※以下、3月6日以降の追記
3月6日
3月7日
3月7日ー8日
3月7日は、新型コロナウイルスと闘うイタリアにとって、大きな節目となる出来事が多くありました。まず、ヴァチカンではじめての感染者が発覚し、今後、伝統的にサン・ピエトロで行われていた日曜の教皇礼拝は、すべてビデオ配信で行われることになりました。さらに『民主党』書記長でラツィオ州知事、ニコラ・ジンガレッティがSNSでビデオ配信。PCR検査の結果、『陽性』であったことを告白。無症状のため、自宅隔離でテレワークをするということです。
なお、1200人以上の新しい感染者が出た7日の前日、6日には医療の緊急事態を緩和するため、政府は、すでにリタイアした医師を含め、20000人の医療関係者を雇用することを決定しています。
さて、3月8日未明に発表された緊急事態における全国緊急行動規約法は以下の通りです。この規約は、草案の時点でメディアに流出し、あらゆる新聞が不完全な形で報道したことを、コンテ首相は強く避難しています。実際、内容に多少の変更が加えられていました。
切羽詰まった緊急時(仕事、健康状況、家族のことなどで)、あるいは自宅へ戻る以外、出入りを禁止されたのは、ロンバルディア州全体、モデナ、パルマ、ピアチェンツァ、レッジョ・エミリア、リミニ、ペーサロ、ウルビーノ、アレッサンドリア、アスティ、ノヴァーラ、ヴェルヴァーノ・クシオ・オッソーラ、ヴェルチェッリ、パドヴァ、トレヴィーゾ、ヴェネチアの14県(province)となっています。この地域を出入りする場合は、カラビニエリなど軍部のコントロールを受けなければなりません。
またこの法律を犯した場合、逮捕されたうえ、3ヶ月以内の刑、また206ユーロ以上の罰金が科せられます。
この法律は、3月8日から4月3日まで効力を持ちます(コリエレ・デッラ・セーラ紙より)。この政令の発令により、3月1日、及び、3月4日の首相による発令は効力を失います。
ロックダウン地区に関する規約
●37.5度以上の熱がある場合は外出せず、可能な限り他人との濃厚接触をしない。ホームドクターに連絡して指示を仰ぐことが求められる。 ●隔離者の外出は認めない ●医師の指導のもとで、無観客で試合を行うプロフェッショナルのアスリート以外のスポーツ試合を禁止。●公的機関であれ、民間企業であれ、雇用主は、従業員の休日を認めること。●スキー場閉鎖。●公共スペースであれ、民間スペースであれ、文化的、スポーツ、宗教活動、見本市などあらゆるイベントを禁止。映画館、劇場、パブ、ロッテリア、ディスコなどの閉鎖。
●すべての学校、大学を閉鎖するが、ネット授業など遠隔授業は許可。一方、医療専門コース、インターン授業は禁止されない。●参加する者は1mの距離をとることが可能であれば、教会など、信仰の場は開けることが可能である場合もある。葬式を含む、結婚式、宗教儀礼は禁止。●美術館、文化施設はすべて休館。●公共の専門分野における試験は中止。一方、医療専門分野のみ許可。●集まる人の間に1mの距離が取れれば、バール、レストランの開店は6時から18時まで可能。●人と人の間に1mの距離が取れない店は閉店すること。
●ホームドクター、医療関係者の休暇を停止。●医療関係のミーティングはネットなど遠隔で行うこと、あるいは1mの距離をとれる場所で行うこと。●ショッピングモール、市場など中型、大型の商業施設は休館。準休日は閉店。平日でも1m規約を遵守すること。薬局、準薬局、食材店は、人と人の間に1mの距離を取りながら開店。●スポーツジム、スポーツセンター、プール、スパ、温泉などの休館。カルチャーセンター、社会センター(centro sociale)などの閉館。●自動車免許試験の延期。
イタリア全国における規約
●コングレス、ミーティング、社会的なイベントの禁止。●公共であれ、民間であれ、映画、演劇を含むあらゆるイベントの中止。●パブ、ダンス教室、ゲームセンター、ロッテリア、ビンゴ、ディスコ、類似の店舗をストップ。この規約を遵守しない場合は、活動停止となる。●美術館、文化施設の休館。●バール、レストランは、1m規程を遵守できれば開店可能。●他のあらゆる商業施設も1m規程を遵守。●イベント、スポーツ競技会の停止。●医療関係、インターン以外のコースは、遠隔授業を除き、学校、大学、専門学校すべて休校。
などが一般の人々への、主な規約となります。
この規約には、要注意地域として事実上ロックダウンされた地域から大きな反発を受けていますが、今は思い切った措置が必要なのかもしれません。
