ジョルジャ・メローニ新政権 : たちまちカオスと化した、イタリアのFar-Right politics

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レイブ禁止法における異常な重刑罰

もうひとつ、ピアンテドージ内相が関わって衝撃的な展開となった一件があります。それは、モデナの郊外の半壊した倉庫を占拠して、10月29日から4日間の予定で、レイブパーティを開いていた3500人の青年たちが、武装した警官隊に踏み込まれ、解散させられるという事件をきっかけに立案された、「レイブ禁止法案」に関する、信じがたい重刑罰の提案です。

この若者たちは、毎年ハロウィーンの時期に、モデナ市にも連絡したうえでレイブパーティを開いていたそうですが、いままで一度も問題を起こしたことはなかったと言います。突然解散を命じられた若者たちは、「倉庫倒壊の危険がある」と説得する警察隊との話し合いの末に納得し、周辺のゴミ全部拾って、きれいに掃除して、平和的に立ち去ったそうです。

海外からもキャンピングカーやバイクで、レイブに集まってくる若者たちのうちのひとりである女の子が、「レイブで知り合った友人から、わたしはスペイン語を習得し、他にもいろいろなことを学んだ。国は金持ちばかりを優遇して、わたしたちには何もしてくれない。ここではLGBTQの子や、障害を持っている子も、みな平等助け合って楽しんでいる。持ち寄った食糧や飲料を売って、ひとつの経済圏が形成されているのよ。わたしたちは誰の邪魔もしていない」と訴えていたのが印象的でした。

ところが、このレイブ解散を機に、ピアンテドージ内相は、「公共の安全、公衆衛生に対する危険が生じる可能性のある50人以上集会を組織する犯罪行為が行われた場合、警察は職権による起訴ができ、6年までの禁固刑1000~10000ユーロの罰金に処する」という「レイブ禁止法」法案を、唐突に発表したのです。イタリアでは年間に34件ほどのレイブが開かれるそうで、確かに去年、ヴィテルボで開かれた大規模レイブではアルコールとドラッグのせいで、ひとりの若者が亡くなって、事件が起こる前に警察が介入すべきだった、との批判がありました。しかし突如として「レイブ禁止法案」が打ち出されるほど、緊急に解決しなければならない社会現象ではありませんでした。

この「レイブ禁止法案」に関しては、野党の議員、法律の専門家、識者から「こんな異常な法案ありえない。法律の文法にまったく即していない。誰が書いた法案なのか知らないが、即刻書き直すべき」との抗議が殺到することになりました。というのも、6年の禁錮刑というのは、たとえば「爆発物によるテロリズム」「殺人」「死体遺棄」「インターネット上での未成年の勧誘」「生活能力がない未成年、身障者の放置」など重罪に課せられる禁固刑であり、レイブパーティを処罰するにはまったく不釣りあいな刑罰だったからです。さらに「49人ならいいのか」という疑問も寄せられ、50人以上の根拠も曖昧なままでした。

さらに、この法律が、実はレイブだけではなく、50人以上の高校生などの学校占拠学生集会や、労働組合デモ、また公共建造物などの占拠による困窮した人々のための住居確保、チェントロ・ソチャーレ(参考:MAAMSpin Time Labs)など、アナーキストによる伝統的占拠にも適応されるのではないか、との疑惑が広まり、「集会の自由を奪うつもりなのかも」、と一時は騒然となりました。その、あまりの世論の沸騰に慌てたピアンテドージ内相は、あくまでも「レイブにのみに適用される法律で、条文そのものを修正する」ことを示唆しましたが、メローニ首相に近い『イタリアの同胞』の議員は、「レイブだけではなく、当然あらゆる違法集会、占拠に適用される」と語っています。

ローマの「平和集会」では、『民主党』『緑の党』など、左派の議員を多く見かけ、『5つ星運動』の議員たちとともに集会に参加するジュゼッペ・コンテ元首相にも遭遇しました。近所でも、かなりの頻度で普通に街を歩く政治家たちを見かけますが、ローマの市民と政治家の関係はわりとフランクで、「こんにちわ」と手を差し伸べれば、快く握手にも応じてくれます。

