マテオ・サルヴィーニのオウンゴール!『5つ星運動』と『イタリア民主党ーPD』、ついに連立

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現在に至るまでの混乱の経緯

ここで少し、早くも思い出に変わりつつある、イタリアの長い夏を振り返ってみたいと思います。

もはや遠い昔のようにも感じる8月20日に開催された、コンテ首相の上院議会の演説、討論に続く大統領府での辞任では、コンテ首相の凜とした、厳しい態度に、アンチ・サルヴィーニのメディア、NGO、そして市民グループから湧き立つような喝采が起こりました。

コンテ首相は『同盟』のマテオ・サルヴィーニを、ズバッと名指し、Crisi di Governoーこの『政権の危機』は、サルヴィーニの無責任によるものであり、経済が停滞し続けるイタリアにおける彼の行動がどれほど危険なものであるかを喝破したからです。それに、件のロシアゲート疑惑に、いったいどのような背景があるのか、サルヴィーニがまったく説明もせず、ひたすら逃げまくったことにも辛辣に言及しました。

そういうわけで、21日から2日間に渡って行われたセルジォ・マッタレッラ大統領の「現在の議会内に、連立できる過半数があるか否か」を各政党に打診するコンサルテーションの間は、サルヴィーニを追い出して、『5つ星運動』とイタリア民主党ーPDが連立するしかない、前回からたったの1年半で総選挙はあり得ない、と左派メディアは期待に満ち溢れ、われわれも「これでようやくサルヴィーニが連発する暴力政策の数々とお別れできる」と、晴れ晴れと明るい気持ちになったわけです。

そもそも『5つ星運動』とPDの交渉は、下院議長のロベルト・フィーコと元文化省大臣ダリオ・フランチェスキーニというパーソナルなミクロレベルでは、かなり以前からはじまっていたことが報道されていましたし、左派LeU(自由と平等)、イタリアで最も重要な人権派、Più Europa(急進党)などのマイノリティの野党も、「新しい過半数で新政府が形成されることに異存はない」ことを表明していました。

ですから、大統領のコンサルテーションが終われば、『5つ星』とPD、そして各野党で充分な過半数が構成され、イタリアに新しい政府が発足するだろうというのが大勢の予測だったのです。

ところが蓋を開けてみると、大統領のコンサルののち、PDその他の野党は、それぞれの政党のプログラムを明確にして『5つ星』との連立連帯の可能性を公式に発表したにも関わらず、『5つ星』は過半数と連帯する意向があり、『総選挙』には賛成できない、というだけの、方向性が見えない不明確な表現をするのみでした。その際には自らが目指す10項のプログラムを発表するに留まり、前述した通りPD及び野党との連帯については、一言も触れることがなかった。

『5つ星運動』のコンサル後のプレス会見での、このような「え?」という肩透かしとともに、明るい雰囲気は一変。ざわざわと不安が満ちはじめ、「ディ・マイオがオフィシャルにPDという名に触れないのはどういうことだ」「まさか、ここにきて再び『同盟』と連帯すると言い出すのでは?」「政権の危機まで起こし、大統領府で首相が辞任したというのに、もしそんなことが起こるのであればとんだ茶番であり、共和国はじまって以来の恥」と主要ジャーナリストたちも暗い表情でコメントした。

そして実際のところは、オフィシャルに「裏切り者!」として断ち切ったはずの『同盟』から、絶えず送られてくる「僕らなら、もっと素敵な政府が作れる。最初からやり直そう」というメッセージに『5つ星運動』内部はぐらつき、分裂し、統制を取ることが難しかったのだと思います。明確に意志を表明しないディ・マイオのリーダーシップにも多少の陰りが見え、一方『同盟』はといえば、PDと『5つ星運動』の連帯を何としてでも全力で阻止するとあちらこちらで宣言。「この連立は仕組まれたものだ」と繰り返しています。

「『5つ星』が、NOとしか言わなくなった時に、おかしいと思ったんだ。ともに政府を運営していくつもりであれば、ことあるごとにNOとは言わないはず」とサルヴィーニは発言していますが、そういえば、やおら『政権の危機』を引き起こした頃にも、「コンテ首相は新しい過半数を構成しようとしている。新勢力を作るつもりだ」と盛んにサルヴィーニは発言していました。

その発言に対してコンテ首相は「そんなプロジェクトはない」と断言していましたが、サルヴィーニには政治家としては重要な、野生の勘があるとも見受けられるので、あながち「単なる被害妄想だ」とは言い切れません。

つまりサルヴィーニが発する言葉の数々の端はしに、意外な真理があるかもしれない、とも感じるのです。というのも異常に暴力的国家安全保障に走る『同盟』を抱えたイタリア政府は、内部からも大統領府からもヴァチカンからも欧州連合からも強い圧力をかけ続けられ、あちらこちらにを作ったのも事実で、サルヴィーニが攻撃の標的になるのは、ごく普通の状況でした。

イタリアの政治は、表面的には子供っぽい応酬が繰り広げられ、単純のようにも思えますが、なかなかどうして。じっくり長い時間をかけて熟成された、職人技の策があちらこちらに見え隠れします。