なお、一連の規定が法令化する以前の草案がメディアに流出したせいで(流出させたのはロンバルディア州ということですが)、法令化される前に要注意地域を脱出しようとする人々で、ミラノ中央駅、長距離バスのターミナルが大混乱に陥っています。北部から多くの人々が南部へ散らばり、その中には潜在的な感染者も含まれると見られ、スペランツァ保健相は「無責任な行動」と強く非難しました。ラツィオ州では、北部から州に入った人々は、14日間の自主隔離が命じられています。この自主隔離には南部各州が追随しています。
また、ウイルス感染から受刑者を保護するために、外部との面会を禁じた刑務所4箇所(モデナ、フロシノーネ、ナポリ、トラーパニ)で混乱が起こりました。モデナでは、大きな暴動に発展。
9日からは、アリタリア航空もマルペンサ便を停止します。
3月9日
重篤な病状だったコドーニョ市の第一感染者は、集中治療室から出られるほど容態が安定したそうです。しかしながらロンバルディア州の感染者数はひたすら増加。感染者の国内総数は9172人と、間もなく1万を超えそうな心配な数字が発表されました。亡くなられた方が今日も多く、致死率が高い(昨日の時点では5%だったそうです)のは、現在、症状のある人だけを検査をしているため、「実際、感染者の数はさらに多いと考えられる」というのが、プレスにおけるISSの見解です。
また、今日は世界中で株が暴落し、原油価格が25%下落、封鎖されたばかりのミラノの市場は-11%という激震。国債スプレッドは225まで上がっています。ところが若い世代は意外と無関心で、いくつかのモヴィーダ・スポットで、いまだに夜遊びをしていることをエキスパートたちから「無責任だ。いますぐパブ、クラブを閉めるべき!」と強く非難されました。この、無関心な若い世代がウイルスを運んで、祖父母の世代に感染させている、と見られているため、俳優やアーティストたちがイニシャティブをとって「#restiamoacasaー家にいようよ」キャンペーンがはじまっています。
なお、昨日に続き、各州の刑務所で一斉に暴動(!)、脱走が起こり(逮捕されていますが)、受刑者が亡くなる事態にまで発展しています。さらにローマでもスーパーマーケットに人が並ぶ事態になっているそうですが、わたしが出かけた時は、それほど多くの人もおらず、棚が空になっているというわけでもありませんでした。ただ、みんなかなり心配していて、どの店でも厳格に1m規定が守られ、妙に緊張して非現実的な雰囲気です。それでも街は比較的落ち着いています。
良いニュースといえば、「社会的責任を果たす」と、ジョルジョ・アルマーニをはじめとするビッグ・ブランドが主要な病院に多額の寄付をしたことでしょうか(アルマーニは125万ユーロ=約1億5千万円を寄付)。
この日の夜、突然コンテ首相がプレスを開いて今まで北部イタリアのみに効力があった緊急規定法令を、イタリア全国に拡大することを発表しました。したがって緊急の理由がなければ、移動ができなくなるということです。そして、やはりモヴィーダが問題視されたようで、飲食店はすべて18時で閉店することになりました。また、ファンには辛いことですが、サッカー、セリアAの試合も含め、すべてのスポーツの試合は4月3日まで延期となります。
3月10日
さて、今日から、イタリア全国で北部同様の緊急規定法令が適用されることになりました。自宅の近所ではありますが、街ゆく人々はわりあい落ち着いています。どこの薬局でもマスクが売り切れているため、マスクをかけている人は数える程です。
一方、感染の拡大が止まらないロンバルディア州、ヴェネト州は、初動でロックダウンしたコドーニョ市で感染者(ゼロ)より回復者のほうが多くなったことから、北部全域のすべてのオフィス、商店を15日間閉鎖し、厳格にロックダウン(食料品、薬局は開店)することを政府に提案しました。
さらに『同盟』『イタリアの同朋』『フォルツァ・イタリア』の『右派連合』は合同で、北部同様にイタリア全国のオフィス・商店を閉鎖、厳格にロックダウンし、強権的な監視役を置くべきだとコンテ首相に提言しています。強権で監視されるなんてとんでもない話だと、わたし個人は拒絶反応を起こしますが、中国の例を見るなら、ウイルスと闘うには、民主主義より専制強権政治の方が効果を発揮するであろうことは否めず、ジレンマに陥ります。
それでも中国で完全にロックダウンされた都市は武漢、重慶をはじめ数多くあっても、北京、上海は完全封鎖されることなく、機能していたことも忘れてはいけません。