レイブに参加したこともなければ、参加してみたいとも思わないわたし個人は、この経済の緊急時に、新政府がまず最初に、ヒステリックに立案する法律にしては、あまりにどうでもいいうえに、その重い刑罰に、気がふれているのだろうか、と思っていたところ、メローニ首相が、その答えを記者会見で明快にすることになります。

「わたしはピアンテドージ内相に賛成している。もちろん内容を修正しなければならないのならば、議会はそのために存在しているのだ。修正した方がよいと言う人々がいるのならば、われわれはいつでも意見を聞く準備ができている。それに、誰もが騒いでいるが、この法案はデモや集会を禁止しているのではない」「もし、レイブを開きたいのなら、付加価値税コードを開いて、場所を買うか借りるか、警備員を雇って、そこで働く人々を正規に雇って著作権協会規定の料金を払い、さらに付加価値税所得税etcを支払い、飲み物を売る許可を得て、パーティに招待する人々のため環境を規制に従って準備すればいいのだ」

「この法案のテーマは、レイブが開けない若者たちが可哀想だ、などという問題ではない。違法だということが問題なのだ」「これがわれわれ(与党)と野党の大きな違いだ。(左派勢力のように)違法を知りながら見ないふりをしないで、イタリアの法律を守れと言っているのだ。わたしにとって、そんな(違法を容認する)イタリアはここで終わるということだ。イタリアはもはやバナナ共和国ではない

この会見を聞いた時、「バナナ共和国」とはどういう意味だろう、と思い、イタリア人に尋ねてみると、「中南米、アフリカ諸国など、クーデターが簡単に起こるような、法律を無視して政治が行われる、混乱がある国のことを表現している」そうで、面白い表現ではありますが、バナナ共和国と定義する国々を、ひどく蔑んでいると同時に、一国の首相が使うボキャブラリーとしては、かなり下品なのではないか、との感想を持ちました。それにイタリア共和国がバナナ共和国だった時代があったとすれば、メローニ首相の前身である『MSIイタリア社会運動』が、『鉛の時代』の黒幕として暗躍し、クーデターを画策していた時代でしょう。

いずれにしても、メローニ首相の会見で、この「違法」を強調する新政府の標的が、レイブのみならず、市中の占拠スペースにも向いていることが明らかになったわけですが、カルロ・ノルディオ法務大臣へのインタビューによると、6年の禁固刑を5年に修正したうえで、レイブを主催しようとする若者たちや「違法占拠」を企てる人々を通信傍受できる(ええ!)という一文を付け加える可能性もあるそうです。

まず、ここで主張しておきたいのは、イタリアにおける建造物の違法占拠は、暴力的に、まったく権限のない公共建造物などのスペースを、ならず者的に横奪しようと敢行されるわけではなく、既存の福祉のセーフティネットから漏れ、もはや路上に暮らす以外、他に生きる術がなくなった、幼い子供たちがいる家族や、働くことが困難な人々のために、「使われることがない、廃墟となった市中の建造物を調べ上げ、緻密なオーガナイズで占拠して、住居スペースとして困窮した人々に提供する」という主旨で行われる、ということです。つまり本来であれば、国や地方自治体が塞がなければならない社会の穴を、義憤にかられたボランティアの有志たちが、法を超えて埋めようとしている、という構造です。

ローマ市に関して言えば、ヴィルジニア・ラッジ市長から現在のロベルト・グァルティエリ市長に至るまで、占拠された建造物に住むすべての家族が、他に住む場所が確保されない場合強制退去実施しないことを決定していましたが、今後、いったいどうなるかは定かでありません。

ひとりの外国人であるわたし個人としては、イタリアに住むようになってはじめて知った、この『占拠』という現象に、イタリアの社会の緩やかさというか、可能性というか、ある種の豊かさを見出しました。また、若者たちの文化的な占拠スペースであるチェントロ・ソチャーレから続々と、メインストリームに躍り出るアーティスト、ミュージシャン、俳優たちが生まれる事実を目の当たりにし、「才能の開花は、社会の規制を逸脱した、このような奔放さがもたらすのだ」と、感嘆もしました。

