな差がありますから、単純に高齢者の方の数が多い国ほど亡くなる方が多い、とは断定できません。
また、教授は大気汚染の影響にも触れ、PM10.0による汚染が顕著なロンバルディア州、エミリア・ロマーニャ州の死亡率が、イタリア全国の平均よりも高い事実を上げ、死亡率と大気汚染に何らかの関係性がある可能性にも言及しています。
大気汚染とCovid-19の関係性は、イタリアだけではなく、世界各国で研究が進められていますが、確かに犠牲者の数が突出する北部イタリアの居住者の12%が、80歳以上の方々です。
スペランツァ保健相に、同じ疑問がぶつけられた際には、オンデル教授同様、「イタリアの高齢者の割合の多さ」と「高齢者の多くが基礎疾患を抱え、健康な状態ではないこと」を挙げていました。個人的には、亡くなった方の数の統計の取り方が国によって違うという点に、疑問を感じていますから、他の病気も含め、亡くなった方々の2020年の全統計が出ることを待ちたいと考えます。
なお、イタリアで2019年に死亡された方は、総数で647000人。全人口の1.07%となり、そのうち最も死因が多いのが232992人の循環器系の病気、ついで180085人の癌、呼吸器系の病気が53372人となっています。この数字が2020年にどのように変化するかで、いくらか状況が見えてくるのかもしれません。
なにより一刻も早く、この脅威の時代が過ぎ去って、高齢者の方々や、基礎疾患のある方々、そしてわたしたちすべての者たちが、安心して家族と会ったり、大勢の友人たちや同志と群れ遊ぶことができる日々が戻ってくることを願う毎日です。
人生はじまって以来、予想もしなかったダメージが世界を襲った1年もあと1ヶ月弱で終わりを迎えようとしています。2020年はあっという間でした。
閉塞感に苛まれ、ともすればネガティブなことばかり、鬱々と考えそうになる毎日。時々はおろおろと悲しくなることがあっても、なるべく前向きに、元気な時間を過ごしたいと思います。明けない夜はない、はずです。
祈りに満ちた、静かな聖夜が無事に訪れることを願いつつ。イタリアの医療を支える方々の負担にならぬよう、マスク、ソーシャルディスタンス、手袋及び消毒液の完全防備で、師走を走り抜けたいと考える所存です。