2018年 3月 どうなる イタリアの春 : 雪と選挙と『五つ星運動』 

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3月14日 午前 ちょっと追記

12日の幹部会議が行われたのち、『民主党』の農林水産省大臣でもあった副党首マルティーナが、レンツィ元党首の辞任宣言での表明をなぞるように、『5つ星運動』との連立を完全に否定、『民主党』はあくまでも野党に回るという姿勢を崩さない、と発言しました。この発言で、かねてから「『民主党』はレンツィ元党首の、いわば私物政党であり、ごく一部を除くほとんどのメンバーはレンツィ派だ」と言われる理由がなんとなく理解できた。また、「『民主党』はどことも連帯せず、野党として残る。『同盟』と『5つ星運動』が組閣すればいい」という発言が策略だ、という意味もぼんやりと輪郭が見えてきたように思います。

今回のPDの有り様は、1980年代にイタリア社会党を率いたベッティーノ・クラクシーが、たった12%程度しか支持率がないにも関わらず、実質的に政府を支配した状況と非常に似ている、という説を唱える人もいます。というのも、今回のようにいずれの勢力も過半数に達しない場合、それぞれが議員数を確保しようと『民主党』をあてにするわけですから、『民主党』が扉を閉めてしまうことで、「組閣させない」「組閣には『民主党』が必要」という大きな支配力と存在感を示すことができる。現在のイタリアの空白政治を、つまり大敗した『民主党』が現在も支配している、という構図です。

もちろんその、民主主義の虚を突く、あまり健全ではない支配がいつまでも長続きするとは思えず、この先、『民主党』がなんらかの形で行動を変化させる可能性がない、とも言い切れません。レンツィ元党首は、時の『民主党』党首ベルサーニが病気で倒れた隙に、巧みに党内ソフトクーデターを起こし、レッタ元首相から政権の座を奪った、という経緯がありますが、有権者を蚊帳の外に、策略に明け暮れるのも「いかがなものか」とも思います。

今後は、マッタレッラ大統領がそれぞれの勢力と大統領府で懇談し、大統領権限で全勢力を網羅した『大政府』連立を提案する可能性もありますが、13日には『5つ星』ディ・マイオ首相候補が「大統領権限による大政府を『5つ星』は拒否する、僕らは再選挙を恐ろしいと思っていない」と宣言、「僕らは『過激主義者』であったことはない」とも断言し、連立交渉の扉をしっかり閉めた『民主党』との間に大きな緊張が漲っています。さらにピエール・カルロ・パドアン経済財務大臣が、「欧州にとって今回の選挙結果は、イタリアの未来の不確実性を物語った」と発言し、ディ・マイオは「パドアンの発言は井戸に毒を投げ込むようなもの」と大きく反発しています。

『右派連合』は、13日夜、幹部会議を開いて、サルヴィーニがリーダーシップを取り、下院、上院議会の形成を『民主党』と『5つ星』に交渉することを確認しました。そういうわけで今のところは全くの三つ巴。このままの状態が続けば、本当に再選挙ということになるかもしれません。あるいは連立ではなく、Appoggio esternoーアポッジョ・エステルノ (政府を構成しない外部者として、議会には出席することなく最終的な裁決には不在のまま参加する、という、わたしもよく理解していない独特のシステム)も考えられるという説もちらほら囁かれます。

いずれにしても今回の選挙は、『5つ星』の勢力を阻止しながら、中道右派と中道左派を連立しやすくするために改正した選挙法で実施されたという経緯があります。しかしその策略が裏目に出て『5つ星』が大勝するという結果になった。したがって、23日に開かれる下院議会で、『5つ星』と『同盟』が暫定で政府を形成し、選挙法を変えるための裁決だけして解散、という話もあり、やっぱり今朝も何がなんだかよくわからない複雑な状況です。どうなる、イタリア。

3月21日 そっと追記

イタリアでは、定まりそうで定まらない、相変わらずの政治カオスが続いています。情報が錯綜し、何が本当なのか、どれが正しいシナリオなのか、まったく先が読めぬまま、3月23日には上院、下院ともに、各勢力の議員たちが揃って初登院し、それぞれの議長選挙を行う予定です。

そんななか、ベッペ・グリッロはラ・レプッブリカ紙のインタビューで「いままでのVaffa(くそくらえ)精神を胸にしまいこみ、これからは状況に適合していく」、と今後の『5つ星運動』の柔軟な姿勢を再確認、30年、40年のスパンで、政権を維持、拡大する野心があることを表明。そのインタビューで何より興味深く思ったのは、大戦後、イタリアの政権を40年近く握ったDCー『キリスト教民主党』のような政党を目指す、とグリッロが答えていることでした。

78年にアルド・モーロ元首相が党首であった、このDCー『キリスト教民主党』は、戦後のイタリアの『民主主義』の構築を担った中道左派よりの政党です。カトリックの流れを汲み、ファシスト政権下では、パルチザン・ビアンコー白(共産主義パルチザンはパルチザン・ロッソー赤)と呼ばれます)としてレジスタンスを繰り広げたという経緯があります。『キリスト教民主党』はしかし、モーロ事件ののち、大きくバランスを崩し腐敗が進み、数々のスキャンダルが噴出、やがて壊滅し、他勢力へと吸収されていきました。

ちなみに『5つ星運動』首相候補ディ・マイオは、大勝利を受けて「われわれが第3イタリア共和国を担っていく」と発言しましたが、イタリアでは、モーロ事件を境にイタリア第1共和国が終わり、第2共和国が始まったと考えられているので、ディ・マイオのこの発言は、なかなか壮大な野望を孕んでいたわけです。とはいえ、『5つ星』が謳う『キリスト教民主党』のような政党を目指す、という表現に、ベテランのジャーナリストからは「『キリスト教民主党』には政権に至る前に長い歴史があり、背景に文化があったが、『5つ星』にはない。したがって『キリスト教民主党』のような』という表現は当てはまらない」と手厳しく評価されました。

