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はじめてサイトを訪れた方へ  

この、Passione-roma.comで最初に書いたマニフェスト通り、その時々に最も興味のあることを、あちらこちらを迷いながら、あまりヴィジョンなく、投稿を続けてきましたが、ここにきて、だんだんに傾向がはっきりしてきたように思います。

今のところ、大きく分けると●69年から十数年続いた『鉛の時代』のリサーチ ●『鉛の時代』から現代まで脈々と残った「占拠」という現象 ●イタリアならではの文化・芸術について ●現代のイタリアの政治状況、という感じでしょうか。

それぞれの記事が、かなり長文で、書いた本人が、2015年からのすべての記事を読み返すのに1ヶ月強の時間がかかり、ひと苦労でもありました。しかしながら、現在のイタリアを俯瞰するためにもおおいに役立ち、ローマという街を覆う現代、という物語の詳細が、なんとなく実感できたように思います。

イタリアという国、特にローマという街は、常に善悪、美醜が渾然一体となったカオスであり、しかも安定感のある、ほぼ変化のない風景のなか、人々の政治傾向が、わりとスピーディに流動するため、ときどきは混乱もするのですが、どうにも魅力的な場所であることには違いありません。

何がそんなに魅力的か、と問われるなら、あれもこれも、とたくさんの理由が思い浮かぶわけですが、ひとつだけ選ぶならば、複雑極まりない「物語」が、あちらこちらに溢れかえっているから、と答えようと思います。しかもその物語群は、まるで虚構のように劇的で、善悪では割り切れない人間の性に満ち満ちてもいて、まさにヒューマンと呼ぶに相応しい、濃厚で、不可解な筋書きをはらんでいるのです。

ヒューマン、という言葉は、温かく、優しい隣人愛を想像させます。が、と同時に、過ち、優柔不断、さらには残酷で、悪魔的な一面も、ヒューマンと呼べるのではないか、とローマに来て思うようになりました。だいたい人間なんて、決して単純に割りきれるものじゃなく、そもそもが謎なのだ、という意味で、イタリアは、たっぷりヒューマンな国、と定義できると思っています。まず、人間が人間であることを赦す社会は、何より豊かで、自由です。

と前置きが長くなってしまいましたが、はじめてこのサイトを訪れた方には、まず、以下の3つの記事をおすすめしたいと思います。

4世紀の忘却から甦り、瞬く間に称賛の的となった、女流画家アルテミジア・ジェンティレスキ

ローマ、パニスペルナ通り90番地から『マンハッタン計画』へ、そしてエットレ・マヨラーナのこと

『鉛の時代』: 「蛍が消えた」イタリアを駆け抜けた、アルド・モーロとは誰だったのか

また、『鉛の時代』については、その時代を振り返ることなく、イタリアの現代を理解するのは難しい、と判断して、現在もリサーチを続けています。起こった事件の規模、次元は大きく異なりますが、イタリアの戦後史は日本の戦後史に通じる部分もある、と思っているところです。

古代ローマ、中世、ルネサンス、バロック、ファシズムと、あらゆる時代の建築物がそのままの形で残り、微妙に調和したローマの街にクリプト化された物語が、予兆なく、あるときふいに語られることがあり、その微かな声を聞き逃さないようにしたい、と思いながらの毎日であります。

2023年3月