政権維持か、解散か、大揺れのイタリア第3共和国政府
では、前回の総選挙と今回の欧州選を比較して、どの政党支持者から『同盟』に票が流れているのか、といえば、コリエレ・デッラ・セーラ紙によると、そもそもの『同盟』支持者55%に加え、『5つ星』支持者から25%、『フォルツァ・イタリア』から14%、その他から6%が流れてきている。『5つ星』に関しては、支持者の25%(主に南イタリアの『5つ星』支持者)が棄権し、全国総数で約600万票を失う、という結果に終わっています。
ともあれ、この欧州選挙戦の結果を受け、歓喜にむせぶマテオ・サルヴィーニ副首相及び内務大臣は、『5つ星運動』がかねてから強硬に反対してきたTAV(北イタリアから欧州を結ぶ高速列車)建設を強引に主張、フラットタックス(税率を一律にする)の導入、さらには主張し続けてきたイタリア北部の自治権獲得を急かすなど、まるで選挙キャンペーン中のように、次から次へと攻撃的に、『5つ星』に難題を一方的に押しつけています。
かたや、騒然とする『5つ星運動』ではトップ、ルイジ・ディ・マイオ副首相及び経済産業大臣の辞任を巡り紛糾の末、オンライン投票システム『ルッソー』でその進退の是非を問うこととなりましたが、結果、80%以上の支持を受けて、ディ・マイオの党首続投が決定しました。
もし『5つ星運動』が通常の政党であれば、今回の選挙結果を受け、党首である副首相が辞任、解散、総選挙となるところですが、『5つ星運動』は、あくまでも市民運動の代表として政権を担っていますから、そうそう簡単には引き下がることはできません。ならば、ここで内部分裂することなく『同盟』の乱暴な動きとひたすら続くプロパガンダを、その都度阻止して国政に集中してほしい、と個人的には願っているところです。
それでも政府内ではさまざまな思惑が葛藤しているようで、『同盟』と『5つ星運動』の政府内別居状態、くすぶり続ける離婚危機が決定的となり、政権を解消せざるをえない場合は、7月解散、9月29日総選挙、という説が公に囁かれています。ジュゼッペ・コンテ首相とセルジォ・マッタレッラ大統領の選挙後の会見では、欧州連合から突きつけられた債務超過に関する制裁通告にいかに対処するか、さらには政府の解散についての話し合いが持たれた、という報道もありました。
なお、イタリアでは欧州議会選挙と同時に、地方選も行われましたが、やはりこの選挙でも『同盟』『イタリアの同朋』『フォルツァ・イタリア』による右派連合の躍進は目覚ましく、今までPDが行政を担っていた多くの都市で、PD、『同盟』両候補の決選投票が行われることになっています。
また、今回の地方選で、何より衝撃を受けたのは、独自の難民受け入れモデルを構築し、世界に絶賛されたリアーチェ市で、『同盟』候補が30.7%の支持を受け、市長として選出されたことでした。濡れ衣を着せられ、ミンモ・ルカーノ市長が国内亡命を余儀なくされた8ヶ月の間に(裁判で無罪が確定したのですが、まだいくつかの裁判が進行中です)、『同盟』は同市に着々と基盤を作り、選挙で勝利した場合には、リアーチェ市の公共予算を増額することを市民に約束(マニフェスト紙)。同時に相当数の棄権もあったという事でした。
ルカーノ前市長が長年をかけて構築してきた、ささやかではあっても平和で調和のとれた「難民受け入れモデル」を完全に破壊しようとする、『同盟』の意地悪ぶりには目を見張りますが、サルヴィーニ内務大臣が弁舌巧みに掻き立てる『恐怖』、『憎悪』、『怒り』という感情は、市民の理性を木っ端微塵にするのだ、と改めて思い知ることになりました。
さらに信じがたい事に、ドキュメンタリー映画『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島』の舞台となった、「島民は海から訪れるすべてのものを恵みとして受け入れる」はずのランペドゥーサ島の市長をも『同盟』が獲得する、という事態になっています。このドキュメンタリー映画がベルリン映画祭金熊賞を受賞(映画の主人公のひとりであるバルトロ医師が、PDから欧州議員に当選したことは朗報です)、イタリア中を感動させたのはたったの3年前のこと。きわめて短い時間にも関わらず、イタリアの「難民の人々の受け入れ」においてシンボリックな島を、『同盟』が制圧するとは、と忸怩たる思いを抱きます。
いずれにしてもフランチェスコ教皇が主張し続けている、すべての難民の人々の受け入れを完全に無視してイタリアの全港を閉じたマテオ・サルヴィーニ副首相及び内務大臣は、いまだ教皇に謁見したことがありません。