3月9日のプレスで、コンテ首相は「われわれ市民ひとりひとりが、ウイルスの攻撃に耐えられない高齢の方や、すでに重篤な病気を持っていらっしゃる方々を守るために責任を持つこと」を強調し、ロックダウンという言葉ではなく『イタリア保護地域』という表現を使いました。「社会における責任を市民で共有する」ということですが、こちらの考え方のほうが、民主主義には明らかに相応しく思います。
なお、北部が提案した内容に関しては、3月11日午前中に閣僚会議が開かれ、新しい規定が詮議される予定です。北部を視察した『民主党』メンバーが、ロンバルディア州のアイデアに共感を示しているため、ひょっとすると北部だけではなく、イタリア全国に適用されるかもしれない。コンテ首相は「さらに厳格な規定もありうる」ことを示唆しました。
また、ディ・マイオ外務大臣によると、中国の医師団が大量のマスクと酸素吸入器を携えてイタリアに応援に来る予定だそうです。
それから、SNS上に「病院は崩壊寸前で、罹患者の年齢によって、治療するかしないかを決めなければならない状況に追い込まれている。つまり生産性が少ないとみなされる高齢者ははじめから治療しないことになるかもしれない」というニュースが、病院関係者と名乗る人物のオーディオと共に出回り、カトリックの国でそんな倫理が通用するわけがない、と思っていましたが、やはりフェイクニュースだったようです。病院も国家市民保護局も「フェイクニュースに注意!」と警告を発しています。
※年齢をベースに治療するかしないかを選ぶ。これは全くの間違いだ、とフェイクニュースを糾弾するASSTのアカウントから。
3月11日
11日の夜、イタリアはソフト・ロックダウンから、全域レッド・ゾーンとしてロックダウンに切り替わりました。食料品店、薬局、準薬局以外、バール、レストランを含め、すべての商店、ショッピングモールが閉店になります。ただし銀行、郵便局、保険会社などのサービスは継続するそうです。工場や事務所は、政府のプロトコルに沿う限りは運営されますが、感染の拡大が止まらない現在、こうする以外に方法がないのだと思います。詳細は、明日、新聞が発行されて読むつもりです。
また、危機に直面している集中治療室オーガナイズの監視役としては、Invitalia(国有企業発展エージェンシー)のヴェテランが当たるそうです。
そして今日、「ついに」というか「やっと」というか、WHOがパンデミック宣言を出した瞬間から、そもそも大幅下落していたダウ・ジョーンズがさらに下がり、明日からの世界経済情勢は波乱含みですから、イタリアのロックダウンも、ひとつの波乱要素となるかもしれません。
WHOに関しては、中国が封じ込めに成功しようとしているとはいえ、アジアだけでなく、欧州、米国、アラブ諸国と見る間に感染が広がりつつあり、もはやパンデミックであることは分かりきっていたため、正直、WHOの宣言には何の感慨もありませんでした。第一、あっちやこっちの国々から多額の寄付を受けたあと、「パンデミック!」と宣言されたところで、各国の感染状況は何ひとつ変化しません。
いずれにしても 、この「パンデミック宣言」がブラック・スワンに化けないことを祈ります。
一方、今日の午前中の閣僚会議の後、新型コロナ緊急経済政策として、ドカンと250億ユーロ(約3兆円)の予算の用意があることが発表されています。欧州連合のフォン・デア・ライエン委員長も緊縮政策を解除し、「全面的にイタリアを支援する」と、上手なイタリア語(!)でビデオスピーチしています。これは全域レッド・ゾーンとなって不安なイタリアにとっては嬉しいニュースとなりました。
内容としては、●正社員、パートタイム社員に関わらず、すべての労働者に仕事の中断の間もサラリーを保障(cassa integrazione)。●新コロナ危機の間、25%以上の減収がある企業、自営業に、数ヶ月間税金の支払いを停止。●住宅ローンをはじめとする各種ローンの支払いの延期。●光熱費のストップ。●ベビーシッターのバウチャーなどが含まれるそうで、議会で評決されたのちに施行されます。グァルティエリ経済・金融大臣は「誰ひとり、失業しない」と断言しました。
なお、夕刻のISSと国家市民保護局のプレスでは、亡くなる方が827人と非常に多いことについて、「高齢で、複数の病気、あるいは重篤な病気を抱えていた方を検査し、ウイルスの陽性が出た場合はすべてカウントしているため、のちに詳細を調査して、調整する可能性があること」「イタリアが高齢化社会であること」「症状がある方、濃厚接触者だけでなく、無症状のまま潜在する感染者をすべて検査した場合は感染者がさらに多くなり、致死率は下がるであろうこと」が言及されました。さらに「ウイルスがより危険に変異したとは考えられない」とISS幹部が発言しています。
