この『政権の危機』が、今後どのように発展していく可能性があるのか。
さて、『5つ星運動』と『同盟』の連帯契約による現政権が、確実に崩壊することは、こうして決定的になりました。サルヴィーニが叫びまくるように秋に総選挙になるのか、それとも何らかの違う方法で政府を再構成されるのか、今のところは先が読めない状況です。
すでに夏休みに突入したはずの上院、下院議員たちは特別招集され、まず、それぞれの議長や政党の代表で、『同盟』が発議したコンテ首相の不信任案をはじめとする今後のプログラムや議題が決定されました。
また、実際に不信任投票が実行されたのちに、その方向が明確になるはずですが、だいたいその不信任投票が、サルヴィーニが望むように、早期に行われるかどうかも流動的です。すっかり夏休み気分の市民にすれば、去年の総選挙以来、地方選挙や欧州選挙で、常に『同盟』の扇情的なプロパガンダに彩られた選挙キャンペーンに晒され、もうお腹いっぱいなのではないでしょうか。
さて9日のラ・レプッブリカ紙に、今後考えられるシナリオが分かりやすくまとめられていたので、要所を参考に、現在流動的に進行中の動きを追いつつ、今後の可能性を探ってみたいと思います。
▶︎12日月曜に上院の政党グループ責任者が召集され、今後のプログラムが話し合われました。そこで賛否が分かれ決裂したため、早速13日に上院議員が召集され、議会での表決が行われることになった。『5つ星運動』と決別するやいなや、『同盟』は『フォルツァ・イタリア』『イタリアの同胞』と連帯する古巣の『右派連合』に舞い戻り、不信任投票を8月14日、あるいは8月20日に提案しましたが、『右派連合』は過半数に達することができませんでした。一方、この不信任投票の日にちを決める投票で、『5つ星運動』、『民主党』その他の政党で新しい過半数が形成される運びとなったことは重要です。
20日上院、21日下院において、コンテ首相が議員たちと実際に対面。議論が尽くされますが、もしここで首相が辞任ということになれば、事態は大きく動きます。
▶︎もし、20日、21日にコンテ首相の辞任が決定的になれば、正式に議会で『政権の危機』が確認され、マッタレッラ大統領によるそれぞれの政党のコンサルテーションが行われます。ここで政府内に過半数勢力が本当に存在しないのかどうかが打診されることになります。
週末に巻き起こった動きとしては、まさに奇跡ともいうべく、あんなに憎み合っていたはずの『民主党』元党首で元首相のマテオ・レンツィ派と『5つ星』、さらに急進党(ラディカーリ=Piu Europa)、LeU(自由と平等)が急速に接近。緊急時における大統領権限による暫定政府(あるいはそのまま任期を満了する通常の政府)を構成できる過半数を形成しよう、と提案されました。
マテオ・レンツィといえば、かつて自ら造反を起こして『民主党』の書記長を乗っ取った経緯のある策士なので、意外とこの作戦は成功するかと思いきや、『民主党』の新しい書記長ジンガレッティは『5つ星運動』との連帯を拒否。あくまでも選挙で闘いたい意向を表明します。『民主党』のこの内紛は、新旧リーダーの方針の違いと、マテオ・レンツィの性急な政治行動により内部に反発が起こったせいですが、このいざこざを解決し『民主党』内の意見が統一されたならば、ジンガレッティも大統領の意向に沿う、と発言しています。今の時点では、主要幹部数人が『5つ星運動』との連帯に賛同を示しました。
このような状況で迎えた13日、レンツィは『民主党』の統一というジンガレッティの方針に賛同を表明し、改めて新たな過半数で、任期を満了する通常の政府を構成することを呼びかけています。
ちなみに哲学者のマッシモ・カッチャーリは、『5つ星運動』と『民主党』は、安易に連帯する前に政治的に確実な合意が必要であり、さもなければサルヴィーニをはじめとする極右勢力に、さらに強大な覇権を贈与することになりかねない、と警鐘を鳴らしています。
10日には、長らく政治から遠のいていたベッペ・グリッロも参戦。「総選挙なんてとんでもない。イタリアを新しい野蛮人たちから守らなくてはならない。『5つ星』はカミカゼではない」とアンチ・サルヴィーニを宣言。『5つ星』有力議員たちも、「われわれは、大統領が指示する政府に異論はない」と賛成の意を表しています。
12日には『5つ星運動』リーダーのディ・マイオが、大統領の意向に全権を委ねるがマテオ・レンツィと直接話し合う予定はない、とSNSで発信。ベッペ・グリッロも『5つ星』は、ジンガレッティと交渉はしても、レンツィとの交渉は考えていないことを明らかにしました。
こうしてかなり以前から、サルヴィーニが恐れていた反極右勢力政党の連帯が、水面下で形成されつつあるわけですが、今のような緊急時は政党内での仲間割れや、「首相はうちから」などという面子はかなぐり捨て、どういう形の政府になろうと、『打倒サルヴィーニ』をスローガンに連帯、協力するべきです。その後サルヴィーニ及び極右政党の孤立が確実になったところで、やるべきことを、分裂しない程度にゆっくり喧嘩しながら決めれば良い、と個人的には考えます。
今後、議会における議論が長引くと判断したのか、マッタレッラ大統領は大統領府を離れましたが、これは、あらゆる政党が次々に大統領府を訪れ、面会を要求されると、まとまる話もまとまらないため、騒乱から距離を置くための苦肉の策と見られます。マッタレッラ大統領は賢人として名高い人物です。
