『サルディーネ=イワシ運動』はこれからどこへ向かっていくのか
イタリアの選挙の前日は、選挙についても、候補者についても、一切メディアが報道することができず、候補者が選挙についてSNSで発信することもできない「沈黙の日」とされています。
その「沈黙の日」、『サルディーネ』のボローニャの若者4人は、パペーテのミラノ・マレッティモの海に飛び込む(彼らはイワシですから)というイベントでエミリア・ロマーニャ選を締めくくっている。
パペーテといえば、去年の8月、水着姿の若者たちが飲んで、踊って、騒ぐ真夏のビーチクラブで、同じく水着姿のサルヴィーニがDJと化し、モヒートを飲みながら、なんと『イタリア国歌』に合わせ、みなで踊り狂う、という度肝を抜く出来事が起こったビーチでした。
投票日、彼らはこんな投稿をしています。
Urne chiuse.
C’è chi dice che siano i gesti folli a cambiare il corso della storia, ma noi preferiamo pensare che siano i gesti ordinari a cambiare il mondo in cui viviamo. Non siamo nati per stare sul palcoscenico, ci siamo saliti perché era giusto farlo. pic.twitter.com/x6tgmasadR— 6000 sardine (@6000sardine) January 26, 2020
投票は終わった。物語の流れを変える無謀な行動だという人もいるけれど、僕らは自分たちが住む世界を変えるための普通の行動だと思うんだ。僕らは舞台に立つために誕生したわけじゃないけれど、そうすることが正しいと思ったから舞台にも立った。でも、今はリアリティと接点を取り戻し、特に個人のレベルで、何を優先させるかを再建しなくてはならない時だ。もし、僕らが政治的なキャリアを望んでいたのであれば、すでにそうしていた。そうじゃなく、まず最初に僕らは僕ら自身、有権者、市民、家族、友人に戻ることを切望している。そういうわけで、テレビや新聞で僕らを見ることはなくなるだろう。今日コートを着て、投票に出かけたすべての人々が負う責任と、僕らは同等の責任を追っている。 幕を落とす時が来た。そしてただの観客であり続けることを望まない皆とともに、舞台裏で新しいショーを準備する時だ。 今日まで、僕らは美しいおとぎ話だった。 でもいま、その本を閉じて、危険を犯そうじゃないか。あらゆることが起こる可能性がある。ナポリのスカンピアで会おう!
しかしこのように、彼らが「テレビや新聞で僕らを見ることはなくなるだろう」と宣言しても、メディアはなかなか彼らを放ってはおかず、結局、あらゆる形で露出していますし、インタビューにも答えています。
選挙後、彼らにとってはじめての議論となった出来事は、といえば、ボローニャの4人の青年たちがオリヴィエロ・トスカーニの運営するセンターを訪問した際、その場に訪れていたベネトン(2018年に崩壊したモランディ橋の管理責任者であるインフラ運営会社、『アウトストラーダ』の大株主です)と一緒に写真を撮った一件でした。
彼らが無防備に、経済権力者と並んで写真に収まったことは「税金である国家予算を得ながら、ずさんな管理で多くの人を巻き込んだ大惨事を引き起こした会社の株主と、写真を撮るなんて!」と大きな非難を浴び、『サルディーネ』は自分たちの軽率さを認めた上で、イメージアップに利用された、と主張しなければなりませんでした。
この一件は、『サルディーネ』が現実に『政治に影響する』存在となった現在、いい意味でも、悪い意味でも世間は彼らを、そして彼らも世間を、無視できなくなったことを象徴する出来事となったように思います。
なお、彼らが3月14日に予定している全国『サルディーネ』コングレスが開かれるナポリの北部にあるスカンピアは、一般に、ナポリで最も荒廃していると言われる地区。マフィアが関わるドラッグ売買しか仕事がないほど失業率が高く、南イタリアの荒廃のシンボルとして、マフィア(カモッラ)映画をはじめとする数々の映画の舞台にもなっている場所でもあります。
『サルディーネ』たちは、「スカンピアはナポリで最も新しい地区(70年代に建造)、メディアには魔窟呼ばわりされる地区のひとつで、誰もそのリアリティを考察しようとしていない」と、2日間に渡ってその地区でコングレスを開くのだそうです。しかしスカンピアを背景とするなんて、かなりの胆力と決意が必要だと思いますが、政治が無視し続けてきた極端な貧困と荒廃を、彼らがしっかり見つめようとしていることには強く共感し、期待します。
ラ・レプッブリカ紙によると、『サルディーネ』はそのコングレスから第3段階に入るとし(第1段階はローマのサン・ジョヴァンニ広場まで、第2段階はエミリア・ロマーニャ選挙まで)、全国のメンバーたちと、今年6つの州で開かれる地方選について共有する方針を決定するそうです。また、今まで流動的だったムーブメントの構造を整え、今後どのような政治的役割を担っていくか、話し合いが進められる予定です
なお、『サルディーネ』は『サルヴィーニ法』と呼ばれる国家安全保障の廃案を強く要求していますが、実際に議会に候補を出すという政治活動をするのか、それとも外部から政治活動を続けるのか、それはアソシエーションか、労働組合か、政党か、どういう形になるのかは不明でも、3月にはその輪郭が、ほぼ明確になりそうです。とすれば、これからが彼らの真価が問われるフェーズに入っていくことになります。
また、彼らと会う用意があると発言したコンテ首相にも公開レターを送り、「国家安全保障」の廃案、「イタリア南部の問題」「仕事、医療、教育の保証」などを要求。「僕らは政党ではないけれども、この10年間、政治が求めてきた(市民との)絆ではある。僕らが今までの政治のツケを紹介していきます」と表明し、『民主党』はその手紙に即座に賛意を示しました。
首相、及び『民主党』党首と『サルディーネ』の面会は、2月の3週目に予定されていますが、たった3ヶ月前に起こった市民ムーブメントが、首相とコンタクトをとるほどの影響力を持つことは、普通ならありえないことでしょう。
このまま政治のドロドロ感に飲み込まれず、自意識に囚われず、彼らが『民主党』など既存の政党、またメディアとも一定の距離を置いて、溌剌と発展していくことを願います。一瞬の花火に終わることなくうまく発展していけば、新しい形の実験的政治スタイルが生まれるかもしれない、と思っているところです。
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