Here’s the coronavirus data, overlayed with the dates offset by the amounts shown. One of these countries is not like the rest. Everyone else will be Italy in 9-14 days time. pic.twitter.com/VESY54X1gP
— Mark Handley (@MarkJHandley) March 9, 2020
※スペイン、フランス、ドイツの感染者数の増加は、イタリアとほぼ同じ増加曲線を描いて増えています。メルケル首相は今後、世界中の60-70%の人々が感染する可能性があると発言しました。
ローマの街は、市場の周囲は1m規定で人が並んで賑やかでしたが、路地を歩くとシンと静まり返っています。
3月12日
11日の夜、スーパーマーケット、食料品店、薬局、準薬局、タバコ屋、キオスク、コンピューターをはじめとする家電機器関連の商店、及び銀行、郵便局、保険関連など、生活するにおいて最小限必要な店を除き(宅配はOK)、すべての商業活動が停止した第1日めは、ローマに関していえば、比較的落ち着いた一日でした。むしろ心配した日本の友人たちからメッセージをもらって、よほどセンセーショナルな報道があったのだろうとびっくりした次第です。
もちろん戦場となっている北部の病院は、大変な緊張に包まれていますが、今のところローマは(先は見えずとも)、それぞれの市民が不安やストレスを抱えながらも、政府の決定を信頼し、街ゆく人と厳格に距離を取りながら買い物に行ったり、犬の散歩に出かけたり、銀行へ行ったりしているようでした。これ以上、医療の現場に負担をかけないために、市民はこれぐらいの我慢はしなければなりません。
ローマ市民もそれを心得ているようで、人だかりにならないよう、入り口で人数を制限されながらの買い物となった近所のスーパーマーケットでも、品薄の様子はなく、人が詰めかける、という風でもありませんでした。立ち話はなくなりましたが、知り合いとすれ違うと「SFみたいだね」と困った顔で笑い合う感じです。
もちろんこんな状況は楽しくないには違いありませんが、「一刻も早く、感染の拡大を堰き止めたい」というのが、市民共通の願いです。とはいえ自分の人生において、このような状況に遭遇するとは想像もしたこともなく、すべてのことが起こりうる可能性は「やはり100%なのだ」と改めて実感しました。
さて、今日はダウに再びサーキット・ブレイカーが発動され、ミラノの市場は-17%という前代未聞の下げを記録。国債スプレッドが261まで上昇し、2008年のサブプライム危機を彷彿としました。われわれの生活が、エゴと欲望を基盤とする投機だらけの市場という、まったく不安定極まりない、もはや健全に機能することのないシステムに管理されている、ということを改めて思い出すことにもなった。市場の打撃は、やがてじわじわと市民の生活を破壊しますから、今は好転を祈るしかありません。
ところで、国家市民保護局とISSによる今日のプレスでは、「カリタスが『家がない』人々は、この状況をどうサバイバルしたらいいのか、と案じているが」という質問がありました。イタリアには職を失って生活が立ち行かなくなった住居のない人が約5万人、ローマには約8千人存在し、路上生活を余儀なくされています。街が封鎖されてしまった今、カリタスやボランティアも自由に動けない状況となり、SNS上でも多くの人々が心配していました。
そのことについては国家市民保護局も大きな懸念を抱いていたようで、ラツィオ州、ローマ市に関しては早急に、彼らが身を寄せることのできる場所を用意することを要請しているということでした。市民保護局の責任者であるアンジェロ・ボレッリは、「その質問をしてくれてありがたかった。それぞれの地方自治体が急いでオーガナイズしてくれなければならず、ここでそれを主張させていただきたい」と発言し、少しホッとしたところです。
また、国立感染症研究所スパランツァーニから「複数の病気を持つ方の死因がウイルスではないと思われるケースの存在」が指摘されたそうですが、ISSは分析するには早すぎるとし、近日中に結論を出すとしています。
▶︎3月13日以降の追記