なぜ、イタリアにこれほど感染が広がったのか。
前述したように、感染症の専門家は、感染者が発見されるだいぶん前から、明らかに感染は広がっていたと見ています。3月5日には、欧州における第1感染者、感染地域はドイツであるらしいことを、ドイツの研究者が発表し、それがイタリアに流れてきた可能性にも言及されました。
また、ミラノを中心に、イタリアの主要企業が集まるグローバル・ビジネス拠点である北部イタリアは、もちろん中国との交流も他の地方に比べて盛んで、イタリアー中国ダイレクト便を休止したところで、あらゆるトランジットを駆使したイタリア⇄中国の交流が絶えることはなかった、と考えるのが自然です。
たとえば、コロナウイルスに罹患しながらも、非常に軽い症状、あるいは無症状だった中国帰りのイタリア人か商談で訪れた中国人、あるいは世界を飛び回る外国人ビジネスマンが本人もまったく気づかない間に、他人に感染を広げたのではないか、との可能性が上げられています。
その感染した人物が潜伏期間の間、あるいは非常に軽症か無症状のまま、さらに感染を広げていった。したがって、コドーニョの病院や、ヴォー・エウガネオの病院で最初に感染者として発見された人々は、すでに2次、3次、4次感染の可能性があると考えられている。
3月1日には、1月の中旬からウイルスの感染が広がっていたであろうことを、ISS ( Istituto superiore di sanitàー国家高等衛生機関)が示唆しました。しかし、ということは、武漢が封鎖された1月23日前後、WHOの緊急事態宣言以前に、すでにイタリアでの感染は音もなくはじまっていた、ということです。
いまさら言ってもどうしようもありませんが、中国当局及びWHOの対応には曖昧な部分が多く、すべて後手後手だったと言わざるを得ません。また、WHOのあらゆるすべての指揮は、遅きに失した。いずれにしてもISSは今後感染者のリサーチを重ね、イタリアで感染がはじまった時期を明確にするそうです。
このウイルスは、閉ざされた屋内だと2メートル以内の距離で、簡単に感染が広がる傾向にあるそうで、前出の感染症学者マッシモ・ガッリも、「他の国で同じことが起こらないという保証はない」と語っています。(コリエレ・デッラ・セーラ紙)。
さらに、ロンバルディア州知事、アッティリオ・フォンターナは、「われわれはフランスの10倍の検査を行なっている」と発言していましたが、具体的には2月25日の時点で、フランスが通算で300件に対し、イタリアはたった4日の間に3000件以上(3月4日にはロンバルディア州だけで12000件以上、全国では32000件以上)の検査を行なっています。
「感染者が現れるのを待つのではなく、我々は彼らを探し、見つけ出しているのだ」というエキスパートの発言もありました。事実、イタリアは他の欧州の国々に比べると、検査数が抜きん出ており、まさにタスク・フォースと呼ぶにふさわしいアグレッシブな前線を張り巡らせているわけです。
そういえば、事実、第1感染者が発覚した時点からの5日間は、各州ともに、希望するすべての人のPCR検査を行なっていました。2月26日からはWHOの助言にしたがって方針を変え、感染者の濃厚接触者、何らかの症状があり、感染の疑いのある人物のみを検査することになっています。その方針変更にはしかし、ISSが「症状がなくとも疑いのあるすべての人々に検査すべき」と異議を申し立てました。
また、第1感染者が病院で発覚。すでに他の病気で入院していた人々、多くの医師、看護師の方々に感染し、院内感染が起こったことも感染を広げた原因と考えられます。ちなみにコドーニョ市の病院で、「ひょっとしたら新型コロナウイルスでは?」と最初に勘が働いて、第1感染者へのPCR検査を提案したのは専門医ではなく、麻酔医の方だったそうです。
さらに、中国本土からトランジットでイタリア国内に入ってくる、感染の可能性がある人々を14日間隔離するという方針を取らなかったことにも問題があったと指摘されます。トランジットがシェンゲン内であった場合、欧州他国のどこかの都市で飛行機を乗り換えれば、イタリア国内同様にドメスティック・フライトとして扱われるため、空港での監視の目は行き届きません(ラ・レプッブリカ紙)。
