イタリアの春、Covid-19と共存する未知の世界へ : Build Back Better

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ロンバルディア州と高齢者医療介護施設

この一件で、ロンバルディア州を責める気持ちはまったくありませんし、『同盟』『フォルツァ・イタリア』による非常時の州政治を糾弾するつもりもありません。

しかしロンバルディア州全域に渡って、結果として75000人以上の感染者、13700人もの犠牲者を出したのは(4月29日)、初動の混乱に加え、あれこれ口出ししてくるConfindustria (イタリア経団連)の要求にあまりに従順に過ぎたからではないか、とは考えます。

また今まで、市民の公共財産である、州が管理する公共医療機関や公共の高齢者医療介護施設を充実させることを怠り、民間の高額な医療機関やホスピスばかりを優遇してきたネオリベラルな施政方針の「しわ寄せ」が、新型コロナウイルスの拡大を機に一気に噴出したともいえるのではないか、とも思う。

ISS(国家高等衛生機関)によると、ロンバルディア州の高齢者医療介護施設(RSA)でCovid-19の疑いで亡くなった方々は700人にも上り、その後実施された検査では、RSAに入所していた7000人の高齢者の方の感染が明らかになっているそうです。

そしてこれが、コンテ首相がロックダウン解除後の5つの対策として、2番目に挙げた「地域の社会問題と医療を結合し、特に感染が拡大した地域で起きた高齢者介護施設、高齢者医療施設での急激な院内感染から、高齢者を守る」という項の経緯です。

さらにコンテ首相は、4月26日の第2フェーズのプログラムの発表の際、各州で同様の問題が起こらないように、今後はが高齢者医療介護施設の管理に介入することを明らかにしています。

もちろん、長年に渡る公共医療・福祉分野の予算の極端な削減で、今回の感染急拡大に窮地に陥ったのはロンバルディア州だけではなく、イタリア全土に及びます。

しかし2月下旬の時点では、ロンバルディア州とともに大混乱に陥ったヴェネト州(ちなみにロンバルディア同様に『同盟』地盤です)は、その後独自に動き、電光石火でドライブスルーの大量PCR検査を開始。抗体検査を進めるだけでなく、マスクや防御服、人工呼吸器を大量に購入し、州政治と科学者、医療関係者が一体となった目を見張る攻防戦で、早い時期から感染状況を安定させました。

また、ロンバルディア州人口約1千万人に対し、ヴェネト州はその半分の約5百万人ですが、PCR検査数が4月29日の時点でロンバルディア365895件、ヴェネト337656件とほぼ変わらず、犠牲者も1437人に抑えている。

一方、あまりにも極端な感染が一気に広がったロンバルディア州に関しては、事情が事情なだけに、一概に批判するわけにはいきませんが、みるみるうちに大混乱に飲み込まれてしまい、と同時に国政に対抗する政治的なパフォーマンスが目立ったように感じます。

もちろん、公共医療部門がおざなりで、州の公共医療予算の分配にマフィアが入り込んでいるとも言われる南部の州が同じ状況に陥れば、ロンバルディア州以上の悲劇が襲ったであろうことは想像に難くない、ということを認識したうえでの評価です。そしてこのような状況は、ロンバルディア州に限らず、他の州でも発覚していますし、世界中で起こりうることだ、とも考えます。

確かに欧州において、Covid-19で亡くなった方々の約半分が、高齢者施設に入所していた方々であることを、WHO欧州局長のハンス・クルーガが指摘していました。また、ローマでも高齢者介護施設で感染が広がり、多くの高齢者の方が亡くなっています。

しかしながら、ロンバルディア州のRSA(高齢者介護医療施設)で起こった、あまりにずさんで、情を欠いた出来事は、合理性を追求する現代の経済システムからこぼれた世界を、拡大鏡で垣間見たような気持ちになりました。

 

 

