マテオ・サルヴィーニのオウンゴール!『5つ星運動』と『イタリア民主党ーPD』、ついに連立

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 『5つ星運動』とイタリア民主党ーPDの政策プログラム

さて、観察していると人格が破綻してしまいそうになる政争はともかく、何と言っても大切なのは両党の政策プログラムの突き合わせです。

『5つ星』とPDの交渉はもちろん、両党のプログラムの調整からはじまりましたが、『5つ星』が、まず最初の条件としたのが、フラッグシップ政策とし、下院における9月9日の表決を最後に通過するはずだった『議員削減法案』でした。交渉は難航するかと思いきや、PDは意外とすんなりと承諾。交渉の出だしとしては、とりあえずポジティブで明るいニュースでした。

さて、両党のプログラムは以下のようになっています。

 

『5つ星運動』①345人の議員削減②2020年度国家予算(消費税の増税をストップ、最低賃金の設定、身障者の人々への補助など) ③環境保護 ④国営放送Raiの再構成 ⑤司法の合理化 ⑥地方自治体の再構成により差別化された自治権 ⑦脱税者、人身密輸業者へさらなる罰則を設ける ⑧南部イタリア都市計画 ⑨金融システムの再構成 ⑩公共財産(水を含む)の保護 PD ①欧州連合への誠実な参加 ②議会を中核とした政治 ③環境保護 ④移民政策の変更 ⑤革新的な社会経済政策 ・条件として ①現行の国家安全保障の廃止 ②2020年度国家予算の予備協約 ③議員削減

 

こうしてざっと両者のプログラムを見渡しても、双方が衝突する箇所はほとんどないように思います。PDはそもそも民主党レンツィ政権時代に議員削減を提案して国民投票を実施した経緯があり(否決されましたが)、PDとしても交渉の条件として議員削減を提案してもいる。もちろん議員削減が可決した場合、現行の選挙法では議員選出が偏る可能性があるため、選挙法改正が必要となりますが、それが交渉の妨害になるとは考えられません。

また、『5つ星運動』が強硬に続投を提案したコンテ首相本人は、「人物の名前よりも、プログラムの方が優先されるべき」と答え、『同盟』の誘惑に関しては「わたし個人の見地から言えば、『同盟』との契約政権の経験は完全に終わった。それは辞任の際に明確にした通りだ」と『5つ星』の『同盟』シンパの議員たちの分裂に、グッサリ釘を刺した形になりました。

ところで、8月25日の時点で、経済紙Il Sole 24 oreに 世論調査が発表されましたが、つい数日前まで38.9%を超える支持率を誇っていた『同盟』は33.7%まで転落(それでも高い数字です)。かたや『5つ星』17.8%PD24%に上昇しています。

また『同盟』ー『5つ星』の再連帯には『同盟』支持有権者の7%、『5つ星』支持有権者の16%と、ほとんど賛成が見られません。

ただし、有権者の41%秋の総選挙を希望する、という結果が出ており、有権者の半数近くが総選挙を希望している、という事実は、これから連立で組閣がはじまる『5つ星』、PDにとってはあとがない深刻な数字です。

一方、『5つ星』支持有権者の43%が、『5つ星』ーPDの連帯に賛成し、22%が秋の総選挙に賛成。PD支持有権者の63%が『5つ星』との連帯に賛成、選挙を希望するのは、わずか21%となっています。また83%の『同盟』支持有権者が、『フォルツァ・イタリア』と『イタリアの同朋』と連帯する『右派連合』として、秋の総選挙に臨むことを希望しました。

このように市民の大部分が『同盟』を含む『右派連合』を支持しているのが、現在のイタリアの現実ですから、『5つ星』、PDという、現行支持率が脆弱な政党同士の連立は、「間違いは決して許されない崖っぷちにいる」ことを肝に銘じておいてほしいと思います。ひとつ間違えれば、一寸先は闇。イタリアはいつでも極右天国に舞い戻ります。

辞任から、一気に盛り上がったコンテ首相の人気

今回、政界の主人公に躍り出たコンテ首相の人気を辿って、さらに真夏を遡ることにしてみます。

8月7日、マテオ・サルヴィーニが『5つ星運動』を裏切り、40%近い支持率を担保に「いますぐ総選挙を」と、突然にはじまった、Crisi di Governoー『政権の危機』は、後述する紆余曲折を経て、ついに20日、イタリア上院議会におけるジュゼッペ・コンテ首相の辞任とともに、オフィシャルな現実となりました。

『総選挙』を迫るサルヴィーニとの個別会談のあと、首相が提示したのは「国民にすべてを知ってもらうために、上院、及び下院議会で、コミュニケーションを図ることからはじめる」ことでしたが、この上院での辞任演説は、イタリア共和国歴代の『政権の危機』において、限りない透明性が実現された、はじめての例となったそうです。

そしてコンテ首相を核とした上院議会での討論は、まさしく『辞任劇』と呼ぶに相応しい、TV中継に釘付けになるスペクタクルな4時間で、ここからコンテ首相への信頼と注目度は、不動のものとなりました。

各政党の各議員たちの演説は、できることなら「毎日見たい、できればライブで見たい」と思うほど、それぞれの政治理念とともに、人間性や性格、あるいは演説力が浮き彫りとなり、イタリアの政治が身近に感じられた。イタリアの人々が政治に退屈しないのは、きっと各党議員たちの、この多彩な個性と演説力、そして表現力にあるのだ、と思ったほどです。