もちろん現在では、北イタリアを含め、海外の感染地域から帰国した人、感染者との濃厚接触者には、たとえ陰性であっても、14日間の自主隔離が要請されています。また、ここ数日、ロンバルディア州の知事側近の陽性が明らかになり、知事本人は陰性ではあっても、濃厚接触者として自主隔離したことが話題になりました。
3月2日には、ロンバルディア州評議委員の陽性、ミラノ地方裁判所の司法官3人、エミリア・ロマーニャ州議会の評議委員の陽性も判明。その他の地域の地方自治体幹部、警察官、消防隊員の方々の感染も、続々と発覚しています。
「これから感染者の数はさらに増えるだろうが恐れることはない。今後の検査結果により、新たな対応が可能になる」と、イタリアで人気のウイルス学者、ロベルト・ブリオーニが発言し、一時は勇しく「武漢モデルを踏襲した封じ込め作戦だ」と仰々しく発表したフォンターナ州知事も、外国勢のあまりの反応の大きさに「インフルエンザより少し重いだけの症状なんだから、大騒ぎすることはない」と発言を翻すことになった。
しかし「インフルエンザより少し重いだけ」という表現は、現状を楽観視しすぎる安易な表現であり、すべての人々が、細心の注意を払う責任を負うべきだ、と感染症のエキスパートたちは釘を差しています。
Enzo Marinari (fisico) e Enrico Bucci (biologo) hanno fatto una piccola analisi del focolaio italiano fin qui: assomiglia a quello coreano e sta raddoppiando ogni 2.8÷3.8 giorni, quindi secondo loro non è il momento di allentare le misure di contenimento. https://t.co/IpfyCpByJT
— Andrea Capocci (@andcapocci) March 2, 2020
※「物理学者エンゾ・マリオーニ、生物学者エンリコ・ブッチがイタリアのレッド・ゾーンに関して行なった分析:毎2.8÷3.8日ごとに(感染者が)倍増している韓国のケースと似ており、彼らはまだ緊急事態体制を緩めるべき時ではない」と主張している、というアンドレア・カポッチ教授のツイート。
「その衝撃とどのように広がっていくのかという明確なアイデアを得るためには、イタリアにおけるCovid-2019の状況を、少なくとも、あと2週間は観察する必要がある」「この緊急体制に効果があれば、約15日間で感染者の数が減ってくるはずだ。新しい感染者が出ない、あるいは感染者が減少、回復者が増大すれば、やがて疫病は安定化するだろう」と感染のエキスパート、マッシモ・アンドレオーニは語っているそうです。(3月2日、ラ・レプッブリカ紙より)。・・・だといいんですけれど。
現在、イタリアで一般的に言われているのは、ほぼ日本同様、100人の感染者のうち、80人は無症状か、軽い症状で、病院に入院しなければならないような重症になる人は15人。しかしその15人には回復の見込みがあり、そのうち本当に重篤な状況に陥るのは5人、亡くなるのは3人とされています(イタリア致死率3.8%, WHO致死率3.4%)。ただしイタリアの場合、医療現場は優秀にも関わらず、致死率がWHOの基準より高いことが気になります。
ラ・レプッブリカ紙によると、イタリアで亡くなった方の平均年齢は81歳で、80-89歳が42.2%、70-79歳が32.4%、60-69歳が8.4%、50-59歳が2.8%、90歳以上が14.1%となっており、そのうちそもそも病気がないか、ひとつ病気を持っていた方が15.5% 、ふたつ病気があった方が18.3%、3つ以上の方が67.2%となっているそうです。亡くなった方の病気は、高血圧74.6%、心臓病70.4%、白血病33.8%となっています。
イタリアでは、検査で陽性となっても無症状、あるいは極めて軽い症状の80人の人々は自主隔離ができる状況であれば自宅で、それが難しいなら、それぞれの自治体が用意した施設へ入ることが可能です。
▶︎北部イタリア。次第に深まる国内、国外からの孤立