まず最初に問題になったのが、ピオ・アルベルゴ・トゥルヴェルツィオ、通称「バッジーナ」と呼ばれる、ミラノの伝統的なRSA、高齢者医療介護施設でした。

この「バッジーナ」は、1200床以上のベッドを有するミラノで最も重要な、公共の高齢者介護施設で、「マルティニットゥとステリーネ」などの孤児や未成年の子供たちの施設をも吸収して、総合的な福祉施設を運営しています。と同時に、10年間のミラノ市民からの寄付と支援の結晶として、現在では1000以上の建造物を所有。その敷地は1700ヘクタールに及ぶのだそうです。

そもそも、この「バッジーナ」の起源は1771年に遡り、病院、孤児院、ホスピス、貧困にある人々への慈善事業を目的に、ミラノの貴族に開設されたという長い歴史を誇ります。

さらに言えば1992年3000人以上の逮捕者を出し、最終的にベッティーノ・クラクシーのアルジェリア亡命にまで及んだ、イタリア最大の収賄事件「タンジェントーポリ」捜査のきっかけとなった施設でもある。このような大規模な公共施設は、いわゆる「公共予算」を巡る汚職の温床になりやすかったのでしょう。

当時の管理責任者の不正行為を追ううちに各界に網の目のように広がっていた巨大な収賄システムが暴かれた一件から、戦後のイタリアを率いたキリスト教民主党、イタリア社会党(イタリア共産党は、すでに消滅していましたから)などによる政治は衰退し、やがて「フォルツァ・イタリア」、ネオリベラリズムの鏡のようなベルルスコーニ時代が到来することになります。

そして1995年からの18年間、「フォルツァ・イタリア」のロベルト・フォルミゴーニがロンバルディア州知事を務める間に、各公共医療機関のトップとして、政治権力と深く結びついた人物が任命されるようになった。つまり公共機関とは言いながらも、政治権力が誇示される場、となったわけです。のち、フォルミゴーニは別の収賄事件で起訴されましたが、やはりそれも医療分野での汚職でした(レスプレッソ紙)。

現在の「バッジーナ」に関していえば、『フォルツア・イタリア』以来の縁故任命が引き継がれ、『同盟』のマテオ・サルヴィーニと近い関係にあるロンバルディア州の社会政治評議委員と親しい運営責任者が、昨年になって任命されたところでした。ラ・レプッブリカ紙の記事によれば、哲学科を卒業したというその人物は、医療従事者たちの忠告をまったく聞かず、「ディクタトール」とも呼ばれていたそうです。

その痛ましい事実は、やがてロンバルディア州におけるCovid-19禍がピークに達し、感染が下降トレンドに安定したころに発覚しました。それまで沈黙に包まれていた「バッジーナ」で、実は急激な院内感染が進行中であり、多くの高齢者がお亡くなりになっているにもかかわらず、事実の隠蔽が起こっていたというのです。

発覚のきっかけはラ・レプッブリカ紙に寄稿したガッド・レイナーの『尊厳の隠匿』と題された記事でした。

レイナーの記事によると、 「バッジーナ」ではじめてのCovid感染らしき患者が確認されたのは3月4日のことでしたが、その時は「呼吸困難の症状あり」としてのみ扱われ、PCR検査も行われなかったそうです。

施設の医者や看護師たちは、日に日に院内感染が広がっていることを認識し、不安に駆られながらも「ディクタトール」の命令に背けないまま、懸命に高齢者の方々の医療に全力を尽くしています。それでも感染した高齢者の方々は次々と亡くなり、院内の教会はたちまちに棺でいっぱいになった。もちろんこのような状況下、多くの医師や看護師たちも感染しています。

3月11日にはイタリア全国がロックダウンとなり、「バッジーナ」も閉鎖され、入所している方々の家族は、自分の母親や父親に面会できない状況になっている。さらには家族と電話で連絡を取ることもできなくなり、内部で何が起こっているのか、誰にもわからない状態となりました。

まず初動の段階から、この施設で働く医療従事者たちは、その不足のせいか、マスクや防御服を身につけることを強く禁止され、見かねた外部の医師が「医療従事者はマスクをつけなければならないのではないか」と責任者に意見をすると、「あなたは責任者じゃない」と一蹴されたそうです。