私見としては、好き嫌いは別として、PDの前書記長マテオ・レンツィの1回も下書きを見ない簡潔な演説は、やはり見事だ、説得力がある、と感じた次第です。

ところで、コンテ首相の辞任の時点で、Web上の日本を含む外国メディアの報道を見ると、「コンテ首相が『同盟』が発議した不信任案に追い立てられるように辞任した」とされ、さらに「金融危機の恐れ」、「イタリアは欧州の火種」と市場の不安を煽る表現が散見されました。

しかしこの数日の間のうちに『同盟』を切り離すために、どの時点かは予想できなくとも、首相が辞任することは分かりきっていたうえ、この時点の背景では『5つ星運動』とPD +マイノリティの野党の交渉も模索されており、イタリア市場はその状況を好感。国債スプレッドも高めで安定し、株が上がってその日の市場は終了しています。その後も比較的安定した状態ですから、外国メディアは何をソースにそんな記事を書いたのか、疑問を感じた次第です。

さらに新政府組閣が明らかになった29日には、200近辺だった国債スプレッド168まで急落。一気に市場の信頼を呼び戻すことになりました。

また、20日の上院におけるマテオ・サルヴィーニは、「国民の支持を反映させるのが民主主義、いますぐ総選挙」と連呼しながら、何人かのPD議員を名指しで口汚く罵ったかと思えば、突然ロザリオに口づける、珍しく切羽詰まった荒れた演説をしています。

ちなみに、このロザリオ案件については、SNS上に「マリア様が、サルヴィーニ大臣をストーキングで告訴」というタイトルを配した、教皇庁が出版する新聞『オッサルヴァトーレ・ロマーノ』のパロディが出回るほど不評です。

『総選挙』に関していえば、確かにサルヴィーニの言うように、選挙は民主主義の根幹ではありますが、選挙で選ばれた国民の代表である議員たちが議会で議論を重ね、国家の重要事項を決定することもまた代議制民主主義の基本です。それに各政党の支持率のダイナミックな変化に合わせて『選挙』を開催していると、イタリアのように支持の流動が激しい国では政治が安定する暇がない。

いったん形成された政府において、「過半数の議員が総選挙に反対なのであれば、選挙を前倒しすべきではない」「議員の声こそが有権者の声だ」と、今回の一連の政局を観察して再度確認した次第です。

そもそもコンテ首相は、辞任演説のはじめから「毎年、総選挙を行う必要はないこと」、「政権の危機を引き起こした者が責任をとるべきこと」を強調していました。どんなに支持率が高くとも、支持率は獲得票ではないのです。

同盟』内部からは「マテオは時期を見誤った。彼が『同盟』の全てを仕切っているんだ。『同盟』には民主主義なんてないんだよ」などと自虐的な発言も報道されました。

 

イタリアの信頼できる人物トレンド調査、57%セルジォ・マッタレッラ大統領 52%ジュゼッペ・コンテ 36%マテオ・サルヴィーニ 28% ルイジ・ディ・マイオ 23% ニコラ・ジンガレッティ 16% マテオ・レンツィ コリエレ・デッラ・セーラ紙から引用。

 

マテオ・サルヴィーニという人物の、短期間での人気の高まりは、われわれ大衆というものが、どれほど簡単にデマゴーグに惑わされるかを物語る、重要なデータになりうると考えます。人々の日常に食い込み、負の感情を揺さぶり、不安をかき立て、憎悪と怒りを訴えるデマゴーグと、地方を行脚する「自撮り作戦」に、人間は簡単に巻き込まれることを自覚しておかなければなりません。そしてそれが社会全体に浸透するには、さほど時間はかからないことをサルヴィーニは証明したわけです。

しかし問題は、いったん市民の間に根付いた差別意識です。この意識は今後どこへ向かっていくのか。その解決もまた、新政府の課題かもしれない。一方、サルヴィーニは10月19日にローマで大掛かりなデモを開くことを、早速宣言しています。

なお、前項にも書きましたが、サルヴィーニに着港を禁じられ、19日間も海上に漂流せざるを得なかったNGOの船『オープン・アームス』では、心理的重圧に耐えかねた難民の青年たち数人が、「ランペドゥーサまで泳いで渡る」と海に飛び込む切迫した事件が起こりました。青年たちはただちに救助されましたが、港がすぐそこに見えるというのに、いつたどり着けるか分からない心理的拷問のようなこんな状況を、サルヴィーニは政治利用し続けた。

見るに見かねたスペインが、受け入れを申し出ましたが、『オープン・アームス』は、もはやスペインまで、何日もかけて航海する体力が現実的にありませんでした。

こうしてNGOの船がサルヴィーニの『見せしめ』として、海上に漂流する間、ランペドゥーサの港には、海上警備隊などが救助した難民の人々を乗せた船は続々と着港しているそうです。つまりサルヴィーニの関心の中心は難民の人々ではなく、NGOの人々の『善良さ』であり、NGOの人々が必死で難民の人々を助けようとする精神を、憎悪の対象として攻撃したわけです。

首相が辞任した20日、政府が崩壊した途端にアグリジェントの検察は、『船の没収』という形をとり、19日間もランペドゥーサ沖に漂流していた『オープン・アームス』に乗船していた難民の人々の下船をようやく許可しました(よかった!)。難民の人々も大喜びで、喝采を浴びながらの下船でした。もう2度とこんな酷いことは、ヒューマンなイタリアでは起こってほしくない。

つい数日前まで、パバロッティが高らかに歌いあげるNessun dorma(誰も眠らない)の「夜明け近くに勝利するだろう。あなたは勝利するだろう! わたしも勝利するだろう!」と仰々しいフィナーレで政治集会を盛り上げ、人々の熱狂を一身に集めたマテオ・サルヴィーニは、こうしてとりあえずは政府という舞台から放り出されました。このまま静かにフェード・アウトしていただければ、と願うばかりです。

さらば、サルヴィーニ。

 

 

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