イタリアの灼熱:『5つ星運動』を裏切り、総選挙に疾走する『同盟』サルヴィーニの行方

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政権危機直前、アドリア海沿岸、ビーチツアーを敢行した内務大臣

ところで、コンテ首相が『政権の危機』に際して開いたプレスで言った、「ビーチで遊んでいたわけではありません」というフレーズは、サルヴィーニへの大きな皮肉でもありました。というのも8月に入ると同時に、サルヴィーニは内務省に勤務するどころか、さっそく海水浴客で賑わうアドリア海、ミラノ・マリッティマのビーチに出没していたからです。

そのビーチで海上をパトロールする警察隊の水上オートバイに、サルヴィーニのご子息が乗せてもらって大喜びしているところをラ・リプッブリカ紙のジャーナリストがスクープして、大臣が逆ギレする、という職権濫用も甚だしい一件も起こっています。

その際、ラ・リプッブリカ紙のジャーナリストが、「警察の水上バイクに子供を乗せるなんて、どういうつもりだったのか」と問いただしても、サルヴィーニは謝るどころか「子供と政治の論戦には関係ない」の一点張りで、「そんなに子供が好きなら、ビーチにたくさんいる子供を撮影すればいい」と、謝るどころかジャーナリストを恫喝。人前で(ビーチ!で開かれた記者会見でした)ジャーナリストを徹底的に侮辱しています。

思えばロシアゲート以来、内務大臣の言動はいよいよ傲岸不遜に舞い上がり、都合が悪いことには一切答えず、ジャーナリストを公衆の面前で小馬鹿にする、リトルトランプらしいスタイルを踏襲するようになっていました。

しかし、内務大臣のこの態度に各種メディアのジャーナリストたちが団結して反発。連名で抗議の文書を内務大臣宛に送りつけており、その署名リストには、『同盟』のスピーカーとも言われる国営放送Raiのニュース、TG2の責任者までが名を連ねているそうです。

わたし自身、イタリアのジャーナリズムのすべてを肯定するわけではありませんし、扇情的なタイトルが多すぎるうえ、数字のアバウトさが目立つ(たとえば紛争で亡くなった人の人数が、各紙で違うなど)とも感じていますが、それでもそれぞれのメディアの思想信条に関わらず、権力側の言論への侮辱、弾圧には団結して抗議する有り様には好感を持っています。

さらにビーチでは、サルヴィーニ自ら、水着姿の女性たちや、ゴールドの短パンで決めたファッショナブルな青年たちが踊り集うパーティのDJまでかって出て、ベタなポップロックの合間を縫って、なんと『イタリア国歌』をミックスする、という、これまた虚を衝く暴挙に出た。しかもその国歌に合わせて、半裸の若者たちが胸に手を当て、歌ったり、踊ったり、どうやら陶酔している様子は、なんとも印象的というか、これが現代の極右ポピュリズムなのか、と感心するほどでした。

「イタリアは遂にここまできてしまったか。ベルルスコーニすらこんなことはしなかったのに」と、良識あるイタリア人たちはTVを観ながらがっくり肩を落とし、「はやくここから立ち去りたい」と夏休みの用意をはじめた、というところでしょうか。

しかし、人々が無防備に呑気に過ごすビーチを狙うとは、実は練りに練られた支持獲得ストラテジーには違いなく、政権が今にも崩壊しそうな夏、ひときわ注目を浴びる内務大臣が水着で現れ、市民と同じようにビーチで群れ遊び、一緒に写真を撮ってくれるなんて楽しいじゃないか!というイタリアの善男善女のバカンス心理を分析し尽くしています。

携帯に残された、水着姿の陽気な内務大臣と共に写った写真が、やがて訪れるはず(?)の総選挙において確実な一票となる、と考えるのはあながちサルヴィーニの誤算でもないでしょう。

個人アカウントで1日平均15回、『同盟』のアカウントで1日平均81.6回と弾丸のように投稿される、がっつりマーケティングされたSNSプロパガンダと、1日も休まずイタリア全国を巡る草の根遊説ビーチツアー&自撮りサービスで、『政権の危機』を背景に、サルヴィーニは支持をますます拡大させています。現在イタリア南部のビーチを、くまなく巡るキャンペーンをはじめたサルヴィーニに、行く先々で大がかりな抗議運動が起こり、いくつかの政治集会が中止になってはいますが、総選挙が現実になれば、間違いなくマテオ・サルヴィーニが首相に躍り出ることになります。

しかしながら、今の時点では、実のところ『同盟』の前途は多難ではないか、とも考えているのが正直なところです。まず、今の政局を俯瞰するなら、総選挙を阻止する動きが続々と表面化している。さらに『同盟』をめぐるロシアゲートや、収賄スキャンダルは、予告されていたように長引く検察の精査のため、確かに少し下火にはなっていても、今までの経緯から考えるなら、真に重要なスキャンダルというものは、選挙前や重要な決定が行われる際に、ええ?と衝撃的に明かされます。脛に傷がいくつもある『同盟』を、今後、超弩級の暴露案件が待っていないとも限りません。

去年の総選挙から18ヶ月、イタリアの政治は毎日が山場でしたが、いよいよ佳境を迎えました。

なお、タイトルの写真に使ったカピタリーノ美術館のマルクス・アウレリウスルームのライオンが、サルヴィーニなのか、コンテ首相なのか、それともディ・マイオなのか、あるいはジンガレッティなのか、それとも意外にマッタレッラ大統領なのかは、今のところまだ判然とはしていません。

カターニャで開かれる予定のサルヴィーニの政治集会には、サポーターとともに抗議者が多く駆けつけ、混乱になりました。動画は人種、言語、文化に関わらず平等を謳うイタリア共和国を憲法を読む青年。結果的に政治集会は中止されましたが、イタリア南部のアンチサルヴィーニは徹底しています。

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