イタリアの公共衛生に関する6ヶ月の緊急事態宣言と、具体的なその後の対応
少し時間を遡りますが、ローマでイタリア初の中国人感染者が発見されたのは、1月29日の夜のことでした。ウイルスに感染していたのはパックツアーでイタリアを訪れていた湖北省出身のご夫婦で、感染が確定するや否や、同行していた中国人のトゥーリストの方々すべて、ローマのスパランツァーニ国立感染症専門病院に隔離されることになりました。
現在では同行していた方々は発病がないまま、すでに帰国され、ご夫婦も順調に回復。直近の検査結果で陰性になられたそうです。
感染者の発覚とWHOの『緊急事態宣言』を機に、1月31日、保健省(ministero della salute)を核として、ただちに国家市民保護局(Protezione civile)の局長をはじめとする専門家たち、カラビニエリ、ISS(国家高等衛生機関)、スパランツァーニ国立感染症研究所などが構成する、24時間体制のタスク・フォースが誕生。6ヶ月間有効な『国家衛生緊急事態宣言』が布告されました。
WHOの『緊急事態宣言』を後追いした性急なこの動きに関して、当初は大袈裟ではないのか、とも感じましたが、この『国家衛生緊急事態宣言』のおかげで、今回、閣議がそれぞれの自治体における統率権を代行することになり、拡大しつつある感染に統一した対応が実現され、速やかな予算の拠出が可能となっています。
また今回、閣僚会議が宣言した『国家衛生緊急事態』は、1992年に定義された市民保護に関する緊急事態に関する規定であることを強調すべきかもしれません。
これはあくまでも国民の衛生保護を目的とし、通常は地方自治体に帰属する権限を、国家レベルで調整した、迅速、かつ特別な措置、介入を保証するために、その権限を政府に委任するというものです。この場合、緊急状態と定義されるのは、さまざまな自然災害、たとえば地震、火山噴火、気象水力、環境などに特化されます。
さて、今回『緊急事態宣言』のもと、2月21日ー23日の時点で封鎖されたのは次の11市町村、コドーニョ、カサールプステルテンゴ、マレーオ、フォンビオ、サマリア、カルティリオーネ・ダッダ、ベルトニコ、サン・フィオラーノ、カステルジェルンド、テラノーヴァ・デイ・パッセリーニ(ロンバルディア)、ヴォー・エウガネオ(ヴェネト)。
また、要注意地域は スキアヴォニア、パヴィア(ヴェネト)、ピアチェンツァ(エミリア・ロマーニャ)、クレモーナ、パヴィア(ロンバルディア)、ドロ(アルド・アディジェ)、サンタ・マルゲリータ・リグレ、ポルトフィーノ(リグーリア)となっています。
さらに3月4日には、他地域での感染者の激増のため、封鎖地域が増える可能性が示唆されました。(3月8日に発表された、事実上、新たな封鎖地域は末尾に追記。その後、3月10日にイタリア全国がレッド・ゾーンとなったことは、報道で発表された通りです)
今回政府が決定した暫定措置令は以下のような内容です。(厚生省HPより抜粋・意訳)
- 封鎖された地域、あるいは要注意地域の住人が、地域から離れることを禁止する。
- デモ、イベントを含め、公共の、あるいはプライベートな集会の停止。
- すべての学校を閉鎖し、遠足を禁止する。
- 美術館の閉鎖。
- 破産手続き、及び必要不可欠の公共サービス以外の公務員活動の停止。
- 感染者の濃厚接触者の隔離と監視と、感染のリスクがあるとされる外国からイタリアへ入国した者は自主隔離の義務を負い、状況を監視される。
- 企業、商業施設の停止。
- それぞれが手袋やマスクなどで防御することを条件に、基本となる公共サービス、必要な日用品、食糧が提供される。
- 交通機関を利用すること、あるいは商業的な運送、人の移動は、特別な例外を除き禁止。
これらの措置に無断で違反すると、刑法第650条により、206ユーロ以上の罰金が課せられることもあり、場合によっては警察、軍が出動することもあるそうです。
考えようによっては、封鎖された地域を、カラビニエリや軍がパトロールをすることは、まるでソフトな戒厳令のような趣ですが、ニュースなどで見る限り、地域の人々とカラビニエリの人々は談笑したり、助けあったりしているようでした。また脱走者も現れて、さっそく連れ戻される、という出来事も起こっています。
また28日には、感染要注意地域の非常事における、まず1回目の経済援助法令案が閣議で検討されました。3月1日には、イタリアで新型コロナウイルス経済支援のための予算として36億ユーロ(約4320億円)が発表され、しかしその予算額は3月5日に75億ユーロに倍増しています。
11の市町村への第一弾の支援として決定された大まかな内容は次の通りです。
- 4月30日までの水道代、電気代、ガスなどの光熱費、また廃棄物税がストップされます。
- 3月31日が締め切りの納税、納税ローンの支払いを5月31日まで延長。
- 確定申告の延期。
- 住宅、車などのローンの支払いの延期。
- 有効期限が過ぎた健康保険証を6月30日まで延長。
- 感染、あるいは隔離期間の給料を全額補償。
- 行政に関わる公務員のテレ・ワークのためにタブレット、あるいはPCを供給。
- フリーランスの人々には最大3ヶ月、月500ユーロを補償。
- 失業(cassa integrazione)のための(労働組合の)給与補償基金への手続きを簡素化
- 観光業に関しては、ホテルや飛行機のキャンセルによる減収の補填を調整中。
現在、政府は第二弾の経済支援策を準備中だそうです。
イタリアはこれからもしばらくは感染数が増えることが宣言されていますが、数に萎縮することなく、辛抱強く、なるべくおおらかに、しかし納得できないことには力強く意思表示して、状況に対処していきたい所存です。
イタリアにも日本にも世界にも、1日も早く、平凡な日常が戻ってくることを祈って。
ファイト!
▶︎以下、3月6日以降の追記