たとえばレスプレッソ誌が追求していたサルヴィーニのロシアゲート疑惑を、インターナショナルなスキャンダルに発展させたそもそもの発端が、米国BuzzFeedが公開した音声盗聴ファイルだったことも、背景のヒントになるかもしれない、となんとなくは思います。いずれにしてもサルヴィーニへの際立った攻撃は『同盟』が大勝した欧州総選挙後から顕著になりました。

 

下院があるモンテチトリオの裏口には、報道陣が話を聞こうと議員を待ち構えているのですが、突然現れた『5つ星運動』の議員に一斉に押し寄せたため、そこを通りかかったわたしは、1メートルほど跳ね飛ばされました。これが跳ね飛ばされた場所から撮った写真です。

 

さて、2日間に渡った1回目のコンサル終了後、マッタレッラ大統領は日頃見せない緊迫した表情、厳しい口調で「過半数の同意が曖昧であるため、1週間後の27日、28日にもう一度コンサルテーションを開き、そこでもし同意が見られなければ、秋に総選挙を実施することになる」と『5つ星』とPDに、確実で安定した同意を表現するよう、最後通告を突きつけることになりました。

『同盟』のマテオ・サルヴィーニは1回目の大統領コンサルのプレスでは、ヴァカンスシーズンにこんな騒ぎを起こした舌の根も乾かぬうち、「『5つ星』との政府は快適だった。『5つ星』が望んでいる議員削減の表決もただちに実施する。長い間、イタリアの政治はおろそかになっているではないか(?)。『5つ星』がSi(Yes)というなら、何の問題もないんだ。しかし基本的にわれわれは『総選挙』を望んでいる」と、早速、ダブルバインドの方針を大統領府で表明しています。

いずれにしても『5つ星運動』とPDの連帯で、最も問題なのは、両党内部に分裂があることで、PDの場合は元書記長のマテオ・レンツィ元首相のPD内での影響が強すぎ、何かと言えば口出しをしたり、主要メンバーを批判したり、まるで影の書記長のように振る舞うことでしょうか。

それでもここ数日、ジンガレッティ書記長が提案する連立政府の方針、方向性には、党はじまって以来、と言ってもいいほどの『満場一致』が続いたそうです。そもそもPDは、それぞれの多様な意見を抱合するため、常に分裂しているのが普通の状態で、それが長所でもあり、短所でもあります。

今となっては余談になってしまいますが、マテオ・サルヴィーニは『政権の危機』を起こす直前に、ジンガレッティに直接電話をして「これから政府を崩壊させるつもりだが、その後の『総選挙』をPDも承諾、支持してほしい」と約束を取りつけたのだそうです。

当初、PDの前書記長レンツィが主導した『5つ星運動』との連立に消極的で、なかなか動かなかったジンガレッティの態度は、レンツィ派との確執のせいだと思っていましたが、のち、サルヴィーニはそこまで仕込んでいたことが発覚。その時点では『同盟』、PDともに『5つ星』潰し(支持率が大きく下がり、その票がPDに流れる可能性があった時期なので)に同意していたということでしょう。

サルヴィーニはそんな算段までしていたというのに、『5つ星運動』はといえば、前述したようにPDを毛嫌いしている主要メンバーが多く、現在は議員ではない、ルイジ・ディ・マイオとほぼ同格の主要アクティヴィスト、アレッサンドロ・ディ・バティスタや、元ジャーナリストのジャンルイジ・パラゴーネは、「僕らはさらに高いリスクを選ぶ。PDとは絶対に連帯しない」とSNSで表明。

『同盟』との連帯回帰を希望して、『同盟』の政治集会にまで参加しています。さらにディ・マイオもまた、最後の最後まで、本音のところではPDよりも『同盟』に未練があるのでは?と匂わせる行動をとり続けたのも問題でした。

実際には、マッタレッラ大統領から最後通告が突きつけられた翌日から、『5つ星運動』とPDは公式の交渉が開始されましたが、その間もサルヴィーニはとどまる事なく『5つ星』に寄りを戻す提案をしており、もし再び連帯を組めるならルイジ・ディ・マイオ首相に!と連呼している。

『5つ星』との公式な交渉の現場につくことを決心したPD書記長のジンガレッティは、「ディ・マイオが別の政党と交渉していないことを祈るよ(していたのですが)」と発言し、こんな事態に引き起こした『同盟』から、いつまでも完全に離れられずに影で連絡を取り合っていた『5つ星』の往生際の悪さには、「ちょっと呆れた」というか、PDも含めて「どっちもどっちもどっち」という気持ちになったことは否めません。

実際のところ、イタリア国民の生活や、終わらない汚職、難民の人々の困窮、巷に蔓延る憎悪、差別、苛立ちや不満などは、政治家たちにはどうでもよく、嘘と欺瞞と虚栄と野心を背景にした権力、そしてそれを得るための陰湿な陰謀や策略こそが政治なのだとしたら、アマゾンが燃え、シベリアが燃え、グリーンランドの氷が解け、ヒマラヤの氷が解け、アフリカが干ばつに苦しむという、温室効果で自然環境が激変する世界には、もはや希望はない、と暗澹とします。

いずれにしても今は、コンテ首相によって形成されるはずの新政府が、クリアでクリーンな政治で、イタリアを一気に再生させてくれることを祈るばかりです。

▶︎『5つ星運動』とイタリア民主党ーPDの政策プログラム

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