『アートはそもそもフェミニンである』アート界の常識を覆す未来へと向かうローマの女性たち: FEMME

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2014年から5年間に渡り、女性アーティストたちを含めるアートに関わる女性美術評論家、作家、キュレーター、哲学者、学者たちが参加する『FEMME』が、リサーチ/フィールドワークという形でたびたびイベントやミーティングを開いています。今年の3月には、ローマ市営美術館 MACRO ASILOを舞台に、彼女たちの今までのリサーチと考察をまとめた一冊の本、ARTE [EVENTUALMENTE] FEMMINILE (場合によってはフェミニンなアート)のプレゼンテーションを開催。アートにおけるジェンダーの常識を覆す野心的なアプローチで、揺るぎない存在感と未来への指針を示しました。その中心人物であるローマのアーティスト、ヴェロニカ・モンタニーノと美術評論家であり、作家のアンナ・マリア・パンツェーラにじっくり話を伺います(タイトルの写真はヴェロニカ・モンタニーノの最新作 『CIRCUS NATURAE(自然の巡り)』)。

わたしがFEMMEに興味を持ったきっかけは、『人が暮らす現代美術館 MAAM』でヴェロニカ・モンタニーノのインスタレーションに出会ったことでした。そのモンタニーノの作品は、真っ白に塗り込められているにも関わらず、隠された豊かな色が自己主張しながら繊細に躍動しているように感じ、MAAMの500点を超える作品群の中でも、とりわけ深い印象を残した。当初はそれが女性アーティストの手によるものだとは、特に考えもしなかったのですが、やがてMAAMのカタログや彼女のその他の作品の数々を知るうちに、彼女の型破りなアプローチと、作品に溢れる賑やかな生命力に触れ、その女性アーティストに、いよいよ興味を持つことになりました。

やがてモンタニーノが長年に渡って、他の女性たちとともにフェミニンなアートを巡るリサーチをしていることを知り、次から次に作品を創作しながらのリサーチなんて、エネルギッシュな女性だな、と思ううち、彼女たちの膨大なリサーチ/フィールドワークを一冊にまとめた本のプレゼンテーションが、MACRO ASILOで開かれる、という情報をキャッチ。わりあい気軽な気持ちで出かけてみたわけです。

男性も含めて、大勢の人々が集まった当日は、ARTE [EVENTUALMENTE] FEMMINILE(場合によってはフェミニンなアート)の上梓とともに、女性を巡るアートに関するその他の本やリサーチが同時にプレゼンされました。しかも、朝10時から夕方7時まで(!)という長丁場にも関わらず、熱気に満ちた会場には活発な意見が飛び交い、圧倒されっぱなしでした。ずっしりと重たい475ページの本、ARTE [EVENTUALMENTE] FEMMINILE のボリュームと、彼女たちが繰り広げるロジカルでシビアな考察と濃密さに、気軽な気持ちはすっかり吹っ飛び、「これはかなり勉強しないと」、とちょっとした目眩まで感じた次第です。

まず、本のキュレーターであるヴェロニカ・モンタニーノアンナ・マリア・パンツェーラにインタビューのアポイントメントを取る前に、「とりあえずこの本を読破しよう」と試みましたが、あまりのボリュームにたじろぎ、わたしなりに要所と思われる箇所をたどって、キーワードと疑問をピックアップするに留まったことを、最初に告白しておきたいと思います。

一冊の本に収められた、多岐に渡る『フェミニンなアート』に関する考察ひとつひとつが、いままでわたしたちが慣れ親しんだフェミニズムの議論とは、まったく異なるアプローチなので、すぐに飛び込むことはできずとも、コンセプトの理解を試みるうちに、彼女たちが時間をかけ、ゆっくりと熟成しつつあるリサーチへと引き込まれていくことにもなりました。

さらに、この本に出会い、彼女たちの話を聞けたことで、アート、そして女性たちを巡る状況を理解するだけでなく、西洋社会を形成してきた思想・哲学の大きな問題点を垣間見ることができたようにも思っています。

475ページの本には、61人のアーティストのセルフポートレイトを含む88人の著者が参加。●最初のミーティング ●アーティストの皮膚、アートスペース ●アート、リアクション、レジスタンス ●アートスペース、限界と侵略 ●存在の美学 ●アーティストたちそれぞれのセルフポートレートの章からなり、どこからでも読める、考察のモザイクのような体裁になっている。

さて、最近では世界の美術界でも注目を集めるようになった女性アーティストたちではあっても、男性アーティストたちに比べると、公共の美術館においても、市場においても、その評価にかなりのバイアスがかかることは統計でも明らかです。

今回、ARTE [EVENTUALMENTE] FEMMINILE(場合によってはフェミニンなアート)のプレゼンテーションに参加した、NABA ( Nuova Accademia di Belle Arteー新芸術アカデミー)、2016~2018年の現代美術マーケット:修士課程のリサーチによると、イタリアで公立のベッレ・アルテ(美術学校)に入学する女学生67%に対し、男子学生が33%であるにも関わらず、近代・現代美術の商業ギャラリーで紹介されるのは、男性アーティスト82%に対し、女性アーティストが18%に過ぎないことが明らかになりました。

また現代美術商業ギャラリーでは男性75%、女性25%、2000年以降に設立された現代美術商業ギャラリーでも、男性73%女性27%と、両者の間に大きな格差がある。ギャラリーで開催される展覧会に関しては、2000年以降に設立された現代美術商業ギャラリーで、男性64%に対し、女性34%と、ややポジティブな数字になるに留まります。

一方、公共、あるいは私設美術館における展覧会の割合は、個人展覧会が男性81%に対し女性19%、グループ展では、男性76%に対し女性24%となっています。現代美術の世界において、女性のキュレーターや美術館のディレクターは増えつつあるという報告ですが、いまだ女性アーティストは確実にマイノリティです。

尚、NABAはその緻密なリサーチ「Donne Artiste in Italia-イタリアの女性アーティスト」をネットに公開、ダウンロードもできるようになっています。

▶︎FEMMEとヴェロニカ・モンタニーノという女性アーティスト、は次のページへ。

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