▶︎現在、最も問題となっているのが2020年の国家予算案です。予算案は10月15日が欧州連合へ提出しなければならず、緊急の対応が必要です。政権の危機が顕在化した日には一気にイタリアの国債スプレッドが跳ね上がり、株も暴落しています。成長率が0.1%と欧州で最も低く、通常でも経済不安に悩むイタリアですから、政治不安が長期化するようなことがあれば、ハイエナ巨大投資家たちのターゲットにもなりかねません。
▶︎万が一、議会が解散するとすれば、それから45~70日の間に総選挙が開催されることになりますが、国家予算案などさまざまな要因を考慮すると、総選挙の日程は10月末、具体的には20日、27日、そして11月3日が予想されます。
▶︎また、『5つ星運動』のディ・マイオ副首相は、「たとえ政権が崩壊しようとも、下院の表決があと一回だけ残っている憲法改正案、上院下院議員の345人削減における下院での最終投票を、首相の不信任投票の前に行おう」と各政党に呼びかけていました。
これは本来、9月9日に最後の投票が予定されていた法案ですが、『同盟』の票が期待できないのであれば、議会だけで可決、法律化できる3分の2の賛成票を得られないため、自動的に国民投票を実施しなければなりません。そうなると少なくとも数ヶ月は『総選挙』が実施できなくなります。
しかし13日の上院議会で「了解だ。その投票を最後に議会を解散して、次に樹立した政府で実行する」とサルヴィーニが発言、ディ・マイオは即座に「ならば、コンテ首相の不信任を即刻引っこめるべき」と応戦しました。というのも議員削減法案の表決は22日に予定されており、20日、21日のコンテ首相の両議会での議論で、もし議会が解散ということになれば、表決は無効になるからだそうです。いずれにしてもコンテ首相が不信任となれば、今後の議会の予定はすべて白紙となります。
▶︎前述した、10月15日が欧州提出期限の2020年の国家予算案は、10月20日までには上院下院の審議に回さなければならず、12月31日までに法律化する必要があります。選挙となれば、キャンペーンの真っ最中になり、今のスケジュールでは成立が不可能です。
経済紙Il sole 24 ore によると、その場合はEsercizio provvisorio(暫定予算期)が発動されるかもしれません。これは過去の予算額を来年の国家予算として利用するシステムらしく、過去の支出額を超える予算は使えなくなるということだそうです。
この暫定予算期が発動されると、現政府が約束していた現行の22%から2020年には25%(!)、2021年には26%(!!)と年々増額する消費税増税のキャンセルが無効になる一大事です。相続税、贈与税が存在しないイタリアの消費税の高さは異常です。
しかしなぜ、市民の気持ちが緩んでいるヴァカンス・シーズンに、サルヴィーニは突然、連帯政府の解消をオーガナイズしはじめたのか。すでにサルヴィーニは夏の遊説地をすべてフィックスし(まるでキャンペーンを見越していたかのように)、TAV投票の朝までは、上院に行かずに遊説に向かうはずだったのを、急遽予定変更にしたのか。
そんなことを考えながら、7日の夜のサルヴィーニの演説を聞いて、おや?と思ったのは、親ロシア発言はいいとして、確かに『一帯一路』の契約の際は姿を現さず、中国攻撃に徹したとはいえ、いつもの集会ではあまり語らない、反中国発言がさらっと盛り込まれていたことでした。
そういえば件のスティーブ・バノンも、「7」のインタビュー記事で「ディ・マイオは世間知らずも甚だしいことを中国行きで露呈した。脚光には慣れていないんだ。中国から目を見開いて帰ってきて、それを書いた中国側の記事を多く読んだが、彼らはそういう態度を見せると執拗に要求し続けることに非常に長けている」と批判しています。
これだけの情報なので、あまりに短絡的な考察ではありますが、『同盟』の突然のこの動きは意外と、現在米中貿易戦争の渦中にある『中国』と、『一帯一路』に積極的で、5Gもいち早く取り入れようとしている欧州連合の関係性を考えておく必要があるように思います。
万が一、『同盟』が国政を握ることになれば、中国とタイトな貿易関係を結ぶ欧州を揺るがす、たとえばイタリアの『脱ユーロ』、『脱欧州』といった不穏な動きがまたぞろ起こる可能性があるのではないか。『同盟』はそもそもがパダーニャ分離主義政党です。
10月31日、ブレグジットはいまだ解決策が見えないまま、遂に期限を迎えます。『同盟』が深く関わる米国もロシアも、それぞれに違う目的で、欧州の弱体化を望んでいるには違いなく、とそう思ったところで、早速ラ・レプッブリカ紙が、サルヴィーニが欧州連合との合意の元での脱ユーロを準備しはじめているらしいことを報道しました。
ブレグジットとイタレグジット、こんな波乱が次々に起これば欧州は大混乱になるはずです。わたし自身は欧州連合の緊縮財政と厳しい制約に反発を感じ、難民の人々を巡るダブリン合意をも疑問に思いますが、混乱により生まれるであろう欧州各国の経済危機、対立は危険です。
さらに、万が一総選挙が開催され、『同盟』が政権を握ることで最も心配なことは、2022年に予定されているイタリア大統領選挙です。『同盟』、あるいは他の右派政党と連立を組み政権を握った場合、彼らに有利な人物が大統領に選出されることになるわけですから、イタリアはさらに大きな変化を遂げることになるかもしれません。
現在、これほどの右傾化が進んでも、社会のバランスが大きく崩れないのは、セルジォ・マッタレッラ大統領のバランスのとれた倫理観と、人間味のある判断によるところが大きく、それが今後、期待できなくなることはイタリアにとっては致命傷となります。
▶︎騒乱の2日前に上院を通過した国家安全保障法案