運営側は、Covid-19の感染が明らかな患者、そして医療関係者たちにPCR検査を断固として行わず、彼らを感染から守ることを完全に放棄。重症化した高齢者を救急病院に運ぶことすら禁じています。

施設内では、治療が必要な患者のために人工呼吸器を調達することもなく、また感染しているであろう患者と、他の患者の部屋を分けることもしていません。医療関係者たちも、広い施設内、いくつもの病棟をマスクも防御服もつけないまま、自由に行き来していましたから、当然、急激な感染が広がっていきます。

また、感染した高齢者のカルテは、アーカイブ内に巧妙に隠され、状況の完全な隠蔽を図っている。その頃の医療従事者たちの「もう、カルテを見つけることはできない。なんて恐ろしいこと」と口々に話す会話も公表されています。

その結果、3月末には70人を超える高齢者の方がCovid-19と思われる症状で亡くなることになりました。現在「バッジーナ」には検察の調査が入り、「過失致死」の容疑で運営責任者を含め、関係者の捜査が続いているところです。

このような高齢者介護施設で感染の隠蔽が起こったのは「バッジーナ」だけではなく、ロンバルディア州だけで15もの施設に及び、調査が入っています。

 

 

ガッド・レイナーはこの一件について、「ロンバルディア州を長きに渡って統治した『フォルツァ・イタリア』、そして『同盟』が、(公共医療施設に民間システムを導入して)まるでゴミ箱のように扱った」と糾弾しています。

「いまやロンバルディアのRSAは、大部分は民間で占められている。高齢者医療介護施設(RSA)が、『フォルツァ・イタリア』、『同盟』が任命した、権力ある公務員たち独占している場所だということは周知のことだ。この民間システムは、公共予算という補助金神話で成立しているが、本来であれば公共機関が到達できないレベルに民間の市民団体や、協同オペレーションが入って、彼らもまた、施設での仕事から利益を得ている。マージンを取らずに公共に奉仕されるべき場所を、ゴミ箱にしている」(Radio Capitale:意訳)

そのシステムは少し複雑なのですが、公共民間両極を超越した、このロンバルディア州の公共医療システムが、全国の高齢者医療介護施設のモデルとなり、その運営そのものを民間宗教団体が担うケースが増加したのだそうです。そして本来、公共の福祉機関であるはずの「バッジーナ」に入所していた高齢者の方々、そして家族の方々は「生命の尊厳」を打ち砕かれることになった。

もちろんイタリア全国のRSAすべてが、このような状況にあるわけではありませんし、感染を最小限、あるいはゼロにとどめることに成功したRSAも数多くあります。しかし、と同時に、Covid-19は、イタリアにおける高齢者医療介護施設ーRSAシステムの多くが破綻していることを明らかにもしました。

現在、ロンバルディア州のRSAの医療従事者たちは、州を相手取って「初動の段階で、PCR検査が実施されず、マスクや防御服などの医療物資が不足したまま働かなくてはならず、高齢者の方々に感染を広げてしまったこと」について、質問状を提出しています。

もちろん、州に悪意があったとはまったく考えませんが、Covid-19の出現が、今までの公共医療施設のあり方そのものを、根本的に見直さなければならないほどの衝撃を与えたのだと思います。本来、生命に最も近い場所にある医療の分野は、利潤ばかりが追求されるべきではなく、成熟した倫理観と福祉の精神を基盤に運営されなければならないはずです。

なお前項に書いたように、アルツァーノ・ロンバルド、ネムブロの病院が初期の感染を隠蔽したために、ベルガモ、ブレーシャなどの周辺都市に急激に感染が広がったと見なされ、すでに検察の捜査が入っています。

そして地域の感染急拡大が明らかになりながらも、州政治も国政も、即刻レッド・ゾーンとして封鎖できなかった理由として、ロンバルディア州の衛生評議委員は、やはりConfindustria(イタリア経団連)から激しい圧力を受けたことを明らかにしました。

Covid-19は、われわれの自由を徹底的に奪う、ひどい疫病には違いありませんが、今までわたしたちが生きていた社会、そして世界の歪みをまざまざと見せてくれる、残酷で容赦ないトリックスターなのかもしれません。

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