ヴァチカン側が「サルヴィーニ大臣からは、一度も謁見のリクエストを受けたことはない」と発表したにも関わらず、TVのトークショーで「教皇を尊敬しているし、機会があれば会いたい」などと、大臣得意のとぼけ顔で話していたことは、覚えておきたいと思います。わざわざ『われらの教皇、ベネディクト16世(前教皇)』などと書かれたTシャツを着た写真をこれ見よがしにSNSで拡散するなど、サルヴィーニ大臣が、ことあるごとにそれとなく、フランチェスコ教皇に敵意を示していることは明白です。
また、サルヴィーニ内務大臣は、欧州選挙前の演説で、欧州の聖人たちの名前を連呼した後、ご丁寧にロザリオに口づけまでして自らの『信仰』をアピール。しかしその信仰というのは、ヴェローナの『世界家族会議』で、ホストとして堂々と演説した事実からも、反教皇派宗教勢力であるカトリック原理主義者、そして彼らとドグマ的にも、経済的にも緊密なつながりを持つロシア正教会、米国宗教右派への忠誠に他なりません。
一方、フランチェスコ教皇は、「毎日教会に通いながら、他人を憎悪し、悪口を言いながら生活することはスキャンダルです」と発言し、「偽善的なクリスチャンより、無神論の方がまし。クリスチャンは他人より善き人であろうとする者ではありません。自分が他のすべての人々と同様に原罪を背負っていることを知っている者なのです」とも語っています(ラ・レプッブリカ紙)。
そういえば、件のスティーブ・バノンを核とする欧州国粋主義+宗教原理主義者グループが、ローマのわりと近くにあるフロシノーネ、チェルトーサの山中にある巨大な僧院に、インターナショナルな国粋主義学校を作るプロジェクトを進めている、とRai3の番組「Report」で紹介されましたが、選挙直後、『5つ星運動』の文化財省大臣アルベルト・ボニソーリが、僧院跡の使用を認可しないことを決定したのは、賢明な判断でもありました。
今回の欧州選挙の結果を受け、イタリアの国債スプレッドは急上昇(コンテ首相の会見後に少し下がりました)。早速、欧州委員会から、今後さらに膨張し続けるであろう、イタリアの債務超過への制裁通告が届き、「こんな状態で政権が継続できるのか。それともやっぱり解散するのか。だいたいこの政府で、欧州連合を納得させうる2020年度の予算案がまとまるのか」、と紛糾が続いています。
さらに6月5日には、イタリアの債務超過は欧州規約を明らかに逸脱している、として、35億ユーロの制裁の発動を、欧州委員会により示唆されました。そんな切羽詰まった状況にも関わらず、サルヴィーニ内務大臣は、相変わらず地方戦の決選投票の応援で、地方の街や村を廻って欧州連合を敵に回しながら遊説し、職務を遂行する様子は見受けられません。この制裁に関しては、今後イタリアが、欧州中央銀行から援助を受けることができなくなるほど状況が悪化する可能性もあります。
また、欧州議会選挙前のキャンペーンから続く、『5つ星運動』『同盟』の間に横たわる、反発と攻撃という険悪な空気に、6月3日には、遂にジュゼッペ・コンテ首相が会見を開き、「このままの状況であれば、政府を継続することができない、互いに協力できないのであれば、自分は辞任する。債務超過に関して、自分と財務大臣が欧州連合と必死に交渉しているときに、いまだに選挙キャンペーンのように、政府を担う2勢力が挑発し合うとは何事だ」、と両政党、国民に向けて、最後通告を突きつけてもいます。
同時にコンテ首相は、SNSでいいね!の数を集めることに夢中になっていては全く仕事にならない、と、ほとんど1日中、2時間置きにSNSに投稿する『同盟』のサルヴィーニ内務大臣に向けて、痛烈な皮肉をも放ちました。
『同盟』にも『5つ星運動』にも属さない、両者の仲介としてテクニカルなプロセスで任命されたコンテ首相には、政府を解散する権限はなく、どちらかの政党が明言しない限り、解散は実現しない。もう何ヶ月もの間、今日か明日か、と政府の危機が続いているため、われわれも危機感覚が麻痺していますが、毎日が『同盟』と『5つ星』のいがみあい、けなしあい、という異常事態からは1日も早く脱していただきたいところです。
ちなみに万が一、国政選挙となったところで、決して沈黙することのないベルルスコーニ元首相の『フォルツァ・イタリア』との連帯を早々に解消したい『同盟』、そして『イタリアの同朋』2党では、過半数には遥かに及びません。
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