スピンオフ:イタリアのグランド・ロッジ派のフリーメイソン本部を訪ねて

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イタリアの近代を調べる際、または現代においても、さまざまな重大事件、あるいはマフィア関連報道で、わりと普通に「フリーメイソン」の関与が語られ、ローマに住みはじめた当初は、「秘密のはずなのに、なんて単刀直入」と驚きました。イタリア語で「フリーメイソン」を「 マッソネリーア」と言いますが、「今後調べてみたい」とはまったく思えないほど、途方もない数の大小のロッジがあり、それぞれに多様で複雑、しかも秘密結社であるため、とても一元化して咀嚼できない、というのが正直なところです。そういうわけで、「マッソネリーア」に関してほとんど無知、という状態でローマにあるイタリアで2番目に大きいロッジ、「Gran Loggia d’Italia degli A:.L:.A:.M(グラン・ロッジャ・デリ・アラム)」の一般公開のツアーに参加してみました。比較的、短い投稿です。

たとえば深夜のローマで家路に急ぐとき、ふいに生命の気配がない、漆黒の闇に覆われた路地に出くわし立ち止まり、ふと恐怖を感じて方向を変えることがあります。「マッソネリーア」という言葉にわたしが抱くイメージは、その際の本能的な抵抗に似ている、と言えるかもしれません。それはまた、シークレット・サービスやマフィアという「秘密組織」に抱くイメージにも重なります。

実際、戦後から『鉛の時代』にかけて暗躍したのは秘密結社『ロッジャP2』のような国家的な謀略に関わった「マッソネリーア」をルーツとするロッジや、そのロッジのリストに名を連ねていた軍部、内務省のシークレット・サービス幹部、「コーザ・ノストラ」や「ンドゥランゲタ」のようなマフィア幹部でしたから、それらののイメージは脳裏にざっくりと刷り込まれています。

と同時に、「マッソネリーア」のすべてのロッジがただちに不健全、だとは言い切れない、とも、おぼろげに考えています。確固とした証拠がないにも関わらず、いまだに「マッソネリーア」を「イルミナティ」とか「ディープ・ステート」などとともに、世界的陰謀論に結びつける言説が巷にあふれるのは、短絡思考ではないのか、とも思うのです。もちろん、「国際的なスーパーエリートたちによる、何らかのネットワークが存在する、という言説は幻想」とは、何の確証もコネクションもないわたしには一刀両断にできませんが、エンターテインメントとして楽しむならともかく、明確な根拠、裏付けがない限り、それらの陰謀論に信憑性がある、とも思いません。

いずれにしても、「マッソネリーア」に何重ものベールに包まれた袋小路を思わせる、犯罪者たちを抱くロッジが存在するのは事実でも(ときどき発覚しますから)、ローマの「マッソネリーア」の中には、意外と開放的なロッジもあるのです。特にGOI(イタリア大東社)や、ALAM(イタリアグランドロッジ)など、規模が大きく、一般的に有名なロッジでは、本部を訪ねてお話を聞いたり、質問できる機会があり、訪ねる度に、率直で、勤勉で、懐が深い、怪しげな陰謀論とはかけ離れたコミュニティ、という印象を受けます。また、確かに一般市民を招いてのツアー、という背景もありましょうが、そこに集う「兄弟=メンバー」は拍子抜けするほどフランクでもあります。

ネットで調べると、フリーメイソン=「マッソネリーア」は16世紀~17世紀にイギリスの石工のコミュティからはじまった世界主義的人道主義的友愛団体とあります(日本語版Wikipediaでは起源は不明となっていますが)。1861年イタリア統一を果たしたジュゼッぺ・ガリバルディがイタリアにおける「マッソネリーア」の初代グランド・マエストロであり、国際的にも重要な「マッソーネ(マッソネリーアのメンバー=フリーメイソンリー)」だったことは、「Chi doveva sapere, sapevaー知るべき人は知っていた」事実であり、たとえば経済界で、ある程度のキャリアがある人々は、ガリバルディの来歴を誇らしげに語ります(と断言しながら、実は人伝に聞いたエピソードです)。一説にはハイ・キャリアの金融官僚のほとんどがメンバーである、とも言われますが、これも人伝に聞いた話なので、証拠があるわけではありません。

ちなみにわたしが、ガリバルディが重要な「マッソーネ」であったことを知ったのは、イタリアで最も大きいロッジであるGOIを訪れた際、広大な庭に抱かれた邸宅の正面に初代グランデ・マエストロとしてガリバルディの胸像が設えてあるのを見かけ、その時隣にいた人に「あのガリバルディですか?」と念を押した7年前に遡ります。今ではWikipediaのフリーメイソンリー・リストにも名前が載っているにも関わらず、イタリアに長く住みながら、この事実が公然と語られるのを見聞きする機会はありませんでした。

「イタリア統一」については、小学校で学ぶらしいのに、ほとんどのイタリアの人々がガリバルディの来歴を知らないのは、「マッソネリーア」があくまでも秘密結社だからでしょうが、巷ではかなりカジュアルに、特に好ましくないニュースに限って「マッソネリーア」が連呼されるのに、現在のイタリアの基盤を作った英雄について語られないのは不思議なことです。しかしよく考えてみると、一見、ロータリーやライオンズのような紳士クラブに似た体裁でありながら、政治・経済界におけるハイ・キャリアの人々が秘密裏にネットワークを築くフィールドとしての潜在性があるならば、民主主義における社会の「透明性」を損なう現実であることは否めません。

▶︎A:.L:.A:.Mという聖域

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