この「レイブ禁止法案」が発表された際、ジュゼッペ・コンテ元首相が、「これは『警察国家』の規制であり、メローニ首相は『ファシスト政権には共感していない』と発言しているが、「彼女の文化は(ファシストに)それほど遠くない」と指摘していましたが、わたしもまったく同じ感想を持っています。また、この「レイブ禁止法」は、新政府の心理的アイデンティティ(identitario)である、「違法は絶対に許さない」、つまり「市民は皆、法律(legalità)に則って、整然(disciplina)と生活しなければならない。その枠組みからはみ出した者には、厳罰を下す」という支配の精神を暗示した法案と見られます。その政府が法律を作っていくわけですから、これから何が違法になるのか、かなり心配な状況です。

他方、ローマ進軍100周年を記念してムッソリーニ生誕の地プレダッピオで開かれた、黒服のファシストカルトが数千人集まり、サルート・ロマーノ(ナチス式敬礼)で練り歩く集会には、「毎年行われているフォークロアだから」、と警察の介入は、まったくありませんでした。そもそもファシストの集会は、戦後、固く禁じられているはずですが、イタリアからはムッソリーニ信望者が消え去ることはなく、「俺たちのおかげジョルジャ首相になったのだ」とうそぶく、こちらの方々のほうが、レイブより、よほど危険なのではないか、と思った次第です。

ちなみに歴史学者のアレッサンドロ・アルベーロは、「ファシズムを語るとき、1938年の『人種法』がクローズアップされるが、まず最も重要なファシズムの特徴は、殴ったり、殺したりと、暴力と恐怖によって市民を支配する、ということだ」という主旨のことを語っており、今後のイタリア社会が、形而上の次元であっても、そのような暴力的な方向へは向かわないことを願います。

なお、メローニ新政府が樹立して、まず発表したのは、この●レイブ禁止法案 ●10000ユーロまでの現金使用可能にするという提案→脱税を防ぐために、現在イタリアでは2000ユーロまでしか現金が使えません。だいたい10000ユーロという大金を持って歩くのはマフィアか成金ぐらいであり、あるいは小規模の商店やフリーランスの人々がクレジットカードや電子マネーで出入金の記録を残す必要なく、現金で商売ができるようになる、という感じでしょうか。つまり、大なり小なりのブラックマネーが市中を循環することを許容する、ということなのでしょう。しかしあまりの反対意見に合い、実際は5000ユーロになる、と見られています。

感染症に関する規制の大幅緩和→11月1日から、毎日感染者数、死者数の統計が発表されていたのが、1週間に1度となり、毎日いったい何が起こっているのか、感染が増えたのか、減ったのか、市民には知らされなくなりました。また、医療機関の人員不足を解消するために、今まで就労が禁じられていたNo Vax(ワクチン拒否者)の医療従事者就労再開させる(イタリアの99.6%の医師がワクチン接種済みですから、残りの0.4%のNo Vax医療従事者が就労を再開しても、人員不足の解決にはまったくなりません)、ワクチンを拒否する50歳以上の人への罰金の中止(しかしながら、今まで払った人々に返金することが困難なことから保留)など、「もはや感染症は終わった」とでもいう対策に踏み切り、経済緊急時の真っ最中、一体なぜ、今この時に? と市民を混乱させる発表が続くのか、謎の毎日が続いています。それでも地下鉄やバス、あるいは屋内施設では、まだ半数以上の人がマスクを着用していて、イタリアの市民の意外な慎重さを感じているところです。

さて、次の項では、今になって、ようやくその意味が見えてきた、下院議会の信任の際のジョルジャ・メローニ首相の初スピーチから、今後のイタリアが、どう動いていくのか、その方向性を探ってみました。選挙キャンペーンで「欧州連合のPacchia(幸せな境遇)はもうおしまいだ」と豪語した、メローニ首相の過激な言論は、今まで半分プロパガンダ、と見なしていましたが、意外本気で欧州連合に喧嘩をしかけるつもりなのかもしれない、などと思いはじめたところです。それが杞憂であることを願いながら、参考というか、備忘としてまとめてみます。

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