肝心の組閣は、といえば、下院、上院の議長が決まり、議員グループが構成されたのち、27日に各勢力で選挙が行われ、リーダーとなる勢力が決まることになります。しかし、そこで過半数を超える組閣できる第一勢力が決まらなければ(今の状況であれば、決まらない可能性が大きいわけですが)、30日大統領府の扉が開かれ、その時点でマッタレッラ大統領、ナポリターノ前大統領、上院、下院それぞれの議長が懇談を開始。4月3日以降に、どのグループを第一勢力として組閣するかを決定する、という流れになる。4月10日が、一応組閣の期限となっています。

21日の時点では、『5つ星』が下院議長、『右派連合ー同盟(か、フォルツァ・イタリア)』から上院議長という案が濃厚のようです(24日追記、下馬評通り、下院議長は『5つ星』のロベルト・フィーコ、上院議長が、フォルツァ・イタリアから女性初、マリア・エリザベッタ・アルベルティ・カセラーティに決まりました)。民主党PDは「あくまでも野党」、と一貫していますが、我々の預かり知らない水面下では、(経済界を含めて)あらゆる動きがあるのでは?と推測され、少なくともメディアの情報では、何ひとつ状況は固まっていないように見受けられます。

また、いまだ『5つ星』と『民主党』による組閣の夢を捨てきれないジャーナリストたちが多く、TVの討論では盛んにその可能性が語られ、新聞各紙の見出しもあっちへ行ったり、こっちへ行ったり、と落ち着かない毎日です。大統領権限での大政府、「現ジェンティローニ首相を核とした組閣」案、そして10月に再選挙、という話も、やはりちらほら語られます。

そんななかベルルスコーニは、怖いほどにシーンと静まり返っていましたが、そろそろ影響力を及ぼしはじめる頃らしく、ラ・レプッブリカ紙は、ベルルスコーニが『同盟』のサルヴィーニに『中道右派』と『5つ星』の連立交渉にオーケーを出した、と報道しました。しかしながら『レーガ』に関していえば、首相を目指すサルヴィーニが、『北部同盟』以来の古参議員から「『5つ星』との連立はありえない」という発言もあったりと、内部亀裂も噴出する様相で、皆が好き勝手なことを文脈を考えないままに、言いたい放題、という感もなきにしもあらず、です。

実際のところ、少しは重なる公約があっても、イタリア北部の企業、中小企業を守りたい『同盟』と、デジタル直接民主主義を掲げ、ベーシックインカムを約束する『5つ星』が、どこで妥協することが可能なのかはまったくの謎。一方、この数日、今度はPDがシーンと静まり返っている。

なお、『5つ星』のデジタルプラットフォームを生んだジャンロベルト・カッサレッジョを引き継いだ、息子ダヴィデ・カッサレッジョワシントン・ポストのインタビューに答え、SF的?とも言える『5つ星運動』の野望について語ってます。興味のある方は、リンクをお読みください。

そういうわけで、イタリア政治世界は混乱の最中ですが、巷は意外とピースフルで、広場で集会が開かれても、攻撃もなく緊張もなく、のんびりした良い雰囲気。「だいたい、政府なんて必要あるの?」なんていうジョークも聞こえてくるほどでもあります。どうなる、イタリア。

4月5日 やや追記

クィリナーレ宮殿『大統領府』での、マッタレッラ大統領と『5つ星』、『同盟』を筆頭とした右派連合、『民主党』各代表の一連の話し合い、コンサルテーションが終わりましたが、やっぱり何の結果も出ないまま、来週に持ち越されることになりました。「上院、下院ともに組閣できる政治勢力が形成できず、まだまだ時間が必要だ。来週までに各党に熟考する時間を持っていただき、再び話し合いをすることにしたい」というマッタレッラ大統領の会見が行われたところです。

『5つ星』は、ベルルスコーニ元首相の『フォルツァ・イタリア』との連帯は完全拒否。ですから『5つ星』と右派連合ぐるみの組閣はありえず、ディ・マイオは『同盟』のみ、あるいは『民主党』と『連立』ではなく、ドイツ政府がとった方法と同じく『契約』という形での組閣の希望を述べています。しかし『同盟』には、そもそもベルルスコーニ首相と強く結びつく古参のメンバーも多く、そう簡単にサルヴィーニの一存で右派連合を分裂させることが可能なのかどうかは、大きな疑問です。実際、サルヴィーニはベルルスコーニを今のところは裏切ることなく、中道右派と『5つ星』の組閣を主張しています。

一方、『民主党』内部では『5つ星』との組閣に傾く動きもあるようで、レンツィ派の動き如何では、先が読めない状況になりつつあるというのが現状です。いずれにしても、もしどうにもこうにも組閣できない場合は「再選挙」ということになるわけですが、選挙後の世論調査では、『5つ星』は『民主党』票をさらに奪い38%、『レーガ』は『フォルツァ・イタリア』の票を奪い24%(ショッキングな数字です)という支持率になっていますから、『民主党』としては『最選挙』は避けたいところ(のはず)。それでも早々に「6月再選挙か」、などという記事もちらほら散見され、今週もカオスのまま週末を迎えます。わたし個人としては、世論調査でイタリア国民の多くが望む(!?)『5つ星』と『同盟』の組閣、というのは多少胃が痛む取り合わせでもあります。どうなる、イタリア。

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