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ローマ:ウクライナ危機の平和解決を主張するのは、現実を見ない夢想家の独善なのか

Deep Roma Eccetera Storia

ドンパスという黄金地帯

この戦争がはじまってすぐの頃、クリミア半島侵攻後、8年にわたりドンパス地方の親ロシア独立分離主義者を支援し続け、ドネツク、ルガンスクの独立を一方的に承認したプーチン大統領を、「ウクライナの領土を侵食することで、欧州への影響力を誇示したいのだ。大統領の真の目標はウクライナから欧州を崩すこと」だ、と咄嗟に考えました。前章に書いたように、近年のロシアに形成された、宗教と一体化した「ネオ・ユーラシア主義」に後押しされた、プーチン大統領の狂気ともいえる、脈絡のない無謀な侵攻だと思ったのです。

しかしコリエレ・デッラ・セーラ紙に掲載された、ミレーナ・ガバネッリの「なぜロシアがドンバス地域を欲しがり、ウクライナが全力でそれを守ろうとするか」と題されたドンバス地域の分析を読んで、今回のウクライナ危機は、やはり欧州が標的かもしれなくとも、かなり戦略的に準備されていただろうことを理解するに至ります。プーチン大統領が口実にする「ウクライナのネオナチ」の存在はともかく、将来を見越した計算づくで、ドンパス地域の親ロシア派独立分離主義者を援助していたのだ、と考えるようになりました。

というのもドンバス地域は、その埋蔵量有名石炭だけではなく、天然ガス、鉄、ウラン、チタン、マンガン、水銀などの資源に恵まれた土地であるうえ、ウクライナ産業中心地でもあるからです。そもそもドンバスには、ウクライナにおける石炭の埋蔵量の92.4%にのぼる310億トン、さらには35%金属が埋蔵されているだけでなく、ミネラル採掘事業、22%の金属精製業、18%の水の産地として、ウクライナで最も資源と産業に恵まれた裕福な地域でした。

2014年にドネツク、ルガンスクで紛争が起こる前は、ウクライナ国内総生産の14%(207億ユーロ)、さらには総輸出額の25%を担っていたそうですが、紛争がはじまってからは多くの企業が閉鎖に追い込まれ、鉱工業生産高は70%減少しています。それでも2017年のドンバス地域の生産高は、ウクライナのGDP10%を担い続けており、4月21日にロシアが占領を宣言し、街の95%が破壊されてしまったマリウポリは、アゾフスタル製鉄所をはじめ、ウクライナだけでなく、欧州全域における製鉄産業の重要な基地でもありました。

ガバネッリはこの記事で、今後、1億トン(1年に4000トンの輸出を保証)の石炭輸出中国、さらにはインド200億ドル資源輸出契約を交わしたばかりのロシアの、ウクライナ侵攻の最も重要な目的は、ドンバス地域の資源をごっそり確保したかったからだと見ています。同時にウクライナも、これほど豊かな資源、そして産業がある地域を失うわけにはいかず、さらに73%GDPを担うとされるウクライナのオリガルヒたちにとっても、ドンバス地域は特別に重要な地域でもあるのです。

また、プーチン大統領がドンパス地域だけではなく、黒海に面したオデッサから沿ドニエステル共国までの広域を、第2フェーズの占領目標地域と宣言したのは、ドンバス地域で得た豊かな資源を運ぶため、沿ドニエステル共和国まで続く海岸線の重要な港、オデッサが欲しいからに他なりません。

オデッサはウクライナで最も重要な海洋貿易の基点として、4000万トンの生産品を輸出する港のみならず、ウクライナで最も大きな天然ガス石油のターミナルが存在します。そのオデッサをロシアに占領されるとを完全に失うことになるウクライナは、海路での貿易が、まったくできなくなり、経済的に大きな打撃を受けることになります。

 

オデッサは東のナポリと言われるほど美しい港町で、写真を見るたびに、イタリアの街並みとよく似た風景だ、と思っていたところ、実際、ナポリに生まれ、王家に仕えていたジュゼッペ・リバスによって、1794年に設立された港町だそうです。そんな東西の架け橋ともいえる、歴史ある街が爆撃される可能性があるとは。vesuviolive.itより引用。

 

2019年、「不正とオリガルヒとの戦争」を訴え、ゼレンスキー大統領が華々しく当選した頃は、ウクライナのオリガルヒたちと大統領は完全に敵対しており、「政党への献金禁止、一般競争入札あるいは民営化の禁止」という「反オリガルヒの議決の前日、ゼレンスキー大統領の筆頭顧問が乗る車が10発銃弾を受け、奇跡的助かる、という事件まで起こっています。さらに2021年の11月には、どうやらロシアの介入らしい、クーデター未遂事件も起こっていたそうです。しかしながら、ここで少し首を捻りたくなるのは、タックスヘイブンに資産を隠す、世界中の富豪の名が暴かれた「パンドラ・ペーパーズ」に、ゼレンスキー大統領の存在していたことでしょうか。

なお、2021年のクーデターの仕掛け人のひとりとされ、ロシアとも深く繋がっていたウクライナで最も裕福なオリガルヒ、リナート・アフメトフは、ロシアの侵攻から一転、ゼレンスキー大統領との全面的な共闘を宣言しています。アフメトフは、現在ロシアに占領されているマリウポリ鉱脈、アゾフスタル製鉄所、そしてドネツクのサッカーチームのオーナーで、1000万ドルをウクライナ軍に、避難する人々への人道支援に、10億ウクライナ・フリヴニャを寄贈し、危機を支えています。ちなみに2014年には180億ドルあったアフメトフの資産は、2022年4月の時点で42億ドルにまで減少しているそうです。

また、アフメトフだけではなく、元ウクライナ大統領ペトロ・ポロシェンコや、最もロシア寄りと言われ、2019年にドネツクの議員に選出されたヴァディム・ノヴィンスキー、ドニプロに重要な製鉄企業を持つヴィクトル・ピンチュク、またゼレンスキー大統領の友人であり、コメディアン時代から2019年の大統領戦に至るまでのスポンサーだったと言われるイーホル・コロモイスキーなど、2014年以降、多大な損害を被ったオリガルヒたちが、現在一丸となって国を支えていると言います。

なお、コロモイスキーは、準軍事グループAidar、そしてドニプロのAzovに1000万ドルを支援しているそうです。いずれにしても、ウクライナのオリガルヒは、ほとんどがドンバス地域、ウクライナ東部に地盤を持っているため、2014年以降、大幅に資産を失うことになってしまいました。

▶︎米国とウクライナの普通でない関係

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